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番外編:ウィラーの独り言8 ~事故を起こしやすいバイク~

 セット教習が終わってからの律の様子がおかしい。


 何度も何度も立ちゴケや転倒、そしてバイクの交通事故の動画を見て……一体何の予習してやがる。


 独り言のように「ビッグスクーターのがいいのか……」とか言ってやがる。

 まぁこれで間違いなくアイツはスーパースポーツとは無縁になったのは確定的だな。


 そうだよ。


 お前が多分今後嫌っていくであろうスーパースポーツが一番この世で危険な乗り物なんだよ。

 アレがライダーの敷居を高めているのは事実だ。


 この世にてライダーに興味がある人間をバイクから遠ざける原因は3つある。


 1つ。暴走族の乗る四気筒ネイキッドややかましいハーレーなどの外車。


 2つ。無茶な走行をしまくるスーパースポーツが数字を過剰に増やす自爆事故による二輪は危険というイメージ。


 3つ。原付や小型スクーターによる無茶苦茶なすり抜けによるイメージの悪化とそれの伴う事故の多さ。


 それに相反する立場なのが一時期流行したビッグスクーター。

 意外にも事故が少なく、アレでバイクに目覚めた奴も多いらしい。


 特に今30代中盤~40代後半ぐらいまでがドンピシャ世代だろう。


 カスタムが随分流行した。

 やかましいぐらいにラジオとかステレオかけて走る姿を目撃した連中は多いはずだ。


 アレは実は自動車としての出来は存外良かった。

 あいつらは、遅ぇしデケェし何1つ利点がないように見えてたった1つ利点があった。


 それは「最も事故しにくい自動車」という特徴。


 全世界全ての統計データで示されるのは、125cc程度のビッグスクーターという存在が「この世のタイヤ付きの自動車の中で最も事故が少なく安全」という興味深いデータだ。


 200cc以下ってところだな。

 250ccはちょっと事故率が上がっちまう。


 それがどれだけ凄いかというと、そのデータを理解していたフランスやイタリアなどではビッグスクーター(ラージホイールスクーター)を奨励する条例などを盛んに作り、その結果「国の交通事故が大幅に減った」という。


 この2つの国では四輪が二輪を巻き込む事故によって四輪全体の交通事故の件数を押し上げている実態があった。


 そこで両国においては免許制度改革や保険制度に手をつけ、ビッグスクーターをより乗りやすく消費者が選びやすいよう仕向けたわけだ。


 その結果どうなったかといえば交通事故が目に見えて減った。

 特に四輪が二輪を巻き込むパターンが減ったわけだ。


 欧州のスクーター王国であるイタリアのスクーターがやたらバカデカくなった最大の理由は実はここにある。


 小さいスクーターと大きいスクーターで保険料が変わることがあるのと、国がボディの大型化を推奨していたりするわけだ。


 VESPAの売れ筋モデルが大型化した理由なんかは「性能」ではなく「安全性」だったりするわけだよ。


 ボディの大型化により視認性を高くすることは、即ち公道を走る他の四輪車への注意喚起と繋がる。


 そしてすり抜けという要素もボディの大型化をするとやりにくくなり、結果的に事故率が減っていく。


 一時期日本でも流行したビッグスクーターは、欧州にて新たな「自動車の可能性」となり、


「ただ大型化」するんじゃなく「適切なサイズ」にボディ全体は小型化しつつ軽量化され、より安全性を高めようと装備を充実させる方向へシフトして進化していった。


 それが何気にここ5年ぐらいのことなんだ。


 日本では2018年にX-MAXの新型とFORZAの新型、スカイウェイブの後継機であるバーグマン200がそれぞれ登場したが、この3車種はどいつもこいつも大昔のビッグスクーターと比較して軽くできている。


