バイクは金がかかる 東京→神奈川(川崎)
川崎店は架空の店舗です。
今までいい印象を受けたドリームをごちゃ混ぜにミックスした架空の店舗となります。
GL1800の様子を見届けた光は律に対し「しばらく預ける」と言い残してインパルス400を引き揚げつつ去っていった。
距離制限無し、移動自由、超高級車がレンタカー同様の状態だが律は先の燃費の件からもそこまで乗りたいとは思わなくなっていた。
そのコスパの悪さはお前にはまだ早いと言わんばかりの状態であり、立場としてはインパルス400に代わる街乗りマシンもとい買い物その他調達用マシンとしての下駄代わりとしての扱いである。
その燃費の悪さは完全に律をして持て余す代物だったのだ。
夕食を食べ、部屋に戻った律はベッドに転がり込む。
「はあ……やっぱそろそろ職探しも平行して行わないとな……」
スマホで貯蓄状態を見た律はすでに200万近くを消費していたことでため息が出ていた。
そうこうしていると優衣からメッセージが届く。
――リッくんへ。なんかいろいろあってごめんね。もっと楽しめるキャンプのつもりだったんだけれど、変な感じになっちゃった。口直しに今度またどこかに行こうね――
文章は短く、優衣なりに今回のキャンプは失敗だと感じ、律への気遣いを見せようとして言葉を選んだ結果、シンプルな文章となっていた。
普段結構長い文章でメッセージを送る傾向があることから、明らかにそれなりにショックを受けつつも、それを隠そうと必死にがんばっていた様子が伺える。
律はそれに対し、「俺は凄く楽しめたし気にしなくていいよ。近いうちにまたどこかへ行こう」とだけ返信し、スマホを枕元に置いた。
「ゴールドウィングだけでそれなりにお金が飛ぶし、CBの修理代は想像もつかない……キャンプ用品も必要。試乗やレンタル……移動時のガソリン代……金がいくらあっても足りない気がする……まずは試乗走行会だ。当面の目的地はそこにしよう」
小言のように自分に言い聞かせた律はそのまま目を閉じた――
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翌日、律は午前中の時間を使って求職活動を行いつつ試乗会の日程を確認。
土日にハーレー、カワサキ、ホンダの体験試乗会があった。
「ホンダはいい……どうせなら他のメーカーに乗ってみたい……ハーレーかカワサキか……」
PCの画面を見ながらブツブツと呟いていたが、どちらも試乗会も静岡や愛知など、明らかに遠方であった。
そんな時である、
「うー」という声をあげながら、ウィラーがPCのキーボードの上でガタガタと何か操作をした。
「おい、やめろって! ん?」
ウィラーを追い払った後に画面に目をやると……
YSPが主催の初心者向けライディングスクールのイベントページが表示されていた。
YSPワイズギアオフロードライディングスクールイベント。
YSPが中心となって行っているイベントである。
それは試乗会ではなかった。
しかし、律にとって未だヤマハ車両など乗ったことがなく、ライディングスクールに行くだけでも試乗会と同じように真新しいバイクに乗れる。
ページを隅々まで除くと要予約であったがまだ参加できることがわかった。
「ふむ……なんでこの黒猫が適当に操作してそんなページに飛んだか……偶然とは思いにくいが……天命だと受け取ろう」
律はそのままそのライディングスクールを予約。
未だヘボヘボ運転なことが気になっていた律はチャンスとばかりに捉えていた。
「日光か……面白い。行こうじゃないか」
場所は日光まなかの森。
アップダウンもあり、初心者よりかは中級向けのコースだが、フラットなコースもある。
ライディングスクールでは講師の指導の下、それらでの走行全てを体験することが出来た。
車両は持ち込み可だが有料レンタルもある。
今まで一度も「ヤマハ」に触れたことがない律にとっては、CRF250Rallyに次ぐ2回目のオフロード系マシンに乗れる絶好の機会である。
開催日は土曜。
それまでの間に他の作業や買い物、今後の計画なども煮詰める事にした。
