第18話 陰キャ幼馴染と陽キャギャルが抱き合う光景は、天地創造を思わせるほどに絵画的でいて神々しい
「私と小笠原さん、どっちが可愛いかって話、してたんだよね?」
「ま、まあそうだけど、どうしてここに――いっ!?」
識さんが俺のわき腹をつねる。
それから彼女は、耳元に口を寄せ囁き声で言った。
「もっと自覚持ってよ。休み時間に彼女が彼氏の所に会いにくるって、当たり前っしょ? しかも彼女がいるってのに、他の女といちゃいちゃして……」
「ご、ごめん。……でも」
「まあ小笠原さんの事情は知ってるから、それは大目に見るけどさ」
俺から離れると、識さんはそのまま一華へと歩み寄り手を差し出した。
おろおろする一華。
識さんは構わずに一華の手を取ると、自己紹介の言葉を口にした。
「小笠原一華さんだよね? この前は挨拶できなかったから。私は六組の識日和、よろしく」
「あ……あの……その……」
うるうるした目で俺を見る。
言わずもがな、コミュ症発動中。
すると識さんは、何を思ったのかぐっと一華の手を引き、そのまま優しく抱きしめた。
な、ななな、なんですと!?
陰と陽、月と太陽――系統の違う二人の美少女が、学校という名の学び舎で抱き合っておられる。
なんと儚げでいて麗しい光景だろうか!
事実教室にいた阿呆な男子共も、そんな二人に釘付けだ。
……まあ、あっという間にパーソナルスペースを詰められた一華については、放心状態でそれどころじゃなさげだけど。
「小笠原さん、あんたも色々大変だったんだね」
「……へ? ……え? ……何?」
ちょっ、ちょっと待て!
その話題ってまさか、先日話した俺の過去の……。
「いや、何でもない」
「え? ……あ、うん……」
だが識さんは何も言わず、小さく首を振ると、一華の頭を優しく撫でてから、近くにあった椅子に腰を下ろした。
「じゃあご飯食べよっか」
「え? ここで食べるの?」
思わず口走った俺の発言に、識さんが「あ?」というおぞましい声を発する。
失言だ。
先ほど忠告されたばかりなのに。
「――あ、いや、ふ、二人になれるとこ、いっとく?」
「じゃ、じゃあ私……トイレで」
がらっと立ち上がる一華。
おそらく俺たちに気を遣って。
……つかトイレって……。
「いや、いいから。小笠原さんも一緒に食べよ?」
「……う、うん」
再び腰を下ろすと、気まずいのか少しだけ椅子をずらし、識さんから距離を取った。
うわぁ……。
一華、識さんの順に顔を見る。
この二人……あと周りの視線が、気まずすぎ!
頼むから識さんも一華も、よけいなことを言ってくれるなよ。
やれやれと首を振ると、俺は平穏な昼休みを願いつつも、弁当箱へと手を伸ばした。
――しかし残念ながらそんな俺の思いも、教室にやってきたとある闖入者により、あっけなく崩れ去ってしまう。




