悪戦苦闘のダート走行(後編) ~日光市~
トラッパーによるスタンディングの練習が終わると、入門コースはいよいよバイクに乗っての次の段階での講習となる。
オフロードバイク全般でまず1つ問題になるのは何か。
高すぎるシート高である。
バイク乗りの中にはこう言う者もいる。
「せめてステップに足乗せずとも両足の指が最低限接地しないバイクなど乗るな」
確かにある意味ではそうかもしれない。
ただしそれは「日本限定仕様」などという存在が当たり前だった10年前の話。
現在の状況を見て見よう。
よほどの事がない限り「日本独自ローダウン仕様」というのは無くなってきている。
ヤマハは実質的にローダウン仕様という存在を諦め、「純正パーツ」として出す程度だ。
つまりローダウンさせるためには追加の出費がかかることになる。
特にグローバルモデルにおいてはそうだ。
ホンダのように「なぜかガラパゴスなシート高にして汎用性を失わせる」ようなサービス精神バリバリのメーカーですら、ローダウンモデルは「売れる」ことが確約された場合のみ設定している。
そのためシート高は年々上昇の一途を辿っている。
(750XをLDオンリーにしたことやX-ADVのシート高が低すぎるのは筆者的には批判したいが、それはまた別の話である)
つまり今後は人によっては「これに乗りたいのに片足しか足がつかない」かもしれないようなバイクが増えていく可能性が高まるということだ。
昨今の世界のヒットバイクは「マルチーパーパス」または「マルチユース」と呼ばれる。
大昔、二輪という存在が軍事などに利用されはじめた頃、バイクは道路を走るためのものではなかった。
そんな存在に回帰しつつある理由は、「世界が裕福で平和になったから」という部分が大きく関係している。
ソビエトが崩壊して30年近く。
その間、南米や特定のアジアでは内戦のようなものが続いた。
しかし21世紀となった現在、それらは沈静化し、各国は「国家」としての能力を取り戻し、中東以外は治安こそまだ危うい部分もあるが、「国を跨いで気軽に旅をすることが出来る」ような状況となっている。
またEU諸国ではビザ無しに自由に移動可能だったりと、地域によっては長距離移動することも増えた。
しかし、そうなってくると道路事情は必ずしも良いとは限らない。
特にアジアでは1960年代の日本のごとく国道がフラットダートなんてザラであり、それは北欧やバルト三国なども含めて当てはまる話である。
そんな映画では「馬」が走ってるような場所を走るのに対し、それまで売れていたスーパースポーツなどでは役に立たないのだ。
かといって、本格的なオフロードが必要というほど荒れた道でもない。
だからこその回帰現象であるが、それに合わせ乗り心地の改善や不整地走行の観点からフロントのサスペンションストロークはより大きくされる傾向にあり、スクーターすらシート高が上がってきているのである。
コストダウンのため、グローバルモデルをそのまま売ることが当たり前になってきた現状、そのような綺麗事をいつまでも主張できるとは限らない。
特に日本国においては国交省が「今後は道路財源緩和のため、積極的にコンクリート舗装を導入する」と2011年に決定し、以降新しい道は山間ほど整備性確保のためにコンクリート舗装されることが多くなってきているが、
こういった道では砂や土が被ると容易に滑るため昨今では日本においてもアドベンチャー系列のマシンが注目されるようになってきている。
売れ筋のバイクを見るとマルチパーパスに使えるバイクの売り上げは伸びる傾向を示しており、各社力を入れ始めているのだ。
酷道や険道が減ってきていると言われるにも関わらずそういう車両が注目されるのは、旅をするという上では舗装路だけでは楽しめないといった現実的な事情も絡むのかもしれないが、一方で険道ほどではないが、財政難により、まともに傾けるのが恐れ多いひび割れだらけの県道は増加傾向。(国道が新たに整備された際に街道が県道に格下げされたことで負担が増加したことも背景にある)
そうなるとそういったマシンがより売れ……そしてシート高はより高くなる……といった循環を示すのも想像に難しくない。
