表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/220

第64話 勇気ある純の告白により、いよいよもって、ちっぽけな俺の世界の崩壊が始まる

 一体どこにいるのだろう?

 この短時間だ。

 そう遠くにはいっていないはずだ。


 一通りスカイウォークの周りを見て、駅周辺を捜して、もう一度元の場所に戻ってくる。


 やっぱりいない。

 じゃあどこに?


 俺はその場で深呼吸をすると、一度冷静に考えてみた。


 告白?

 もし俺が純の立場だったなら、一体どこで告白をする?

 夜景が綺麗で、ロマンチックで、人がそんなにいない所……。


 はたと気付き、俺はスカイウォークから眼下を見下ろしてみる。

 そこには遊歩道の先に小綺麗な砂浜があった。

 暗いし距離があるしで目視はできないが、もしかしたら……。


 俺は階段を使い下に下りると、砂浜へと急いで向かった。



 打ち寄せる波の音、夏の夜風。

 浜辺沿いにはカップルや家族の姿がぱらぱらと散見される。

 そんな中に、ようやく一華と純の姿を見つけた。


 俺は足を緩めると、二人に話しかけるべく、ゆっくりと歩み寄る。


「見つけた。いち――っ!?」


 ――突として、汗ばんだ手が俺の口を塞ぐ。


 えっ!? 何!?


 そしてそのまま近くにあったベンチの後ろへ、二人からは見えない位置へと引きずられた。


「ちょっと京矢!」


 手で頬を挟み俺を振り向かせると、その者は目をのぞき込みながらも言った。

 相手は識さんであった。


「あんた少しは空気読みなよ!」


「え?」


 状況を上手く把握できない。


 空気を読めって……俺なんか悪いことした?


 俺の疑問、そしてその答えは、後から追いついてきた二人、一之瀬さんと山崎さんによりもたらされる。


「なによあの二人……なんかいい感じじゃない」


「絶好のロケーション、雰囲気……あれは間違いなく告白ですね」


 ――告白?

 一華は告白されるのか?


「亜里沙」


 制服の後ろ襟をつかむと、識さんが言う。


「あんたも邪魔したらだめだよ」


「わ、分かってるわよ! でも……でも、一華さんの清純が……」


 その場にしゃがみ込むと、一之瀬さんはぐぬぬと歯噛みして、純を恨めしそうな目で睨む。


「やっぱり男はくそね。いつの世も、男は美しいものを穢すのよ」


 汚す?


 一之瀬さんの言葉が、すとんと俺に落ちてくる。


 一華は、汚されるのか?


 助けないと。

 助けないと。

 俺が助けてやらないと。

 俺がなんとかしてやらないと。


 ごちゃごちゃ頭の中で考えているうちにも、何メートルか先にいる純が、意を決したように話し始めた。


「お、小笠原さん」


「え? う、うん……」


「実は今日、小笠原さんに話したいことがあって」


「話したいこと? ……な、何?」


「じ、実は俺……」


 きたっ、と右隣にしゃがむ識さんが黄色い声を上げる。

 いよいよですね、と左隣にしゃがむ山崎さんがほくそ笑む。

 ぐぬぬ……といった感じの声を、左端の一之瀬さんが口にする。


 そしていよいよ、運命の時――


「小笠原さんのことが好きなんだ! もしよかったら、付き合ってくれないか!?」


 …………。


 数瞬の沈黙。

 それからすぐに、一華が慌てたように言った。


「――へ? え? わ、私? ど、どどど、どっきり??」


「どっきりじゃない。真剣だ。俺は本気で小笠原さんのことが好きなんだ。どうか、返事を聞かせてほしい」


 状況を理解したのか、一華はうつむきつつもその場に姿勢を正した。そして、


「……ご、ごめん。私……渡辺くんとは……」


 と言い、純の告白を断った。


「ど、どうして……?」


「私……す、好きな人、いるから」


「それって……」


 見るからに落胆する純。

 ともすればその場に崩れ落ちそうなぐらいに顔を歪める。


 彼の気持ちを察したのか、まるでなぐさめるように、一華が口を開く。


「で、でも、私……嬉しかった。好きって言ってもらえて。男の人からの好意って……京矢からしか受けたことなかったから」


 額に手を当てた識さんがあちゃーと首を振る。


 確かに今、他の男の名前を出すのはいかんかもね……一華さん。


 とはいえどこかほっとした俺は、この時既に、次にどのような行動をするべきかを考え始めていた。


 ――事態が思わぬ方向へと向かうなんて、思いもよらずに。


「わ、渡辺くんなら、大丈夫。かっこいいし、皆から好かれてるし。すぐに彼女もできる。だから……」


「何でだよ?」


「へ?」


「何であの時も、そういう風に振ってくれなかったんだよ」


「……え?」


 ――え?


 純の発言に、俺、識さん、一之瀬さん、山崎さんは、疑問符を頭の上に浮かべながらも互いに顔を見合わせる。


「もしかして純って」


 小声で、識さんが聞く。


「アタック二回目?」


「いや、違うと思う。一華からも純からも、そんなこと聞いてないし」


 じゃあ一体何のことだ?


 嫌な予感を胸に、俺は今一度二人へと視線を送る。


「な、何? 何のこと?」


「覚えてるか? 小学校の時、小笠原さん、近藤ってやつに告白されただろ。放課後の校舎裏で」


 ――小学校の時……近藤……告白……校舎裏……。


 え?

 それって、もしかして、俺の……?

 でも、どうして、まさか……は?


 そのままの勢いで、純は続ける。


「どうしてあんな酷い振り方したんだよ? よりにもよって目の前でラブレターびりびりに破って、顔に投げつけて……。なにも唾まで吐きかけることはないだろ? 俺がどれだけ傷ついたか分かるか?」


「え? ……え? 何のこと? わ、私そんなの知らない。そんな酷いことしてない。ひ、人違い、じゃない?」


「は?」


 純の顔から表情が消えた。

 そして一歩二歩と歩み寄ると、一華の肩に手を乗せて強く揺らした。


「マジか? マジで言ってんのか? 忘れちまうぐらいに、俺のことなんかどうでもよかったってことか? なあ、どうなんだよ? 今日みたいに優しく振ってくれれば、俺は当時お前をいじめたりなんかしなかった! あんなことしたくなかった!」


「い、痛い。わ、渡辺くん……やめて」


「ちょっとあれまずくない?」


 呟きつつも、飛び出したのは識さんだ。

 彼女に続き、一之瀬さん、山崎さんも順に飛び出す。

 頭の中が真っ白になっていた俺は、情けなくもその後に、よろよろと二人のもとへとたどり着く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