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第72話 看病という名のほぼセクハラ

 俺は一度部屋から出ると、一階の風呂場へとゆき、そこで桶に水を汲んだ。

 タオルは脱衣所の棚に何枚か積み重ねられていたので、それを一枚借りた。


 水をこぼさないように慎重な足取りで一華の部屋に戻ると、俺はベッドの脇を軽く片付けてから、タオルに水を湿らせて、若干水が残るぐらいの強さで絞った。


「準備できたぞ」


 俺に対して背を向けた一華へと言う。


 一華は頷くと、ゆっくりと、まるで着物を脱ぐようにして、パジャマを脱いだ。


 ごくりと息を呑む。


 白くてつやつやした一華背中が、俺の目の前に顕になっている。


 背中ぐらいなら、海やプールにいけば皆普通に出しているし、さらにいえば今の季節なら、背中のあいた、まるで露出狂みたいな服を着た女子が、普通に街を歩いている。

 だから一華の背中をじかに見たって、別にそれは普通のことだし、どうということもない。

 というかこれは看病だ。

 どこまでも純粋に献身的な行いだ――そう思ったけど、なんかこれ違う! 完全に別物!


 おそらくは、エロさとは、状況なのだろう。


 街中で、突然見ず知らずの女が素っ裸になって、走り出しても、興奮もくそもない。むしろ怖い。

 しかし今みたいに、狭い部屋の中で二人っきりで、相手が妙に照れていて、そんでもって汗に濡れていると、もうこれはエロ以外の何物でもない。


 信じてくれている一華さんには悪いが、正直辛抱たまらんっすわ!


 いかんいかん。


 俺は首を降ると、心を落ち着けるためにも、一度大きく深呼吸をする。


 すう……はあ……すう……はあ……。


 よし、リセット完了。

 今の俺は、ある種の賢者タイムだぜ。


「じゃあいくぞ」


「うん……」


 言うと一華は、長い黒髪を前へと流して、肩をすくめる。


「や、優しくしてね。……初めてなんだから」


 ――言い方ァ!


 全く、これだから一華わ。

 たまにわざと紛らわしい言い方をしているんじゃあないかと勘ぐりたくなるわ。


 本当にいつか、誰か男を勘違いさせて、大変なことになるぞ。マジで。


 俺は心の中でぶつぶつぐちをこぼしつつも、ベッドの上に片方の脚をのせて、そっと、一華の白い背中へと、タオルを当てた。


「――ひゃん!」


 びくりと体をしならせて、またもや変な声を上げる一華。

 それから両腕で自分の体を抱くと、うるうるした目で肩越しに俺を見る。


「な、なんだよ。変な声出して」


「だって……だってだってだって……」


 こんなことをしていたらいつまでたっても終わらない。


 俺は意を決して一華の背中へとタオルを当てる。


「う……うう……ううう……あっ……」


 ごしごし……ごしごし……。


「あっ……ん……ん……んっ……」


 ごしごし……ごしごし……。


「ひゃっ……ううう…………ああっ」


 ――やってられっかー!!


 なんのエロゲーだよ!?

 これなんのエロゲーだよ!?

 完全に俺のこと、壊しにかかってきていますよね!?


「きょ……きょうや?」


 手を止めた俺のことが気になったのか、一華が自分を抱いたままの格好で、俺を見る。


「も、もういいだろ? しっかり拭いたぞ」


「ううん」


「まだどこか拭いてほしいところがあるのか?」


「うん。……腕とか」


「腕ぐらい自分で拭けよ」


「だめ。力が入らなくて……腕が上がらない」


「まあ……そういうことなら」


 仕方ないという思いで、俺は一度ベッドから下りると、タオルを絞り直した。

 そして再度ベッドの上に片方の脚をのせると、さらに一華に近づこうと、腕に体重をかけた。


 が、その時、不注意にも掛け布団に手が滑り、俺はそのまま前へと、一華の方へと倒れ込んでしまう。


 ……ん?

 なんだろうこの柔らかい感触は。


 目を開けると、なんと俺の手が、一華の胸の方に回っていた。


 つまりは……今俺の手の中にあるのは……。


「い、いいい…………」


 やばい!

 これはガチだ!

 絶対に叫ぶ!

 下手したら爆発だ!

 イヤボーンだ!


 しかし一華は、俺の予想に反して、大きな声を上げなかった。

 というか正反対だった。

 かすかな声で「いや……」とだけ言い、ぼろぼろと、大粒の涙を流し始めた。


 まさしくガチ泣きである。


「わ、わるい一華! 今のは事故なんだ! 決してわざとじゃあないんだ! 信じてくれ!」


 俺は一華の肩にパジャマをかけると、ベッドから降りて、DOGEZAをした。

 さすがの俺も、こんな涙を見せられては、心が痛まないわけがない。

 というか罪悪感が半端ねえ!


「う、うん……。分かってる。京矢は……そんなことしない。ぐすり」


「本当にわるかった! この通り!」


「私は、大丈夫だから。ちょ、ちょっと……びっくりしちゃった、だけだから」


 それからしばらくは、なんだか気まずい時間が続いた。


 一華はベッドの上で体育座りをして、布団を口元まで引き上げて、ちらちらと俺に視線を送っている。

 俺はというと、どうしていいのか分からずに、スマホを出したり、床に落ちていた漫画を開いたりを、無意味に何度も繰り返す。


 なにか……話さないとな。


 ほどなくして、先ほどコンビニで買ったプリンとシュークリームが目に入ったので、俺はそれを話題にして、話してみることにする。

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