その手の事情はさておき、オフロードバイクはマルチユースに使われるバイクよりもさらに「険しい道」を進まんがため、シート高は異次元とも言える数値に達している。
その中でも国内にて最も高いのがCRF250シリーズとWRなどであり、共に895mm。
律は前者に乗った事があるが、前者はスタンドが頑丈なこともあり、乗り方のコツなども教えてもらったため、そこまで問題ではなかった。
方法は「スタンドを立てたまま、スタンドがある左側のステップに足を乗せ、バイクが倒れないようにスタンドを軸にして乗り込む」という方法。
だがWR250R、サイドスタンドはそんなに頑丈には出来ていない。
律がライディングスクール開始前に一度も跨らなかった理由は細身のサイドスタンドにあった。
そう、このバイクは「スタンドを軸に左ステップに足を乗せて乗る」ようには出来ていない。
WR250Rにおいては非常に危険。
それをやってもいいのはホンダ車のみ。
律はその点に気づいていた。
ではどう乗るべきなのか。
それはきちんと指導員が教えてくれていた――
「例えば、何も後ろに乗せていない今の状態なら、足をシートに滑らせるようにすれば身長が低い方でも乗れると思います。いわゆる林道ツーリングスタイルのバイクが変に後ろにモノを乗せないのも、箱とかバッグとか乗せてしまうと乗車が難しくなってしまうからですね。ではちょっと今からシート高のあるオフロードバイクに搭乗する方法をいくつかお見せしましょう。皆さんやりやすい方法で行ってもらえれば大丈夫です」
するとアシスタントと見られる人間がスクール指導員用のバイクをどこからか引っ張ってきた。
なんとWR250Rである。
実はこの手のヤマハライディングスクールでの指導員は大半がWR250Rで指導している。
律はなにやら同じ車種に親近感が沸くと同時に、
本日、律以外にレンタルでWR250Rを借りた者はいなかったため、特別なイメージが沸いてきてなんだか嬉しくなっていた。
ロボットアニメで一人だけ訓練時に試作機を与えられた主人公であるような、そんな状況である。
指導員はまず、一般的な乗車方法を見せる。
サイドキックするように足をシートに滑らせ、そして右足を地面に持っていく。
この時、サイドスタンドは引っかからないように上げてしまっている。
オフロード車は体重をかけるとサスペンションが沈み込むため、サイドスタンドが地面と接触して右に倒れたりすることがあるためである。
また、サイドスタンドがその衝撃で曲がったり折れたり、最悪、フレームやアンダーチューブといった部分が破損する可能性も考慮してのことである。
それに加えバイクは必ず「地面に垂直」に近い状態を保たなければ上手く足が入り込まず、乗り込む事は出来ない。
元来はそのような乗り方を想定していないのだが、一部メーカーはあえてそこを頑強に作ることでサイドスタンドを立てたままステップごとそこに体重をかけても乗れるようにしているわけだ。
もう1つの方法はレーサーなどがやる、サイドスタンドを上げた状態で左ステップに足をかけてバッと右足を跳ね上げて乗り込む方法。
ハンドルでバイクが倒れないよう支えつつ、一気に乗り込むというもの。
サイドスタンドがないため、慣れなければ間違いなく転倒してしまう。
そして最後の方法が、初心者でもやりやすく、雑誌などのオフロード系ライディング講座などで紹介される方法であった。
一部で「ママチャリ式」などと言われる乗り方。
何をしてしまうか。
それはなんと、バイクを押し出して低速走行させ、まるで自転車に乗るがごとく左ステップに足を乗せて先ほどと同様の方法で乗り込むのである。
走っているためバイクは安定しており、倒れにくいことを利用した搭乗方法。
サイドスタンドが弱いオフロード系デュアルパーパスバイクにおいては上記3つの方法で乗り込むしかない。
しかし最後の方法は、例えばサービスエリアの駐車場などで走りながら乗るなんてそれなりに危険な行為は普通に考えて不可能に近く、マナー的にも宜しくない事から推奨されていない。
そのため、こういった方法で乗る者はサービスエリアなどでは人気のいない端っこの路肩までバイクをまずもって行くか、エンジンをかけつつニュートラル状態で乗り込み、そのまま1速に入れて走り去ってしまうといったような行動を起こす。
