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天下分け目の……?

 ピピピピピ


 イヤフォンの中をこだまするアラーム音によって律は目覚めた。


 目をこすりながら窓側の方向に顔を向けると、

 窓は朝露によってぬれており、多少光が差し込むものの、外の状況がよくわからない。


 ツーリングシーズンとはいえ、この時期の長野の朝というのは曇りのような状況が基本。

 志賀高原など高地から見るとわかるが、どこもかしこも雲海に埋まる状況になることが多く地上では霧のような状況でモヤがかかった状態となることが多い。


 時計をみた律は現在時刻が5時30分などを確認し、大急ぎで身支度を整える。

 今日の目的地のためには6時までにはここを出発しなければんらないからだ。


 急いで寝癖などを整え、顔を洗う。

 顔色は良く、疲れは十分に取れている様子だった。


「渋滞はないとは思うが……まるで到着時刻が読めない……」


 スマホの状況ではルート全てが青く表示されてはいたが、道の状況が読めないことで不安になった。

 というのも、その場所にはある時刻までに到着しなければならないからだ。


 道の駅。

 多くのドライバーとライダーの助けとなるばかりか、地元民の貴重な買い物場所として定着する日本国が公的資金も注入して成立する施設。


 この道の駅には大きく分けて3種類の営業時刻が存在している。

 1つ目「20時以降も開いており、都心部のデパート並に遅くまで開いている場所」


 主に道の駅といえども温泉などの他の施設も存在する所が当てはまり、宿泊施設がある場所などがこのような長い営業時間を持つ。


 2つ目「19時~20時頃」

 レストランなどが存在し、飲食店を中心に成立している場所。

 ディナーが終わるまでの時刻まで営業している場所に多い。

 営業時間が20時ならラストオーダーは19時頃。


 3つ目「16時~17時」

 過疎地域などは基本これである。

 小規模で地元民が利用するのが専らな道の駅においては運営能力自体が弱く、17時どころか16時に営業終了してしまう所も極まれにあるが、基本は17時。


 こういった所に併設レストランがあっても営業はランチまでであり、そこまで大規模に展開していない。

 17時というのは飲食店以外のショップなどの閉店時間であり、15時を過ぎると殆どの店が閉まってしまう。


 残されたのは最低限の売店のような何かのみ。


 奥永源寺はこの3番目に該当する道の駅。

 よって、急がねばならなかった。


 急いで身支度を整えた律はバイクに向かう。

 朝露はカバー全面にかかっており、カバーをかけなければ悲惨なことになっていることが予想できる状態となっていた。


 ここで役立つのが風呂セットの中にも入っており、普段バスタオルなどの代わりとして使っているスイムタオルである。


 スイムタオルとは、乾くとパリパリになるが濡れるとふやけてやわらかくなり、すぐ乾く魔法のようなタオルである。


 旅先でバスタオルなど乾かすことなどできるはずもないライダーにとっては至高の一品。


 律も当然にしてそれを用いていた。

 乾くと非常に軽いのでとても便利なのと、とにかく乾くのが早いのでカビなどの心配が少ない。


 ライダーの中にはペーパータオルを使っており、便所などでいざという時も使えるよう配慮している者もいるが律はトイレットペーパーなどは別途持ち込む男でありそこを共有化するのは避けていた。


 実はまり知られていないが、この速乾性のスイムタオルバスタオルサイズの大型のものもあったりする。


 律のものはそこまで大きくないが下半身が全て隠れるぐらいの大きさのものを持っていたりする。

 別に下半身を隠すために使うものではないが。


 これを何に使うかというと「真夏のテント内などにおいて濡らして肩より上半身などに巻きつけることで熱中症予防に使える」など非常に便利であるためであり、必需品と化していた。


 朝露を拭うスイムタオルは雑巾として使っているもので、こちらも風呂用とは共用ではない。

 これも絞る、拭く、また絞るを繰り返すことですぐに朝露などを拭える便利な品であった。


 バイクカバーを洗濯物用ネットに突っ込んだ律は、それをトップケースの上部にネットで結びつける。


 これは当然「バイクカバーを乾かす」ためのものであり、休憩時などにおいてひっくり返したり折り返したりして乾かしていた。


 ネットの中には先ほどのタオルも仕込んでおり、風の力によって水分を飛ばすのだが、朝方は霧のせいで効果が薄かった。


(道沿いにショップとか無いだろうし……どっかコンビニで朝飯と昼飯を揃えるしかないか)


 チェーンロックをはずしながら今後を考えた律はまずはコンビニを探すことにした。


 まだ飲食店など開く時間でなかった上、進む道沿いに飲食店などあるような気がしなかった律は塩尻市外のコンビニで朝食を済ませ、さらにおにぎりなど昼食に該当するものを買い込む予定である。


