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ネットが繋がらないだけだと思って一か月引きこもってたら、文明が崩壊していました  作者: オオマンティス


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噂になってる例の家

昨日は更新できずごめんなさい〜……。


凪ちゃんのおうち作りは順調です!

翌朝、私は鳥のさえずりで目を覚ました。


なんて素晴らしい朝なんだろう……、と言いたいところだけど、実際は体を起こした時の「ゴキッ」という自身の骨の音だった。

なんにも素晴らしくねー。


「……いっつ」


寝袋一枚とはいえ、さすがに全身が痛い。

昨日、ヨツバと一緒に創り上げたこの家は、外からの脅威は完璧に防いでくれる。でも、内装はまだ手付かずのまま。快適な生活への道は、まだまだ遠そうだ。


腕に絡みついたヨツバが、おはよう、とでも言うようにツルの先端を揺らした。

可愛いやつだぜまったく。


「……おはよ、ヨツバ」


外に出ると、朝の新鮮な空気と一緒に、周囲の視線が突き刺さる。


「おい、あれが……」「あの変な家に住んでる……」


どうやら、昨日の私の家づくりは、この新人居住エリアの一大ニュースになってしまったらしい。


センターの前に行くと、昨日と同じ自衛隊の制服を着た人たちが、手際よくスープとパンを配っていた。


カウンターにいたのは、昨日私に居住エリアの説明をしてくれた、女性の隊員さんだ。


「あ、汐見さん! おはようございます」

「……おはよう、ございます」

「昨日はよく眠れましたか? 早速、すごいお家を建てられたそうですね。もう噂になっていますよ」


彼女は、いたずらっぽく笑いながら、手際よくスープを器に注いでくれる。


「……噂、ですか」

「はい。『西から来た凄腕の生産スキル持ち』だって。期待の新人だって、皆さん注目しています」

「……それは、どうも?」


期待、か。私には、少しだけ重い言葉だ。

私はスープとパンを受け取ると、そそくさとその場を離れた。


拠点に戻った私は、早速、本格的な内装作りに取り掛かることにした。

まずは、やっぱりベッドだ。硬い床での睡眠は、もうこりごり。


「ヨツバ、もう一回、お願いできる?」


私は、昨日と同じようにヨツバに命令し、『創生建築』を発動させる。

目標は、寝心地の良さそうなベッド。

私のイメージに応え、ヨツバのツルが、床の一角でうねうねと形を作り始めた。

うんうん、いい感じ。

……と、思っていたんだけど。


完成したのは、おびただしい数の鋭いトゲが天を衝く、禍々しい茨の塊だった。

どう見ても、拷問器具だ。


「……」


ヨツバは「どう?」とでも言いたげに、ツルをぷるぷると震わせている。

いや、どう? じゃない。これはダメだ。

寝たら死んじまうよ。


(そっか……。柔らかいベッドなんて、作れるわけないのか)


スキルの限界。

私は、目の前の「拷問ベッド」を前に、腕を組んで唸ってしまった。

壁や屋根は作れたけど、快適な生活に必要な、細かい家具は作れない。


私が、目の前の棘の塊をどうしたものかと頭を抱えていると、不意に背後から声がした。


「よっ。……って、うわ、何だアレ」


声の主は、隣の拠点で作業をしていたリク君だった。彼は、私の拠点に足を踏み入れようとして、茨のベッドを見て固まっている。


「……おはよう」

「お、おう……。おはよう。いや、それより、それ……。ベッド、か?」


彼は、若干引きつった顔で、拷問器具を指差している。


「……だったもの、かな」

「だったものって……。あんた、昨日こんなすげえ家を建てたのに、ベッドは作れねえのか?」

「……専門外?というか、スキルの限界というか…。まあ色々あんだよ」


私がぶっきらぼうに答えると、リク君は「ははっ」と乾いた笑い声を上げた。


「専門外、ね」

彼は、納得したように頷くと、何かを思いついたように、にやりと笑った。


「なあ、ちょっと取引しねえか?」

「……取引?」

「ああ。俺、生産系のスキル持ちでさ、木工と簡単な鍛冶ができるんだ。あんたが寝れるくらいの、まともなベッドフレームくらいなら作ってやれるぜ」


彼の提案は、正直言って、かなり魅力的だった。


「……見返りは?」

「いいところに気づいたな。交換条件だ。俺の作業場、見ての通りボロいんだ。壁とか、もうスカスカでさ。あんたのその茨とかツルを生やすスキルで、ちょっと補強してくれよ。防犯にもなるだろ?」


