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第45話 まさか俺が女装姿で男とデートをするなんて、こんなの絶対おかしいよ

「うぃっす。ハナちゃん待ったー?」


 週末の夕刻時。


 デートに応じた振りをした俺は、駅にてチャラ男ことハンドルネーム『ぽよりん』と落ち合うと、その足で店へと向かった。


 今日の彼はスーツ姿であった。


 どうしてだろうと見ていると、視線に気付いたぽよりんが意気揚々と答えた。


「あ、これ? さっきまでバイトだったんだよねー。現場厳しくてスーツだったんだけど、たるいからもうあのバイトやんねーわ」


 ちなみに今日の俺は一華の姿に女装している。

 ぽよりんが俺のことをハナちゃんと呼んだのはこのためだ。


 なぜそんなことをしているのか?


 答えは単純だ。


 全てはとある作戦を実行に移して、一華をこの男の毒牙から守るために、不本意にも撒いてしまった種を、完全に腐らせるために――


 レストランで食事をして店を出ると、辺りには既に夜の帳がおりていた。

 まだ帰るには早かったので、俺たちは自然と街の方へと、ぶらぶらと散歩を始めた。


「えーっと……ハナちゃんって門限とかあったりする?」


 いかがわしい雰囲気の宿泊施設が間近に迫ったところで、ぽよりんがおもむろに聞いた。


 俺は首を横に振って答える。


「じゃあさー、ちょっと寄ってこうよ」


 こいつ……いけしゃあしゃあと。


「もしかして初めて? 大丈夫大丈夫、超楽しいから。変な椅子とかあってさー」


 でも、これでいい。

 こいつのエロガッパ成分のおかげで、俺の作戦は完遂へと至るのだから。


 わざとらしく戸惑った振りをすると、なにやらよけいにスイッチが入ったのか、最終的には腕を引っ張るような格好で、ぽよりんは俺を強引に誘った。


 ロビーに入ると、正面に部屋の内装が写った電光掲示板のような物があった。

 何だろうと見ていると、隣に立ったぽよりんが、「暗くなっているのが使用中、明るいのが使用可能だよ」と教えてくれた。


 なるほど。

 始めてきたから分からんかった。


 つかまだ部屋にいっていないからノーカンですよね!?

 こんなんで初めて、使いたくないっすよ!


「どの部屋にする?」


 若干声を落としたぽよりんが、俺に聞いた。


 このタイミングだ。


 俺はひっそり息を吸い込む。


「まあ、どこでもいいよね。じゃあここで……」


 そしてボタンを押す寸前に、吐き出すようにして、俺は声を解禁した。


 ――男の声を。


「あ、あのー。実は俺、男なんです」


 刹那、ぽよりんの顔が、絵に描いたような真顔になる。


「いえ、俺女装が趣味で。本当はオフ会の当日に暴露して皆を笑わせようとしていたんですけど……ほら、色々あって、言い出しにくい雰囲気になっちゃったじゃないですか」


「えっ? ガチで?」


 固まっていたぽよりんが、微苦笑を浮かべて、ようやくといった様子で口を開く。


「はい。ガチです。俺の声、今初めて聞きましたよね?」


「あーまあ……恥ずかしいのかなって思っていたから」


 電光掲示板に背を向ける。


「つか、確かめていい? 一応」


「はい。どうぞ」


「じゃあ、失礼して……」


 ――――。


「お、おうふ……」


 ぽよりんがげっそり肩を落とす。


 なんだかどっと老けたように見えなくもない。


「すみません。こういうことなんで」


「あ、ああ。俺、男には興味ないから。じゃあ……」


 去りゆく彼の後ろ姿には、まるで失業したサラリーマンのような哀愁が漂っていた。

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