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求職活動などと平行し、バイクの情報を集めた午後の夕暮れ前、ドリームより連絡がかかってきた。
CB400が無事届き、状態を確認し、修理費の見積もりが取れたのだという。
「7万8000!?」
工賃込みの価格でそのような状態となっていた。
理由はウィンカーなど全ての部分のパーツを交換するためであり、完全修理によるものだった。
通常、こういった場合バイク屋というのは「誤魔化しが効く部分」というのは全て削ったりして修正してしまうのだが、いかんせんサラリーマン的対応のドリームでは何も言わないと「全交換」という扱いでそのまま何も主張していかないと信じられない高額な値段を吹っかけられる。
オイルパンの破損修理だけで4万円ほど飛んでいたのは事実であり、最低限4~5万円ほどかかりそうな感じであったことを光から言われてはいたものの、それを超える金額に目玉が飛び出す感覚を覚えた。
律が妙にしどろもどろした言動をしていると、ドリーム側の整備担当も「とりあえず走行可能な状態にだけしておきますね」ということで、他の修理は見送りとなった。
ドリームからの電話応対が終わった後、律はすぐさま光に電話をかける。
しかし光は再びオートレースの真っ最中であり、携帯電話には出ず、バイク屋に電話することになった。
「うーっす。加茂レーシング」
「あ、上田さん!?」
「どうした慌てて……今かけ直すよ」
律が本題にいきなり入ろうとしたところ、上田は長くなりそうな予感から一度電話を切り、そしてすぐさま上田の方からかけなおしてきた。
「ほいもしもし。CBの件かな?」
「ああ、はい……実は凄い金額を提示されて!!」
律のスマホを持つ手に力が入る。
「あちゃー、もしかしてエンジン回して何か重要な部分が死んじゃったか?」
上田が心配する様子を見せる中、律は交換するパーツ名と事情を話し、価格は適正なのかどうか伺った。
「適正価格かどうかでいえば工賃が高すぎるなとは思うが、ドリームは高いことで有名だからな……重要なのは交換しなきゃならないほど破損していたかどうかだ。CBでそんな破損をするとは思えないから吹っかけられたとは言える」
「そうですか……自分としては交換するほどのダメージには感じませんでした……傷は入ってましたけども」
電話越しに律は頷いていた。
「まーあれだ。最低限の修理といっておいて傷部分を磨かずタッチアップもせずに出してきたら、そこの店とは縁を切ったほうがいい。普通のバイク屋はパーツ交換せずとも該当部分を削って傷を目立たなくさせて錆び止めかタッチアップぐらいはする。ただドリームは店員か店によるだろうから……」
「なるほど……ありがとうございます。今後どうするかの判断材料にしてみます」
状況を理解できた律は電話を切ろうとする。
その時だった――。
「あーえっと、実は光……オーナーから言伝を頼まれててな……そっちに置いてあるGLの件なんだが……今すごく言い辛い雰囲気なんだが、今日実は俺もそっちに夕方ごろに電話しようと思っててさ……まぁなんていうか、こっちも割とすごい額でね」
言葉に詰まりながら上田は口頭にて請求金額を提示しようとしている。
実は上田自体は光に対し「いや、こんなの律くんに言いたくねえよ。お前が言えよ」と言ったのだが、光は「律は身内贔屓とか友達価格とか嫌いだからきちんと請求する。そういう約束をこの間交わしたからな」といって、バイク屋として普通にお客様とほぼ同等に接するよう上田に言いつけていた。
しかし上田としては客とは違う付き合い方をしたかったので出来れば自分の口からこういった話はしたくなかったのである。
社長命令ということで仕方なく従ったに過ぎなかった。
実際、彼は客とは異なる存在であることは加茂レーシング内での活動から杉山以外共通認識となっていた。
それは光とて例外ではないが、律の要望に応えての対応だったのである。
加茂レーシング内においては唯一敵愾心に近いものを抱いている杉山だけが律を「ただの客というかただの客であってほしい」として認識していた。