なるほど。Win-Winの関係というわけか。

悪くない。むしろ、今の私には最高の提案だ。


「……分かった。その取引、乗る」

「よし、交渉成立だな! ちょっと待ってろ、すぐ材料持ってくるから」


リク君は、嬉しそうに言うと、早速どこからか調達してきたらしい木材を拠点に運び込んでいる。


しばらく、奇妙な時間が流れた。

私の拠点の横では、リク君が木材を切り出し、組み立てる音。

そして、もう一方では私が本棚から抜き出した本を、静かにめくる音。


彼が作業をしている間、私が手持ち無沙汰になることを見越してか、「俺の作業中は、壁の補強はやらなくていいぜ」とリク君は言ってくれた。彼のそういう気づかいが、少しだけ意外だ。


私は、今度は『やさしい家庭菜園入門』という本を手に取った。

さっきと同じように、ただ、無心でページをめくっていく。

土の作り方、種の植え方、水やりのコツ。



しばらく読んでいると、私の頭の中に期待通りのアナウンスがやってきた。


【繰り返し熟読することで、条件を満しました】

【スキル『生活魔法〈植物〉 Lv.1』を取得しました】

【備考:任意の植物の成長を促進させる】


(……生活魔法!)


戦闘や建築とは、明らかに系統が違うスキルだ。

私がその詳細を確認していると、ちょうどリク君の方も作業が終わったらしい。


「よっし、できたぜ! どうだ!」


彼が、誇らしげな顔で指差した先には、シンプルだけど、とても頑丈そうな木製のベッドフレームが置かれていた。


「……すごい。ありがとう」

「へへっ、だろ? ま、見返りはきっちりもらうけどな。明日にでも、うちの壁の補強、頼むぜ」

「……うん、分かった」


リク君が、満足そうに自分の拠点へ戻ろうとした、その時。

私は、思わず彼のことを呼び止めていた。


「……ちょっと、待って」

「ん? なんだよ」


私は、リク君が作ってくれた、出来立てのベッドフレームにそっと手を触れる。

そして、覚えたばかりのスキルを、慎重に発動させた。

「――ベッドに、柔らかい苔を」


私の命令に応え、ベッドフレームの表面から、ふかふかとした、柔らかな苔が、まるでベルベットの生地のように生え始めた。

あっという間に、それは極上のマットレスへと姿を変える。


「なっ……!?」


リク君が、あんぐりと口を開けて固まっている。


「おい、なんだよそれ!? それもスキルか!? やべえ、超やべえじゃん!」

年相応の、素の反応。

それを見た私は、また少しだけ、口元が緩むのを感じた。

私の拠点作りは、どうやら、また一歩、前進したらしい。



「……『生活魔法』。さっき覚えた」

「生活魔法!? そんなのあるのか…。

それにさっき覚えたって……。

俺のスキルなんて、木を切ったり鉄を叩いたりするだけなのに、あんたやっぱすげえな!」


彼は、尊敬の眼差しで、キラキラした目を私に向けてくる。

……うん、人になつかれるのは、あまり慣れていない。どう反応したものか。


「……明日、壁、やるから」

「お、おう! 頼む! ……っていうか、あんた、マジで何者なんだ?」

「……ただの、小説家」

「はあ? 小説家!?」


私の答えに、リク君は今日一番の、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。


ベッドの様子を確認したあと、リク君は「じゃ、また明日な!」と少しだけ照れくさそうに手を振って、自分の拠点へと帰っていった。

なかなか気のいいお隣さんだ。


私は一人になると、改めて、完成したばかりのベッドへと向き直った。

ふかふかの苔のマットレス。

試しに、そっと腰を下ろしてみる。


「おお〜」


声が、漏れた。

柔らかい。すごく、柔らかい。

硬い地面とは、比べ物にならない。

私は、そのままベッドにごろんと寝転がった。ヨツバも嬉しそうに揺れている。

やっぱり植物が近くにあると快適なんだろうか?


(……すごい。本当に、ベッドだ)


スキルを使えば、戦うことだけじゃなく、こんなに優しいものも創れるんだ。

私は、昨日までの自分より、少しだけ、この世界のことが好きになれた気がした。


フカフカとした苔の上に寝転がっていると、時間が過ぎるのも早く感じる。

日は沈み、星空が見えてきた。

屋根を完全に塞ぐのは、また明日の課題だ。

リク君の壁の補強もしなくちゃいけない。

やるべきことは、まだまだ、たくさんある。


でも。

今は、この柔らかな感触と、確かな安心感に、ただ身を委ねていたかった。

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― 新着の感想 ―
「寝具に気が回らない」はアウトドア初心者にありがちなミスですね、寝袋があれば寝れると思うのは大間違いなのです。
「声の主は、隣の拠点で作業をしていたリク君だった。彼は、私の拠点に足を踏み入れようとして、茨のベッドを見て固まっている。」 どこから見ているのかな。外から、ベッドが簡単に見えると言う事なのかな。
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