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番外編:ウィラーの独り言9

 インパルスねぇ……

 GSX400インパルスかと思えばインパルス400の方か。


 こいつを語るにゃGSX400から語らねばならない。

 GSX400。


 カワサキゼファーが火を付けたネイキッドブーム。

 そこにスズキも大急ぎで対抗車種を投入せねばならなかった。


 当時、スズキはホンダなどと同じで新たなネイキッドバイクのイメージを作り上げようとバンディットやSV400などを出してきていたが、まあユーザーがー求めるバイク出さなきゃしゃあねえってんで出したわけだよ。


 しかし実はこいつ、GSX400Sカタナを大幅に流用して急造された存在だ。

 だから、ゼファーやCBと比較するとやや旧車って感じが拭いきれなかった。


 一方で、メーカー自体はスズキらしさを描こうとしていた。

 後にこいつは1998年の排ガス規制を唯一突破できずに1度死ぬんだが、逆を言えば「4ストにはゆるすぎた排ガス規制といわれたものすら」突破できないぐらい「エンジン性能」などを突き詰めた仕様にしてたわけだ。


 まあエンジン自体が古かったというのもある。


 だから1999年。

 こいつはカタナと共に死んだ。


 400カタナより後発であったのに同時に死んだんだ。


 その後にメーカーは悩むことになる。

 周囲は「おい400カタナ出せよ。あくしろ」と騒ぐが、一方でGSX400インパルスもそれなりに人気で「まさかSVとかイナズマとかそんな変態すぎるのだけで今後を過ごすのか!?」などと保菌者からも圧力をかけられる。


 結果、スズキは必死の努力でインパルスを2004年に復活させた。

 それが今目の前にあるインパルス400だ。


 こいつが出たとき、スズキユーザーの誰しもから「おい、なんでカタナは復活しねーんだよ」って叩かれた。


 そう、同じエンジンで、かなりの面でパーツ流用が可能なカタナが出ない理由をバイク雑誌などでは「エンジンが排ガス規制を突破できないから」と勝手な解釈で主張してその認識が植えつけられていたからだ。


