湾岸線と夕日……そして免許獲得へと挑む
書いてて気づいた。
まだ1年に満たないから違法行為ぢゃん。
当初設定が17歳だったことの名残だったので簡便してっ!
その日の昼過ぎ、二人は湾岸方面にあるバイク用品店に向かうことになった。
綾華が「一度行ってみたい」ということに律も同意したためである。
グラディウス400には綾華が長距離移動のために必要とした道具類を入れるための大型のシートバッグがタンデムシートに装着されていたが、その部分は外された。
荷物を積載することができないため、律は大きなリュックを背負い、後ろに乗ることにする。
しかし、グラディウス400のタンデムシート構造から律は嫌な予感しかしない。
(めっちゃ斜めに傾いていて、前にどんどんズリ下がっていきそうなんだけど……)
この手のスポーツバイクにはよくあることだが、走行時の制動力などの関係で発進時や加速時に大きく後ろにGがかかることがあるため、タンデムシートは斜めにフロントシート側に傾いており、ふんばらないとあきらかに運転中の綾華にぶつかっていくような構造となっている。
元々タンデムなどまるで考慮していない種別のバイクであるからだが、綾華にとっては当然、
「計画通り」と最初からソレを考慮してグラディウスを持ち込んでいたのであった。
律は覚悟して乗ることに決めた。
その後――ガレージから出た二人は出発準備にとりかかる。
グラディウスのタンデムシートはタンデムステップに足をかけねば乗れない。
しかし綾華は普通にサイドステップを下ろさない状態のまま律がタンデムステップに体重をかけて乗り込んでもまるで動じる様子がなかった。
VESPAと比較して狭いタンデムシートは律にとって窮屈そのもの。
しかもシートは前に前にと律を押し込もうとする形状である。
律はクラブバーに手を書け、その上で綾華の尻もとい太もも部分をニーグリップするような形で姿勢を安定させようとした。
その姿に綾華は「ほーう」と経験者なんだなあとばかりに妙な反応を示した。
実は綾華、どちらかといえば律に掴まってもらいたかったのであるが、律は前回の反省とグラディウス400の装備からクラブバーを握ることを学び、実践しようとしていたのだった。(VESPAにクラブバーに相当する存在はなかった)
その後、高速に乗れない状態であるため、二人は環状七号線を南下し、国道357号線に入って東京ゲートブリッジを通って湾岸線沿いを目指す。
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「案外空いてるもんやねー」
律の指示によって20号線から環状七号線に入る際、一旦世田谷通りから入った綾華は大原交差点の大渋滞を回避した形になっていたが、環七の内回りが意外とペースの速い道路であったことに驚いていた。
都心部というのは渋滞しかしないと勝手に考えていたからである。
「環七は渋滞するポイントが決まっていて、この辺りの内回りは混まないのさ。混むのはいつも外回りばかりでそれも時間帯によるんだ」
「おろっ? 律くん随分詳しいなぁー」
「まあよく使ってたからね……」
「そういえば仕事場が湾岸線の方やったねー」
綾華は優衣と比較してもさらにタンデム走行、いやバイク走行そのものに慣れた様子であった。
運転中、律はとにかく交差点とカーブが怖かった。
とにかく彼女は車体を傾けるのだ。
その度に律はふんばらなければならない。
実は律と密着したいがためにあえてそんなことをしている綾華だったが、律は気が気ではない。
律が「もうちょっと傾けないで曲がれないの?」と聞いても、
「そういうバイクやしねー」と意に返さずバイクを傾けた。
グラディウス400はバンクセンサーこそ擦らなかったが、ステップが擦るかといわんばかりに傾く。
実際、グラディウス400はサーキット向けといわれるスポーツバイク。
ボアダウンしたことで発売前の評価は低かったものの、いざテストドライバーが乗ると味付けがスーパースポーツバイク風になっており、排気量が下がって足りないパワーをエンジン回転数などによって補う調整としていた。
そのため、スーパースポーツバイクなどを好むレーサーなどからは「一度は乗った方がいい」「こいつで練習したら上手くなれる」と太鼓判を押されており、実際にアマチュアのサーキットレースでこれに乗るライダーもいるぐらいである。