ちなみに律に渡されていた電話番号は、光がいない時は上田が仕事中に携帯する子機に繋がるように設定されたものであり、普段杉山は外部からの電話に出るものの、光の計らいによって律から杉山には繋がらないようにしていた。
無用なトラブルになる可能性があったためである。
「そっちは言われた通りの金額を払いますよ。金額の内訳と総計だけ教えてください」
そんなことを知らない律は光も加茂レーシングも信用しているため、そちらについては話は別と毅然とした態度で受け入れる体制を表明する。
「本来は往復で4万8000円のピックアップ料金を取るらしいんだが、帰り道のインパルス400の分は退院祝いだから別勘定ということで、GLを運んだ片道分の24000円分の費用と、前タイヤを交換したがこれはブリヂストンのセール品なので2本で6000円……さすが車用だけあってこいつぁ安いな。これで3万に、オイル交換、その他、整備やらタイヤ交換やらの工賃入れて4万2800円……んーCBの修理費入れたら10万飛んだんじゃないか?」
「ははは……CBの修理費聞いたらその額が安く感じます……まあガソリン代考えたら倒すのが怖いからってGL乗れる気はしませんけどもね……」
律の目からは生気が失われ、漫画で表すとハイライトが消えたような状況となっていた。
「二刀流は厳しいよなぁ……しかもGLだぜ? よく拒否んなかったと感心したぞ」
「上田さんでも持て余すバイクなんです?」
実は律、上田の愛車を知らなかった。
そのため愛車についてちょこっと聞いてみたくなり、遠まわしにそんな話が聞けるのではないかと話題を持ちかける。
顔はまだ青ざめたままだが、今一番興味があることは知り合いの者たちでかつフランクに会話を交わせる者がどういうバイクに乗っていて、バイクに対し、どういう思いを寄せているのかということであった。
かねてより光は自身の技量でもって限界まで振り回せる鉄の塊としてメガスポーツを好んでおり、その娘である綾華はジムカーナで戦うため、同じく技量をフル活用して振り回せる軽量ハイパワーなマシンを好んでいる。
ある意味親子といったような共通事項としては「バイクを限界まで振り回したい」という部分だが、律にはそういうものはない。
どちらかといえば「自身の限界までバイクを遠くまで走らせる」のが律のスタイルであり、それに応えてくれるバイクを求めている。
「元々俺は重量級バイクは好きじゃないんだよ。レーサーだった頃の競争車も120kgとかそこらの軽量マシンで切磋琢磨してたからな。愛車はこの間見てなかったかな? 通勤からツーリングまで1台でこなしてるんだが……」
「えっと、形は記憶にあるんですが車名がわからないんです」
律は素直に現在の心情を吐露する。
実際、そこまでバイクに詳しくないので形だけでは何1つわからない。
また近くでエンブレムなどに刻まれた型番や車名などを見たわけではないからでもある。
「ああ、なるほど。愛車はCD90っていうんだ。ホンダベンリィ、カブの姉妹車さ」
「それにしてはそれっぽくないエンジン音だったような……」
「あっはっはっはっ。そりゃあ弄ってあるからな。結構小さいが最高速は90km近く出るぞ。下道じゃ十分すぎる。200kmを超える遠出は基本車だから頑丈で修理しやすくて雪道もヘッチャラなアイツで十分なのさ。GLにまでなるともう車でいいだろって思うよな」
その笑い声のあまりの声量に一瞬スピーカーから耳を離した律だが、すぐさま元の状態に戻した。
上田の言葉にはやはりGLは趣味性が強すぎる乗り物であることを律に意識させた。
一方で――
「はぇーやっぱスーパーカブって凄いんですね」
カブがどこまでも行けるみたいな話は律も聞いてはいたが、改めて上田のようなある程度バイクに入れ込む人間が言う言葉はまた違った形で感じ取れる。
「アレが行けない道って高速道ぐらいじゃないの。150ccぐらいにボアアップしている連中もいるとの話だが」
「スーパーカブかぁ……」
上田の言葉にぽわわあんという感じでスーパーカブが脳内に浮かび上がる。