 一部では「スズキはカタナの呪縛から逃れたかった」なんて話もあるが、いや別にそんなことねえ。


 カタナが死んだ理由にはもっとシンプルなものだ。

 400カタナのフレームは剛性が足りていない。


 これはよく言われる。


 GSX400にて、実際にフレーム強化でサイドメンバーなどが追加されているんだ。


 400カタナでは特に重いスイングアームによってシートフレームなどが歪むと指摘されている。

 原因はタンデムステップ部分のサブフレームによるもの。


 これが設計的に良くない。

 乗ってる間にスイングアームと干渉したりして、こういった部分に負荷がかかってフレーム全体が歪む。



 だから400カタナの定番コースは「GSX400インパルスのパーツを移植する」こと。

 スイングアームなどの部分を移植するんだ。


 特に一部ではGSX400インパルスのフレーム強化用サイドメンバーをGSX400Sカタナに溶接して追加しようと試みる者もいたぐらいだ。


 だが溶接すると全体の剛性が変わってしまうので、優秀なバイク屋はボルト止めでサイドメンバーにあたるサイドフレームを装着。


 ここにナイトロンやオーリンズを仕込んでGSX400インパルスのスイングアームを仕込むというような形で400カタナの寿命を延ばそうとした。



 しかし巷では「個体差」と表現されるフレームの歪みの影響で、インパルスのスイングアームは簡単に装着できない個体がある。


 日常的な使用には影響はないが、それでも軽量アルミスイングアームが装着できないような歪み方をしているものがあったわけだ。


 そうなるとタンデムステップ部分など干渉するフレームの切除が必要。

 中古の400カタナは正直言ってまともな個体探すの難しいぜ。


 切除されたフレームの車両は中古には流れないだろうが、そのまま純正状態のフレームなのかどうかわからんからな。

 タンデムステップ部分が再溶接されたようなものもあるはずだ。


 でもそれだけなら「ならインパルスのフレームを流用すればいいじゃないか」と思うかもしれない。


 残念ながら、インパルスのフレーム形状はかなり変わってて、おいそれと「はいやります」とは出来ないんだよ。


 特に前半分やシートフレーム部分などかなり変わってしまったから、カウルなどを流用するにゃ実質的に「フレームを1から作り直す」必要性がある。


 だったらもう「もっと頑丈なフレーム」を1から作った方がいい。


 しかしスズキにそこまでの余力はなかった。

 カタナ400は売れなかったわけじゃないが、年々売り上げを減らしたからな。


 世はまだネイキッド時代。

 ゼファースタイルの方が売れてたわけだよ。


 そこにこれ以上開発資金をかけたくなかったんだ。


 なぜなら、すでにこの時点で2007年の排ガス規制の情報が出ていたからだ。

 無理して開発してもたった3年で死ぬ。


 そんなのに多額の開発資金を投入できるわけがない。


 各メーカーは2007年以降を目処に新たな時代を開拓しようと試みていたんで、スズキはとりあえず最低限黒字化できうる開発資金をそこまでかけなくても良かったGSX400インパルスをインパルス400として出した一方、この時からすでに真新しいバイクの開発に力を注いでいたわけ。


 そのバイク達はみんな「ダブルクレードルフレーム」なんていう古臭いものではなかったから、カタナなんかのために古臭い仕様のフレームを1から新造する気はなかった。


 そんなことを2010年代でもやってんのはホンダだけなんだよ。


 世はすでにアルミダイヤモンドを含めたトラスフレーム時代。

 アンダーフレームをトラスフレームに追加するならまだしも、ダブルクレードルフレームなんて時代錯誤なもんを作りたくねぇってのがホンダ以外のメーカーの本音。


 まあオフロードでは未だに普遍のスタイルだが最近はそれも変わりつつある。

 KTMなどのおかげで。


 それはさておき、この当時から新たなバイクの姿を形作るのに積極的だったスズキは、インパルス400だけを世に送り出したに留まった。


 でもな、それはカタナ400を完全に見捨てなかったという意味でもある。


 知ってのとおり、国は「そのバイクは型式ごとに生産終了から8年~10年はパーツ製造を行え」という規定を作っている。


 各メーカーはそれに従うため、変に売れないバイクは早々に店じまいしたい思惑がある。


 一方で、生き残らせたい名車については「パーツ流用可能」な他のバイクを生産することで延命措置を図ろうとする傾向があった。


 例えばW650というカワサキの誇りを延命するため、カワサキはW400とW800を作ったが、こいつらはこいつら自体がW650の後継的立場である反面、多くのパーツがW650に流用可能なため、W650の延命を担う立場にある。


 名車とされるCB400のNC31についてもそうだ。

 CB400SF-KがやたらNC31とパーツ共有可能なのはそのためだといわれる。

 スイングアーム関係が昔のまんまでタイヤサイズなどがNC31と同じで流用できる。


 まぁCB400に関してはNC39に前期型NC42のメーターが移植可能だったり、「わけわかんねぇ」流用ができたりする汎用性もあるんだが。


 だからようはスズキの回答としては「新車は開発資金分の採算がとれるわけじゃないから出さない」としつつも、GSX400インパルスに大幅に手をつけることなくインパルス400として出すことで既存のカタナ400の延命を計った。


 カタナ400のパーツが今でもそれなりに生産されている理由がこれだ。


 カタナユーザーを完全に見放したわけじゃない。


 その一方でスズキは新たなカタナの後継者を作ろうと奮闘した。


 400cc帯においてはカタナの再来と見込んだGSR600のボアダウン版であるGSR400を投入。

 実はこの時面白いエピソードがある。


 GSR400は新型エンジンを搭載したバイクだ。


 だがな、実は特許情報などを見る限り、インパルス400のエンジンを2008年の規制に対応させようとし、それに成功していたことがわかる。


 スズキは表向き「古いエンジンだから」「新型エンジンはウチが作った自主規制の59psを突破して60目指しているから」とインパルス400を2008年で生産終了させてしまうが、モーターサイクルショーにて次世代コンセプトモデルとして出したバイクの中にはインパルス400のエンジンをこさえたモンが出てたんだよ。


