第76話 やっぱり妹がウザすぎて
「なっつんさんは、ようはギルメンだ。そうなると実際に会った時は、やっぱり一番の話題はゲームの内容になるわけだ」
「う、うん」
「じゃあ、実際にゲームをやるしかないわな」
「へ?」
「今夜、ゲーム機を借りていっていいか? 朝までぶっ通しでやって、いかなる話題にもついていけるように、特訓するから」
「きょ、京矢が、ドラペを?」
驚いたように目を見開くと、提案するように聞く。
「じゃ、じゃあ、ここで……どう?」
「ここでって、一華の部屋でゲームをするってことか?」
「そう。そうすれば、直接アドバイスもできるし、効率的」
「確かに。でもいいのか? 風邪まだ完全には治ってないだろ?」
「大丈夫」
前で手を握り、ぞいの構えをして、自分自身を納得させるように一度頷く。
「体調、今は結構いいから。それにお外にいくわけじゃなしい、部屋の中でゲームをするだけだし。あ……でも、京矢に風邪、うつしちゃうかな?」
「大丈夫だろ。ていうか久しぶりに一華の部屋で遊ぶのも面白そうだし、一華がいいって言うんなら決定で。ドラペのいろはを、手取り足取り俺に伝授してくれ」
「う、嬉しい」
飛びつくようにして、一華が俺の腕に抱きつく。
が、すぐに気づいたように離れると、顔を真赤にして照れる。
「ご、ごめん。嬉しくて……つい……」
「お、おう。だけどあんまりするなよ。勘違いする男とか、絶対にいるからな」
「大丈夫。京矢にしか、しない」
つまり俺には勘違いしてもらっても構わないってことですね。そうですね。
着替えとか、スマホの充電器とか、色々準備をしないといけない物があったので、俺はひとまず家に戻ることにした。
夕飯は、コンビニとかで弁当を買って一華の所で食べればいいけれど、風呂ぐらいは、自分の家で済ませておいた方がいいだろう。
家に着き、玄関のドアを開けると、そこには腕を組み、頬を膨らませた、くるみの姿があった。
細めた目で俺を睨んでいることからも、どうやらなにかしら、俺に対して腹を立てているのは間違いなさそうだ。
とはいえ俺なんかしたか?
もしかして昼前のことをまだ怒っている?
だとしたらしつこすぎるだろ。
「遅い! どこいってたんだよ」
「どこでもいいだろ。くるみには関係ないし」
「は? 関係ないわけないじゃん。プリン待ってたんだし」
「プリン? ……あっ」
「はあ? もしかして買ってきてないの?」
「いや、買ったんだけど……」
「買ったんだけど、なに?」
「一華にあげちゃった。あいつ風邪を引いたみたいで、弱っていたから」
「はあああー!?」
裸足のままで玄関を下りると、ずかずかと俺に歩み寄って、びしっと指を立てて叫ぶように言う。
「地味子に!? よりにもよってあの地味子に!? ふざけんな! マジでふざけんな!」
「なんでそんなに怒るんだよ? また今度買ってきてやるから、別にいいだろ」
俺の言葉を無視するようにして、くるみがまくし立てる。
「ていうことは、帰りが遅かったのって、地味子の所にいっていたから!?」
「あ、ああ。でも安心しろ。俺の看病のかいあってか、だいぶ回復したから」
「そんなこと聞いてねえ!」
「そんで、このあとまたすぐに、じ……一華ん所いくから、よろしく」
あぶねえ。俺までつられて地味子って言っちまうところだった。
そんなことより、一華も待っていることだし、早く準備を済ませないとな。
俺はくるみの脇を通り抜けると、靴を脱いで、家へと上がった。
「ちょっと待ってよ」
くるみが、俺の背後から声をかける。
俺は立ち止まると、肩越しにくるみを見る。
「このあと地味子の所いくって、もう夜だよ?」
「ああ、今日は一晩中一華の所いるから」
「それって、泊まるってこと?」
泊まる? どうなんだろう?
俺は一睡もせずにドラペをするつもりだから、どちらかといえば友達の家に遊びにいく延長みたいに考えていたけど、違うのか?
でもやっぱり人の家で夜を越えるってことは、傍から見たら、泊まるってことになるのか?
「泊まるっていうか、一華の所に遊びにいくって感じ?」
「それって地味子の方から言い出したの?」
「ん? まあ、そうだけど」
「あいつ……」
舌打ちをしてから、歯を噛みしめる。
「マジで腹立つ……」
「え?」
脚に激痛が走った。
なにがなんだか分からずにとっさに足元に顔を落とすと、くるみが目にもとまらぬ速さでローキックをかましていた。
「死ね! バカ兄! 死ね!」
「ちょっ! 痛い! 痛いってマジで!」
「バカ兄もう高校生でしょ? 女の子の家に泊まりにいくって、どういう意味か分かるでしょ?」
「分かるって……なにがだ?」
本気でドン引きしたような表情を浮かべてから、くるみは大きなため息をついて、自分の部屋へと去っていった。
……一体なんなんだよ。
わけが分からんぞ。
これだからリアル妹は。
というか一華のことになると、どうしていつもあんなに機嫌が悪くなるんだ?
親戚ってのもあるけど、できれば仲良くなってほしいんだけどな。
友達にでもなってくれれば、一華にだって絶対にいい影響があるし、もしかしたら昔みたいに活発な、明るい女の子に戻ってくれるかもしれないってのに。
俺はくるみに蹴られたところを軽くさすると、今一度くるみが去っていった階段の方を見上げた。
じんじんと、脚が痛んだ。




