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第25話 幼馴染をストーカーから守るために、俺はまた、麗しき美少女の姿になることを、不承不承ながらも引き受ける

 瞬く間に午前の授業が終わり、昼休み。


 俺と一華と識さんの三人は、ひとけの少ない中庭のベンチに集まっていた。


 ちなみに一華には、識さんに女装のあれこれがばれたことを全て話した。

 これは識さんの問題が解決したため話してもいいと彼女直々にお許しが出たというのもあるが、やはり一番は、どうして識さんの彼氏役を引き受けたのか、それを一華に納得してもらうためであった。


「で、話って何だ? わざわざこんな所に呼び出したんだから、あんまり人に聞かれたくないことなんだろ?」


 俺は昼飯に持ってきた弁当を開けると、隣に座る一華へと聞いた。


「うん……あの、その……」


「え? 何? そんなにおおごとなん?」


 暗い一華の表情に、心配した識さんが顔をのぞき込む。


 いや、そんなに迫ると、一華怯えちゃうから。


 案の定一華は、識さんとは反対側の、俺の方に身を寄せてきた。


「そ、そんなに大したこと、ないんだけど……」


 俺と識さんは頷き、一華の次の言葉を待つ。


「最近、下校の時に、嫌な視線を感じるっていうか……だ、誰かにつけられてる」


 つけられてるって……まさかストーカーか!?

 クソがっ!

 ただでさえ一華は人間不信なのに、これ以上追い詰めるような真似しやがって。


「それ十分に大したことだからね!」


 声を荒らげた識さんが、立ち上がり一華の前に回り込む。


「それストーカーってことっしょ? いつから? 実際に何かされたりした?」


 頷くと、一華が続ける。


「先週の初めぐらいから。相談しようと思ったのは……ちょっと昨日、あって……」


「あったって、何がだ?」


 たまらず弁当を置くと、俺は聞いた。


「夕食、食べた後、私コンビニいったの。そしたら帰り道に、突然その人が私の前に立ちはだかって……」


「コートを開いたらぼろんだったのか!?」


 識さんのこぶしが俺のわき腹にめり込む。


「つか真面目な時にそういうのいいから」


 ……結構、真面目だったんですが。

 つかあり得そうなことを口にしただけなのですが……。


「で、立ちはだかってどうなったの?」


「私、怖くて逃げちゃったから。でも、コートのポケットから何か出そうとしてた……かも」


「まさか、凶器か?」


 あるいはナニが詰まったビンとかか?


 後者は口にしなかった。

 また殴られるのは勘弁願いたいから。

 ……あり得そうなことなのに。


「顔は見た? 背は?」


 識さんの質問に、一華が首を横に振って答える。


「顔、見えなかった。マスクしてたから。背は高い……百七十ぐらい」


 暴漢、変態、性犯罪者……非日常的な語句が、不穏にも脳裏に駆け巡る。


 いてもたってもいられなくなった俺は、一華の両肩をつかむと力強く言った。


「分かった。じゃあ今日の放課後にでも一緒に警察にいこう。ストーカー被害にあってるんですと言えば、きっと助けてくれるはずだ」


 しかし一華は拒むように首を左右に振った。


「どうしてだ? 警察は善良な一般市民の味方だぞ?」


「おおごとに……したくない。それに……」


「それに?」


「警察、なんか怖い。テレビとかでもやってる。実害があってからじゃないと、動いてくれない……みたいな」


 確かにそんな印象はある。

 しかし既に生活に支障が出ているんだから、それは実害があると考えて問題ないんじゃないか?


「だったら」


 俺は直ちに代案を述べる。


「今日の下校時にでも、俺がとっ捕まえてやる。一華が一人で歩いて、俺が遠くから見張る。つまり二重尾行で犯人を特定するんだ」


 だがこれも一華は拒否反応を示す。


「……こ、怖い。犯人を釣るとかって、怖い」


 昨日の出来事が相当トラウマになっているのだろう。

 たとえ見張りがいるからといっても、無条件に安心できる精神状態ではないようだ。


「だったら一華はどうしてほしいんだ? 何でも言ってくれ。絶対に協力してやるから」


「ほ……ほんとぉ?」


 涙を浮かべた一華が、首を傾げながら言う。


「当たり前だろ。俺と一華の仲だろ? 放っておけるわけがないだろ」


「……じゃあ」


「じゃあ?」


「私に女装して、京矢が代わりにストーカーにあって」


 …………え?

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