番外編:ウィラーの独り言7
グラディウスか。
あのメスガキいい趣味してやがる。
こいつぁ、スズキが何度も日本のライダーに問いかけ、最終的に諦めた普通二輪で乗れるVツインの最終型……だ……多分な。
その昔、スズキはSV400というVツインスポーツバイクを出した。
アルミフレームにVツイン、そしてハーフカウル、セパレートハンドル、シングルサスペンション。
スポーツ性は確かに高いんだが……まさに「スズキ」と言わんばかりのチグハグさ。
デザインは割と普通だったんだ。
SVシリーズは欧州向けだったもんでネットでネタにされる「スズキ」なんてなイメージにはならねぇ。
だが国内向けとしちゃあ一体どこにアピールしたいのか、どこの層を狙ってんのかまるでわからねぇ代物としてソイツぁデビューした。
1998年のことだな。
最大の特徴はハーフカウルの400ccなのに190kg切ってる装備重量だ。
アルミトラスフレームの設計はお見事という他ない。
スズキはこれを「日本のニュースーパースポーツ」「公道最速の400cc」だとかわけわからねぇ宣伝してたが……
その当時の日本で流行してたバイクなんてーのはネイキッドなわけだよ。
性能は二の次で良くなってた時代なわけよ。
確かにそういう性能求める層もまだ残ってたんだがよ、
そっちについては2ストが1998年に規制食らったばかりでまだ生きてたから「400cc公道最速はテメーんとこのRGΓ400だろうが」なーんて雑誌でも酷評。
4ストエンジン最大のトルクなんてものは見向きもされなかった。
売れ筋はツインサスにダブルクレードルフレームの四気筒か、2stレプリカかーみたいな時代で、その裏でちょいちょいオフロード系が売れてたような状況。
だから販売後すぐさま大苦戦。
本当は新しい時代を切り開きたかったスズキは苦汁をなめさせられる形に。
苦しんだスズキはすぐさま丸目のネイキッド版を出す。
オッサンがよく知ってるSV400は殆どネイキッドだろう。
そっちは多少売れたから見たことがある人間もそれなりにいるだろうが、実際は丸目ネイキッドの設定は最初なかったんだぜ。
これの購入層が現在のSV650の購入層だと言われるが、SV400のネイキッド版もまた出てすぐにバカにされた。
そう、同時期に出ていたアイツと似ていたからだ。
なぜか失敗扱いされるCB-1だ。
本田宗一郎が晩年「後のネイキッドバイクのスタンダードになる」ことを目指してこさえたバイク。
コイツとSV400はエンジンこそ違えど、目指したタイプは非常に似ている。
後に欧州では「ストリートファイター」なんて言われるスタイルをスズキも同時期に作ったわけよ。
この丸目ネイキッド版は日本よりも案外国外で評価されたが、スズキは「Vツイン」の素晴らしさをなんとしても日本国内で広めようとしてたわけだ。
スズキがVツインに拘りを見せた理由はその振動と排ガス規制にある。
排ガス規制などについてはこの時点で実はEURO3まで検討されていた。
続々と厳しくなる排ガス規制に対して「多気筒」は厳しい代物。
恐らくエンジンの主流は二気筒となるが、
並列二気筒や直列二気筒となると振動が強すぎて、現在主流で今後もメーンの層になりうる四気筒ユーザー、それも軽量バイクを好む中排気量帯を好む層がみんなバイクから逃げてしまう恐怖があった。
そこで振動を極めて抑制できる90度クランクVツインに目をつけたわけだ。
Vツインって振動強いんじゃないの?というのはハーレーのせいだ。
アレは45度クランクとかいう「あえて強い振動を生むための構造」にしたエンジン。
本物のVツインは90度クランクが正しい。
今後排ガス規制が強化されるとボディにスペースが必要となりうる。
となると、バランスシャフトと呼ばれる機構が不要となるVツインには将来性があった。
エンジン部分を細身にできるということはその周辺にいろいろ機構を仕込める余地が残るからな。
現在では実際にVツインとパラツインが双方共にある程度の地位を築いているわけだが、スズキはパラツイよりVツインの方が振動制御などでバイクらしい挙動になるからと当時から好んでいた節がある。
現在のバリエーションを見てみると実際そのままそのスタイルを貫いている。
国外では高く評価されるアドベンチャースタイルのマシンであるV-StromシリーズはVツインだ。
というかあのVはそういう意味だ……意味だったんだが……
なぜか250ccの奴だけ違うがそれはそれとして、少なくとも売れ筋マシンにVツインと四気筒なんかで勝負仕掛けてるスズキは国外では「変態」というよりかは「拘りのメーカー」として名を馳せる。
欧州の人気車種においてミドル排気量から「四気筒」「Vツイン」のエンジンを搭載したモデルを出しているというのは実は珍しい。
ミドル排気量の大半がパラツイばっかになってしまったから、むしろ「パラツイとかふざけんなよ」なんて層が「ハーレーみたいな奴じゃない90度クランクの本物を!」なんて目指すとスズキにたどり着くわけだ。
スズキとしては「VTRという存在が日本にもあるし、軽量Vツインスポーツには可能性がある!」ととんでもない額の開発資金を投入した上で作ったんだが、
大コケの大失敗。
SV400は誰がどう見ても優秀なバイクだったにも関わらず、日本のガラパゴス文化に負けた。
しかしアメリカ、欧州でコイツは「未来のバイクだ!」「次の時代を担うバイクだ!」なーんて大ヒットしちまったんだ。
というか、CB-1がストリートファイターの元祖とかいわれるけど、あんなの国外でもそんな売れてねえから。
今のストリートファイタースタイルを作ったのはコイツのボアアップ版だったSV650だよ。
日本の現行型のSV650とは違うSV650だ。