余談だが、この際、キャブ式の旧車だと押しがけといった方法でそのままエンジンを点火させる方法もできるのだが、クラッチなどにはよろしくない。
シート高こそ高くはなかったが、映画「AKIRA」の冒頭1シーンにて鉄雄が「くっそぉ……」などと言いながら押しがけしつつこの方法で乗っているアレである。
あの映画は1988年公開だが、1980年代の頃から普通に認知されていた乗り方でもあるということだ。
また、サービスエリアなどでは道路と30cm前後の段差があることからそれらを利用して乗り込む者もいる。
一方身長174cmもある律の場合、一番最後のやや強引な方法はそこまで必要なかった。
足を持ち上げ、ゆっくりとシートに膝から滑り込ませて右足を地面に向けて振り下ろす方法で十分である。
しかし、練習では3パターンの方法で乗ることが許されているため、律は「ママチャリ式」で乗り込む方法も試みた。
「音羽さん以外はトリッカーなんでそこまで苦労しないとは思いますが、音羽さんは身長がそこそこあるので特にWRでも問題なかったですね。私なんて身長163cmしかないんでトップボックスが乗せられなくて悔しい思いをしているのでうらやましいです。積載分音羽さんのが旅がしやすいかなって」
周囲に笑いを誘うような口調で自らを自嘲する指導員であったが、さすがスクール指導員だけあって身長の問題などものともしていなかった。
彼が乗るWR250Rはローダウンなどされていない。
乗車方法を確認したライディングスクールはいよいよ実走行という段階へと移行した。
「オフロードバイクで最も基本の走行方法は何か。それは低速走行です。低速スタンディング走行ですね。これがまともに出来ないと荒地での走行は厳しいです。今、目の前に広がる区画は砂利道です。凹凸が多く、シートに腰掛けたままだと確実にハンドルを取られます。半クラッチを併用し、コーンからコーンの間まで道路の路面にタイヤを滑らせないよう低速で走行してみてください。時速は……目標速度8km~10kmですね。結構辛いと思いますが足をつかないようにがんばってみてください」
WR250Rに跨った指導員はアシスタントが用意したコーンを手と指で示し、実走行による最初の課題を説明した。
その先には2つ平行に並んだコーンが2箇所配置されている。
あきらかに「その間を進め」といわんばかりの配置だった。
時速8km。
座った状態だとバランスを取るのに手間取りはじめる速度。
この速度で一本橋を通過できようものなら確実に大型二輪の合格ライン。
一般的に大体の人間が低速でも楽に走れる速度は10km以上と言われる。
13kmほどあればハンドル操作なく低速走行できることであろう。
だがこれは座った状態での話。
8km程度ならスタンディング走行では普通に問題なく走れる範囲である。
ここで余談だが、前回において「トラッパー」を用いたスタンディング練習というものをライディングスクールにて行っていたが、ライディングスクールによってはバイクによってこの練習をしてからスタンディング走行の練習を行う場合もある。
ただ、バイクで倒れられるとケガをするのでトラッパーを使うのである。(バイクも破損するリスクがある)
バイクにおいてスタンディングしながら静止することを「スタンディングスティル」と呼ぶが、低速走行とは別にオフロード系バイクの基本技能の1つである。
まさに人馬一体といった感覚でなければ不整地は走りこめないのだ。
そのスタンディングスティルはこういった低速スタンディング走行が出来ないとまともにこなせないため、トラッパーを使ってスタンディング走行の感覚的なコツを掴んでもらってから低速スタンディング走行を行うという指導パターンもあるわけである。
結局バイクは低速が一番フラつくので、そこを制御する技術がないと、スピードを出しにくい、出すと危険なオフロード走行においては話にならないということだ。
律達がまず行ったのは、2×2のコーンが用意され、その間を一直線に走りぬける低速スタンディング走行であった。
平行に並んだコーンの間は4mほどの隙間があるが、その間のコースは砂利道の凹凸。
