洗車3時間コースと1000km初回点検の罠。 岐阜県→東京都
翌日、律は光の願いから、KAMO Racingの方にも同じ簡易的な会計システムを導入し、そのまま自宅へと帰宅した。
450kmオーバー走っていたCB400は1回目のオイル交換とオイルフィルターの交換が行われていたが、かなりの量の鉄粉から1000km点検においてもオイルフィルターの交換を光より指示される。
帰り道は山側のルートを辿り、駒ヶ根から北上していき、諏訪から20号をひたすら進むルートとなった。
道中、律が気になったのは初期より増して硬くなったフロントフォークの感触である。
跳ね上げは無くなり、道路の接地感も増した一方で下り坂の挙動が以前にも増してラフになった。
原因は優秀なフロントに対してリアの能力が劣っている点にあった。
通常、平坦な直線を進む際はフロントが衝撃をまず吸収し、その後でリアが衝撃をさらに緩和させる。
しかし下り坂になるとフロントでは衝撃を逃がしきれないのでよりリアの働きが重要となる。
以前の500kmなのにも関わらずもうフワフワとなっていたサスと違い、硬めで衝撃を逃がすHPYPERPROのフロントスプリングですらも、結局はスポーツ系車両の領域を出ないサスストロークでは車体をカバーできない。
今まではフロントが弱すぎた影響で消えなかった下り坂でリアの接地感を失う感覚に律は恐怖を覚えた。
以前の状況だと下り坂での凹凸には手首に衝撃が伝わってくるほどのものがあった一方、リアが浮いているというような感覚は無かったのだが、現状だとフロントの衝撃が緩和された分、リアが跳ね上がってそのような事になるのだ。
リアの能力が完全に足りていないことの証左であった。
光は事前に律に対し、リアスプリングの変更も可能ではあるとしながらも、その効果はサスペンション自体の見直しと比較して効果は眉唾ものだと主張していた。
後ろ側のスプリングの交換については元となるサスペンションの能力自体が結果を左右する。
そのため、よほど純正が良いものでない限り大した効果は体感できず、優秀すぎるサスペンションなら純正の方がバランスが良いという事にもなりかねない。
CBシリーズで多くのスプリングを展開するHYPERPROの場合、CB1000やCB750では後ろ側のスプリングに交換は効果があると評価される一方、CB400に関してはオーリンズなどを仕込んだ方が良いともっぱら言われ続けている。
前フロントフォークのスプリング交換は非常に効果が高いとされる一方で、こうなってしまうとリアの交換をするしかないのだ。
まだ完全にアタリが付いた状態ではないとはいえ、この傾向は間違いなく続くであろうことは律も数々の車を乗り続けた経験から予測できた。
直線や上り坂などでの不安は無いが、下り坂でフロントブレーキを強くかけすぎた日には挙動がどうなるかわからない。
この点についてはもはや「400cc帯かつオンロードスポーツ車両とはその程度のもの」と認識する他ないのだが、律としてはこれまでに乗り心地がきわめて優秀なバイク達に乗り継いできたため、どうしても納得しきれない部分があったのだった。
また、律は二輪という存在について新たな洗礼を受けることとなる。
雨である。
国道20号を走行中、諏訪から松本、甲府までの間に土砂降りとなり、そして甲府から高尾までも土砂降りとなった。
辛抱溜まらず高尾から圏央道を経て中央道に入ったものの、上り石川PAに到着した際のCB400は泥だらけでまるで林道に突入したかのような状態。
とりあえず自宅へと戻るためにそのまま我慢して雨の中を戻り、その日は疲れたのでガレージにCB400SBを停車させたまま一晩置いてしまった。
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翌日。
「げぇっ!?」
目を疑いたくなるような光景である。
通常、車ならこうはなるまいとうレベルに汚れていた。
まるで不整地を4WDクロカンで突っ走った後のような状況である。
「バイクってこんな汚れるもんなのか……?」
律は洗車必須となったことに肩を落としつつ、さっそくガレージよりCBを出して洗車することにした。
残念ながら都心の住宅街において水を使っての洗車はほぼ不可能。
そのため、ネットで調べた方法により洗車を行うことにする。
事前に購入したのはフクぴかトリガー。
シリコン系のスプレー洗車系溶剤であった。
コスパに大変優れ「本当に徹底的に気を使わないならこのスプレー1本で洗車は十分」と言われており、それを試すのである。
方法は簡単で、スプレーを吹きかけつつまずは泥を軽く落とし、その後からマイクロファイバータオルなどを使い、磨きあげるようにしていく。
玄人となるとその後にワックスなども入れるが、楽に処理したい人間ならばこちらだけで十分であろうと言われる。
ところがである。
「……手、手が入らない……」
NC42となったCB400が律にキバを向いた。
エンジンに付着した大量の泥を落とそうと手を伸ばした際、フレームなどが干渉して手が入らないのだ。
エンジンと車体の間のクリアランスが無いためである。
設計的に余裕がないためそうなっている。
届かない部分は棒切れにマイクロファイバークロスや綿を縛り付けて清掃するのが一般的であるが、律はそのような事は知らなかった。
結局、その部分に関しては諦めることにし、他を磨いていく。
もっとも泥が多いのはエキパイ、ラジエーター、エンジン、シート内部スペース、リアサスペンション。
特にエキパイやラジエーター、リアサスペンションについては動作に支障が出る可能性があることから念入りに磨こうとするが、リアサスペンションもまた思うように手が届かず清掃に苦労する。
エキパイは焼き色が付いてきていた所に2度もドロが付着したことで斑模様に焼き色が付いており、とても見栄えが悪かった。
そちらはピカールなどで磨けばどうにかなるとのことであったが、何度も焼き色を付けたくないのでこちらについては「そういうものだから」と律は諦めることにした一方、ドロはよく見るとフロントのハンドル部分はおろか、フロントカウルの裏側にまで大量に体積し、
(これを他のライダーはどうやって処理しているんだ?)
