情報整理と情報収集。
最終時限に教習を入れていたのは正解だったと律は考える。
ショップでの感覚を失わないうちにもう一度CBに乗れるからである。
自動車教習所の近辺で早めの夕食を済ませた律は、最終時限の教習へと向かっていった。
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最終時限の指導員はなんと女性であった。
指導員に女性がいることを知らなかった律は驚きつつも、普段どおりを装ってプロテクターを身に着け、教習に向かっていく。
赤タンクのCBを所定の位置に持っていく時に思ったのは、セロー、XSR700と比較して非常に重量感があるが、別にバランスが悪いわけではないということだった。
マスの集中化が図られたXSR700はバランスがよく、取り回しが楽だったのだ。
一方でCBはやはりこの道30年近く強化はされど進化しなかった老練。
古い設計故に高い重心や分散された重量配分による重さを感じる。
しかしそれでも乗ってみると、ベッタリと両足がつくので安定感があり、セローやXSR700と比較して劣るかどうか言われてもそうは思わないなという結論に達した。
教習に関してはこの回にて初めて検定用コースを回ることになった。
見極めにおいてはそのコースから「一本橋」と「急制動」を取り払った形のものとなるということで、次回以降もコースを回る事になるのだという。
検定コースは2コース存在するため、次回は別のコースとなる予定だという説明を受けた。
すでに辺り周辺は暗くなっており、律はCB400のヘッドライトを転倒させることを指示されるが、ここで妙なことに気づく。
(……ヘッドライトスイッチなんてさっきまで見てたバイクにあったっけか?)
先ほど、店舗で見せてもらったすべてのバイクは、エンジンをかけると自然にすべてのライトが点灯するようになっていた。
一方、このCBはポジションライトとヘッドライトのスイッチが存在し、平時はポジションライトを常時点灯させているのだった。
実は1998年に常時点灯が義務付けられるまで、バイクにはヘッドライトなどのオンオフスイッチがあった。
一方のNC31は、1998年を最終モデルとするバイク。
つまり、「この保安基準前」の代物。
よって、そのような機能などない。
ただし、教習仕様については「公道を走らない」のでNC39の教習車もNC31と同じスイッチ配置だったりする。
NC42以降はコストダウンとの兼ね合いから一般車と同じものとなった。
――夜の教習はそれはそれで楽しかった。
(ナイトツーリング……アリだ!)
やや冷たい風が律を襲ったが、それなりに楽しむことができた。
その後、律は指導員の指導の下、コースを回り、課題をこなしていく。
不安要素のある一本橋については、女性指導員より「素早く抜けてみて」と言われ、はじめて突破に成功。
ただし一本橋通過は5.5秒と、やや厳しいタイム。
段々なにかコツのようなものが見えてきた律であった。
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教習を終えて自宅に戻った律は、自室に引き篭もって本日手に入れてきた各車両の冊子などを広げ、バイクについて調べる。
とにかく重要なのが、これまでに収集した情報を整理することである。
まず重要なこと。
・ホンダの250cc以上の新車を購入する場合はホンダドリームのみでの購入となる
・ホンダの保証は新車のみ
・ヤマハ、カワサキ、スズキの3社のディーラーは「中古」「新車」「逆輸入車」の全てを保証し、それらを実質的なメーカーのディーラー的立場の小売店ならば排気量関係なく購入可能。
これらを踏まえた上で律には購入方法に3つの選択肢があることが理解できた。
1.250cc以上の車両(CB400)をドリームで購入
2.ホンダ以外の3メーカーの車両を「新車」「中古車」「逆輸入車」の中から選び、ディーラーにて購入
3.ホンダは250cc以下、それ以外のメーカーは400cc以下で光の店で「新車」「中古」で購入。(光の店は並行輸入はやっていない)
1についてはホンダドリームの保証は125cc以下だと殆ど魅力がないためドリームで買う理由がない。
これはホンダコミューターも同様であるため、ドリームで買う場合は250cc含めた250cc以上の車両となるが250ccなら光の店でも新車が手に入るのでドリームにすべきかは要検討であった。
また、そもそも125cc以下を購入する予定もない。
2についてはどういったラインナップがあるのかこれから洗い出していく予定だが、選択肢の幅は広いと考えられる。
3については先ほど光にメールを送り確認したが、光の店は外車は扱うが国産車両の並行輸入には手を出していないため国産車を買う場合は国内で販売された中古または新車で、ホンダのみ250cc以下という条件がつく。
並行輸入はやっていないが外車は中古や新古等で存在しているという。
次に律は、現状の普通二輪でかつ入手可能な車両の中で購入意欲が多少なりともあるものを洗い出していくことにした。
原付二種には全く興味が無いので、125cc超~400ccが候補となる。
スクーターについては非常に興味があったが、まず1台目はMTで行こうという考えた結果下記のようになった。
<HONDA>
CB400SB
400X
CBR400R
CRF250Rally
<YAMAHA>
XJR400
MT-03/MT-25
YZF-R3/YZF-R25
セロー250
WR250
YBR250
<KAWASAKI>
Ninja400
<SUZUKI>
GSR400
GSX250R
<BMW>
G310R/G310GS
<KTM>
RC390
390 DUKE
ピックアップされたバイクの特徴の共通点としては「300km程度の航続距離」「パワーがそこそこある」「燃料計などの装備は一通り存在している」といったところで、得意な路面はバラバラであった。
