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最強のオフロード市販車。川崎→東京 東京→栃木県(日光市)

 喫茶店にてスマホでバイク関係の情報などを調べていると、ドリームから電話がかかってきた。

 修繕が完了したという。

 預けてから4時間。


 ドリームの閉店1時間前のことであった。


 さっそくドリームへと向かった律。

 どういう状況なのかを期待し、軽い足取りで川崎仲原へと向かった。


 ~~~~~~~~~~


「おお!(まるで芸術品……職人芸とはこのこと)」


 各部を丁寧に修繕されたCB400は完全に元の状態を取り戻した。

 特に律が驚いたのはミラー。

 一体どうやって傷だらけの梨地の樹脂製カウルを修理したのか不明だが、完全に新品状態となっている。


「一旦全部点検してみたんですが、クラック入ってたんでブレーキレバーは交換しました。全体的にはまぁこれなら大丈夫かなって見た目には仕上がっているかなと」


「素晴らしい仕事です」


 律はその状態に息を呑む。

 その場が許せば拍手喝采するところである。


 短時間でCB400は以前の輝きを取り戻している。

 傷の部分は徹底的に磨かれており、エンジンガードもまるで立ちゴケ前の状態である。


 CB自体から「~♪」といったようなものが吹き出しつきで浮き上がってきそうな印象すらあった。


「費用は工賃入れて9870円ですね。ブレーキレバー交換がなければもうちょっと安かったんですが……」


「いえ、当初オイルパン以外だけで3万円オーバーの額を提示されていたので十分です。ありがとうございます」


 律は何度もペコペコと頭を下げ、購入店でもないにも関わらず自身のCBに対して尽力してくれた事に感謝を述べた。

 しかし整備士はそれだけ仕事をで終わらせようとはしなかった。


「えっと……音羽さんでしたっけ。 ブレーキとクラッチが初期位置なのが気になったのですが……納車の際に調整されませんでした?」


「え?」


 それは光があえてそのまま放置していた部分だった。

 本来、バイクを納車したらブレーキとクラッチの位置は最適位置に調整すべきもの。

 これをしないと乗りにくい。


 とくにMTのバイクにおいてはギアチェンジなどに支障が出る。

 しかし光は「これが最適位置の可能性もある」ことからあえて放置していた。

 調整した上でこの位置のままにしている可能性がある以上、ヘタに弄りにくかったのだ。


 CB400シリーズのレバーは遠い。

 昔ながらの位置のため、手が小さいと特にクラッチレバーは握力を使うため疲労が蓄積しやすくなる。


 クラッチレバーだけでもアジャスト式などにする者もいるぐらいである。

 以前から「なんか教習車と比較してクラッチレバーが遠いな」と思っていた律だったが、その原因は納車時の完全初期ポジションのままであったからであった。


「えーっと…調整できるんですか?」


「出来ますよ。ちょっと跨ってもらえます?」


 CB400は現在センタースタンドがかかったまま鎮座されている。

 その上に整備士の男は乗るように指示し、律はその状態で跨った。


「センタースタンドをかけたちょっと重心が前向きになるポジションが走行中のポジションに案外近いんです、この状態に合わせてちょっとレバー調整してみますね」


 そう言うと、サッとクラッチとブレーキの調整用ボルトを緩め、律の手に合わせて調節しはじめる。


「あんまり近場にするとクラッチまで近くなって変速に影響が出るので、影響が出ない範囲で調節しますね。違和感を感じたらまたこちらに来ていただけたら調節しますよ」


「あ、ありがとうございます」


 整備士は律の手に合わせ、クラッチが近くならない範囲にてクラッチレバーを調整。

 ブレーキレバーについてもパニックブレーキで強めの前ブレーキがかからない範囲でレバーをやや手前に寄せる。


