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第80話 一ノ瀬亜里沙のブレイクスルー

「違う。植物系の敵の時は、炎属性の技で」


「それは分かるけど、属性ってどこで確認するんだ?」


「ステータス。技名の横に、炎のマークがついてる」


「あ、なるほど。こうやって確認するんか」


 どれくらい時間がたっただろうか。

 俺と一華は二人で横に並び、テレビの前に陣取り、ぴこぴこと、ドラペに興じていた。


 一華はピンク色の、かわいらしいパジャマを着ている。

 おでこには、白い、冷却シートを貼っている。

 これは念のためだろう。

 体調はもうだいぶいいようだが、軽く微熱があるということだ。


 というか、なっつんさんとの約束って、明日だよな?

 今からぐっすり寝れば、いけるんじゃあないか?


 俺はそのまま、思ったことを聞いてみた。


「というか体調だいぶよくなったみたいだし、明日いけるんじゃね?」


「ううん。病み上がりで無理すると、いつも熱、ぶり返しちゃうから」


「そうなんだ。まあ確かに、無理はだめだよな」


 しかも人見知りの一華が、初対面の人に会うとなると、通常の何倍も体力を使うだろうし。


「そういえば……」


 おずおずとした口調で、一華が言う。


「亜里沙、まだいる?」


「いや」


 何気なしに、窓の方へと視線を送る。

 先ほどよりも強くなった雨が、風に煽られてぼたぼたとガラスを打っている。


「さすがにもう帰っただろ。雨、超本降りになってきたし」


「だ、だよね……」


「お、おう……」


 ……嫌な予感がする。


 俺と一華は同時に立ち上がると、そっとカーテンを開けて、窓の外へと視線を送る。


 ――いた。


 ずぶ濡れになった一ノ瀬さんが、自分自身を抱いて、うつむきかげんにその場に立っている。

 動かざること山のごとしとはまさにこのこと!?


「というかマジでやばいって! もはや事件だって! ガチで警察呼ばれるぞ。というか下手をしたら死ぬぞ!」


「…………」


 俺の言葉に、一華はなにも言えずに、一体どうするべきかとおろおろしている。


「一華、いいよな!? とりあえず一ノ瀬さんを家の中に入れるぞ?」


「……う、うん。言ってられない」


 どたどたと階段を駆け下りて、勢いよく玄関を開けると、俺は一ノ瀬さんの手を引き、有無を言わせず家の中へと入れた。


「なにやってんだよ!? なに考えてるんだよ!? 体超冷えてるじゃん!」


 しばらくぼうっとしていたが、意識が現実に戻ってきたように俺の顔を見ると、穏やかにも応える。


「いいの。私、こうやって一華さんのそばにいられるだけで、幸せだから」


「いや、だからって、それで体調を崩しでもしたら、意味ないだろ」


「意味なんて考えないの。したいからする。それだけで、十分」


 雨に濡れた美少女……透明感があって、なによりも儚げで、すごく美しいけれども……一ノ瀬さんはばかだよな。


「あ、亜里沙……タオル……」


 廊下の奥、風呂場の方からやってくると、一華はそっと、一ノ瀬さんにクリーム色のバスタオルを差し出す。


「一華さんが、私に……?」


「う、うん。濡れてる」


「ありがとう。一生大事にするわね」


「いや、あげないよ?」


 一華からバスタオルを受け取ると、一ノ瀬さんはぎゅっと顔に押し当てて、音を立てて匂いをかぐ。


 ――くんかくんかすーはーすーはー。


「わあ! 一華さんの匂いがするわ! 私、もう死んでもいい!」


「きょ、きょうや~……」


 怯えた一華が、俺の腕にしがみつく。


 というか、俺も以前同じようなことしたわ。

 しかも脱ぎたての制服で、くんかくんかと。

 マジですまん。


 しかしあれだな。こうやって改めて見ると、マジでキモいな。

 客観的に見て、初めて気づけたっていうか……。

 一ノ瀬さんの制服、雨に透けてブラが見えてしまっているけれども、正直キモさの方が上回って、どうでもいいというか、もはや突っ込むのも面倒くさい。


「一華、着替えはあるか?」


「が、学校のジャージでいいなら」


「貸してくれるの?」


 きらりと目が輝くが、一ノ瀬さんはまるで自制するように自分の腕をつねると、声のトーンを抑えて言う。


「あ、あああ、ありがとう。本当に、助かるわ」


 奇声を上げなかっただけでも、成長したと言えるのかもしれない。


 一華と一ノ瀬さんは、着替えるためにも、二人で風呂場の方へと向かった。

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