また積載性や燃費性能などもまるでバラバラである。
まだ初心者の律にとっては「アドベンチャー」だの「デュアルパーパス」だのよくわからないし、とりあえず走ればいいといった認識であったのだ。
そのため、「これだ!」という特色がなく、まるで「乗れるバイクの中からそれなりのものをみんなピックアップした」と言わんばかりの存在であった。
しかしほぼ全てのマシンが「100km巡航が楽」なものとなっていて(セロー以外)
律は高速道における使用も視野にいれていることが一目でわかる。
「加速が悪い」とされた車種は殆ど除外されており、V-strom250などがゴッソリ除外された。
Ninja250も同様の理由で除外されている。
一方でCRF250Lのようにあまりにも燃料タンクが小さすぎるバイクも除外されている。
実はCRFは社外品ビッグタンクなどで最大20Lとか凄まじい燃料容積に改造可能であり、光自体がそのようなカスタマイズの経験もあったりするのだが、律はそれを知らずCRF250Rallyをピックアップしていたりする。
航続距離を伸ばしたい場合はRallyより拡張性のあるCRF250MまたはCRF250Lの方が優れていたがまだビギナー故それを理解できていない。
特筆すべきは新車価格。
笑えないことに一番高額なのが大本命のCB400SBで、次点がKTM RC390だが、
RC390はKTMが春ごろになると大々的にキャンペーンをやるので免許キャンペーンと合わせると最大20万円ぐらい下がり、他の車種と殆ど変わらない値段になってしまう。
新車だと絶対に100万オーバーから逃れられないのがCB400。
価格も表として洗い出した律は一人部屋で叫ぶ。
「どんだけCB400は高いんだよ!」
その姿をウィラーが遠くから無言で眺めていた。
律は溜息が止まらない。
買えることは買えるが、CB400だけでバイクを終わらせようなどと思っていなかったのだ。
現状においてCB400は最適解。それはよく理解していた。
シフトインジケーター、グリップヒーター、ETC。
他のバイクだとこれらはオプションで搭載せねばならず車体価格に上乗せになる。
しかしたとえばKTMは春のキャンペーンはオプション20万円分まで付与可能なんてキャンペーンをやってたりするし、YAMAHAも似たようなキャンペーンを展開中。
結局価格差が埋まらないのだ。
斯くなる上は中古で我慢するか?と考え始めるが、2014年式以降の中古は何気に結構高かった。
あまり新車と差が出ないとなると走行距離からして逆に中古は保証などを含めた問題で手を出しにくい。
「やっぱ変えるかぁ?」
諦めムードが漂いつつあった。
一通り調べつくした律はそのまま疲れて寝てしまう。
まだバイク用品もまるでそろっていない状況でバイクが決まらないことに若干の焦りと不安も感じつつ、明日は予約が取れず午前中までで終わるので、バイク屋めぐりをしようと考えた。
自身の家の近場にはいくつもバイク屋がある。
そこで更なる情報収集をしようと考えた。
そして彼はそこで出会うことになるのだ――
不の面でも正の面でもありとあらゆる経験を与えるそのバイクに――
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翌日。
律は朝の1時限目に教習を入れており、朝早くに起床するとそのまま準備して教習所へと向かった。
本日の教習はもう1つのコースをめぐること。
すでに教習は5回目。
バイクにはそこそこ慣れつつあるも、まだ低速時の挙動には不安がある。
しかし坂道発進やS字などにおける不安は殆どなくなってきていた。
肌寒い季節であるものの、メッシュグローブで特に問題なかった。
――教習が終わると合格の判定を貰う。
「見極めまで後3回。ここから見極めまではコースをめぐって問題点を指摘することになるんでがんばってね」
今回の指導員は40代とみられるベテラン。
細かい部分で律の問題点を指摘しながらも教習自体は割とアッサリ終わった。
一本橋については今回もなんとか成功。
律はコツを覚えてくる。
それは「出だしに一気に加速し、そこからは半クラッチなどを多用し、姿勢を前傾に傾ける」という方法。
これで何とかラストまで進むことが出来るようになってきた。
ただし通過タイムは伸びてはきているものの6秒前後で2秒ほど足りなかった。
実は律はこの時点では知らない。
本来、一本橋とは「ニーグリップでバランスと姿勢を維持しつつ、ハンドル操作でもってバランスをとり、まっすぐ低速で進む」という方法が正しいことを。
動画サイトではこれについて適当なライダーが「一気に駆け抜けろ」だの主張しているが、元来、低即時にはバランスがとりにくくなるのでハンドルを左右に小刻みに動かしてバランスをとるのが正しい。
これが大型ではとくに求められる技術で、そうしないと一本橋通過10秒というのは不可能となる。
また、この技術は渋滞時などにとても役に立つので、安全運転をしている限り、免許を取得した後にペーパードライバー化などしなければ自然にそんな走法が身についてくるので、ある程度普通二輪に乗ると大型免許取得時に最も厳しいのはスラロームぐらいとなる。
ちなみに余談だが、教習所の指導員が指導者としての資格を得るためには大型でここを30秒以上の通過タイムを必要とする。
それでいて教習所指導員向けの大会では予選通過が90秒
大会の決勝では170秒以上可能な者達が出場してくる。
これはもう走るというよりかは「途中で静止と小刻みな発進を繰り返す」といったものだが、90秒以上は可能でないと予選通過すら出来ないのだ。
律のような初心者ライダーは8秒でも苦戦するが、ものすごい世界である。
急制動については未だに後輪がロックして滑るものの、滑ってもライン2本以内に止まれるようになってきていた。
後輪がロックする原因は指導員曰く「タイヤのグリップ力がやや落ちてきててね」ということで、もっと前輪を強めにすることを求められた。