だが、残念ながらグラディウス400は不人気車種。
日本においては「Vツイン」なる存在自体が否定され、CB400のライバルとして人気があったインパルスとは一転して不人気となったGSR400と共に国内では大苦戦し、最終的に排ガス規制の波に飲まれて2017年に販売を終了した。
そんなグラディウス400だが、「売れないなら売れるように!」とスズキが努力した形跡がある。
それはVツインの利点でもある「鼓動感」というものが押さえつけられ、上までよく回るように調節されたエンジン。
53馬力と、この排気量としては非常に優秀なパワーを誇るこれは上までよく回り、結果的にそれがVツインにも関わらずスーパースポーツ車両のような挙動となる要因となっている。
律もまた「そんな悪いバイクには思えないなあ……」と不思議がるほどにグラディウス400は完成されたバイクであった。
日本において普通免許帯のVツインといえば、売り上げ的にもVTRとその兄弟が圧倒的に支持されていたが、VTRよりもより振動が少なく、律はタンデムしていても特に不快感は感じられなかった。
ちなみにサーキットでも余裕で走れるというのはGSR400と並びスズキの謳い文句の1つ。
SSに使われるようなスイングアームとアルミフレームに高回転まで回るエンジン+自主規制を大幅に突破したエンジンをこさえたGSRもサーキット向けとしての戦闘力は十分であり、
グラディウスとGSR400は両者共に「これからサーキットを目指す者たちへ」なんて感じでサーキットでのイベントを積極的に展開していたものの、
時代はすでに「ツーリング!」「キャンプ!」「万能!」なんてことになっており、「回して楽しいバイク」よりも「回さず楽しいバイク」にシフトしていた。
Vツインとしては倒すべき敵の1つである250ccのVTRにグラディウスがまるで歯が立たなかったのも、VTRは時代が求めた性能をずっと満たしていたからなのだと言える。
丸目にしてもっと積載力上げたらもしかしたら……と思えなくもないがスズキにそこまでグラディウスに開発資金をかけるのは厳しかったことであろう……エンジン関係にものすごく金をかけた結果燃料計すら新しいものを作れなかったのだから。
律がそんな感じでグラディウスを堪能している間、綾華の中には不満が溜まっていた。
そのため、あえて赤信号時に前ブレーキを強めにかけるようになる。
しかし律はグラディウスの挙動に慣れてきて抱きつかれてラッキースケベのような展開にすらならなかったことで早々にそっちの展開から二人の仲を現在の状況で縮めることを諦めた。
律に「ヘタクソ」と言われるのも嫌だったからである。
そうこうしているうちに二人は平和島の方まで到着。
約1時間ほどでそちらまでスイスイと進んでしまった。
律は一旦停止することを綾華に指示する。
綾華は道路脇にバイクを停車させた。
「ショップの開店時間はまだまだ十分余裕あるし、ここらで時間潰さない?」
「ほえ?」
「東京ゲートブリッジからの夕日がアクアラインと並んで結構綺麗だから」
律は過去の経験からバイクから望むゲートブリッジからの夕日を眺めたいと希望し、平和島にて2時間ほど時間を潰すことを提案する。
「私も見たいっ!」
元よりデート気分の綾華に否定する理由などなかった。
二人は近場のカフェにてしばし時間を潰し、夕方ごろに再び出発し再びゲートブリッジ方面へと向かった。
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「うわぁ!」
彼らが進む進行方向に対し、左後方より照らされる夕日の光は道路をオレンジ色で反射し、まるで宝石を散りばめたようにアスファルトが反射する。
その光景に運転中のため夕日を眺められない綾華ですら息を呑むほどの美しさが広がっていた。
興奮する綾華に対し、逆に律はとても静かであった。
唇をを閉じていなければ綾華の前で号泣しそうであったからである。
律がもう一度みたい景色は、このような夕日である。
先日もVESPAに乗っていたときに感じていたが、冬の夕日は美しい。