「ブレーキはあんまり手で握りこめるよう近くにすると握りゴケといって、前輪をロックさせて転倒する可能性があります。こちらはあんまり近くなく、遊びがやや大きい方がツーリングでは適しているので、ツーリング向けに調節しておきますね」


 あまりに手早く作業を行うので何がどうなっているのか、律にはわからないほどであった。


「どうですかね?」


 律はクラッチやブレーキを握る。

 クラッチレバーは以前より軽くなり、ブレーキレバーは以前より少しだけ手前に来た状態となっており手に馴染んでいた。


「いいみたいです……乗ってみないと……ですが」


「まあ、乗って見てください」


 律はあまりの対応の違いにただただ感嘆するばかりである。

 その後、各種支払いを済ませた律に対し、整備士は名刺を渡した。


 名は「戸塚トツカ) 紘一郎コウイチロウ)」と書いてある。


「何かありましたら私まで気軽にお電話ください。対応できる範囲で対応しますので。またウチにいらしてください。」


 そう言うと戸塚はCB400を引っ張り、店の外まで運び込んでいく。


 戸塚紘一郎。

 実はこのドリームにて最強の売り上げを誇る整備士。

 整備の腕はともかくとして、とにかく個人的な顧客を多数抱え込んでいる男。


 しかも顧客は全て250cc以上であり、このドリームにおいては正真正銘のエースである。

 そういった売り上げについて周囲に自慢することなく、徹底的にバイクを整備し、お客様に二輪という世界に長く関わってもらうために日々努力し続けるこの男には、「彼のために大型買う事にした――」などと、別に特段個人ノルマも課されていないのに増車する者すらいるほどだった。



 ―――――――――――余談―――――――――――


 通常、ドリームにおいては整備士や店員は持ち回りなので異動でどこかに飛ばされたりなどされてしまう。


 一方、HMJ直下ではない所はその店舗と労働契約を結ぶため異動はその系列店舗が複数無い限りはありえない。


 ここは非常に大規模なドリームを1店舗だけ構えている状態なので、当然、その者が退職しない限りずっとそこにいるのだ。


 そういった店舗では美容室などの指名制度などと同じく、一人の整備士につきっきりで担当してもらうという方法を採る者が多くいる。


 ヘタをすると「信頼する者以外触らせるな」とまで言い切る客すらいる。(筆者とか含めて結構いる)

 これは筆者の経験だが、筆者はあるバイクにて立ちゴケをかました際、とあるドリームにて実際にはインナーカウルが大破していたにも関わらずそれに気づかず、ズレただけの状態のアウターカウルとインナーカウルを強引に接合させようとしてアウターカウルまで大破させせられ、凄まじい修理費になったことがある。(インナーカウルだけでも高額なのにアウターカウルはコーティングの影響もあって高くつくのに強引に接合させた際に割れてしまい、結局全て交換に)


 HMJ直下でない店舗だと、得意としているバイク分野が違ったりし、おまけに「その整備士はそのバイクを触った事が無く、構造も知らない」などということがあるのでこういう事になる。


 知っている者なら任せられるが、そうでない者だと余計に金がかかるなんて事になりかねない。

 筆者の場合はいくつかドリームを平行して利用しているが全て指名。

 それぞれ3名の人にのみ担当してもらっており、売買関係の見積もりから何から何まで全てその3名の人間のみとだけ商談を行う。


 正直言って値引きは渋いのだがメンテナンスにおいては徹底されている方々なので全幅の信頼をおいているが、多数の顧客を抱える人だとオフシーズンなどは引っ張りだこになるため修理や点検に時間がかかるのが玉に瑕。


 余談ながらそのうちの2名は筆者のような人間による顧客を個人で多数抱えており、片方は新型GL1800をプレ予約から発売日までに一人で4台売り捌いた。(店舗実績は6台)


 その結果なのかその店でGL1800を扱えるのはその人だけ。

