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それでもあなたに恋をする  作者: かなめ 律
1/9

Part1

初投稿です。

勢いで書いた作品の為、表現等様々な部分で拙い点があるかと思いますが、楽しんで読んでいただければ幸いです。


誤字などありましたら教えていただけると助かります。

 「ありがとうございましたー」

 午前中、最後であろうお客様を見送り一息つく。

 やっと休めるといった感じでカウンターに置いてある椅子に座り込んだ。



 このベーカリー「Paria」は白く美しい街並みで有名なレイアロンの中央通りに店を構えている。

 そんなベーカリーの1日に来る客のおよそ7割は午前中にやってくる。

 早朝はパンの焼き上げを行い、そして開店すれば昼時まで客の応対と休む間がほとんどない。

 だからきっちり時間を取って休むのはこの時間になられないとできないのである。

 正直、午前中を乗り切れば後は客の入りは疎らだし、調理場の片付けなどをしつつゆっくりできるので楽ができる。



 「ふぅぅ......」

 調理場で淹れてきたコーヒーで一服。

 随分とこのベーカリーも客が来てくれるようになった。

 こんなにヘタリ込む程、疲れるということはお店がちゃんと回っている証拠だ。

 ふとカレンダーを見やると今日の日付に丸がついていた。

 「あっ。今日なのかぁ。あっという間だったなぁ」



 カレンダーにつけられた丸の意味。

 それはこのベーカリーの開店記念日である。

 既にこの日を迎えるのは3度目となる。



 思えば、ここまで来るのに随分とかかったものだ。

 それでもこうやってベーカリーを経営出来ている事はとても喜ばしいことなのは間違いない。

 ちょっとした疲れから椅子に座ったままカウンターにうつ伏せになる。

 どうやら忙しい午前中を乗り切ったことで気が抜けて睡魔が襲ってきたようだ。



 このままお店で寝るわけにはいかない。それに今日はいつも通りなら彼が来る日だから......