例えばその周囲に何もなかったどうなることだろう……
出かける当初こそ嫌々であった律は、東京ゲートブリッジに差し掛かった平和島に辿りついた際に思い立ったのだ。
「絶対に夕日が綺麗だから見なくては」と。
生き返ったように再び目覚めたときも夕日だった。
以前から夕日はものすごく好きで、逆に日の出直前の状態も好きだった。
しかし、やはり夕日は別格であった。
この日は雲が少しかかっていたものの、それが逆に光の帯のようなものを発生させ、さらにレンズフレアのようにありとあらゆるものを反射させあたりに降り注ぐ。
その光景は「生きていなければ」「この目で見なければ」見ることができない代物。
これを見るためだけに生きている意味があると感じられる光景。
本当は自分の足で、自分の力だけで見ようと思っていたのだが、一足先に綾華の手助けによってそれを見ることができた。
ただし、それで満足することはない。
もっと美しい景色がそこにある。
どこかにある。
そう思うと「急いで免許を取らねばならぬ」という覚悟をより強固なものとした。
その後、やや渋滞する東京ゲートブリッジをすり抜けつつ進んだ二人は目的地へと到着した。
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目的地のショップに到着すると、信じられないほど大量のバイクが駐車場に駐車している。
実はこのショップ、待ち合わせ場所などとしても有名な場所であり、平日でも大量のバイクが押し寄せる所となっていたのだった。
綾華は都内では珍しいこういった場所に一度訪れたかったのである。
律はしばらく駐車場内を綾華と一緒に回ることになった。
綾華は停車されている車両のモデルと簡単な説明をし、律はモデル名だけをスマホに打ち込んでメモを取っていた。
その後、二人は店の中に入る。
「律くん。バイクカバーはネットショップでもええと思うけど、メンテナンス用品などの小物はここで買ってしまおうか」
綾華は値段的にはここの方が高い可能性もあったが、どれがいいか説明できるということでこの場所で買うことを推奨し、律もそれに従った。
まず二人が向かった先はケミカル用品が並ぶコーナーである。
「それで、何が必要なんだっけ? チェーンルブとかほしいんだけど」
「まずはシリコンスプレーやね。フロントフォークの錆び止めメンテナンスとかに使えるのと、他にもいろいろ便利やから。このCUREの一番安いやつで……って律くんそのワコーズのは高いから!」
律がワコーズのものに手を伸ばそうとした際、綾華は値段を理由に7分の1程度の価格のCUREのものにせよと警告した。
性能的にはワコーズのもののほうが優秀だが、価格的なコスパでは天と地ほど差があり、大半の人間は「今とにかく必要で、そこにワコーズのものしかない」場合以外は買わない。
それでも一部の人間は「ワコーズのほうが優秀」と買うぐらい、評価されている商品でもあった。
「ワコーズのがいいって聞いたんだけど……」
「律くん。いい? 性能とコストパフォーマンスは考えた方がええんやよ! 律くん性能ばかり考えて凄く高いものばかりに手を出してるけど、これは消耗品やってわかってな。 すぐに無くなるモノに毎回2000円も払うのはもっとバイクに慣れた頃でええんやからね!」
やや強めの口調で綾華は律の品選びの姿勢について正そうとした。
律がこれまで購入してきたモノについては、綾華も「間違ってはいない」と判断できるものが多かった。
一方、明らかに「高すぎる」ものを「高性能だから」と選んでいる様子がある。
コストパフォーマンスを考慮しないとバイクにかかる費用は天井知らずであがってしまう。
どこかで線引きをつけねば、破産しかねない。
バイクを楽しむという場合「お手ごろだから」という意味もあるため、高級車ではあるが本当の意味での高級車ではないCB400に対し、信じられないほど金を注ぎ込むような真似をして後で失敗してほしくないのは綾華だけでなく光も同じであったが、すでに律が泥沼にハマりかけている様子から光より道を正せと託されていたのだ。
「確かにそうか……」
律は、何やら自分の金銭感覚が狂い始めた状況を薄々感じていたが、
綾華の言葉から自分が正常な認識ができなくなりそうになっている事にようやく気づいた。
