ミッドシートバッグ ~東京都内~
ホンダドリームへと向かった律はさっそくスコットオイラーとキャリアの仕入れと取り付けを申し込む。
キャリアについては3日後には取り付けられることになったが、前者については輸入なので代理店に頼む関係上何時になるかわからないということだった。
律は通常版と電動式どちらを購入するか聞かれたが、前者は今のバイクだといろいろ問題がありそうということから後者の最新式を選択。
設置方法などは別途到着後に整備士側が検討するということになった。
現状、ドリームで出来ることが全て終わった律はそのままドリームを後にし、バイク用品店へと向かう。
シートバッグを購入または選定するためである。
見本を見なければまるで大きさがわからない。
ついでにウィングキャリアの大きさについても判明するかもしれないので、メジャーを持ち込んでバイク用品店へと向かう。
向かった先は府中のバイク用品店であった。
店内に入ると律はシートバッグコーナーやトップケースコーナーへと向かう。
そこには予想通り、トップケースコーナーにてCB400用ではないがマルチウィングキャリアが見本として展示されていた。
「台座が同じだ……ここにトップケース用ベースを取り付けるんだったかな。これなら大体の大きさがわかる」
台座部分のアルミ製プレートが同一のものだったため、律は持ってきたメジャーにて寸法を測った。
事前にネットで調べた所から装着時の様子は大体わかっている。
このプレートがリアカウル部分の最後部より200mmほど飛び出す形となる。
プレートの大きさから近くにある殆どのシートバッグの積載が可能そうなのと、シートバッグをくくり付けるベルトも装着できそうな穴がいくつも空いていた。
律はキャリア側に旅行用にこれまで使っていたPVCレザーで出来たミニトランクケースを積載することを考えていた。
つまりシートバッグにキャンプ用品を突っ込み、着替えなどはどうせ使わないのでトランクケースに押し込むという考え方である。
そんな律が求めるシートバッグは、なるべくハードな使用に耐えられ、上に荷物が乗っかっても型崩れしないもの。
そんな律の前に突如としてソレは現れる。
律の目に入ったのはシートバッグコーナーの片隅にて「SALE 在庫1点限り」と書かれた代物だった。
手に取った律は驚く。
「これは……全体がハードな型を入れたタイプだ」
MOTOFIZZと書かれたソレは、シートバッグらしくなく信じられないことに他の商品と異なり正面から荷物を取り出せない構造となっていた。
その代わり、全体に形が崩れないようウレタンか何かの板が仕込まれたドラム構造となっており、律がちょっと力を入れた程度では変形しない。
他の「MOTOFIZZ」とブランドが入った製品はミニフィールドバッグ以外、皆フニャフニャしている。
GOLDWINと書かれたメーカーのものは型崩れはしにくいが、展示されている商品は小さすぎて容量が足りない、または大きすぎてキャリアとの併用が難しい。
一方、丁度良い大きさのものが唯一1点だけあったのだ。
ミッドシートバッグ。
一部では非常に評価されていたものの、シートバッグとしては当初より「トップケースと併用する」ということが考えられた構造ゆえに人気が出なかったのかいつの間にか「ミドルフィールドシートバッグ」と共になぜか廃盤となってしまった。
TANAXでは昔から「ミッド」だとか「ミドル」という名前の商品の商品寿命がやたら短い気がするがこちらもその呪いを受けていたのだろうか。
ミドルフィールドシートバッグについては本家フィールドシートバッグより横幅が広いのにさらに横に広がるというのが良くなかったかもしれないが、チャックに南京錠を通す穴があったりと防犯性では実は優秀だったりと捨てきれない部分もあったもののミニフィールドシートバッグの方が使い勝手に勝り中途半端な立場から消えていった。
今、律の目の前にあるのはそんな人気が出なかったもう片方のミッドシートバッグである。
「ふむ……」
値札を見た律は驚く。
その価格「9800円」
完全な「もうとにかく処分したい」という意識が伝わってくる価格設定。
スマホで調べると元の小売値は「1万7800円」
近くにあったミニフィールドシートバッグですら1万円オーバー。
そんな中で明らかに頑強さならTANAXのシートバッグシリーズの中においても抜きんでている物が一番安かった。
「これは……売れ残りには福があるというか、掘り出し物では?」
最初からキャリアを装着し、本来のミッドシートバッグと同様の使い方を想定していた律。
特に上部にはキャンプ用マットなどを大量に積載しても「まるで問題なさそうな」ぐらい全体が頑強である。
「よし、買おう」
即決であった。
SALEの札がついたミッドシートバッグを買い物カゴに突っ込むと、そのままツーリングネットやツーリング用のベルト類などがあるコーナーへと向かう。
律はそこでマジックテープ式の荷かけ用ベルトと、バックル式のバイクのパッキング用ベルト、ツーリングネットを購入した。
しかしミッドシートバッグには弱点がある。
それは「そのままではツーリングネットで上部に括りつけられない」というもの。
