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ヤマハスピリットと逆輸入

 近くの歩道橋から再び甲州街道の反対側に戻った律は、YSPへ向かった。


 こちらのYSPはかつてレーサーだったオーナーが経営する店舗。

 人数は少ないが、とにかくスーパースポーツ系バイクのカスタマイズなどに定評がある。


 外から店の中を覗いた律はホンダドリームとはまるで異なる印象の店内に驚きを隠せない。


「すごい……なんかモダンな……」


 まるで米国の自動車販売店のようだった。


 天井にはカスタマイズされたと思わしきビッグスクーターが吊り下げられ、他にもこの店のカスタマイズドマシンと思われるものが展示されている。


 その中に既製品と思われるバイクも混じっており、そちらも値札が付けられていた。


 しかし、ドリームと比較するとやや店の中に入りにくい雰囲気である。

 冷やかしはお断りといった雰囲気があった。


 しばらく店を外から覗いていた律は、意を決してYSPに突入する。


 律は知らないが、実はこの店舗、「カスタマイズとパーツ流用修理」などにとても定評がある店。

 多少古かったり特殊なバイクも知恵と工夫でカスタマイズしたり応急修理してしまう。


 全国を放浪していたMT-09のライダーが盛大に自損事故を起こした際、通常ならツーリング中止か長期療養になるような破損を起こした際には、在庫で余っていたYZF-R1のパーツ流用で半日で修理してしまったなど、とにかくそっち方面の話題に定評がある。


 元レーサーのオーナーが展開する店舗のメカニックマンは実に想像力が豊かであると評判で、この辺の地域では腕の上下幅が激しいYSPにおいて安定的な腕を持つと評価されていた。


 一方、サスペンション関係などに詳しくないので、細かいセッティング出しには不向きの店とされている。


 また、客層的には大量にあるスクーターのとおり、ビッグスクーターなどのカスタマイズ系を求める客が多く、そっち方面での評価の方が多い。


 実はやや特殊な趣向を持つYSPだったりするのだ。


 律が店内に入ると、「いらっしゃいませ!」と元気よくオーナーが出迎えてくれた。


 律は現在免許取得中で、バイク購入を考えていることを伝えると、YSPのオーナーはどういった利用用途を目指しているのか伺ってきた。


「なんというか車の代わりでして……街中も郊外もそれなりに走れる……そんな感じの」


 律の思い描く理想像は、「下駄」としての街乗りバイクとしてのポジションと、「ロングツーリング」などを目指す旅バイクとしての存在であった。


 話を聞いていたオーナーはいくつかのバイクを紹介してくれる。


 まず1番目が、セローである。

 ヤマハ定番の人気車種。


 かつてはCB400と「定番バイク」としての地位を争ったが、CBが年々売上げを落とす中、売上げを殆ど落とすことなく2017年で一旦販売終了。


 まるで走る道や趣向が違うバイクながら、どちらも旅バイクや日常バイクとしての存在として求められていた故に、公安などのポスターでもこの2台が採用されるなど、ライバル関係のようなものがあった。


 そして再び復活したモデルが、今、律の目の前にあるものである。


 復活したセローであったが、丁度中古の2017年最終モデルのツーリングセローがあり、比較することが出来たものの……


(……だめだ……わからん)


 律はその違いを見抜けない。

 大きな違いといえば、オイルクーラーが装着されている点だった。


 これはCB1100などと同じく、空冷能力をパワーアップさせるためにオイルクーラーを装着することで、排気ガス規制を達成できるようにした一方、以前と同じ性能を維持しようと試みて成功したもので、


 信じられない事にトルクが過去のモデルよりパワーアップし、燃費も向上していた。


 ようは「純粋な空冷」ではなくなった事を意味する。


 ここで少し余談だ。

 現在、純粋な空冷の機構をもつバイクはスーパーカブなど極一部にしか存在しない。

 一方、それまで空冷として成立していたバイクが廃ガス規制を突破するための方法としては


「空水冷」と呼ばれるBMWが見出した方法と、オイルクーラーを設置した「実質的空油冷」と呼ばれるホンダがかつてのF1で採用し、それをバイクにフィードバックさせたCB1100の手法が採用されている。