「律くんには私達がいるから、そう気張って、いいもの、いいものってばかりやらずとも、本当に値段相応のいいものを教えられるんやよ。SHOEIはいいヘルメットやし、いつか私も買おうとは思ってるけども、いきなりそういうのに手を出さんとでもええもんやし」
律の様子が変化したことで綾華も落ち着いた口調に戻る。
綾華や光にとって一番怖いのは「泥沼にハマってそのままバイクをやめられる」事。
楽しさや厳しさもあるが、長く続けてほしいと願うだけに、律には失敗もそれなりにしてほしいが、信じられないほどの大失敗はしてほしくなかったのだった。
「わかった。俺は今日綾華のオススメするモノに従っていろいろ買うから、指南してほしい」
律はワコーズのシリコンスプレーを棚に戻し、CUREの方を籠に入れた。
その上で両手をやや広げ、綾華の意見は全て受け入れる姿勢であるこを表明する。
「そいじゃ次なー……うーん……チェーンルブは今スグ必要かなって思うんやけどねぇ……」
「え? 何で?」
「しばらくは慣らし運転のメンテナンスでバイクショップの所で面倒見てもらえるはずやしね」
律が視線を向けると綾華の方はチェーンルブのコーナーに目を向けていた。
「なるほどっ」
「まあ、ええかな。チェーンルブは人によって好みが別れるんやよね。私はジムカーナもするんで粘性の低いエンジンオイルを使ってるんやけど……
「エンジンオイルを使えるの……」
「昔から、レーサーなんかはみんなそれ使ってるんやよ-」
綾華はケミカルコーナーにてチェーンルブのすぐ近くにあるエンジンオイルを指差した。
エンジンオイルをチェーンに使う。
年齢が高い人や、自分で整備できる人ほど、案外そっちに手を出している。
理由としては
「安い」
「ヘバりつかないということはゴミが付着しにくくフリクションロスが発生しにくい」
「ツーリングが終わったら、またはツーリングの中継地点にてサッと一吹きする癖をつけることでチェーン長持ち」
など利点もある。
実はそれを手動ではなく自動で行えるようにしたアイテム(スコットオイラー)なんてものも存在するのだが……
綾華はジムカーナなどをやっていて、自分でも整備する関係上、エンジンオイルをチェーンルブとしていた。
ただし、レンタル用車両はさすがにそのようなことはできず、そちらは通常のチェーンルブを使っている。
今回乗ってきたグラディウスも例外ではなかった。
一応、自身の愛車を動かす場合は普段からエンジンオイルを持ち歩いており、休憩中に自分は水分を補給しつつ、バイクにはチェーンオイルを補給したりしているのだった。
300km毎~500km毎、もしくは200kmぐらい走行した後の休憩中などチェーンの状況を見て注油している。
しかし、これは「玄人」がやるもの。
ツーリング主体のライダーでこのようなことをやるような人間は少ないと思われる。
どこぞの筆者のように「休憩中にスプレー使ってバイク磨いてる」ような人間は殆どいない。
その筆者ですら「スコットオイラー」は興味があってもエンジンオイルは臭いの関係上周囲から注意されそうなため、手を出していない。
それでも魅力があるほど、粘性の高いチェーンルブというのは「ゴミが付着して整備が面倒」な代物。
というかチェーンメンテナンスは非常に面倒なのだ。
世の中にはシャフトドライブといってそういう面倒な一連のチェーンメンテナンスを無くしてしまうシステムもあるのだが、国産車両の大半はそんなものを採用していない。
ベルトドライブという存在もあるがアメリカンバイクやスクーターなどにしか採用されていない。
ちなみに粘性が高いオイルでも外気温が高いと溶けて流れ出すこともよくあるので、チェーンルブ自体は一般用のスプレータイプだろうがボトルタイプであろうが所有してツーリングするのが好ましい。
ロングツーリングならば特にそうである
綾華としては最終的に「エンジンオイル」を使ってほしいなーなどと考えており、今ここでどうするか迷っていたのだった。
「うーん……まあCUREの安いやつでええかな……性能それなりにええもんやし……」
「5.56とかいうのじゃ駄目なん? 家に親父が使ってるのが……」
律はケミカル用品の棚の奥にある5.56のスプレーを指で示す。
