第59話 超イケメンの親友が、俺の幼馴染のことを好きと言ってきたのだが、俺は一体どうすればいいのだろうか
本日の体育はサッカーであった。
同じチームになった俺と純は、校庭脇にある石段に腰を下ろして、先行の練習試合が終わるのを待っていた。
純が口を開いたのは、爽やかな初夏の風が頬をかすめて、俺に眠気を運んできた、ちょうどそんな時であった。
「なあ京矢、ちょっと相談があるんだけど、いいか?」
「相談? お、おう。何?」
純の様子がいつにも増して真剣だったので、俺は思わず身構えてしまう。
「実は俺、今気になる子がいるんだよ」
「気になる子? それって好きな人ができたってことか?」
純が首肯する。
「マジか!? で、相手は一体誰なんだ? まさか同じクラスの伊万里さんか? よく話してるところ見るし」
「いや、違う」
「あ、じゃあ上田しおんだろ。あのハーフで赤毛の。あの子どちらかといえばひかえめだし、確か前、そういう子が好みだって言ってたよな」
「いや、それも違う」
「じゃあ誰だよ? 俺の知らない子か?」
「いや、京矢がよく知っている子だ」
俺がよく知っている子? まさか――
「識さんか?」
「小笠原さんだ」
…………。
一瞬、頭の中が真っ白になった……気がした。
「一華?」
「そう、小笠原一華さんだ」
「冗談だろ? 純だったらもっと可愛い子ゲットできるぜ?」
「本気で言ってんのか?」
真顔で俺を見る。
「小笠原さんより可愛い子なんて、そういないぞ」
「で、でもあれだ。あいつぼっちだし、コミュ症だし、ゲームばっかだし、付き合っても面白くないっていうか」
「京矢」
名前を呼び、俺を遮る。
「話を逸らさないでくれ。俺は小笠原さんのことが気になっているんだ。どう思う?」
「どうって……」
…………。
「いいんじゃないか? 恋愛は、自由だし」
「ありがとう。そう言ってくれると思っていたよ」
「お、おう」
顔を落として、地面に落ちていた小石をもてあそぶ。
「相談は、以上か?」
「いや、ここからが本題なんだが……」
純は俺から目を逸らすと、一度こほんと咳をした。
そして試合の行われている校庭の方へと視線を移すと、意を決したように言った。
「京矢に、俺と小笠原さんの仲を取り持ってほしいんだ」
「取り持つ? 要は協力してくれってことか?」
「ああ」
頷くと、純は続ける。
「入学して、同じクラスになってから、ちょくちょく話しかけてはいるんだが、なかなか心を開いてくれなくてな。正直、ほとんど会話もしてくれない」
「そうか? 最近は挨拶ぐらいは返してくれるようになったんじゃあないか?」
「それぐらいだ。俺はもっと深い仲になりたいんだ」
挨拶を返してくれるようになったってのでも、結構驚異的な進歩だと思うけどな――とは言わないでおこう。
言っても仕方ないし、なにより純が求める言葉とは違うから。
では純は俺に何を求めているのか?
おそらくそれは、こういうこと……。
「つまり、一華とお近づきになれる場を、セッティングしてくれってことか?」
「そうしてくれると、ありがたい」
「一緒に遊びにいくとか、そんな感じか?」
「そんな感じだ。お願いできるか?」
う、うーん……。
俺は返事を保留にした。
すぐに答えを出すべきではないと、そう思ったから。
とりあえずは皆に、つまりは生徒会のメンバーに相談した方がいいと、そう思ったから。




