第49話 幼馴染を、美少女を、ひいては世界を守るためには、結局のところ強大な抑止力が必要なのかもしれない
とにかく時間がない。
山崎さんの退室後、俺たちは早急に緊急集会を開いた。
どうすればこの難局を切り抜けることができるのかについて。
「とにかく話をまとめるわよ」
壁際に置かれていたホワイトボードを引っ張ってくると、一之瀬さんが口を開いた。
「私たちは新聞部部長である山崎鈴さんに、はたから見たら援助交際の現場にしか見えない写真を撮られた。山崎さんはその写真を弱みとし、私たちに部費の捻出を要求してきた。捻出できなければ三日後に、その写真を学校側に提出、一華さんを、そして私たち生徒会を、容赦なく追い詰めると宣言した」
それと……と言いながら、ホワイトボードにマーカーを走らせる。
「山崎さんの一番の懸念は新聞部が廃部になり、部室を取り上げられること。これは彼女自身が口にしたことね。それに対し私が生徒会全員で新聞部に入部すれば、ノルマがなくなり、廃部の危機は去ると提案したけれど、なぜか彼女はこれを蹴ったわ。……これぐらいかしら」
「関係ないかもだけど」
小さく手を上げながらも、識さんが言った。
「山崎さん新しいパソコンがほしいってわけじゃなさげだよね? ほしいの? って聞いたら、いえって否定したからさ」
否定?
妙な違和感が胸の内に広がる。
「でもそれっておかしくないか? 廃部にならないためにも、そしてならなかった後にも、新聞部として活動してゆくためには結局はパソコンがいるわけだし」
「つまりは」
マーカーのお尻であごをぽんぽんしながらも、一之瀬さんが思考を巡らせる。
「新聞の発行、活動自体はそれほど重要ではない。となると部活動そのもの……いえ、彼女の発言からすると、部室そのものが大事ということかしら?」
部室そのものが大事という気持ちは、理解できなくはない。
現に俺も生徒会室という居場所があるだけで、学校にいてもどこか安心感のようなものを覚えるのは否定できないから。
帰る家がある……といった感じに。
となると、残る手がかりは去り際に山崎さんが発したあの言葉か……。
俺は山崎さんの顔を、表情を、そしてあの冷めた眼差しを思い出しながらも、皆に聞いた。
「資格がないって、どういうことだと思う?」
「こればっかりは、本人に聞かないことには分からないわね」
「だったら、俺が今からいって聞いてくるよ。資格って、一体何なんだって」
席を立ち、扉へと歩き出したところで、何者かに袖を引かれた。
振り向くと、そこには一華の姿があった。
「ううん。……だめ、だと思う」
「何が?」
「多分山崎さん、教えてくれない。だってあの子、私と……」
似ている?
同じにおいがする?
何だっていい。
実は俺もそう思っていた。
伝えるつもりがあるのなら、さっきこの場で言っていただろう。
つまりは、どうあがいても達成できない資格ってことか……。
その後に俺たちは、思い思いに解決案を出しまくった。
写真データを勝手に削除して弱みを無効化するとか、山崎さんに奉仕して許しを被るとか、締め上げて脅すとか。
結局、最終的に採用となったのが、この俺の案であった。
目には目を、歯には歯を、弱みには弱みを。
明日の休み時間のどこかで、新聞部部室に忍び込み、何か脅せるネタがないかを探す。
言ってしまえば、これが俺の作戦だ。