 また全体的に少し小さくなったよな。


 無駄な部分を削いで軽量化した上で充実の装備。

 最近じゃスクーターにトラクションコントロールシステムも珍しくなくなった。


 こいつらは今後も全世界で台頭していく存在になるのだろう。


 最近は日本も警察庁などが公開するデータで排気量や車種別の事故データを出してくるようになったが、本当に低排気量ビッグスクーターの事故率が低くて驚くぜ。


 ちなみに事故率が低い車種は125ccだとビッグスクーターだけで全体的には高い方だ。

 原因はアドレスみたいな125ccの小型スクーターのせいだな。


 こいつらは突出して事故率が高いせいで原付=危険というイメージを植えつけている。

 欧州のいくつかの国のようにいっそ小型スクーターを実質禁止にさせちまった方がいいかもしれん。


 街中の渋滞しそうな道にて小型スクーター排除みたいなことやってる所があるんだよ。

 同じ排気量でもビッグスクーターは除外となっている。


 これだけで欧州のとある地域では年間の事故件数が4割減った大通りがあるという。

 学校などが多く若者が沢山行きかう場所とかでそんなことになったとか。


 日本も再考する余地がありそうだな。


 それで、排気量帯で見た場合、事故が少ないのは250cc~750ccだ。

 やっぱリッター超えると事故率高まるんだわ。


 そして250cc~750ccの中で事故率を大幅に高めているのは他でもないスーパースポーツ。

 まぁ見てみればわかるが動画配信サイトでも走行中の転倒やら自爆で事故ってんのってみんなスーパースポーツなんだよな。


 どうしてあんなにあいつら事故が多いかって、


 ・ハンドルの切れ角が浅く、ハンドル操作でのリカバーが難しい。

 ・そもそもハンドル操作で曲がれる仕様とフレームじゃない。

 ・傾けてナンボだが、同じように曲がるのにより傾けないと曲がれないようなバイクもある。

 ・まわしてナンボのエンジン特性でかつ軽量。ゆえに加速力が抜群でラフなアクセル操作をすればそく前輪が持ち上がって操縦不能になる。


 まぁ、どこぞの赤い皮ジャケ身につけた奴の言葉を借りれば「ピーキー過ぎてお前にゃ無理だよ」ってな代物なんだよ。


 そういえばアイツが乗ってるバイクの仕様ってエンジン仕様以外「めっちゃ安全じゃね?」って思ったのは俺だけか?


 両輪駆動のトラコンとABS装備の状態で長いホイールベース。


 一体どこにピーキーな要素があるかと思えば「エンジンの回転数を3000以下にすると電力が足りずバッテリーが上がる」とかいうカリカリにピーキーなセッティングにしたハイブリッド車両ってだけで、そういう風にセッティングしないとモーターの出力を上げられないってだけらしいからな。


 その当時から原作者が「無理なセッティングしなけりゃ一番平凡で安全なバイク」といってたが、バックギアまでついてっから無理なUターンとかでの立ちコケの心配もなさそうだし。


 さすが日本の漫画家の中でも最もバイクが好きな作者に分類される立場なだけあってちゃんと考えてるぜ。


 まあ出力はケタ違いだが、俺にはどうもアレがピーキーな代物とは思えん。

 劇中みてりゃわかるが、装備してるトラコンが効いてんのか猛ダッシュしても前輪が浮く様子もないしな。


 トラコンあっても軽量だと前輪が浮くんだぜ?

