第58話 つまるところ始まりは、終わりへのプロローグであり、終わりのあとにくる始まりは、いうなれば失われた時へのエピローグでもある
月曜日、
朝の渡り廊下、
体育館へと移動する生徒たち――
本日臨時集会があると皆に伝えられたのは昨日のホームルームのことだ。
もちろん生徒会会員であり、当事者であり、また本集会の主役の一人である俺は、本日の臨時集会のことをあらかじめ知っていた。
というか、思い出すだけでも嫌になってくる。
連日に渡り繰り返される打ち合わせに、集会当日のための設営作業。
そしていざ当日を迎えたはいいが、やはりというかなんというか、緊張によりお腹の調子が悪くなってくる始末。
なんだか俺がばかみたいじゃあないか!
あのリハーサルの日々は、一体全体なんだったのだろう。
……ああ、のんきに突っ立っていたあの頃が懐かしい。
「えー壇上に座るこちらの五名が、本年度の生徒会メンバーになります」
生徒会顧問であるりりこ先生が、俺たちと生徒たちを交互に見ながらも言った。
「これから一人ひとりに就任の挨拶をしていってもらいますが、まあ自己紹介ですね。皆さんしっかり顔を覚えていってください。ではまずは生徒会会長である、一年一組一之瀬亜里沙さん、お願いします」
「はい!」というよく通った声で返事をすると、一之瀬さんはその場に立ち上がり、きびきびした歩調で中央に置かれた演台の方へと歩いていった。
「…………以上です。何卒よろしくお願いいたします」
一之瀬さんの就任挨拶が終わった。
生徒たちの反応はというと――
「あの人首席合格だけど性格に難があるらしいね」
「噂だと女が好きらしいぜ」
「この前私、身の危険を感じたんだけど」
「これあかんやつや」
一之瀬さんが席に戻ったのを確認してから、りりこ先生が次の人の名前を呼んだ。
「えー続きましては、書記を担当していただきます、一年六組識日和さん、お願いします」
「…………まあ、私からはこれぐらいです。よろしくお願いします」
識さんの就任挨拶が終わった。
生徒たちの反応はというと――
「髪の色明るすぎじゃね?」
「可愛いけど、ちょっと怖いよな」
「噂だと暴走族に入ってるらしいぜ」
「つかこの前人前で堂々とキスしてた人じゃん」
「マジで? 外人かよ」
識さんが席に戻ったのを確認してから、りりこ先生が次の人の名前を呼んだ。
「えー続きましては、会計を担当していただきます、一年三組小笠原一華さん、お願いします」
「…………ぉわりぃ……です。ぉねがぃ、し、ししし、しますぅ」
一華の就任挨拶が終わった。
生徒たちの反応はというと――
「何言ってんのか全く分からんかった」
「コミュ症すぎ。あいつやべー」
「噂だと黒魔術で人殺せるらしいぜ」
「ゲーム好きのぼっちって、痛すぎだろ」
一華が席に戻ったのを確認してから、りりこ先生が次の人の名前を呼んだ。
「えー続きましては、広報を担当していただきます、二年二組山崎鈴さん、お願いします」
「…………ボクからは以上です。ご清聴いただきまして誠にありがとうございます」
山崎さんの就任挨拶が終わった。
生徒たちの反応はというと――
「山崎ってあれだろ? 結婚したとかわけ分からんこと吹聴してた」
「頭わいてんよな」
「噂だと腐女子らしいぜ」
「ぜってー俺らで妄想してるって」
「きめー」
山崎さんが席に戻ったのを確認してから、りりこ先生が次の人の名前を呼んだ。
「えー続きましては、副会長をやっていただきます、一年三組夏木京矢くん、お願いします」
「…………以上です。よろしくお願いします」
俺の就任挨拶が終わった。
生徒たちの反応はというと――
……………………。
――まさかの無反応!
これはこれで超寂しいんですけど!
まるで俺がなんの特徴もない影の薄い人みたいじゃん!
俺が席に戻ったのを確認してから、りりこ先生が最後に締めくくりの言葉を口にした。
「色々な意見はあるようですが、とっても優秀で、なんと言いますか個性的なメンバーが集まったと思いますので、本年度は期待していいのではないかと、先生は思います」
要は、俺の意見とりりこ先生の意見を足して二で割ると、残念美少女の集まった、きっと頓珍漢なことをして大いに話題を提供してくれる、そんな生徒会になった、ということだ。
集団の性質はさておき、無事任命式を終えて、ようやくこれで整ったといえるのだろう。
一華の場所が――コミュ症を克服して、友達を作り真人間になるための、いわゆる訓練所が。