己の理想のバイクではないのかと律の中にいる何かが囁くものの、
自身が乗っている姿がまるで浮かばない。
律にとってスーパーカブは実用性はあるものの律が好むツーリング用途には明らかに能力不足に感じていた。
囁いた何かに向かって律は「違うだろ」とノリツッコミのようなものを脳内にてかましていた。
「カブ系は相当カスタムしない限り長距離走行には向かないよ。律くんの乗り方だと大型の方が向いているかもね」
「いやー大型は重そうなので……」
その律の言葉になぜか上田はしばらく黙った。
律自身は先入観やこれまで自身が集めた情報から出した言葉であったのだが、上田の反応に心臓の鼓動が早まった。
何か失言があったのかと必死で今の言葉に問題が無かったか脳内で自分の言葉をリピート再生するが何が問題だったのかわからない。
(光のやつ……律くんに何も教えてないのか……)
「律くん。大型は必ずしも重いとは限らない。MT-07などのようにCBなどよりずっと軽いマシンが沢山ある。というか、排気量400cc未満という条件のバイクというのが中途半端すぎるんだ。デュアルパーパス系だと450ccがレギュレーション排気量にあるから、そっちをベースとしたミドルクラスバイクはCBどころか250ccバイクより軽いケースもある」
「そうなんですか!?」
律には信じられない話であり、驚きを隠せなかったが事実である。
いきなり話を切り出されたことで驚いた律だが、一方で失言がなかったことにホッとしていた。
もはやメーカーすら諦めているきらいすらあるが、400ccはあまりにも中途半端だ。
各メーカーこぞって力を入れている600cc前後のバイクはCBより軽い。
SV650すら例外ではない。
CB400の設計が古すぎて重いという話でもあるが、400ccのCBR400RとNinja650はほぼ同一重量だったりと、元々車両が重いホンダは特にそのあたりで不利な要素を満載ながら、なぜか今でも必死で400ccでも展開するものだからより顕著に400ccの微妙さが浮き彫りとなる結果となってしまっている。
エンジンガードなどを装備したことで210kgを超えているCB400SBはパワーウェイトレシオ的にも不利な立場だったりするのだ。
CB400シリーズが優位性を保つのはあくまで普通二輪という枠組みに過ぎず、グローバルモデルであるミドルサイズバイクというのは全てにおいてCBに劣らない。
燃費すら劣らないのはホンダ自身がCB650などで証明してしまっていた。
「教習所がある今は大型は取って損しない免許だよ。この際だから取ってみたら? CBは大型を取った後も乗り続けられる。何しろCBから他のバイクに変わってもよほどのものでなければ殆ど重量が変わらないだろうからね」
「逆を言えば、CBを乗りこなせるようになれば、他の大型バイクもそれなりに乗りこなせるようになっている……ってことですかね」
「まあ限度はあるが、アレはステップアップとしては最初からかなり大型に近い特性をもっているからねえ」
上田の言葉を受け、律の中で確信をもった。
大型免許は取る。
ただし、CBである程度鍛えてから取る。
今すぐに大型免許を取っても何も得られないまま免許だけ獲得するような事になりそうだと思ったからである。
普通二輪の免許を獲得してまだ2ヶ月。
距離にして総走行距離2000km程度。
せめて5000kmぐらいは走っておきたかった。
「上田さん。貴重な話ありがとうございます。」
「いやいやこちらこそ。まにか何かあったら連絡をくれ」
律は丁寧に上田にお礼を述べ、電話を切った。
「とりあえずCBの修理完了後の状態を見てみるしかないか……」
上田の話から嫌な予感がしはじめる律。
それを遠くから見つめているウィラーの姿があった。
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CBの修理完了の報告が届いたのは4日後。
車両点検よりも時間がかからなかった。
恐らくそれは金払いのいい仕事なのだからと律は察する。