――と首をかしげたくなるほどである。
特に律をそう思わせたのは、CRF250Rallyとインパルスとの比較が出来たことによる。
両者それぞれダートと雨を経験しているが、ここまで洗車に苦労した事はない。
前者は元よりそういう環境を走ることも考慮されたエンデューロ系マシンを基礎設計としており、後者はクリアランスなどがしっかりとしている。
このような結果となった理由の1つに、ABSなどのシステムなどが関係していた。
CB400はABSを入れる際、そのスペースを後輪付近のシート下部分に設けたため大きくそこが出っ張っている。
この形状がよろしくなく、大量の泥や水が周囲に散らばってしまうのだ。
インナーフェンダーも純正では存在しないため、ここが大変なことになる。
またインナーカウルの内側もフラットな形状となっていない。
他社のネイキッドやホンダの他のネイキッド車両では内側が綺麗な流線型や直線を描いて上手く処理するようになっている。
律がこれまでに乗った車両で言えば、CB400以外の全てのホンダ車両がちゃんと考えられた構造となっている。
が、一方NC42に関してはボコッと謎の凹みがあり、フラットではない。
タイヤから跳ね飛ばされた泥は一旦この部分に堆積した後、塊となって落ちる。
これがさらに汚れを酷くさせる相乗効果を生み、凄まじく汚れる。
例えばCB1100やCB1300のようにフラットだったり流線型でそのようなものを許さぬ構造であれば問題ないのだ。
洗車のためにインナー側を見た律はおぞましい光景に目を背けたくなるほどであった。
虫の屍骸などと共にドロが溜まっている。
それだけではない。
生きている謎の虫がウネっており、「見てはいけない何か」を見てしまった。
山側を雨の日に通った際に道端に流れ出た泥を虫ごとタイヤが跳ね飛ばし、堆積したドロにまとわりつく形のままとなっていたのである。
「---------ッッッ!!」
その衝撃に声すら出ず、地面に尻餅をついてしまう。
キャンプに虫がつきものであるとはいえ、この光景は言葉に表現することすら難しいおぞましさがあった。
我慢できなくなった律は大急ぎで洗車場を探し、深大寺の近くに二輪も可能な洗車場を見つけると大急ぎで向かうことにした。
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洗車場へと向かった律は恐る恐るインナーの裏側を見るが状況は変わっていなかった。
高圧洗浄機は元来推奨されないものの、流石の状況に使わざるを得なくなる。
泡と水圧の勢いでブシュシューと泥を跳ね飛ばし、その後は通常の洗車方法にて洗車を行うことにするも――
「なんだ? 泥が落ちない?」
一旦綺麗になったように見えても乾くと砂粒のようなものが帯状に広がっている。
実は律は知らなかったのだった。
この手の洗車場では泡洗車と水洗車があるものの、双方共に「磨く」ということが必須であったことを。
汚れが滑り落ちるのはコーティングをしたタンク部分やカウルなど一部でしかなく、それ以外のマフラーやその他についてはとにかく磨き上げなければならないのだ。
そのため、泣きそうになりながら磨き上げることになった。
最終的に洗車に用いた時間は移動を除外しても計3時間以上。
CB400SBは見事にピカピカとなった一方で――
「他にもチェーン整備とかやりたいのにこんなの毎回やっていられるかッ!」――
律は他の車両での清掃経験も含め、あまりに洗車に時間がかかりすぎることから対策を考えることにした。
すぐさま光に助けを請うと、1時間もしないうちに返答が戻ってくる。
―フロントインナーエクステンダー、コアガード、リアインナーフェンダー、アクリル板かFRP板で凹んだインナーカウル部分を覆う―
という、知っている者なら割と当たり前の回答を光は行い、その上でドリームで全部頼んでやって貰えと締めくくっていた。
流石に外装が変わるとドリーム保証に影響があるからだという。
いちいちそんな事すらシビアにならないといけないのは困りものであるが、律は1000km点検もかねて後70kmほど走行し、1000km点検時にそのパワーアップについても相談することにしたのだった――
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洗車の翌日、CB400を1000km以上走らせた律はドリームへと車体を持っていった。