しかし律は商品を眺めているうちにアイディアが浮かんでいた。
上部の6箇所に小さなカラビナを装着、そこにツーリングネットを引っ掛け、シュラフなど中に入らないかもしれないものを上に乗せる。
下側には様々な用品をブチ込み、先ほど買い物カゴの中に入れたマジックテープ式の積載用のベルトを使って軽量な銀マットをカラビナに引っ掛け、ぶら下げてしまおうという魂胆だった。
無論、落下しないよう別に紐でくくり付けて落ちないように固定する予定である。
丁度銀マットはトランクとシートバッグの中間に乗っかる形となる。
「もしかしてこれ、殆どの荷物はこいつだけで終わるんじゃあないか?」
ミッドフィールドシートバッグの様子から、トランクケースではなくキャンプ用ショルダーバッグをそのままくくり付けるだけで十分なのではないかと考え始めた律。
ミッドシートバッグは28Lとやや少量に感じるものの、それに反して凄まじい汎用性の高さがあった。
様々なアイディアが浮かんできた律は、他にもいろいろ物色した後、カラビナなどの小物が足りないためさらに八王子・多摩方面に向かって小物を仕入れることにする。
店内で会計を済ませた際「そのまま使うので、開封してもらえますか」と店員に言うと、店員は「装着されます? 手伝いましょうか?」と問いかけてきた。
実はここのショップではこういった大して時間のかからない製品は初心者向けにそういうサービスを展開していたりする。
ラフ&ロードのショップなど、割とそういう事をしない場所から比較すると初心者には優しい。
しかし説明書さえ読めば大した事がないと考えていた律は丁重にお断りし、店の外に出た後でCB400に装着する。
なぜもう使い出すのかというと、理由は簡単であった。
この日、律はいつものように小型のリュックにあれこれ詰め込んでいたが、もしここで購入するならテスト走行も兼ねて全てを積載して身軽となった状態というのを試したかったからだ。
大柄のバッグを抱えた青年はそのままテクテクと店の外へと向かっていった――
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店の外に出た律はCB400の近くまで向かうと、ミッドシートバッグを説明書どおりに装着しはじめる。
信じられないほどのフィット感である。
リアシートのタンデム側の幅と、シートバッグ用の台座の幅がピッタリなのである。
「これでタンデム走行は出来なくなったな……いや来年まで出来ないんだけどさ」
人の代わりに見事に完璧に乗っかった状態に感嘆としつつも、バッグをユサユサと揺らし、落下しないか、変に動いたりしないかを確認。
ピシッとくっついたシートバッグであったが律は購入時に店員が呟いた言葉を思い出した。
「シートバッグは初めてですか? できるなら滑り止めのシートか何かを台座部分の下に噛ませた方がいいですよ――」
確かに、現状では思いっきり固定すると何か逆に不安になるほどシートがたわむ。
たわまずにピタッと固定するには滑り止めシートを噛ませれば良い。
「カラビナと滑り止めシート……ホームセンターでいけそうかな」
律はすぐさまスマホで大型のホームセンターを検索すると、ナビに場所を打ち込んでバイク用品店を後にした。
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バイクに荷物を完全に括りつけ、自身は一切何も持たない状態。
それは律の負担を大幅に軽減した。
今までの状態が「ただの格好付け」だったことに恥ずかしくなるほどである。
例え周囲から「ダサすぎ」と言われても、現状の状態を崩すような気にならないほどだった。
そんな状態のままホームセンターへと向かった律の足取りは軽く、トップケースの装着も本気で視野に入るほどである。
しかしトップケースについてドリームの人間は「スペシャルフィッティングと異なりマルチウィングキャリアだと少々弱いです」と主張しており、積載についてはマルチウィングキャリアならばそこまで大容量に出来ないと主張していた。
ただし軽いナイロン製のバッグなどなら十分に70Lぐらい積載できる程度の能力はあるので、箱の重さが足かせになっているだけである。
そのため律はミッドシールドバッグは常時固定させ、キャリア側に括り付けるバッグを用途に合わせて付け替えようと考え始めるのだった――
そんなことを考えているとホームセンターへと到着。
ホームセンターにてカラビナ6個と滑り止めシートを購入した律は、最近のホームセンターによくある工作エリアを利用してすべり止めシートをカッティングし、見事に丈を合わせてミッドシートバッグを固定した。
先ほどほどキツく縛らなくとも全く動かない状態にシートバッグが固定される。
律は純正のゴム紐を外し、その場所に小さなカラビナを6つ装着させた。
その上に、バッグの中に仕舞い込んでいたリュックを置き、さらにツーリングネットをかぶせる。
「いけるッ! 発想通り!」
ツーリングネットによってリュックサックは完全に固定され、落ちる様子がない。
単なる純正バイクからツーリング用バイクへと変わっていくCB。
律の初キャンプがいよいよ始まろうとしていた――
次回「道志と騒音取締」