 バイクにまたがりエンジンをかけるとパラレルツインのエンジンは昨日と同じくすばらしい吹けあがりを見せ、律に最高のパフォーマンスを見せ付けた。



 そのままヘルメットを被り、愛車に乗り込んで信州健康ランドを後にした。


 ~~~~~~~~~~~~


 コンビニで全てのものを調達した律はいよいよ1つ目の目的を果たすために塩尻を南下する。

 中央本線に沿って国道19号を南下。


 そして木曽町まで向かった。

 御嶽山噴火の際、災害対策本部が作られた場所だ。


 実は律は御嶽山噴火後、ここに訪れた事がある。

 ただしその時はまだ非常に若く、バイクには乗っていなかった。


 中央本線で鉄道の旅をしており、塩尻から大阪駅まで直通の特急「しなの」に乗っていたときのことだ。


 特急から見た景色はあまりにも不気味だった。

 周辺の山の森林の一部が灰色に染まり、高さによって色合いを変えていた。


 噴火の凄まじさを強烈に植えつける光景だった。


 律はその光景を見た後、昼食を食べる気がなくなるほどのショックを受けたほどだった。


 あれから数年。

 今や山も落ち着き、周囲も静けさを取り戻している。


 さんさんと輝く朝日は木々の間から光のビームのようなものを作り、インナーバイザー付きヘルメットのインナーバイザーを下ろさなければ眩しいほどであった。


 木曽町の役場を過ぎると、国道361号に乗り、西に向かう。

 ここはもう本当に何も無い山道。


 律が最も好む「自分だけの空間」といった場所。

「こういった道が永遠に続けばいいのに」―と律は走りながらいつも思っているほどであった。


 しかし361号では生ぬるい。

 律の今回の目的は国道361号ではなかった。


 361号は1度も通った事が無い道であったが、律の目的は県道441号にあった。


 御嶽山の北側の中で最も御嶽山に近い所を走る道であり、舗装林道といってもいいような場所である。

 道幅は最悪であり、険道ともいわれるものほぼ全て舗装されている。


 361号線を走行していた律は御嶽山を少しすぎたあたりで一気に西側にシフトし、441号線に入った。


 ~数分後~


「うわぁ! なんて綺麗なんだろう!」

「こういう所が走りたくて二輪乗ってるようなもんだからなあぁ」


 思わず独り言が漏れるほどの景色だった。

 衝動的にヘルメットのシールドやバイザーを挙げて直接その目でもって見たくなるほどの美しさ。


 411号でも御嶽山付近は山の中腹あたり削ったような場所に道を作っており、道路から見える景色は格別である。


 事前に地図だけ見てそのような道ではないかと予測を立てていた律は見事に予想を的中させた。


 他に走る車も人影も無く、一人森林と山の中を愛車と共に突き進んでいく。

 何も無いからこそこういう所がたまらなく好きだった。


 途中、ちょっと広く景色がよさげな場所を見つけた律はしばらくそこで休憩することにした。

 そして景色を背景にバイクを撮影。


 現代ライダーのよくある姿である。

 それをSNSにアップローするのが恒例の作業。


 しかしながら今回は周辺に律の知り合いは誰も走っていなかった。

 たまに近くを走っている者がいると合流したりするものの、他の者達は連休を利用してバイクを整備したり、キャンプを楽しんでいたのだった。


(何でこの天気でみんな走ってないんだか……)


 周囲のSNSの報告を見た律は知り合いらの行動に違和感を感じたものの、広い場所ではなかったために再びバイクに乗って411号を移動する事にした。



 ~~~~~~~~~~~


 411号の後には国道41号に入り、そのまま愛知県へと入っていく。

 この辺りは以前も何度か通った事があり、特にこれといった感覚もなかった。


 やはり新しい道を走ってこそ、景色のいい場所を走ってこそツーリングと考える律にとっては、下呂温泉あたりから住宅街密集地となっていくのは気分がいいものではない。


 今回は一応、住宅街や都市部にギリギリ入らないルートを組んだが、やはり国道416号までの道筋はそこまで楽しいものではなかった。


 途中米原手前で関ヶ原を通る。


「天下分け目のラーメン屋……」


 ここに来て律がいつも思うのだが、「天下分け目の」とか「天下一の」とか「天下統一の」といった看板を掲げるラーメン屋が非常に多い事である。


 まるで信長や家康がラーメンを啜りながら戦ったような気がするが、ラーメン自体は江戸時代の頃に水戸光圀が食したかどうかな代物であることを考えると強烈な違和感を感じるのだった。


 国道沿いにはやたらよくわからないラーメン屋が山などの奥地に店を構えていることがある。

 しかも潰れる様子がない。


 こういった店がどうして続いているのか、どうしてそこに店を構えたのか理解する気もない律だったが、一度ぐらいは入ってみたくなる魔力は秘めていた。


 ただし、大体の場合急いでいるのでスルーするのが通常で、入ってみたくなるなあ程度で終わってしまうものである。

 きっとそのまま入る人達がいて成立するのだろう。


 そんなのを横目に休憩もせずに南下していった。

 現在時刻正午。


 どこかで休憩地点を見つけ、昼食をとることにした――。


(むー……これなら天下分け目のラーメン屋でも最初から目指せばよかった。思ったより道が空いてる……未だにこいういう予測立ては失敗するな……)


 当初、昼食時は飲食店皆無の場所にて走行中と予想した律は、すでに周囲に飲食店溢れる関ヶ原にいることにテンションがやや下がった。

 こういう時でもなければ利用できないのがラーメン店なのだ。


 律の場合、いつも「店が空いていない時間」か「食事時でない時」に限ってこういう場所を通る。

 かといって食事のためにその場所に留まるということはしたくない。


 そのためこういうのは割と稀な現象なのである。

 あまりにもそれに慣れすぎたせいで事前準備したことが裏目に出てしまった。


 そこで律は昼食として購入したものを夕食に回し、天下分け目のラーメン店なる場所で食事をとることにした。


 こんな事、二度とないような不安が頭をよぎったからである。

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