車両点検は時間だけかかってそこまで費用が高くない。
だから修理優先なのだろうと考えていた。
ドリームまで電車で向かって得られたのは、上田もある程度予想していたのではないかという状況。
CB400はタッチアップなどされていなかった。
ドリームにおいては一部を除き、HM直下では「部品交換」が基本。
最低限と言われれば本当に最低限しかやらない。
無料サービスのようなタッチアップや削るといった誤魔化しは当人が塗料を購入してやるかどうかといった程度の話である。
最低限の修理にするということは「オイル交換その他とオイルパンの修理」ということだけを意味していた。
価格は4万6800円と当初より3万円分下がったが、バイク自体はコケた後から殆ど様子が変わらない。
(これをどうしろっていうんだ……岐阜まで持っていって修理しろっていうのか……バイクは自分で修理整備するものっていう話は大昔に終わった話と聞いていたのに)
唯一直ったのは修理しなければ違反とされるウィンカーのみ。
近くで見ればエンジンガード含めて傷だらけの車体はいかにも「コケました」と言わんばかりの状態であった。
2018年度以前のドリーム利用者の多くがドリームを利用する様態は「全てドリーム側に任せる」といった形によるものであろう。実際、ホンダが公開したお客様アンケート結果などでもそれらしきことが感じ取れるような状況となっている。
ところが、本家ホンダドリームにおいては基本「パーツ修理」というのは「交換」を想定している。
そのため、全て任せるタイプの人間はある程度ダメージを受けてから総交換を行う者が多い。
今回の律のやりたい方法など当初から想定していないのだ。
一部のモトブロガーは「ドリームはバカにしか利用できん」などとキツイ言葉を述べる者もいるが、割と間違っていない評価なのかもしれない。(余談だがこの言葉は筆者にとてもよく効く)
他方、己である程度整備できる者はドリームを通してパーツを注文する。
流石のドリーム保証も自身を通して注文してでの「自力修理」までは今のところ保証対象外としていないからだ。
対象外となりうるのは完全に外部から注文した品などの持ち込みの取り付けなど。
ようは「オイルをドリームで購入して自力で交換する」のと「ホンダ純正オイルを購入して自力で交換する」のではまるで意味が違う。
そのあたりが四輪自動車と二輪自動車の違いといったところであろう。
(直せるものは自分で修理するしかないのか?……待てよ…?)
やや気落ちした状態でCB400を引きずり、店舗の近くの道路で発進準備を行いつつ考え込む律。
律は特にクレームも入れず、そのままドリームを去った。
こういう場合、律は性格的に「攻撃的に批判する」といったことはしない。
しかし心の中でその店、メーカーの評価は著しく下がる。
もしこれが飲食店なら二度と立ち寄らないことだろう。
だが、ある意味ではそれは失敗。
本来なら「どうしたいのか」を伝えていかなければいけないのがドリームの基本。(初心者であればどうしたいかを尋ねるのが正しくもあるので相手の失態ではあった)
ホンダドリームにおいては客もプロでなければいけないのだ。
だが律にとってそのようなことなど知るわけもない。
今の彼において重要なのは「現状の状態を良しとしない」事と、「岐阜に持ち込む」などしたくないこと、「多少の工賃」で誤魔化した状態にしてもらう事。
ようは「ドリーム保証に影響しない範囲でパーツ交換をせずにどうにかする」事である。
幸いにもドリームは名目上は同じ系列のドリームなら同じサービスが受けられることになっている。
ドリーム保証において納車されたドリームに拘る必要性はさほどなかった。
(店ごとに違うケースもあるというし……他の店舗も試してみるか)
駄目なら店を変える。
やや現代的若者の考えに従い、律はすぐさま行動を開始した。
律は川崎宮前や西東京など、系列の場所はいくらでもあるため、CB400の様子をみるついでにそちらに向かうことにした。
向かった先はホンダドリーム川崎。
律は気づいていないがHMJ直下ではなかった。