 新型GLがドリーム以外でまともに修理できない秘密などをコソッと教えてもらったりもした。


 ――――――――余談終わり――――――――――


 律はそんな者達と並ぶか越えていくような人間と出会ったのだ。

 この出会いが、律がその後もホンダに拘り続ける理由となる。


「あ、そうだ。タイヤの空気は一旦全部抜いて窒素に入れ替えておきました。フロントサスを弄っていらっしゃるところから乗り心地に違和感を覚えているようなので、空気圧はちょっとだけ弄ってあります」


「いろいろとすみません」


 これが当たり前なのかそうではないのかわからない律は、とにかく戸塚の対応にお礼を述べるしかなかった。

 無論こういった配慮は戸塚の仕事のスタイルであり、こういった1つ1つの配慮が顧客を獲得し、今日にまで至る要因となっている。


「また宜しくお願いします」


 バイクから離れ、店へと戻る戸塚に対し、律は聞こえるか聞こえないかといったものはどうでもよく、本能がその言葉を声にして出していた。


 走り出したCBはいきなりその違いを見せ付ける。

 律は何を弄ったのか理解できていなかったが、シフトフィールが変わっていた。

 戸塚はシフトペダル側の様子も短時間で見ていた。


 律の身長などから予測してシフトペダルの高さを調整しており、より力が入りやすい位置にしていたのである。


 調整されたクラッチレバーと合わせ、「ガシャッ」「ガシャッ」と音こそ鳴るものの、以前より大幅にレスポンスは向上する。


 オイル交換はしていない。

 簡単ではあるものの、一般的には「自分で調整するもの」などとされる部分を律を初心者と見抜いて調整していたのである。


 (次にホンダのバイクを新車購入することになったら……迷わず戸塚さんに相談だな……次がホンダであればの話だけど)


 川崎から自宅へと戻る道中、律は心の中でそう思わざるを得ないほどCB400の状態の良さに感動していた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 2日後の早朝、まだ日が出ない4時頃、律は自宅ガレージにて日光への出発準備を整えていた。

 事前にルートを調べていた律はそのルートをナビに入力済み。

 日帰りで戻ってくる予定から荷物はそんなに多くはないが、ミッドシートバッグとスポーツバッグの併用の姿。


 当初、CB400が間に合わなかった場合のためにトライク仕様GL1800での移動も考えたものの修理が間に合ったことからCB400にて向かう。


 事前に主催者に何が必要かなどをメールで問い合わせていたが、泥の中を進むということでレインコートやブーツカバーなどがあった方がいいとのことで、現地でそれらの装備を着込むことにしていた。


 ミッドシートバッグ内にそれらをつっ込み、雨対策のバイクカバーも一緒につっ込む。

 外出用バイクチェーンなども完備し、装重量は+8kg程度になったものの、前回よりかは軽い状態である。


 いつものように見送りするウィラーに手を振り、いざ出発――


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 出発した律は、まずは北上。

 本来は環八を使うが、裏道で環八の渋滞を回避する。

 そのまま途中から環八に合流、関越道方面に進み、和光市に入ると北東へ進路変更し、一旦さいたま新都心方向へ向かう。


 そこから外観道川口JCT付近から再び北上。

 若槻街道を一旦進み、しばらく進むと小道に入ってから国道16号へ。

 国道16号を用いて東側に進んだら、国道4号に合流する。


 ここから国道4号を用いてひたすら北へと向かう。


 国道4号。

 宇都宮を過ぎたあとからは高速に負けない快走路と言われ、「高速道路もどき」などと言われたりする。


 実際この物語を書いている人間は宇都宮を朝8時に出て、山形は蔵王に14時に到着したぐらいの快走路具合に驚くほど。