 そう考えながらも私は睡魔に抗えず、眠りに落ちていく。



 そしてその夢の中で私はこのベーカリー「Paria」を開くまでの出来事を思い返すのであった。




 ベーカリー「Paria」のオーナーである私、カリン・リアースは

 レイアロンから遠く離れたラウドという辺境の町で生まれ育った。



 父と母との3人暮らし。

 お世辞にも裕福と言える暮らしぶりではなかったが、慎ましやかでも幸せな暮らしであった。



 昼になるとよく母がパンを焼いてくれた。

 それはとっても美味しくて、私の毎日の楽しみだったのを覚えている。



 だがそんな幸せな日々は長く続かなかった。

 事が起きたのは、私が12のとき。



 ある日、私を近所の家に預け、2人は何処かへ出かけていった。

 もちろん私は連れて行って欲しいと駄々をこねたが、少し遠出になるからと連れていってはくれなかった。

 そして帰る予定の夕方を過ぎ、夜も深くなってきた頃。

 私が預けられた家に1人の男性が駆け込んできた。



 「すいません!リアースさんのお子さんはいらっしゃいますでしょうか?」



 息を切らし、ゼーゼー言っている男性に水を渡しながら、家主のおじさんが対応する。



 「それなら、この子がそうだが....」



 おじさんに連れてこられ、男性の前に出る。

 もらった水を飲み干すと男性は衝撃の事実を告げた。



 「カリン・リアースさんですね。ご両親がこちらに向かう途中モンスターに襲われ、今非常に危ない状態です。一緒に来てもらえますか?」



 あまりに突然で私はその意味がすぐには理解できなかった。

 だが、とりあえず行かなければならないという事だけは理解出来たので、男性に連れられるままにおじさんの家を出た。



 家を出ると町の入り口付近に小さな人だかりが見えた。

 男性に手を引かれ、人だかりに割って入る。

 そこには血まみれになった、両親の姿があった。



 「リアースさん、連れてきましたよ!娘さんです!」



 回復魔法の光に包まれながら、男性の呼びかけを聞いた父はその顔をゆっくりと私に向けた。



 「カリン.....か。すまないな.....帰るのが遅くなってしまって」



 父の声は掠れ、途切れ途切れになっている。

 もはや早朝に「行ってきます」と私に笑顔を向けた父の姿はない。



 「ちょっと父さんな....怪我をしちゃったんだ.....だからちょっと休ませてもらうよ。ほらカリン、母さんにも顔を....見せてあげてくれ」



 そう言う父の見る方向にいるのは、町のシスターに囲まれ回復魔法による治療を受ける母。



 私は言われるがままに母に駆け寄り、声をかける。


 「お母さん?私だよ、カリンだよ」


 目を閉じていた母だったが、声が通じたのだろうか、ゆっくりとその瞼をあげた。


 「ああ.....カリン....カリンね。今、帰ってきたわ.....もう遅いけれど.....ご飯の用意....しないと....ね」


 母は横たわる身体を何とか動かそうとするが、もはや満身創痍である身体は僅かしか動かない。


 「あれ.....変ね.....上手く身体が動かないわ.....ごめんなさい、カリン。少し.....手伝ってくれるかしら」



 母の言葉を聞いても私の身体は少しも動かなかった。

 流石にこの時になると私も状況を理解できてくる。

 既に私の両目からは溢れんばかりの涙が絶え間なく流れていた。

 2人の側に座り込み、2人を包む回復魔法の優しい光に照らされてひたすらに泣いた。



 それから程なくして2人は息を引き取った。

 ラウドは田舎であり、そこに居るシスターでは重症の傷を治すことはできなかった。



 やがて周りに集まっていた野次馬は1人、2人と消えていき、さっきまで必死に回復魔法を唱えていたシスター達も両親の遺体に祈りを済ませると私に一礼して帰っていった。

 そしてその場には私の他に後から私を追ってきたおじさんと私を連れてきた男性だけが残った。



 この後の事は私は覚えていない。

 後からおじさんに聞いた話では泣くだけ泣いた私はその場で倒れてしまったようだ。



 私が目を覚ましたのはその夜から5日後だった。

 おじさんの家で目を覚ました私はしばらくの間、何も手に付かなかった。

 食事も最低限しか摂らず、みるみるうちに私の身体は痩せ細っていった。



 無気力なまま過ごすこと数日。

 その日、おじさんの家を1人の客が訪れた。

 それはあの夜、私を両親の元に連れていった男性。



 私に用があるということだったが、無気力な私を見かねておじさんが代わりに応対した。

 話の内容は、主に両親が私に残した物についてだった。



 これも後から聞いた話だが、両親が亡くなったあの日、2人はレイアロンに出かけていたそうだ。

 目的は母のベーカリーを出店するという夢を叶えるため、店を出す土地を購入することであった。

 両親の持ち物の中からレイアロンの土地の権利書が出てきたそうだ。

 それと開店資金としてレイアロンの銀行に預けられていた金貨1万枚。

 これがある事を証明する書類も見つかった。

 この2つを娘である私に所有権があるということで男性は置いて行ったという。



 私は母にそんな夢がある事を知らなかった。

 分かっていたことといえば、母の焼くパンが凄く美味しかったということくらい。



 そんな話を聞き、私はふと思い出したことがあった。



 それはある日の母とのやり取りである。



 いつものように母が焼いてくれたパンを食べながら、昼下がりの時間を過ごしていた時。

 母が何かを紙に書き込んでいることに気づいた。



 「ねえ、お母さん。何をかいてるの?」


 「ああ、これね。これはね、お母さんのパンのレシピよ」


 そう言いながら、書いている途中のレシピを私に見せてくれる。


 「カリンはいつも私のパンを美味しそうに食べてくれるでしょ?」


 「うん!お母さんのパンはとーっても美味しいもん!」


 「でもカリンが大きくなったらいつかはこの家を出て行くかもしれない。そんな時になったらね、これを一緒に持って行ってもらおうかなーって思ってるの」


 「えーカリン、ずっとここにいる!」


 「ふふっ。そうだとお母さんも嬉しいわ。けどね、カリン。あなたもいつかはお父さんみたいな素敵な人を見つけて、家族を持つかもしれない。その時はカリンがその大切な人達にパンを焼いてあげられたら、お母さんもっと嬉しいかな」


