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第66話 穏やかな夏の夜の浜辺に響き渡るのは、幼馴染による、『主人公は私の物!』宣言

「――や、やめて!!」


 響き渡る女の子の声。


 誰だ?


 霞んだ視界に浮かぶ、俺をかばう女の子の姿――


 識さん……か?


 そう思ったが違った。

 俺をかばっていたのは、なんと一華その人であった。


 どうして一華が俺をかばうんだ?

 むしろ一番恨んでいるはずだろ?


 純も同じことを思ったのだろう。

 その後にすぐに口にする。


「小笠原さんがどうして京矢をかばうんだ!? 今回の件の一番の被害者だろ?? 憎いはずだろ!? 京矢になにか言ってやれよ!!」


「ううん!」


 大きく首を横に振る。


「私……京矢許す! だ、だから、渡辺くんも!!」


「――はっ!? ……わ、わけ分かんねーよ……」


 吐き捨てると純は、一華を押し退けて、再び俺へと腕を振り上げた。


「――だめ!」


 絶叫と共に、俺に抱きつく一華。


 どうして京矢なんかのためにそこまでするのか?

 おそらく皆の頭の中は、このような疑問であふれかえったに違いない。


 そんな疑問に答えたのが、張本人である一華自身であった。


 その言葉の意外さに、純はもちろんのこと、識さんたちまでも、そしてなんと俺までも、驚愕してしまう。


「だって……だってだって! 実は私、見てたもん!」


 ――は?


「全部見てたもん! 小学校の時、京矢が私に女装して、渡辺くんを振るところ!」


「えっ……と、つまり……」


 一歩二歩と一華へと歩み寄った識さんが、冷静にまとめる。


「一華は小学校の時に京矢が純にしたことを全部知っていた。下駄箱からラブレターを抜き取ったことも、一華に成りすまして純を振ったことも、そしてそれが原因でいじめられたことも」


 頷いて答えると、一華は続きを話し出す。


「放課後、偶然見かけたの。私の姿に女装した、京矢の姿を。一体何をするつもりなんだろうって思った私は、ばれないように追いかけた。そしたら校舎裏で渡辺くんを振ってて……」


 握った手を胸に当てる。


「すぐに分かった。私の代わりに、告白を断ってくれてるんだって。嫌な役を、代わりにやってくれてるんだって。……大きな声できっぱりと、『付き合えない!』って言った京矢の姿……かっこよかった」


 ぽたぽたと、首筋に一華の涙がこぼれる。

 途切れそうになる意識をなんとかつなぎ止めて、俺はそんな一華へと視線を送る。


 ――一華……お前は…………。


「見ていてそのままにしたんだから、それは私の意思! 見ていて止めなかったんだから、それは私の意思! 渡辺くんを振ったのは、実は京矢だったけど、私と思ってくれて構わない! 多分私本人がラブレターを受け取ってても、結果は同じだったから!」


 腕を下ろす純。

 顔を逸らす識さん。

 溜息を漏らす一之瀬さん。

 踵を返す山崎さん。


 一華は俺を抱きしめる腕に力を込めると、最後に宣言するように次のように言った。


「渡辺くんたちにいじめられて、私本当に辛かった。毎日毎日が本当に苦しかった。……でも、いつも京矢がそばにいてくれた。気遣ってくれたし世話もしてくれた。これからもずっと京矢は私の世話をするの! ずっとずっとそばにいるの! 京矢は私の物! だからこれ以上、京矢を傷つけないで!!」


 ……お、俺は……。


 視界が霞む。


 物とかじゃねー……。


 そしてそのままぷつりと、意識が途切れた。

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