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第82話 ギルメン『サリアー』の正体は

「悪かったな。というか、そういう女性アイドル系って、普通女の子は聴かないんじゃあないのか?」


「そんなことないわよ。コンサートとかにいくと、ちらほらと見かけるし。たいてい二人組で。まあ、一緒にいく人のいない私は、いつも一人なのだけれど……」


 か、悲しすぎるだろ……。

 というかそんなこと言わなくていい!


「まあ、確かに皆かわいいよな。お、その右端の子、大人しそうでちょっと一華みたいじゃん」


「この子はノア。そうね。言われてみると確かに一華さんに雰囲気が似ているかもね」


 一ノ瀬さんは、まるで確認をするように、一華を見たりジャケットの写真を見たりを繰り返す。


「でも安心して。ノアよりも、一華さんの方が、断然にかわいいから」


「――なっ」


 一ノ瀬さんに言われて一華は、顔を真赤にして、あたふたとする。


「そ、そそそ、そんなわけない。だってノアちゃんは、本物のアイドルだし」


「少なくとも私は、本当にそう思うわよ」


「そ、そんなこと言ったら、亜里沙は……もっと綺麗だし」


「え? 私が……?」


 自分自身を指さして、不思議そうに首を傾げる。


「ないない。一華さん、それはお世辞にもなっていないわよ」


「ううん。ほんとぉ。亜里沙は、外見は、本当にかわいいし、きれい」


 外見はって……じゃあ内面はどうなんすかね?


「京矢もそう思うでしょ?」


 一華が俺に話を振る。


 俺はジャケットの写真と一ノ瀬さんを見てから、思ったことをそのまま口にする。


「ああ。一ノ瀬さんは、超かわいいと思う。というかマジでモデル並み。うちの学校にいるのが、正直不思議に思うレベル」


 ――刹那、一ノ瀬さんが顔を赤らめて、手で口を覆った。


「な、ななな、なにを言っているのよ! べ、別に、夏木くんにそんなことを言われても、全然、これっぽっちも、嬉しくないんだからね!」


 あれえええー!?

 一華の時と反応がちがくね?

 なんで俺が言うとこんなにも顔を赤くして、強い口調で否定するんだ?


 ……ああ!

 もしかして……これって……あれか!? あれなのか!?

 世に言う……若年性更年期障害ってやつか!?

 そうに違いない!


「ところで」


 話を変えるように、一ノ瀬さんが言う。


「夏木くんは、今日はどうして一華さんの家に泊まるのかしら」


「ああ、実は一華、今風邪を引いていて、まだちょっと微熱があるから、看病しようかなって」


「熱が……だからおでこに冷却シートを貼っているのね。冷却シートを貼った一華さんも、かわいいわ」


 一ノ瀬さんの言葉にいちいち突っ込んでいたら話が前に進まないので、俺はあえて無視をして続ける。


「ごめん、看病は建前。本音はゲーム」


「ゲーム?」


 俺はゲームの画面が表示されたテレビのディスプレイへと顔を向ける。


 画面には、壮大な丘陵の真ん中に立つ、女の子の姿が映し出されている。


 女の子は長い黒髪で、ピンク色のローブを身にまとっており、手には身長よりも長い、木の杖を持っている。


 今は操作をしていないので待機の状態になっているが、モーションとして、時折あくびをしたり、童女のように目をこすったりを、ランダムで繰り返している。


「実は明日、風邪を引いた一華の代わりに、このゲームのギルメンに会わないといけないんだ。だからこうして、泊まり込みでゲームの特訓をしているってわけ」


 すると一ノ瀬さんが、意外な発言をする。


「なによ。『ドラゴン・エンペラー』じゃない」


「へ? 亜里沙、知ってるの?」


 反射的に一華が聞く。


「ええ。やっているわよ」


「ほ、ほんとぉ?」


 一華の目が輝く。


 身近に仲間を見つけて嬉しいのだろう。


「ええ。だって、一華さんがやっているのに、私がやらないわけにはいかないじゃない」


 残念ながらすぐに、一華の目から光が消える。


 というか、動機が不純すぎ!


「ちなみになのだけれど……」


 コントローラーを手に取ると、ホーム画面に戻り、ギルドを開く。

 そしてギルド管理の中にある、メンバーリストを表示させる。


「上から三番目の、このサリアーというのが、私よ」


「え!? サリアーさんって、一ノ瀬さんだったの?」


 一ノ瀬さんの突然の打ち明け話に、俺は思わず声を上げる。


「びっくりなんだけど!」


「でもでも、どうして知ってるの?」


 おろおろした一華が、胸に手を当てたままの状態で聞く。


「私、亜里沙にギルドのこと教えてない。新しいギルドのこと、言ってない」


「一華さん、ゲームのアカウント名でツイッターをやっているわよね」


「う……うん」


「私、見ているから。いつもいつも、ずーっと、見ているから」


「ひいっ」


 目を潤ませた一華が、俺の背後に隠れる。


 いや、すまん、俺も怖いから!

 一ノ瀬さんかすかに口元に笑みを浮かべているけれども、もうそれ完全に魔女のそれだから!

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