 MT-07とかMT-09とか「もうちょっと制御がんばれよヤマハ」と思うよな。

 乗ったことがあるがトラコンなかったら本当に「ピーキー過ぎて危険」な代物だ。


 アクセルを開きたくねぇバイクを2010年代の現在でも作ってるからな。


 逆に制御系は未だにホンダの方が優秀だ。


 で、話すを戻すがそんでよー鉄雄の乗る方は明らかに危ない代物だよな。

 あの作品の映画版の冒頭10分は本当にバイクの違いをよく表しているぜ。


 劇中、他の連中が乗るバイクの中で一番危険なのは鉄雄のやつだ。


 実際カーブを曲がれずにずっこけてっけど、曲がれたバイクはどちらも乗車ポジションが普通の連中。


 片方は擬似アメリカン風ネイキッドで、もう片方はよくわかんねえ……でもどちらもアップハンドルなのは目を凝らさずともわかる。


 両者共に姿勢のよさを利用して見事にリカバーして急カーブを曲がりきってる。


 一方で鉄雄はSS系の前傾姿勢バイクによくある平凡な転倒を見せてくれる。


 ずっこけた鉄雄のバイクだけ信じられないほど前傾姿勢のセパハン。

 おまけにハンドルの切れ角も明らかに劇中突出して悪いのは劇中描写を見りゃよくわかる。


 山形のバイクは一見すると危険そうだがよく見るとフロントカウルがでかいだけで、乗車姿勢は割と普通のスポーツバイクだ。


 ハンドルの切れ角もかなりいい方だ。


 鉄雄に関して言えば最初に乗ってたくせえネオクラシックネイキッドっぽいXSR700か何かに凄く似ているのはまともなのにどうしてこうなったって感じだぜ。


 こうやって見ていくとやはりバイク好きの連中が命を込めた10分と言われるあのシーンでも前傾姿勢のセパハンフルカウルスーパースポーツバイクっていうのはコケるというイメージを作りたくなるほど、30年以上前からそういう印象があったわけなんだよな。