本気で大ヒットして、「シングルサス」「ほどほどの空力特性」「無駄な物を省いた構造」という21世紀の基本構造を確立していったわけ。
ここに足りなかったのはアップハンドル。
後にコレはヤマハがFZ-1Fazerにてその眠れる需要を掘り起こす。
あっちの初代は本当に「ただのネイキッドにYZF-R1のエンジン搭載してみました」なんて感じだったが、次のモデルから「YZF-R1のカウルを取り払ってアップハンドル付けてみました」なんて形にして大ヒットしたけど、その時にライバル車種として列挙されてたのはSV1000だったんだぜ。
SV1000にアプハン改造が割と流行してたのも求められていた存在はそういうモノだったんだろうな。
それについてはカワサキとかが気づいて後にNinja250Rを作って全世界のスタンダードとしてはフルカウルにアプハンだと世に示すのだが。
おおっと話が逸れたか。
グラディウス400ってのはようはそのSV400のリベンジ車種。
さらに振動を抑制し、高回転までフラットに回るようにし、乗りやすくしつつもスズキの技術力をふんだんに生かしたマシン。
残念ながら日本ではこれも評価されなかった。
さすがのスズキもそれで諦めたようだ。
惜しいよなぁ。
この新造された鋼管トラスフレームでアドベンチャースタイルにしたら、もしかしたらチャンスあったかもしれんのに。
そうでもないのか……400Xがあの体たらくでは駄目か。
少なくともスズキはこのグラディウスで懲りた。
だがグラディウスが悪いわけじゃねぇ。
日本人の感性がどこかズレていた。
それだけのことだ。
グラディウス400を投入する際、スズキはある程度時代の波が四気筒ネイキッドから二気筒ストリートファイターなどに傾いているような実感がしていた。
しかも今の時代のニーズにおいては「燃費」なども求められる手前、グラディウス400には十分「可能性」があったんだ。
だから2009年にコイツを国内に投入してみたんだ。
まぁその背景にゃ「あまりにも売れないGSR400」という存在に代わる400ccネイキッドバイクを求めたという事情もある。
GSR400も悪くねぇバイクだ。
コスパ的にゃ値上がりしまくるホンダのCBよりよっぽど楽しめるバイクだった。
スズキとしてはこの二車種は「バイクとしてスズキ的に楽しんでほしい性能」も満たす優秀な道具。
若者向けに「なんでも出来るオンロード向けスポーツバイク」として販売していた。
ハッキリ言って、スズキらしくねぇ「優等生」だったんだよ。
だがなぜか、この「優等生」は評価されなかったんだよな。
まぁ俺としちゃあこの頃の「ホンダの優等生イメージのネット工作」の被害者なんじゃねぇかって勝手に思ってるけどな。
お前らの車種は2007年から体制一新で「安く早く大量生産」とかいって品質がジェットコースター式落下してただろうがって話だよ。
それはそれとして、この当時のスズキといえば、2006年式の「最強」と言われるGSX-R600なんかが評価されていた。
後にハヤブサに使うことになる32bitCPU仕込んだ電子制御マシン。
ラムエアだのなんだの「変態」要素満載の「性能一辺倒」を形にした、「まさにスポーツレーサーのスズキ」といわんばかりのGPマシンからのフィードバック満載のミドル級スーパースポーツ。
ていうか正直な話コイツは「GPレース用車両に保安部品つけただけ」みたいな存在だったが、電子制御が優秀で公道でも頑丈でよく走ったのさ。
笑えることに国内でもこっちのゲテモノの方が評価されてバカ売れ、逆輸入されまくった四気筒126馬力の化け物に「ミドル級スポーツ車両は俺の独壇場だから」と真っ向から否定される。
しかしそれは、日本でも商品展開をしたいスズキにとっては屈辱。
最終的にSV650という形でグラディウス650の排ガス規制対応版は出しても、グラディウス400は結局そのまま生産終了になってしまうわけだ。
これにスズキも頭を抱えることになった。
実はこの時、グラディウスやGSR400、そしてGSX-R600を通してスズキはある事に気づいた。
本来売りたいと思っていた若者層は「いきなり大型免許」を取得し、「600cc前後のミドル級」から手を出すか、「250ccで我慢する」層の二極化をしていたことを。
売れている400ccはホンダだけ。
カワサキもヤマハも大苦戦。
つまり、またもや時代に否定されてしまった。
今度は性能ではなく「経済的」な事情などから来る趣向の波に飲まれた。
恐らくはグラディウス650をそのまま販売すればよかったんだとスズキは理解してしまう。
そして2018年現在、SV650がかなり売れてる点からして「それが正解」だったのだ。
日本人向けに無茶して400ccでこさえることなんぞせず、普通に650ccとして出せばよかった。
ただし、現行型日本版SV650はまるで手を抜いちゃいない。
いろんなところで日本人向けとして新規設計しなおしてるからな。
ようは未来があると20年前からずっと開発に力を入れたVツイン自体は、2020年代に進んでいく現在においてSV650や一連のV-Stromシリーズで受け入れられたので、最終的にスズキとしては「自身のスタイルは日本人にも受け入れられた」と判断しているんだと思う。
だから今、Vツインの250ccエンジンをこさえてんだろう。
それは日本だけでなく東南アジアなども視野に入れた戦略だ。
しかしスズキの必死なもがきは結局、ついに受け入れられることなく終わってしまった。
グラディウス400はその被害者と言えよう。
だが、今乗ればよくわかるぜ。
CB400なんて古臭いバイクでしかねえってことがな!
とっとと250ccのVツイン出してみろよ。
生き返れたら俺が買うかもしれねぇからよ!
そしたらホンダは無茶してでもVTRを復活させるだろうさ。




