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第68話 一学期の終わりと、幼馴染とのこれから

 週明けの月曜日、俺は学校にいくために身支度を整えていた。


 清々しい気分だった。


 おそらく隠し事という名の鎖から解き放たれたためだろう。

 気のせいか窓の外に広がる景色もいつもより美しく見えるような気がする。


 俺は歯を磨きばしっと髪型をキメると、鞄を手にして玄関へと歩き出した。


 一華からの着信が鳴ったのはちょうどその時であった。


『もしもし京矢、おはよお』


「おう一華、おはよー。どうした? 今からお前んちに呼びにいこうと思っていたんだけど」


『そのことなんだけど、私今日学校いかないから』


「え? 風邪でも引いたのか?」


『ううん。実はね、今日ほしいゲームの発売日だったの。で、店舗限定特典のためにはどうしても朝から並ばないといけなくて』


 ――は? ゲーム?


「いや、でも、今日は終業式だぞ? 最後の日に休むとかって……」


『うん、だから京矢にお願い』


 お願いって、まさか……。


 ごくりと息を呑むと、俺はスマホを握る手に力を込める。


『女装して、私に成りすまして学校に出て』


 その場にずっこける。

 整えた髪がぐちゃぐちゃになる。


「お、お前……あのなー。俺はもう女装はこりごりなんだ。だから……」


『ひどい!』


 遮るようにして、一華が叫ぶ。


『先週の土曜日、京矢言った! 私に尽くすし面倒も見るし絶対に裏切らないって! あれは嘘だったの!?』


 うっ……あれはついその場のノリで……だったなんて言えない。

 どうして俺はあんな恥ずかしいことを。

 アドレナリン、マジで怖い。


 ――そういえばあの時……。


 あの日以来、ずっと心に引っかかっていたあることを、俺は不意に思い出した。

 だから今ここで一華に聞いてみようと思った。

 上手くいけば話が逸れるだろうという、そんな思惑も兼ねて。


「先週の土曜日といえば、一華、お前に一つ聞きたいことがあるんだが、いいか?」


『聞きたいこと? 何?』


「一華が純に告白された時、お前断ったよな」


『う、うん』


「確かその理由が『他に好きな人がいるから』だったと思うんだけど……誰なんだ?」


『――!?』


 ……な、何だよその反応。

 断るための口実かと思ったけど、やっぱり誰かいるのか?

 どこのどいつだそのゲス野郎は!

 絶対にそいつはカスだ!

 便所の底にこびりついたうんこだ!


「なんとか言えよ。誰なんだよそいつ?」


『内緒! 内緒内緒! 京矢には内緒!』


 ……ぐぬぬ。


「じゃあ、今日女装して一華の代わりに学校にいってやるから、それで教えてくれないか?」


『十回』


「十回?」


『今日のを入れずにあと十回やってくれたら、教えてあげてもいい……かも。また今日みたいにどうしてもって時、あると思うし』


「十回だな!? あと十回女装したら、一華の好きな人教えてくれるんだな!?」


『う、うん……多分』


「三分でいく! 準備して待ってろ!」


 俺は自宅を飛び出すとそのまま一華の家へと向かった。


 ――女装でも成りすましでも何だってやってやろうじゃねーか!


 そう、俺はあいつのために彼女になるんじゃない!

 あいつの好きなやつを知りたくて、

 自分のために彼女になるんだ!


 心の中で、俺は叫んだ。

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