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第29話 百合生徒会長一之瀬亜里沙は、いっそ清々しいくらいに、幼馴染の可愛さを滔々と語る

 その後に一之瀬いちのせさんは、まるで堰を切ったように話し始めた。

 所用で三組にいった時に偶然一華いちかを見つけたことを、そして地味な身なりの向こうに潜む圧倒的美少女感に、完全に心を射抜かれたことを。


「一華さんって髪がぼさぼさで、周りからはほとんど顔が見えないでしょ? だから皆一華さんの可愛さに、真価に、気付いていないのよ。なんて言うかそれがいいのよね。私だけが知っているっていうか、独占している気分になれるっていうか」


 じゅるりと口元を拭う一之瀬さん。


 もしかしてこれは……。

 もしかして彼女は……。


 確かめるためにも、俺は探るような質問を投げかけてみることに。


「ちなみに、一華に生徒会に入ってもらいたいってことだけど、他の会員はなんて言ってるんだ?」


「他の会員なんていないわよ」


「は? そんなわけないだろ」


「そりゃー私が入会した四月の時点では七人ぐらいいたわよ。でも全員クビにしたの」


「クビ? 理由は?」


「全員穢らわしい男だったから」


 ――やっぱり。


 一之瀬亜里沙いちのせありさ、この子は根っからの女の子好きだ。

 いわゆるクレイジーサイコなにがしってやつだ。


 今朝純じゅんが言っていた一之瀬さんには男友達も女友達もいないというのは、近づいてくる男子を拒絶し、歩み寄る女子には気持ち悪がられるから……つまりそういうことだったんだ。


「でも、だったらどうして、こんな後をつけるような真似を? 普通に入会届を渡せばよかっただろ?」


「そ、それは……恥ずかしかったのよ。私だって何度も何度もトライしたわよ。でもどうしても一歩を踏み出すことができなくて……」


 できなくて、ゆくゆくはストーキングですか。

 まんまストーカーじゃねーか!


「それよりも」


 突然口調が変わった。

 氷のように冷たい、冷厳なる口調に。


夏木なつきくん、あなたどうして神聖なる一華さんの格好をしているのかしら?」


「え? あ、これは、一華に頼まれて。ストーカーが怖いから、代わりに歩いてくれって」


「ふーん……」


 細めた目で俺の全身を見る。


 あまりにも鋭い視線であったため、一瞬ぞくりと悪寒が走った。


「そういえばあなた、学校を出る前にりりこ先生に連れていかれたわよね? 私下駄箱で一華さんが出てくるのを待っていたから、見ていたの」


 ――え?


「確か女子更衣室の電気が切れたから、交換の手伝いをしてほしいとかで。私そっと後をつけたんだけど、その後にたくさんの女子生徒が更衣室の中に入っていって……」


 え、ちょっ……。


「学校側に、報告させていただきます」


 スマホを取り出すと、一之瀬さんは電話をかけ始めた。

 おそらく学校に。


「ちょっ! ちょっと待ったあああぁぁぁっ!」


 俺はすかさず一之瀬さんの手につかみかかり、通話を終える赤いボタンを無理にでも押した。


「ちょっと触らないでよ! 男の分際で、穢らわしい」


 振り払うと、一之瀬さんはまるでごみを見るような目で俺を見た。


 ……なんだか最近、女の子からこの目で見られることが多い気がする。


 まあそれはさておき、とにかく懇願だ。

 なんとしても一之瀬さんを説得するのだ。

 女装して女子更衣室に侵入したなんてばれたら、それこそ大変なことになる。


 俺はその場に膝をつくと、深々と頭を下げた。


「頼む! 女子更衣室のことを学校側に報告しないでくれ! この通りだ!」


「無理よ。生徒会会長という立場上、隠蔽なんてできないわ。それに私はどこまでも女の子の味方だから」


「そこをなんとか! 何でも言うことを聞くから! 頼む!」


「今、何でもって言ったわよね?」


「……お、おう。言った」


「じゃあ……」


 じゃあ? ……ごくりんこ。


「一華さんが生徒会に入ってくれるよう、説得してくれるかしら」


 両手を頬に当てるいわゆるヤンデレポーズを取ると、ぐっと俺に顔を近づける。


「一華さんが生徒会に入ってくれるなら、このことは内密にしておいてあげるわ」

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