何度か近くを通った時に目に入ったので覚えていた店舗である。
展示施設が2つあるため、興味を引いていたのだった――
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店舗に入るとすぐさま店員が対応する。
CBの状態を一目見た整備士とみられる男は、律に対し話かけてきた。
「大丈夫です? 立ちゴケですか?」
「ええ、本当はオイルパンもやっちゃったんですけど、そっちの修理は別で終わってて……ただ、まあ見てくれが悪いのでこれをどうにかできないかなと……」
「ああなるほど……パーツ交換はしたくない程度のダメージをどうにかしたい……って所ですかね?」
察しの良い整備士に律は安心する。
無論、無料でやれなどと言うつもりはない。
「工賃などお支払いしますので、何とか……」
「いいですよ。購入はドリームで?」
「ええ、まぁ……」
律は性格上、他の店の対応が良くなかったので代わりに来たなどといえなかった。
ただしそれはHMJ直下でない店ならおいしい話である。
「オイルパンの破損があったということはレッカーで一度運びました?」
整備士と見られる男はマニュアル通りといったような形で必要な事だけを律から伺う。
どうしてそのような事を伺うのかわからないが律はとりあえず素直に返答することにした。
「そうです」
「そしたら当時の破損状況や修理状況等々はデータで閲覧できますね。全体的にチェックして、タッチアップとかしてみましょう」
整備士は律からキーを預かると、そのままテンポの車両整備区画へとCB400を引っ張っていった。
「そんなことが出来るのか……」
それは全ての車両ではない。
表向き、251cc以上かつ「ドリームで購入したもの」だけが対象となっている。
それらは購入時の見積もりから点検データまで、全てホンダで管理するサーバー内にデータとして蓄積され、HMJ直下でなくともドリームであるならば閲覧できるようになっている。
裏を返せばドリームにて250cc以下のバイクを購入してもこういった記録が残らないので同じような事は行えない。
ただし、それを埋め合わせるためにメンテナンスノートと呼ばれるものが存在し、それによってある程度状況把握は可能であった。
長年乗り続けると応急対応時などに気をつけなければならない点などに注目できたりすることもある事から、メンテナンスノートは非常に重要な存在。
律も一応、毎回整備時に記入してもらってはいた。
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整備士と見られる男に対し、メンテナンスノートを渡していなかった律は改めてメンテナンスノートを渡す。
整備士は「3時間~4時間ほど時間をもらえば修繕可能」と言い、律はその分の工賃や簡単なタッチアップ処理などの費用を支払うことになった。
律は周辺でブラブラしつつ時間を潰す。
(なんであっちではこれが出来なかったのだろう……でもわかった。今後はこっちでメンテナンスしてもらうか)
近くの喫茶店に入った律は対応の違いからしばらくの間、今後のドリームの利用についてかんがえ、その上で考え抜いた結論として購入店に見切りをつける。
すでに1ヶ月点検が1000km点検と合わせて終了していた律には次に来るのは半年点検や1年点検のみ。
しかしこれらは有料。
そのため、別にドリーム系列ならどこで受けてもいいのである。
お買い上げの店舗でというのは1ヶ月点検が無料になるというだけの話。
メンテナンスパックに加入していない律は元より購入店舗オンリーの特典は受けていない。
そのあたりは光が根回しして回避させていた。
気に入った店舗なら150km離れていようが買い付けに行くのがライダーと言われる。
本当に気に入った店と末永く付き合うのが不幸にならないのは四輪も同じだが、遠くまで買い付けに行くドライバーは少数であろう。
律も家からやや遠くなったが、加茂レーシングには頼らない地元近くにて新たなバイク屋を開拓したのだった――
次回「最強の250ccオフロード市販車」