最初が泥のダートでないのは泥の方がバランスを崩すと一気に滑り、タイヤがグリップ力を維持できないためである。
砂利の方が転ぶと危険だが乾いた状態ならそれなりにグリップしてくれるためであった。
律を含め、ライディングスクール参加者はまず指導員のお手本を見た後、それぞれ順番に低速走行した。
アップダウンは激しくないコースセッティングのため、そこまで苦労しないものの、やはり始めての経験であり、砂利でハンドルをとられる。
「もっとクラッチとアクセル操作を上手く調節して、低速で!」
「は、はいっ!」
最もシート高が高いWR250に乗る律は、なぜか他の人間よりも低速走行に苦労した。
バイクが思ったように前に進んでくれないためである。
他の人間よりもウォンウォンと明らかに唸るWR。
(なんでだ……CRFと違ってパワーがない? 思ったように前に進まない)
他の人よりも半クラッチとアクセルを上手く活用し、エンジン回転数をやや高めにしないとWR250Rは地面の凹凸に上手く対応できなかった。
それもそのはず。
セロー、トリッカー、CRF250シリーズは「トルク重視」の設計。
ギア比のせいで最高速こそセローやトリッカーは劣るものの、低速での能力は極めて高い。
一方WR250。
CB400よりかはレブリミットが低いものの、最大1万1000回転の高回転型エンジン。
つまりそれは低回転でのトルクをある程度で妥協し、それなりに回すことで安定性を得る設計となっている。
無論、7000回転など低速走行に必要ないが、2000回転以上は平気で回していかないと不整地ではギクシャクする。
WR250シリーズが上級者向けと言われる理由はそのエンジン特性にあった。
セロー、トリッカーは8500回転である一方で2000も回すと極低速のスタンディング走行ではやや回しすぎとなるのとは対照的である。
トルク重視のCRF250は9500回転だが、味付け的にはセローやトリッカーに準じており、デュアルパーパス系バイクはそのイメージが強い律にとってWR250はじゃじゃ馬とも思える性質をもっていた。
(CBと同じでアクセルをそれなりに煽らないとだめか……こいつう)
律は理解した。
おそらく、回せば早い。
アクセルを入れるとフワッと回るエンジンの様子から、それがわかる。
だが、低速走行においては初心者の律にその特性は重くのしかかる。
シート高の影響で足つきが悪く、バランスを崩したのを足で支えるのも難しいため、一直線を走らせるだけでもかなり苦労した。
何度も片足をついてバランスをとりつつ、何とか速度を保とうとする。
それでも先ほどのトラッパーでの練習を思い出し、最初こそヨタヨタのフラフラだったが、指導員による「音羽さんはもっと回して! 踝を内側にかかとをフレームに密着させるようなイメージの姿勢で!」という言葉が聞こえ、エンジンを煽って指導員の言葉に従う姿勢で走ることで何とか形になってきたのだった。
オフロードにおけるスタンディング走行の基本が身についてきていた――
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「はい。皆さんそれなりに走れるようになってきましたね。それでは次はパイロンを複数用意して簡単なコースを作ります。2つのパイロンの間を走行してください。今度は軽いコブのようなものを通過しますのでアップダウンもそれなりにあります。また、コースとなりますので皆さんで周回してもらいます。先ほどの基本を思い出してゆっくり走行してください」
指導員がそう言うと、アシスタントが何名か現れ、印がついている所にパイロンを配置しはじめた。
コースは砂利道だけでなくダートも含まれた状態となっており、アップダウンもそれなりにあるような状態となる。
スタンディング走行は次の段階へと移行したのだ。
指導員はまず一人でそこを走りながら、小型の拡声器かなにかを使っているのか、遠くからも周囲に聞こえる声でもって走行中の姿勢を説明する。
特にアップダウンにおいては先ほどのやや前傾な基本姿勢とは異なり、下りでは重心を後ろに向けたりなどしていた。