 トラコンやABS入れたってどうしようもねえのは今も同じさ。

 傾けなきゃ曲がらないからスピードがオーバーすると即外側に流れていく。


 そこでそのままさらに傾けたらカウル擦ってタイヤがグリップを失ってそのまま外に真っ直ぐ突撃してガードレールと接触というお決まりの流れとなる。


 SS系の基本姿勢だとスタンディングリーンアウトということもほぼ不可能に近い。


 ジムカーナなどでやってる人間がいるアレだ。

 スタンディングしてバイクとは逆方向に体を向かせる。


 そうすると傾けすぎないギリギリを保ってる上、さらにハンドル操作でバイクをより回転半径を小さくカーブを走らせることが可能になる。


 SS系だとリーンアウトでも基本的にゃその姿勢から体とバイクが一緒に傾くパターンとなりハンドル操作する余裕なんてねぇ。


 そもそもスタンディングすらまともに出来ん。


 とか言うと「なんでだよ! ジムカーナにもそんな感じで派手に曲がるSSが沢山いるじゃないか」とかいう人間がいそうだな。


 やつらのハンドルがアップライトなバーハンドルなのを見たか。

 前傾姿勢となるようなセパハンでは同じ真似はできねえってことだよ。


 ステップ位置なんかも変更するのがジムカーナ仕様SSの基本だ。

 姿勢は通常のスポーツ車と同等かそれよりさらにアップライトな殿様乗りに近いものとなる。


 あの手のSSの見た目は俗に言う欧州ツーリング仕様ってやつだな。


 稀にサーキットで警察の白バイがパフォーマンスを見せる際、そんな感じでカーブを信じられない速度で曲がることがあるが、アレは白バイもアプハン仕様だから出来るわけだ。


 とか何とか話していたらまるで俺がスーパースポーツ否定派に思われそうだが、事故率が高いという事実を述べただけで、スーパースポーツに否定的な見解はねぇ。


 一度はリッター級スーパースポーツに乗るべきだ。

 きちんとした路面ならあの鋭い加速と凄まじいカーブでの横Gで「バイクに乗っている」感を最も味わえるのがスーパースポーツ。


 路面の影響をモロに受けるということは、より路面状態を乗りながら把握できる能力が求められ、常に集中することをバイクから強要される。


 最近は乗らされている感バリバリのスーパースポーツも増えたが、やっぱ「乗っている」「操っている」「己が全て」というものを味わえるのはスーパースポーツの特権だぜ。


 一度は乗ったほうがいい。


 だが、長く乗るもんでもねぇわ。

 終生の相棒にするにはあまりにも犠牲にするモンが多すぎる。


 免許の点数も己の命も何もかも。

 速度守ったってちょっとでも路面状況悪くなったら危ない思いをするからな。


 SSが走りまくる道路で住人が迷惑しているなんて話しが出たら嫌がらせで砂撒いてみたらどうだなんて他のライダーから危険な助言されるレベルにそういうのに弱い。


 乗ってて生を最も感じられる乗り物であるということは、つまり乗ってて最も死に近い危険な乗り物ってことなんだよな。


 特に2stレプリカ時代なんて回さないとエンストしてカーブ中に大変なことになることもあるから大変だったんだぜ?


 峠の登りカーブほど怖いものはねーからな。


 最近のバイクなんて上り坂のヘアピンで困る事ないだろ。

 2速でもエンストするようなバイクが30年前は普通に存在したなんて想像できない奴らもいるだろうな。


 現行のBMWのF700GSあたりが確かそんな仕様であると聞いたことがあるがどうなんだろうな。


 で、下りは下りでブレーキ利かねーし。

 それを己の体の姿勢制御だけを頼りに曲がっていく楽しさ。


 魅入られるとその時間だけ生を感じるようになる。

 若い頃の退屈な時間の中でその一瞬だけ輝くんだ。


 まぁ30代や40代超えると多くの人間がそういうの興味なくなるんだけどな。


 周囲の景色が突然目に入ってきて、普通に曲がれるバイクでよくなる。

 それってやっぱアレか?


 少しずつ死に近づいてるってどこかで意識してるからなのかね。


 ちなみに見た目が似てても日本におけるメガスポーツは事故率低いぜ。


 なんでかって?


 アレは確かにカーブもヒラヒラ曲がれるバイクだが、SSみたいな曲がり方しないんだよ。

 カーブを曲がる際にあんま傾かない。


 傾けられるが自然に姿勢が戻ってきてしまう。

 傾けすぎると曲がりそうな雰囲気あるが、その前に大きくインに回りこんでしまうよな。


 おまけに傾いている途中にだんだんバイク自体が起き上がってくる。

 無茶してハングオンしながら傾けられるが、バイクが反対方向へ戻ろうとするからその姿勢が辛い。


 ZX-14Rやハヤブサなんか乗ってた人にゃよくわかるだろう。

 重量重過ぎてリカバー不可能だからそんな傾くような仕様にしてないんだ。


 そしてバカデカくて目立つから案外事故は少ない。


 まぁメガスポーツに乗る人ってそういう危険な走りから抜けた人も多いらしいからな。

 スーパースポーツで慣れた人間が「ちょっと俺も落ち着くか」なんて考えつつも「スペックはオーバースペックであってほしい」と考えて選ぶとアレにたどり着くらしい。


 ただ、これは日本の話。

 国外ではアウトバーンで300kmとか本気で出そうとするようなバカ続出で最終的に免許制度や保険制度にまで影響してしまった。


 だからメガスポーツが本気で安全かどうかは「使い切ってはいけない」性能を使いきろうとするかどうかにかかってる。


 使い切らずに乗るならメガスポーツはSSより安全に出来ている。


 スーパースポーツは各種電子装備でそういう風に調節してきているが、それでも厳しい。


 だからなのかメーカーは新しい段階のフルカウルスポーツを提案するようになってきた。


 例えばNinja1000なんかは国外、国内、メーカー共に「スーパースポーツ」という扱いじゃない。

 アレは非常に安全性を考慮したバイクとなっているが、そういうスーパースポーツらしい挙動ではないんだ。


 でもカワサキがこう言いたいのがわかる。

「もうそういう時代じゃないだろ?」と。


 NinjaH2とNinja1000の両者はレプリカの後に続くスーパースポーツに対して一石を投じて新たな段階へと昇華させたいバイクなのさ。


 律にゃメガスポーツとNinjaH2の双方ぐらい1度は乗ってほしいものなんだがな……

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