 しかし今回は宇都宮から西へ向かい、日光へと入っていくので実際には国道1号よりかはマシな程度の大通りといった程度に留まった。


 それでも国道1号ほど苦痛に感じないのは国道4号がそれなりに整備されているからであろう。


 3時間ほどかけて宇都宮に到着した律はそこから山側の西へと向かう。

 残念ながら今回の道程においては殆どがそれなりの都市部を通るため、景色はそこまで優れたものではなかった。


 しかもルート上、観光地である日光東照宮近辺などは一切通らない。

 そのため律はややテンションが下がっていた。

 山を越えて次の都市へ向かうというのが好きな律。


 山を越えずに来ることが出来てしまうとなんだか冒険しているような気分にならないのだ。

 無論それは東京~宇都宮までが地続きであるためであり、ここから先はそのような道ではなくなってくるのだが。


 国道4号を進み続けた律は国道119号に入り、一旦西へと進む。

 そこから県道77号こと日光北街道に入り、日光市中心部を完全に迂回するルートへ。


 なぜこのようなルートであるかといえば、当然観光地の中心部は非常に混雑するからである。

 そこから国道461号線に入り、西へ。

 途中の交差点で県道279入り、突き当たりから国道121号線に入り、複雑な経路を進み続ける。


 そしてナビのルートどおり、最終的に目的地へと到着。

 日光・まなかの森 キャンプ&スパリゾートへとたどり着いた。


 ここはオートキャンプ場などと併設された総合リゾート地域。

 付近には日光猿軍団の校長が創設に関わった「モンキーオフロードランド」というものが併設されている。(元は趣味のバギーのための出資だというが、利用料金の手軽さなどからもっぱら二輪などに使われている)


 今回のイベントはこの場所で行う。

 イベント参加料金にはモンキーオフロードランドの利用料金も含まれている。

 これとは別途、「レンタル料金」を支払ってオフロードバイクをレンタルする予定だ。


 持込も可能なため、もし事前にCRF250Rallyを借りていればこの場所にそれでもって一人ヤマハのライディングスクールにホンダで喧嘩を売りに行くということもできたが、律は「ヤマハ車」が目当てなのでそのようなことは最初から考えていない。


 時刻は8時過。

 臨時駐車場にCB400を停車させると、すでに受付が始まっているので律は受付を済ませ、レンタル車両を借りることにしたのだった。


 この臨時駐車場までの道に向かうのも律は苦労した。

 フラットダート+砂利道であり、CBではまるで足回りが追いついてこない。

 必死で両足を地面に向けて投げ出し、地面を足でバランスで取るかのように蹴りだすような形でヤジロベーのようにバランスをとって何とかその場所まで向かったのだった――


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~


「予約した音羽と申します」


 受付まで向かうと、受付の人間に律は名乗る。

 ネットですでに予約済みとなっていた。


「音羽さんですね。はい。車両は持ち込みではなくレンタルでしたか?」


 なにやら紙に記入をすると、受付の人間は確認のために律に問いかけた。


「はい。どちらで手続きを済ませればいいですか?」


「当日予約はあちらです。ただ、すでに前日予約などでレンタルはかなり枠が埋まっているので車両は選択できません。それでもよろしいでしょうか?」


 実はレンタル車両。

 事前予約も可能だった。

 しかしそのためにはもっと前日の段階での予約が必要であったため、律は間に合わなかったのである。


 律が乗りたかったのはヤマハトリッカーかセローであった。

 どちらもこういったヤマハのライディングスクールで使われる車両。

 律としてはどちらでもいいので乗りたかったため、特に車両が選べなくとも問題がなかった。


 しかし律の想像通りに事は運ばなかったのである。


