表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/220

第30話 夜のファミレス会議と、百合生徒会長の下心丸出しな貪欲すぎる条件

「呆れた……。まさか今度は女子更衣室に侵入するなんて」


 隣に座る識さんが、額に指を当てながら言った。


 あの後、俺は直ちに一華たちに連絡を取った。


 事態が急変した。

 どうしてもすぐに話したいことがある。

 今どこにいるんだ? と。


 すると意外にもすぐ近くのファミリーレストランにいることが判明。

 場所を確認した俺と一之瀬さんがその足で直接向かい、現在に至るというわけだ。


「しょうがないだろ。あの先生、妙に握力が強いんだから。あの場で正体をばらすのも、それはそれで問題になっただろうし」


「はー……」


 溜息をつくと、識さんは小さく首を振った。


 制服に着替え終わった一華が席に戻ってきたのは、それからすぐであった。


「い、いいい、一華さん!」


 一華の姿を見るや否や、一之瀬さんが立ち上がりながら言う。


「さあ! こちらへ!」


 そして一華の両肩に手を置くと、そのままソファ席の窓側に押し込んだ。


 何が起きたのか分からないといった様子で、その場に縮こまる一華。


 一之瀬さんはというと、ぐっと身を寄せでれでれとした眼差しで一華のことを見ている。


「あ、あの一之瀬さん? 話を進めたいので、ちょっと落ち着いてもらってもいいですか?」


「そ、そうね。私としたことが。じゃあ夏木くん、お願い」


 頷くと俺は、一華へと顔を向け、さっそく説得の言葉を口にした。


「一華、実はお前にお願いがあるんだ」


「へ? お願い? な、何?」


「生徒会に、入ってくれないか?」


「生徒会に? ……ど、どうして?」


「さっきも説明したが、俺は学校から出る前に、不可抗力で女子更衣室に侵入してしまったんだ。それを一之瀬さんに目撃されていた」


「う、うん」


「一之瀬さんの言い分はこうだ。一華が生徒会に入ってくれるんなら、このことは口外しない。だから頼む! 俺を助けると思って!」


「一之瀬さんが、そう言ったの?」


 一華が聞いた。

 一之瀬さんにではなく、俺に向かって。


「そうよ。私が夏木くんに一華さんを説得するよう頼んだの。ある種の条件として」


 不意に話しかけられたため、一華は驚き怯えてしまう。


 距離を取ろうと後ずさるが、そこには壁があるためそれ以上はいけない。


 このままじゃ一華の心が持たないな……。


 俺は早急に話を終わらせるためにも、一華をより強く説得した。


「もとはといえば一華が俺に女装してなんて頼むからこんなことになったんだろ? 責任は一華にもあるはずだ」


「そ、そうだけど……」


「できるだけサポートはするから……なっ? 頼むよ一華!」


「……う、うん。分かった」


 ――おお! 思わず俺は声を上げそうになる。


「で、でも、条件……ある」


「何かしら!?」


 一之瀬さんがぐっと顔を寄せ一華に聞く。


 怯えて、目に涙を浮かべる一華。


 あのー頼むからちょっと控えててもらえませんか?


「で、条件って何だ?」


「京矢も、一緒に生徒会入ってくれるなら、私入る」


 刹那、一之瀬さんの顔が見るからにゆがんだ。

 まるで、穢らわしい男が聖域に足を踏み入れるんじゃないわよ、とでも言いたげに。


「いいんじゃない?」


 先ほどから黙って話を聞いていた識さんが、俺の耳元にぐっと顔を寄せ囁いた。


「つかこの流れ、小笠原さんにとって全然悪くないっしょ」


「悪くないって、何が?」


「だって考えてもみてよ。一之瀬さんちょっとキモいけど、小笠原さんのこと気に入ってそうだから友達になってくれそうだし、なにより生徒会って色んな部署とかかわりがあるわけだから、そんな中に身を置けば、自然とコミュ力も鍛えられる」


 確かにそうかもしれない。


 秘密を保持してもらえるばかりでなく、一華にとって最善の環境を提供してもらえる。


 まさしく一石二鳥。

 災い転じて福となす。


 乗りかからない理由はない。


「一華さん、それはちょっと……」


 焦ったように一之瀬さんが言った。


 しかし一華は童女のように駄々をこねた。


「いや! 京矢が一緒に入ってくれないと、私いや!」


「一華、俺はいいぜ。それで一華が生徒会に入ってくれるんなら」


 ぐぬぬといった面持ちで一之瀬さんが歯噛みする。


「じゃあ私も入ろっかなー生徒会」


 予想外にも、識さんが身を乗り出し言った。


「なんかこのメンバー、結構面白そうだし」


「一之瀬さん、どうするんだ? 俺と識さんも生徒会に入る、それだったらもれなく一華がついてくる。これが折衷案だ」


「折衷案って……弱みを握ってるのは私の方なのよ」


 顔を落とすと、一之瀬さんはまるで自分を納得させるように呟いた。

「夏木くんのせいで、美少女二人を逃すのはもったいないか……」と。


「分かったわ。じゃあ一華さんと識さん、あとついでに夏木くんの三人が生徒会に入るということで手を打つわ」


 一之瀬さんの発言に、俺たち一同は安堵の溜息を漏らす。


「ただし、一華さんが途中で抜けるようなことがあったなら、契約違反ということで、問答無用で女子更衣室の件を学校側に報告するから、そのつもりで」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