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第60話 リア充曰く、恋は青春であり、光であり、人生でもっとも価値のある、超すばらしいもの

「……ということが、今日の体育の時間にあったんだ」


 放課後の生徒会室、俺は一華が席を立ったのを見計らって、皆に話を持ち出した。


「一体どうしたらいいと思う? 俺は純に協力するべきなのか?」


「そんなの協力するべきに決まってんじゃん!」


 いじっていたスマホをテーブルに置いた識さんが、身を乗り出すようにして声を上げた。


「それにこれって一華にとってもいい機会じゃない?」


「いい機会って、何が?」


「だってよく考えてもみてよ。こうやって徐々に環境は変わりつつあるけど、結局あの子ピコピコゲームばっかでしょ? 中身は全然変わってないんだよ。じゃあどうすればいいのか?」


 人差し指を立てて首を傾げる。


「どうすればいいのか?」


 つられて俺も首を傾げる。


「恋しかないじゃん!」


「恋?」


「そう恋。恋をするとね、人は変わるんだよ。今までの価値観が一度リセットされて、恋があるという世界観でもう一度作り直される……みたいな?」


 確かにそうなのかもしれない。

 だって恋って偉大だもんな。

 偉大であり、万能であり、世界を救う――それが恋!

 ……まあ、俺は彼女ができたことないからよく知らんけど。


「私は反対よ」


 黙考する俺をよそにして、一之瀬さんが識さんに異を唱えた。


「そもそも私たち高校生の本分は勉学なの。それを恋だの愛だのを盾にして、異性同士でいちゃこらするなんて、とても感心できることではないわね」


「あ? あんたはただ一華を男に取られたくないからそう言ってるだけっしょ?」


 自分の意見を否定されて腹が立ったのか、識さんが一之瀬さんに対してメンチを切る。


「ち、ちちち、違うわよ! というかあなたも、一華さんと渡辺くんが引っつけばなんて考えているのではなくて?」


 睨み合う二人。

 耳を澄ませば、

 ガルルルル!

 シャ――!!

 なんて威嚇の鳴き声が聞こえてきそうだ。


 そんな二人に割り入ったのが、先ほどから本に目を落としていた山崎さんであった。


「ボクは識さんの意見に賛成です」


「鈴、あんたやっぱ分かってるわ」


 我、味方得たり、とでも言わんばかりに、山崎さんに近づく識さん。

 手を取ると一之瀬さんに顔を向けて、にやりとした笑みを口元に浮かべる。


「そ、そんなこと言って、山崎さんも一華さんが渡辺くんと引っつけばなんて考えているのよね? 結局は人のためという皮をかぶった、自己都合なのよ」


「そうですが……なにか?」


「え?」


 山崎さんは本をテーブルの上に置くと、席を立ち俺の方へとやってきた。

 そして俺の腕を取ると、まるで胸へと押し付けるようにしてぎゅっと抱きしめて、寄り添った。


 ――えっ!? ちょっ!?


「ボクは夏木くんの妻です。だから小笠原さんが他の男とくっつけば、都合よく厄介払いができるのです」


「鈴! あんたまた!」


 引き離そうと、識さんがぐいぐい引っ張る。


「つかなに胸当ててんの!? やめろし!」


「わざとなのです。と言いますか触ってほしいのです」


「変態か!? あんたは!」


 その時、がらがらっと扉が開き、一華が戻ってきた。


 静寂する生徒会室。

 まるで何事もなかったかのように、一瞬で、気が付けば皆は元の場所へと戻っていた。


 い、いつの間に……。


 置いてけぼりを食らった俺は、変な姿勢のままで一華へと言った。

「やあ、一華、早かったな、トイレ」と。


 結局多数決により、俺たちは純の恋路を手伝うことになった。

 いきなりデートというのはさすがに厳しいだろうということで、複数人でどこかへ遊びにいこうということになったのだが、どういうわけか予想外にも、参加志願者の数が想定をはるかに上回り、カンストした。

 つまりは生徒会メンバー全員で、いくことになったのである。

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