 ~~~~~~~~~~~~~


「えっ?」


 レンタル車両の受付へと向かい、当日レンタルの手続きを進めた律は聞きなれない車名に思わず聞き返してしまった。

 目はまん丸と見開くほどの状態である。


「申し訳ありません。本日の他の車両のレンタル枠はもう埋まってしまったので、車種はWR250Rしかないんですよ。レンタル料金もやや高めになりますが……いかがいたします?」


 WR250R。

 CRF450Lが登場するまでは国産最強のデュアルパーパス車両だった存在。


 始まりには排ガス規制が関係している。

 2007年の排ガス規制によって大量の車体を葬られたヤマハ。

 心機一転、新たなバイクを世に送り込むことになった矢先、ヤマハの社長は開発チームにこう命じた。


「競技車両に匹敵する最強のオフロードバイクを市販しろ。市販車としての最強だ」


その言葉だけで開発が開始された代物。


 一部の雑誌ライターはこう言う。「WR250Rが2010年以降の高級250ccバイクの道を開いたのではないか」――と。


 事実、この車両を境に250ccバイクはどんどん高額化していった。

 時代を遡れば過去にもそういう高額なスポーツレプリカ車両は存在していたものの、それらはあくまで性能一辺倒で無駄を省いたもの。


 大型車種などに使うような高性能、高級装備を満載するという手法は当時とは異なる。


 コスト度外視のハイパワーオフロードバイク。

 エンジンはマグネシウム、フレームはアルミ、しかもフレームは競技車両の流用ではなく新規設計。


 これが出るといわれた際、雑誌では「ヤマハは頭がおかしくなった」と誰しもが主張した。

 その設計は本当に頭がおかしいレベルに達しており、競技車両に並ぶ性能を目指し、


 排ガス規制クリア範囲内にて最強クラスの性能に仕上げるため、量産車両にそれまで聞いたこともないような新技術を潤沢に導入。


 その技術の中には競技用車両にすら導入していなかったような存在も多数ある。

 ヤマハお得意のアルミフレームはYZF-R1の技術をフィードバックし、オンロードでの性能の高さも必要にして十分。


 競技用車両ではなく市販車最強のデュアルパーパスとして完成したソレはセローやトリッカーと並び、ヤマハの代表的なオフロードバイクとしての地位を不動のものとする。


 それだけではなかった。

 最強の250ccバイクというと誰しもがこれを列挙するほどだ。

 最高速なども合わせてそのパワーは規格外。


 軽量な車体と合わせ、圧倒的なレスポンスにて市場を暴れまわった。

 だが、2017年の排ガス規制は逃れられず生産終了。


 後継車両は考えていないと主張していたヤマハであったが、信じられないことにそこに横槍を入れたのはホンダであった。


 しかしそれは「最強の市販車」ではなく「競技車両を市販化しただけ」という存在。

 ある程度ダウングレードさせたとはいえ、定期的にオーバーホールなどが必要なカリカリにまでチューンされてしまっているCRF450Lであった。


 WR250Rはあくまで「市販車」として凄まじく頑丈に作られているのと比較すると、何かが違う。

 コレに並ぶのは国内にはおらず、国外のKTM勢を除くとハスクバーナぐらいなどしかいない。(後者は極一部を除き改造必須で実質競技用車両) 


 CRF250シリーズはあくまでセローのライバル。


 そんな規格外かつ、同じようなポジションでかつてその名を轟かせたスズキのDR-Z400シリーズと合わせ唯一の存在となり、そして排ガス規制の犠牲者として消えていったものだけがレンタル車両として借りられる状態となっていた。


「えーっと……(マジ? セローの2倍の価格とか……)…………借ります」


 その価格はセローの2倍。

 1日レンタルで1万円を越えてしまった。

 ライディングスクール料金と合わせ、この日すでに2万円以上が消えていった。


 本来なら「おっしゃああああWR250だああああ。こんな機会滅多にないぞ!」と喜ぶところであるが、WR250という存在がよくわからない律にとっては外観はCRF250Lとあまり変わらないように見え、そのマシンがなぜ高級車なのか理解できていない。


 律が手続きを済ませ、料金も支払った後に用意された青のWR250Rは最終モデルであった。

 ゼッケン番号が付いており、ライディングスクール用にいくつか外観が変わっている以外はノーマル。


 フロントフォークカバーの「YAMAHA」が悠然と輝くモデルであったが、律は一目みただけでその存在のある部分に恐怖する。


 それは「シート高」であった。

 それはあまりにも高すぎた。


 間違いなくまともに足がつかない。

 それもそのはず。

 CRF250Rallyと高さこそ同じだが、シートの形状の影響によりさらに足つきが悪い、国産デュアルパーパス最凶のシート高895mmである。


 CRF250Rallyの乗車経験のある律すらその見た目から高さこそ同じもののWR250の方が高く感じられた。


(コケても保険があるからってはなしだけど……こんなんまともに乗れるのか?!)


 しばらく自由走行してもいいと言われ、取り回してみた感じ、車体は凄まじく軽いが、シートの高さは律をして顔が引きつるレベルなのであった――


「次回 悪戦苦闘のダート走行」

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