 モックアップだから「どうせやる気ねぇだろ」なんて言われてたが、特許情報的には普通に作れてたっぽいんだ。


 つまり、排ガス規制のとき、経営者や開発者は最後まで「こいつのエンジン」を積んだバイクを出し、400カタナが実質的にさらに延命されるような状態を作ろうかどうしようか迷っていた。


 結果的にネイキッドブームが沈静化しつつあったんでやめたけどな。

 つーか、スズキ的に言わせれば「いつまで古いシステムでやらなアカンねん」って話なんだよな。


 そんなことやるのは「ホンダ」の仕事だろと。


 そんでもって代わりに出したGSR400は爆死。

 GSR600ごと大爆発。


 スズキは「なんで俺たちが新しい時代を目指そうとすると失敗するんだ」と落ち込んだことだろう。

 最近じゃそれやってんのずっとカワサキだけど、カワサキより先にトラスフレームに着目してたわけだしな。。


 しかしそこでスズキは諦めなかった。

 GSR750という存在を送り出してなんとしてでもカタナの後継的ポジションを作ろうとする。


 が、これも失敗。

 もがいた末についに世に送り出したのがGSX-S1000だ。


 スズキは気づいた。


「なんでナナハンに拘る必要性があるんだよ」と。


「そもそもカタナはリッター級」だったじゃねぇかよと。


 失敗作だった750カタナを払拭させようと750ccで最初から出すのが間違いなのだということに。


 そこで開発者達は「徹底的に妥協しないカタナの後継者を作る」とし、そいつのコードネームを「牙」または「獣」とした。


 超獣「GSX-S1000」はそんな感じで誕生。


 こだわりすぎて開発に8年ぐらいかかってんだぜ。

 エンジン、フレーム、何もかも徹底的に妥協しなかったから国外ではドキュメンタリー番組組まれたほどだよ。


 だからGSX-S1000が出たとき欧州でのインパクトはとんでもなかった。

「やればできるじゃん、スズキ!」と暖かい声で出迎えられた。


 大半の日本人は「どこがカタナやねん」って思うことだろう。

 デザインだけでそう判断する。


 だが、コンセプトとしてスズキが挑んだのはカタナと同じなんだ。

 先鋭的かつ最新鋭のフォルム。


 そして次の時代を担うであろうエンジンサウンドを乗り手に届かせようとするメカニズム。

 純正にしてすさまじいサウンドを誇るヨシムラと共同開発したと言われるマフラー。


 何1つ妥協がない。


 21世紀のスズキのネイキッドはこれなのだと、2010年代後半にしてようやく出せた。


 そして旱魃入れずにGSR750からGSX-S1000をサイズダウンしたGSX-S750を投入。

 こっちもこっちで拘りの作りをしているが、GSX-S750を世に投入したことでついにカタナ750の呪いを消し去ったといえる。


 日本でもGSX-S750はそれなりに売れてるからな。


 ところでいいか?


 GSR750についてなんだが、どこかの漫画で「全てのナナハンは道を開けろ」だとかふざけた謳い文句だしてたよな。


 それが言えるのは「ドリームCB750Four」だけだろと言いたいが、少なくとも現時点でそれがいえるだけの売り上げ誇ってんのは「GSX-S750」だろと言いたいんだが。


 お前そんな売れなかったからGSX-S1000が出てきたんだろうが。

 もしかしてわざとやってんのか?


 まぁいいけどよ。


 ちなみにGSX-S400をスズキは出す気がねぇらしい。

 会長自体が「お前らカタナしか興味ないみたいだし」的な話してたしな。


 散々裏切られた中排気量帯においては、バーグマン400という欧州でのTMAXのライバル以外、250cc以下しかもう出さないんじゃねぇかな。


 多分カタナっぽいのも出していても駄目だっただろうなって感じがするけど、GSX-S400についてはもうちょっと検討の余地あるんじゃねぇかと思うが……今米国とかで500ccぐらいの車種の人気が沸騰しているし、そのボアダウンではだめなのかね。

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