しかしそこで思いもよらないことをいわれてしまう。
「点検は事前予約が必要で、初回点検の予約は2週間先になる」という店員からの話である。
納車時にまるでそんな話がなかったことで律はどうしてそんなシステムになっているのかと批判するものの、そういうものなのだと言われ、結局折れるようにして予約を取った。
これについてはまだ律はマシである。
何しろ代車としてインパルスがあるのだから。
ドリームは代車など用意しておらず、点検は事前に日程を組み立てつつ点検日までに車体を仕上げる必要性があった。
ようは納車時に初回点検を予約し、それまでに1000kmを走らせるのが現在のドリームでの基本となる。
客もプロにならなければいけない。
ドリーム再編以降ずっとこんな様子である。
バイク屋自体がYoutube上で「売ることしか頭にない」と批判するほどである。
ただ、今後カワサキやヤマハも似たようなサービスを行う関係上、スズキ以外はどうなるかわからない。
まあ、様子を見ながらという話を出している上記2メーカーは間違いなく反面教師を得ているといえるのだが。
筆者の知る限りの各店舗の様子だが、YSPは概ね預けてから3日以内、カワサキ系はプラザのみ要予約でほぼ同上だが、サービス上他店のカワサキ系の所でも初回点検を受けられるので回避可能(例えばプラザ吉祥寺はウィンドジャマーズでの整備などが可能)KTMなども預けてから初回点検は概ね3日以内、BMWとデゥカティは一週間で、ドリームにおいては予約さえとれれば予約日においては即日。
カワサキプラザが予約日からさらに遅れるケースがあるのと比較すると予約日の間に仕上げられるという意味においてはまだマシなのかもしれないが、整備も販売も統合しようとする弊害はすでに生まれている。
スズキワールドについては初回点検に予約不要で即日という話なので間違いなく最速。
同じく予約不要としてはカワサキ系店舗とHMJ直下ではないホンダドリームも並ぶ。
HMJ直下のホンダドリームの人気が低いと言われる理由となっているがドリームはほぼ5:5の比率で半分程度の割合で前者が存在しているため選択にはさほど困らないだろう。
ホンダドリームの選択は慎重にすべきである。
そういった実態をまるで知らない律は完全にそっち方面での泥沼にハマってしまった。
オイル交換を兼ねた重要な初回点検までに時間がかかるということであればその間その車両しかもっていない人間はどうなるのだろう。
そういったことはホンダは考えていないのだろう。
例えば代車システムでもあるというならば多少は変わってくる。
四輪ディーラーでは当たり前のことは二輪ではないのだ。
なぜなら「時間がかからないもの」という商慣習が出来上がったからだ。
それがメーカー直営のディーラー一本化を目指すカワサキとホンダにおいて明らかに四輪と同じ状況に陥る結果を出しながらも対策を打ち立てていない状況がある。
カワサキプラザの場合は横並びの系列店への持込みが可能なためまだサポート面では優秀だが、今後どうなるかは不明のままである。
結局、律はしばらくCB400へと乗れないことになってしまった。
予約した初回点検日は2週間後。
再び2週間の間は街乗りしかできなくなったのだった。
ただし転んでもタダでは起きない男。
律は「どうせ予約が必要なら」と、光からアドバイスされた各種パーツを全てブチ込んでしまうことを計画し、店員に相談。
パーツ装着時間はそれほどかからないため、初回点検の際に全て装着する事となった。
購入したのは「フォルスデザイン」のリアインナーフェンダー、「トリックスター」のコアガード、「メーカー不明の汎用フロントエクステンダー」+CTX700用純正マッドガードという組み合わせ。
フロントがかなりハードな見た目になると店員に言われるも「キーシリンダー部分まで大量の泥が来るよりはマシ」と応え、装着を決定する。
また、インナーカウルもフラットな形状に変更してもらうことにした。
工賃含めて計6万円の出費。
初回点検費用を入れて7万5000円。
すでに車体に130万円近くかかるバイクとなった。
店員は「アンダーカウルも考えますか?」と聞いてきたものの、それは事前に光よりさらに整備性が悪化するのでやめた方がいいということでやめることにした。
そしてそれら一連の契約を取って明細も受け取ってその日はドリームを後にした――