 ヤマハの場合もホンダと同じく、オイルポンプの能力を上昇させ、熱力学による温度差を利用した自然法則を用いたオイル循環をするオイルクーラーを配置することでセロー系エンジンの延命に成功させた。


 この仕組みは簡単に言うと「逆流防止のタービンのようなもの」を配置しつつ、走行風による温度差を利用して通常のエンジンで使われるオイルポンプを一旦オイルをエンジンの外に出して循環させるというもので、アニメ的に言えばザク1がザク2のようになったものである。


 エンジンオイルを一旦エンジンから外部のホースを用いて外に出し、走行風によって冷却させるというわけだ。


「これってスズキなどが編み出した油冷じゃないの?」と思う人がいるが、一般的な油冷とは「冷却専用オイルタンクがあり、それをオイルクーラーを用いて冷却するもの」なので、エンジンオイルそのものを血管のごとく循環させる手法は「空油冷」というべきであろう。


 ちなみに油冷といえばヤマハに関しては実はSR400がオイルタンクを2つ持つ「油冷」方式。


 しかもSR400は変態的な機構を持っており、「フレームの一部をオイルタンクとして使う」という知らない人が聞いたら「は?」としか言葉が出ないような構造をしていた。


 つまりSR400は、フレームが破損すると「オイルが大量に漏れ出す」という恐ろしい弱点があったりするが、このクラシカルなバイクがこの時代にまで生き残るのは「空冷ではないから」という最大の理由があったわけだ。


 はてさて、セローはその分、車体重量が増加していたが「リチウムイオンバッテリーとか乗せれば相殺できますよ」とのことで、よりパワーアップして戻ってきたのだった。


 しかし、このセロー。当然こんな見た目なので「足つき」に不安が出てくる。


 そこで律は跨らせてもらうことにした。


 見た目は見た目であったが、思った以上に普通に乗ることができた。

 ただし、踵は完全に浮いた状態。


 だが、ほとんど不安が無い。


 車体が軽いのだ。

 とにかく車体が軽い。


 そう、セローの重量はなんと135kg程度しかない。

 普段教習で律が乗っている代物よりも、大人の成人男性一人分も軽いのだ。


 オーナーは律の姿を見て「うん。オフロード系のデュアルパーパスからこれで大丈夫だね」と言い、オプションのローダウンサスの必要性は無いと主張する。


 やや怖かったものの、律も「慣れればどうにかなる?」と考えるようになった。

 それだけセローは軽いのだ。


 片足なら十分に踵をつけていられる。


(案外コイツの方が苦労しないかもしれない……)


 律はやや心が揺れ動いた。


 次に紹介されたのがSR400だった。

 こちらも2017年の排ガス規制で一度生産が止まったが、再び復活した存在。


 ヤマハの軽量クラシックバイクの代表である。

 最大の特徴は「今の時代にキックして始動」というクラシックっぷり。


 それだけではなかった。


 跨った律はすぐさま気づく。

 足つきはいい。

 重量も軽い。


 というか、400ccと言われてもそんな感じがしないほど小柄である。


 メーター周りが非常にシンプルだ。


 ところがどっこい、シンプルすぎて「燃料計すらない!」


 セローについてはある程度表示がちゃんとしていたのと、ギアポジションインジケーターも後付け可能とのことだったが、こちらは古のバイクそのもので「トリップメーターや重量感覚でもって燃料残量を把握する」という、今の若者にはなかなかに敷居が高い代物であった。


 見た目の印象は非常に好みであるが、燃料計がないのは律にとって致命的であった。


 SR400は候補外として、次のバイクを紹介してもらうことにする。


 次に紹介されたのは……なんとCB400ソックリな存在であった。


 YAMAHA XJR400。

 最終モデルであった。


 新車ではなく中古。

 しかし常態は完璧。


 すでに10年落ちではあるが、そんな印象が全く無い美しい車体であった。


 跨ってみるとCBとさほどイメージが変わらない。


 変わるわけがなかった。

 カワサキのゼファーから始まったネイキッドブーム。


 以降、ホンダのCB400、ヤマハのXJR400、スズキのGSX400インパルスが追随し、四天王を形成し、90年代のある時期には「湘南の夜はこの4車種ばかり」といったような状況になるほど人気を博した存在。