「んー? うーんと、バイク用のチェーンはシーリングチェーンといってチェーンの間にシール素材がかましてあるやつなんよ。5.56はソコ痛めるから厳禁やって覚えといてー」
綾華は5.56を使用禁止と注意した上で、CUREのチェーンルブを律の手に持ったカゴの中に突っ込んだ。
「後は洗車用具やけど……うーん……コーティングするって話やけど……カーボン系スプレーとマイクロファイバークロス大量に買った方がええんかなあ……シリコンスプレーでも清掃には使えるし……とりあえずシリコンスプレーだけにしよっかー」
綾華は追加でシリコンスプレーをカゴに突っ込むと、特売品の棚に向かい、そこからマイクロファイバークロスの10枚セットを3セット持ってきてカゴに突っ込んだ。
「洗車用スプレーはいらないの?」
「それは好みもあるんよー。プレクサスとかバリアスコートとかー」
律が目をやるとどちらも非常に高額である。
「どっちがいいんだこれ……」
「個人的にはバリアスコートやけど、最初はシリコンスプレーだけでええと思うなあ」
「ふーむ……(後で調べるか)」
律は洗車用スプレーは自分で調べることにし、今回のケミカル用品はこの程度にした。
その後、洗車コーナーへと向かうと綾華はチェーン清掃用のブラシとチェーン清掃用のアルカリ洗剤を見つけ、律の手荷物カゴに突っ込む。
「使うかどうかはなんとも言えんけど、一応1本あるとええと思うから入れとくねっ」
律のバイクのチェーンルブの最終状態がエンジンオイルであると考える綾華の場合、チェーンは「オイルと共に汚れが落ちる」ものである。
これを何に使うか。
それは「エンジンオイルに移行する際や、ハデに汚れた時などにチェーンルブを一旦全て落とすことができる」ために必要だと考えたのであった。
特にグリース系チェーンルブはゴミが付着するが、雨や泥などが被った場合の掃除は非常に大変。
そのためにこの道具一式はどうしても必要となるため、購入。
他にも洗車用具としてカーシャンプーなどの必要はどうかと質問する律に対しては、「律の自宅付近ではまともな洗車はできないから」と必要性はないと判断した。
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「さて、あとは……そういえば律くん積載についてはどうするつもりなん?」
「んー? しばらくは今背負ってるリュックサックでよくない?」
「えっ……」
実は律、シートバッグやトップケースの類の必要性はまだ感じていなかった。
ロングツーリングの際にキャリアぐらいは必要ではないかと思っていたが、まずは純正状態で乗ろうと考えたのだ。
理由は……
「なんかケースとか付けると挙動が変わって初心者は乗りにくいって話を聞いたし……」
「むむ……確かにそれはそうなんやけど……疲れるんやないかなあ……」
「まあ試してみてからでもいいかなーってさ、光兄も〔男ならリュックサックでいいだろ!〕とか言ってたし」
綾華は目を閉じて(光君のバカっ)と頭を抱えた。
元々愛車が多種多様なジャンルながら、箱やバッグを好まない光はリュックやショルダーバッグスタイル。
しかしそれは「非常に疲れる」ものであり、推奨できない。
長年鍛えて慣れている光と事故から復活してまだ3ヶ月の律では状況が全く違う。
しかし光の意見も参考したとなれば否定しにくい空気である。
綾華は溜息を漏らしつつ「まぁそれでええんなら、ええけどね……」とその場は一旦それで納めることとした。
最終的にバイクカバー以外に必要となる小物類なども全て購入した律達は、そのまま家に戻ることにした。
夕食を外食しようという考えもなくはなかったものの、遅くなりすぎると母親にドヤされる可能性があったためである。
綾華も渋々そこに同意し、二人は20時頃に自宅に戻った。
その後、律と綾華は別の部屋で就寝することになり、律が昼寝した際と同じ物置部屋を改装した場所で寝ることになった。
夕食の際、綾華からの提案で、
綾華は明日の昼ごろ帰る予定なのもあり、律の自動車学校での教習の姿を見学することになった。
律は「恥ずかしいから」と主張した一方、綾華は「次くる時は乗れる状態なんやよって、言うてたやんかー?」と律を挑発していた。




