表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/220

第54話 学校側につくか生徒側につくかで選択を迫られた時に、迷わずに生徒側につくのが、真の生徒会の姿らしい

「皆! 大変なことになったわよ!」


 放課後、遅れて生徒会室にやってきた一之瀬いちのせさんが、勢いよく扉を開けながらも声を上げた。


「え? 何? なんかあったの?」


 驚きつつも、俺は聞く。


「ええ。実はここにくる前に職員室に寄ったのだけれど……」


 一華いちかへと顔を向ける。


「あ、一華さん、ごきげんよう」


 ――ぷいっ。


 ――予定調和了。


 涙声で続ける。


「……山崎やまざきさんの姿があったの」


「山崎さんの姿が?」


 嫌な予感が胸中に広がる。

 なんと言っても昨日の今日だ。

 もしや……と考えるのは当然だろう。


 それで? と言い、俺は先を促す。


「先生方がえらい剣幕だったものだから、一体何があったんですか? って私聞いてみたの。そしたら……」


「そしたら?」


「山崎さんが学校からいかがわしい物を持ち出そうとしていたと」


 やっぱり。

 でもその言い方だと……。


「BL本が見つかったのは分かったけど、一部ってことだよね? 部室の、あの大量の本が見つかったわけじゃあないよね?」


「ええ、その通りよ。でも……」


 でも、という不穏な語尾。

 ここにいた誰しもがごくりと息を呑み、一之瀬さんの次の言葉を待つ。


「時間の問題ね。なんでも山崎さん、本をダンボールに入れて校外に持ち出そうとしたみたいなの。それが校門付近で見つかって。ダンボール一つといっても結構な量でしょ? まだ校内のどこかに隠しているんじゃあないかと、今先生方が山崎さんに対して尋問しているところよ」


「それってガチでやばくない?」


 難しい顔をしたしきさんが、低い声音で言う。


「隠し場所っていっても、学校内だったら限られてくるし、山崎さんの所属する新聞部部室が怪しいってなるのは、当然の成り行きだよね?」


 識さんの言う通りだ。

 俺が教師だったなら、いの一番に部室を疑う。


 でも、しかし……俺たちに何ができる?

 そもそも山崎さんに対して何かしてあげるべきなのか?

 そこまでの義理があるのか?


 皆が口をつぐんだので、この場は一時的に沈黙した。

 迷いと戸惑い、焦燥と諦め、そんな様々な感情が渾然一体となったような、居心地の悪い沈黙であった。


「きょ、きょうやー……」


 ほどなくして、一華が俺の袖をくいくい引きながらも言った。


「い、いいの?」


「いいって?」


「本当に、これで」


 そんなこと言われても……。


 そもそも山崎さんが招いた結果だろ?

 くだらないプライドなんか捨てて一之瀬さんの提案を受け入れていれば、全てが丸く収まったんだ。

 そうだよ……山崎さんの自己責任だ。


「ちなみに、このままいくとどうなると思う?」


 誰にではなく、識さんが聞いた。


 答えたのは一之瀬さんだ。


「部室に保管された大量のBL本が明らかになった場合、おそらく大変な騒ぎになると思うわ。言ってしまえばポルノ本が、学校という学び舎から、信じられない量出てくるようなものだから。廃部は間違いないとして、停学処分、教育委員会への報告……。それよりも、私が最も懸念するのは……」


「最も懸念するのは?」


「山崎さんのその後の学校生活よ」


「それってつまり……」


 話を引き継ぐと、俺は自分の考えを述べた。


「山崎さんが学校でいじめられる可能性があるってことだよな? 騒ぎになれば、必ず外部に漏れる。外部に漏れれば、瞬く間に全校生徒に噂として広がる。しかもBLというニッチなジャンルだ。理解のない者から白い目で見られるのは、ほぼ確実……」


 再びの沈黙が、生徒会室を包み込む。


 悲しそうな顔でうつむく一華。

 椅子にもたれかかりあごを引く識さん。

 溜息をつき、考えるように目を閉じる一之瀬さん。


 俺は……俺は…………、俺は知っている。

 いじめの辛さも、孤独の悲痛さも。

 ずっとそばで、ずっと一華のそばで、見てきたのだから。


 ――だったら、見過ごせるわけがないだろ!


 その場に立ち上がると、俺は皆に視線を送りながらも言った。

「山崎さんを助けよう」と。


京矢きょうやなら、絶対にそう言うと思ったし。私は賛成だね」


 同じく立ち上がった識さんが俺に賛同する。


「私も……賛成。助けたい」


 一華も賛同。

 そして一之瀬さんも――


「学校側につくか生徒側につくかで選択を迫られた時に、迷わずに生徒側につくのが、真の生徒会の姿よ。私も賛成するわ」


 皆の心が一つになったところで、識さんが聞いた。


「でも、どうすんの? 結構崖っぷちだよ?」


「一つだけある。この難局を切り抜ける方法が」


 一華、識さん、一之瀬さんの三人が、俺の目を見て相槌を打つ。

 息を合わせるようにして俺も相槌を打つと、頭に思い描いていた少々骨の折れる作戦を、思い切って口にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