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第28話 我が校の美少女生徒会長は、女の子が大好きな、ガチ百合変態さんでした

 校門を出ると、俺はその場で一度深呼吸をし、頭をストーカーおとり作戦に切り替えた。


 一華が言うには、下校時、早ければすぐにでも妙な視線を感じるというのだが……今日はどうだろうか。


 俺は歩き出すと、なるべく自然体を装うため、うつむきかげんを徹した。

 あまり周りをきょろきょろしては、犯人に警戒されてしまい、作戦が失敗に終わってしまう可能性がある。


 何度も何度も女装なんて勘弁だ。

 絶対に今日一日で犯人の尻尾をつかんでやる。


 学校を出てから数分後、ちょうど商店街に差しかかった辺りだろうか。

 背後から妙な視線を感じた。


 間違いない。

 誰かが俺を追ってきている。

 視界の端に映る不審な影が、同一人物であると直感がそう言っている。

 こんなに長い時間同一人物が背後を歩くなんて偶然ではあり得ない。

 つまりその人物の意思。

 要はストーカー!


 商店街を抜けると脇道へ、俺はあまり曲がり角のない直線道路へと踏み込んだ。


 全ては犯人を誘い込むため。


 そしてようやく、その時がきた。


 キャスケット帽を深くかぶったロングコートのストーカーが、電柱の後ろから姿を現したのだ。


「見つけたぞストーカー野郎!!」


 大声を出すと俺は大股でダッシュ、女装姿ではあったが、なりふり構わずその者へと馬乗りになった。


 ――ん? どうしてこんなに胸が柔らかいんだ?


「いやっ! や……やめ、やめて……」


 ――え? 女の声?


 嫌な予感と共に、俺は深くかぶったその者の帽子を剥ぎ取った。


 わさっと広がる黒くしなやかな髪。

 美しい顔立ちに艶かしい泣きぼくろ。


 なんてこった……。

 我が校のスーパー美少女、ついでに生徒会会長の、一之瀬亜里沙いちのせありさではあーりませんかっ!


 あまりの驚きにのけぞる俺。


 何がやばいって、まさかストーカーが同じ学校の生徒だとは思ってもみなかったものだから、思いっきり声を出してしまったのだ。


 女ではなく、男の声を。

 一華ではなく、俺こと京矢の声を。


「あら?」


 ほどなくして、落ち着きを取り戻した一之瀬さんが気付いたように言った。


「今確か……一華さんから男の声が聞こえた気がしたのだけれど」


 ぶんぶんと首を左右に振ると、俺は逃げるため一之瀬さんに背を向けた。


 今ならまだ間に合う。

 逃げて白を切れば、ことなきを得る。


 しかし残念ながら、事態はそう思うようにはいかなかった。


「ちょっと待ちなさい!」


 一之瀬さんの伸ばした腕が、不運にも俺の頭に装着されたウィッグをつかんだのだ。


 露になる俺の地毛――夏木京矢の素顔。


 ああ……もう言い訳なんてできない。


 観念した俺は、素直に一之瀬さんに向かい合うと、おもむろに口を開いた。


 というか別に、俺は何も悪いことはしていないんだ。

 むしろ避難されるべきはこそこそ一華の後を追っていた一之瀬さんだ。

 堂々としていればいい。


「生徒会長の一之瀬さんだよね?」


「…………」


 答えない。

 一之瀬さんは眉間にしわを寄せ、蔑むようにただただ俺を見ている。


 俺は構わず続ける。


「どうして一華をストーキングしたんだ?」


「あなた……」


 低い声で、一之瀬さんが言った。


「夏木京矢くんよね? いつも一華さんの周りをうろうろしてる」


「どうして俺なんかの名前を知ってるんだ? しかもフルネームで」


「だってあなた、一華さんの付属品だから」


 付属品? 妙な言い方だな。

 それよりも……。


「質問に答えてくれ。どうして一華をストーキングしたんだ? 一華のやつすげー怖がってて、トラウマになりそうだったんだぞ」


 溜息をつくと、一之瀬さんはその場に立ち上がり、コートのポケットから一枚の紙を取り出した。


「これよ」


 受け取ると、俺はざっと目を通す。


「これって、生徒会入会届? どうして?」


「どうしてって……一華さんに入会してもらいたかったからよ」


「いや、どうして一華をってこと」


「そ、それはあれよ」


 ほんのり頬を染める。


「……か」


「か?」


「可愛いからに決まってるでしょ!」


 ……急に何を言い出すんだこの子は。

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