第24話 美少女が着る制服には、どうしてこれほどまでに神聖が宿り、また儚さが漂うのだろうか
月曜日、今日は全校集会を兼ねた朝礼が、体育館にて行われる日であった。
「私が生徒会会長に就任してからはや二ヶ月が経過しました。我が校は都内でもなかなかに優秀で、世間からの評価も非常に高いと言えるでしょう。しかしどうでしょう? 男子生徒の中には、制服を着崩し、ワックスで髪を逆立て、耳にピアスをしているという輩が、ちらほらと見受けられます。確かに世間には、優秀な人、仕事のできる人は、髪を染めたりなどの、多少インフォーマルな格好をしても許されるという風潮があります。しかし考えてもみてください。優秀で、しかもルールをしっかり遵守している人の方が、何よりいいに決まっているじゃないですか。よって私は、これからも校内の風紀に関しましては、より強く矯正を実施していく所存であります。続きまして……」
――な、なげえ。
かれこれ十分以上話し続けているだろうか。
脇に控える先生方が、どこかそわそわし始めたのを見る限り、壇上に立つ生徒会長の女の子が、尺を、またあらかじめ用意していただろう原稿を、無視して暴走を始めたのは想像にたやすい。
つかルールを守れとか言っておきながら自分が守れないってのはどうなんすかね……。
俺はやれやれと首を振ると、うつむきかげんに小さくあくびをした。
「京矢、知ってるか?」
後ろに立っていた純が、俺の背中をつつき話しかけた。
「あの生徒会長の女の子、一之瀬亜里沙っていうんだけど、俺たちと同じ一年なんだぜ」
「一年?」
純に言われ、俺はそっと彼女へと視線を送る。
凛とした顔つきに気品と妖艶さを醸し出す泣きぼくろ。
長くしなやかな黒髪は、丁寧にブラッシングされているのか一切の乱れも見られない。
それだけでも十分にエレガントであるというのに、まるで飽き足らないとでも言わんがごとく、これまたスタイルが半端なくいいのだ。
身長は女子にしては高く、百七十センチ以上あるだろうか。まるでモデルだ。
そしてそんな彼女が身にまとう制服なのだが、どういうわけか彼女が着ると、ステージ衣装に早変わりしてしまうのである。
これはあれだ。その美貌が故に、逆に衣装の方を引き立ててしまうという、イケメン・美女マジックだ。
一華も識さんも超可愛いが、一之瀬亜里沙、彼女には彼女特有の、洗練された美しさがあると言えるだろう。
「でも一年で生徒会長になれるもんなのか?」
一之瀬さんを見つめたまま、俺は聞いた。
「なんでもあの子、入試を満点のトップでパスしたらしいぜ。ほらうちの学校って実力主義的な嫌いがあるだろ? だから優秀な生徒には、それ相応のポストと権限が与えられるんだよ。まあいわゆる特待生ってやつだ」
マジか……面倒くせー。
よかった、俺中途半端な成績で。
「さぞかし人気があるんだろうな。優秀で、しかも見た目がいいとなれば、取り巻きもたくさんいるんだろうし」
「いや、それがな……」
ただでさえ潜めていた声を、純はさらに潜めた。
「噂で聞いたんだが、あの子友達がいないらしいぞ」
「は? そんなわけないだろ?」
優秀すぎてはぶられるのは、社会人になってからだろ? 多分。
「俺も詳しくは知らんけど、男友達はもちろんのこと、女友達もいないとかで。休み時間になると一人どこかへいってしまうらしく、一之瀬さんが他の誰かと話しているところを誰も見たことがないんだってさ」
一華みたいだ、と思った。
自信に満ちた相貌も、行き届いた身なりも、雄弁な口調も、何もかもが一華とは正反対なのに。
「ていうか純、お前一之瀬さんのこと詳しすぎじゃないか? もしかして気があるのか?」
「気なんかねーよ。タイプじゃねーし」
「じゃあどんなのがタイプなんだ?」
うーんと言い周囲を見回す。
「なんつーか、もっと控えめな人がいいかな。我が強すぎる女の子って、めんどそうだし」
残念。
俺はどちらかといえば一之瀬さんみたいなのがタイプだ。
だって人としてしっかりしてそうだし。
お互いにリスペクトできそうだし。
俺はもう一度一之瀬さんへと視線を送ると、クラスが違うためあまり拝むことができないだろうそのご尊顔を、しっかり目に焼き付けた。