 そう言えばそんな事があった。

 母は新しいパンを焼く度にそのレシピを書き込み、残していた。

 気づけば私はおじさんの家を飛び出していた。



 久しぶりの私達の家に入り、そのレシピを探した。

 至るところをひっくり返すようにして探し、見つけたのは探し始めて1時間くらい後だった。

 レシピがあったのはキッチンの戸棚。

 綺麗に紐で括って纏めてあった。

 それを取り出し、机に置いて1枚1枚確認していく。

 量で言えばその数50種以上。

 おそらく店で出すためにたくさんの種類を考えたのだろう。

 それでも私は時間が過ぎるのも気にせず、1枚ずつその思い出を噛みしめるようにしてレシピの紙を捲った。



 全てを見終えたのはもう夕方だった。

 気づけば、目にはうっすらと涙が溜まり、頬には涙が流れた跡があった。

 その涙を拭い、私はレシピを持って家を出る。



 既に半分が沈んだ夕日を前に私は決心するのだった。



 おじさんの家に戻った私はおじさんにある事を伝えた。

 それは両親が開く予定だったベーカリーを私が代わりに開くということ。

 私はかなり大胆なことを告げたつもりだったが、おじさんは然程驚かなかった。

 むしろ逆に驚いたのは私だった。



 おじさんはベーカリーを開くにあたって具体的にこれからどうするのかを私に聞いた。

 それに対しては私なりに考えがあったのでそれを話した。

 内容としては、まずパンを焼く技術を身につけるため、どこかのベーカリーで働き、経験を積む。

 そうして働いて貯めたお金と両親が残したお金を使ってレイアロンの土地にベーカリーを建てるというもの。

 おじさんはそれに対しては納得したと言ってくれた。

 驚いたのはその後だ。



 私の考えには1つ抜けがあった。

 それは働くベーカリーのアテがないということだ。

 しかも私はこの時まだ12。

 全く縁がない上、そんな子供を働かせてくれる所を探すのは困難であるだろう。

 そこでおじさんはおそらく私がこんな事を言うだろうと思い、知り合いに掛け合ってくれたのだ。

 そして見つかったのはレイアロンでベーカリーを経営するベンさんという方。

 おじさんの話を聞いてベンさんは快く受け入れてくれたという。

 しかも住み込みという条件付きで。

 まさに今の私にとっては破格の条件だった。

 感謝の思いで私はおじさんに深々と頭を下げる。

 感謝してもしきれないとはこのことだろうと私は思うのであった。



 そうして数日と経たない内に私はレイアロンに居た。

 件のベーカリーに伺うとベンさんに挨拶すると同時に感謝の意を伝えた。

 最初でこそ初めての環境で戸惑う事もあったが、ベンさんはとても親切な人で私はどんどん仕事に慣れていった。

 完全に仕事に慣れた頃、ベンさんは空いた時間にパンの焼き方を一から丁寧に教えてくれた。

 失敗もたくさんしたが、挫けることはなくただひたすらに学んだ技術を身体に叩き込んだ。



 時間が経つのは早いものでベンさんのベーカリーで働き始めてあっという間に5年が経ち、

私はベーカリーで売るパンの製造を任されるまでに成長した。

 技術的にも資金的にも目処が立ったという事で独立したいとの旨をベンさんに伝えた。

 その時のベンさんはとうとうその時が来たかという感じで私の成長を実感したのか、涙ぐんでいたっけ。

 何はともあれ、ベンさんは承諾して下さり、私がベーカリーで働く最終日の夜、ささやかではあるが送迎会を開いてくれた。



 そしてついに母が夢見たベーカリーは日の目をみることになる。

 店のデザインは私が決めたが、名前はどうやら母が考えていたようでそのまま使わせてもらうことにした。



 その名前は「Paria」。



 聞いたことのない名前だが今となってはどういう意味を持つのか聞くこともできない。

 でも私はこの名前を凄く気に入っている。



 開店初日。

 お客さんが来るのか気が気でなかったが、それなりには来てくれたようで少し安心した。

 とはいえベンさんのベーカリーで働いていた時の顔馴染みが多く、完全に新規の人はやはり少なかった。



 それでも私はお店を良くするため、試行錯誤を繰り返した。

 失敗が続き、落ち込んだ時もあったがなんとか持ち直し、3年という時はあっという間に過ぎるのだった。


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