「前に重心を傾けると下りは怖いです。スタンディング姿勢では腰をタンデムシートに持っていく勢いで重心を後ろに持っていくことでバランスをとります。腕は伸ばさず、やや曲げた状態です。乗馬でいえば手綱を引いたかのような状態ですね。これは低速でも有効なテクニックです。この後は加速時などのスタンディング走行なども練習しますが、まずは下りでこの姿勢になることを意識してみましょう」
段差を越えるわけではないため、フロントアップの必要はなかったものの、緩やかな下り坂が配置されたコースのため、それなりに姿勢を前後に移動させなければ低速でバランスを崩しかねないコース取りとなっていた。
指導員を先頭に、暴走族の集会のようにしてゾロゾロと後に続いていく。
ゼッケン番号が後ろの律は真後ろからノロノロと追随していった。
先ほどの練習からストレートでは何とか形になった律だったが、凹凸が大幅に増えたことで再び悪戦苦闘。
特に登りが怖い。
踏ん張るために回さないといけないがエンジンを回しすぎると後輪が滑る。
逆に下りは重心を後ろに持って行きながらエンジンブレーキを使って下ればいいためそこまで苦しくなかった。
(こんなちょっとした坂道ですらダートだと苦労するのか……ひぇぇ)
律はバイクを振り回す影響で顔中汗だらけであった。
ジェット型のレンタルヘルメットを1000円にてレンタルすれば良かったと後悔するほど、GT-Airは息苦しい暑さ。
原因は低速にある。
高速走行ならばベンチレーションが働くが、風を巻き込まないので働かない。
空冷のシステムが機能していないのだ。
(空冷エンジンの気持ちが良くわかる……)
律が乗っていたのは講習受講者の中では唯一水冷エンジンのWR250Rだが、トリッカーからムンムンと漂う熱気に自分を重ねて同情していた。
今まさに同じ状態になっているのだと思うと、自分にも水冷式の何かが欲しくなる。
コースは緩やかな円を描いており、そんな状況の中、律はそこを何度も周回した。
それぞれの路面状況に合わせたスタンディング方法をアシスタントや指導員から何度も指導してもらい、WR250のエンジン特性にも慣れてきて登りもこなせるようになっていく。
そこで律はようやく気づいた。
WR250Rは、サスペンションがCRF250Rallyと比較してかなり硬め。
跳ね上がりというほどではないが地面の状態をストンと吸収する。
CRFがフニュッというイメージで地面の凹凸を見事に吸収するのとはまるで違う。
(これはつまり……高速走行時に強い……)
地面の凹凸を完璧に捉えようとするWR250Rは、そのエンジン特性も相まってラフな操作だと乗り手を振り落とさんばかりの挙動を示すが、操作方法がわかってくると(もっとスピードを出せる!)とハッキリと律も自覚できるようなシャキッと路面を捉えたした走り方をする。
そうなのだ。
CRFは「どんな状態でもオフロードを突破する」という設計思想。
だから路面の追随性能もあるが、乗り心地を重視し、ゆったりとどんな道も越えていく味付け。
WRは違う。
そこを走り抜けるためのセッティング。
低速走行ですらそれに気づかせるだけの違いがあった。
ちなみにセローはCRFと同じサスペンション特性だが、トリッカーとなるとやや硬めにセットされる。
これはトリッカーがトレールと言われる河川敷やガレ場などを軽快に走りぬけるためのマシンだからである。
さらに改造して突き詰めるとトライアルといった素早く凄まじい地形を突破していくような仕様と突き詰めることができるトリッカーだが、セローとはまた違うのだ。
(面白いな……オフロードバイクなんてみんな同じようなものだと思ってたのに……にしてもなんて情けない走り方なんだ俺は…)
それなりに形になってきたとはいえ、未だヨタヨタして稀にバランスを崩す状態に律は少し恥ずかしい思いをしていたが、それでも成長する自分を感じ取っていた。
「では一旦休憩しましょう。この後は、フラットダートのコースに実際入って、走りこんで見ます。フラットダートと言っても登りや下り、そして凹凸などはありますので、スタンディング走行も必要です。では10分ほど休憩で――」
その掛け声と共に律はWR250を降りると、一目散に飲み物を買いに駆け足で自動販売機まで向かっていった。
緊張や披露で喉がすでに限界であった――
次回「WRの目覚め」