 CBに劣る部分など殆どない。


 最終的に生き残ったのはCBだけであるが、空冷でパーツが少なく整備しやすいXJRはまだまだ現役で、このXJR400もそのうちの1台であった。(そもそもこの手のネイキッドバイクは非常に頑丈で、その中でも突出して頑丈なCBはNC31がまだ平然と現役だったりする……要因としては教習用のSF-Kのパーツが流用できるから)


 価格も非常にお手ごろな乗り出し込み込みで約70万円である。


 だが律には不安がある。

 ドリームの説明から、中古車両は保証など様々な問題を抱えているのではないかと思い、質問を投げかけた。


「あの……でも中古ってどうなんです?」


「んー? YSPの場合は新車も中古も、逆車も同じ保証なんで大丈夫ですよ。XJR400はまだパーツも豊富にありますし、それと、お客様の要望があれば逆輸入車もご用意できます」


 まるでそれが当たり前のことのようにオーナーは語る。


 ―――――――――余談―――――――――――


 そう、実は「逆車」と「中古」に厳しすぎるのはホンダだけだったりする。


 カワサキ、ヤマハ、スズキの3メーカーは「ディーラー保証は新車、中古、逆車全て同一」とし、通常では保証がつきにくいような逆輸入車両についても保証が付き、さらにはそれらの逆輸入行為すら簡単に行うことが出来た。


 それにはとある事情が関係していた。


 近年、グローバルモデルと呼ばれる世界展開されるバイクが主流となる中で、ある問題が出てきていた。


 それは「日本で販売するにあたり必要な衝突試験などの技適を獲得させようとするとコストに見合わない」という事情である。


 特にホンダはそれが顕著なほど国外に独自モデルが大量に存在しているのだが、基本的にそれらについて一切輸入するこをと検討しておらず、ドリームでは一部店舗以外手に入らない。


 今のところホンダの逆輸入車と呼ぶべき存在は個人商店が独自に輸入してきた「並行輸入」というべき存在のみである。


 その一方、3メーカーは普通にディーラーともいうべき直営店だと完璧な保証がついて購入が可能だったりするが、


 これについては「とりあえず国外で技適を取っていれば、輸入すれば日本でも排ガス条例などに問題なければ公道を走らせられる」という抜け道があり、


 バイクの本体やパーツ等の輸送費用等はそこまで高額ではないので、こういった保証を行っても企業負担はそこまでではないばかりか、そういう販売体制のほうがユーザー需要を満たせるので、このようなサービス体系となったわけだ。


 ちなみに、この逆輸入行為について、企業ぐるみで一番最初にやったのは「スズキ」である。

 それもバイクがまるで知らない人でもこのバイクは知っていると言われるGSX1100Sカタナに対して行ったのである。


 それまで、国外だけで展開された車両というのは「個人輸入」だけに頼っていた。


 あのグレートティーチャーが乗るZ2のエンジンも、そんな感じで個人輸入したZ1のもの。


 そんな中で、スズキはとあるジレンマに堪忍袋の尾が切れ、逆輸入という裏技に手を出すのである。

 そこには「GSX1100Sカタナ」という存在と「GSX750Sカタナ」という存在が関係していた。


 当時の日本は750ccことナナハン全盛期。

 国内で販売されるバイクは750ccを最大排気量として制限。


 一方、GSX1100Sカタナについては国外でおぞましいほどの人気を誇り、そして国内でもその需要がものすごく存在している事をスズキは知っていた。


 しかし、GSX1100Sを手に入れられるのはブルジョアな個人輸入車の購入者達。


 国内では「もっと安く!」「カタナをよこせぇぇぇ」などと高らかに叫ばれる。


 そのため、スズキはとりあえず国内需要を満たす存在としてGSX750Sカタナを作るものの……当時の調子に乗りすぎて圧力ばかりかける公安委員会などは、GSX750Sカタナにウィンドスクリーンやセパレートハンドルを装着させての販売を許さなかった。


 結果、「カタナのような何か」というモノが「GSX750Sカタナ」として販売されるものの、売上げは思った以上に伸びない。


 しかしカタナユーザーは諦めなかった。

 ウィンドスクリーンやセパレートハンドルなどを輸入してきて装着する者が相次ぎ、なんとか750を1100仕様に近づけようと努力する。


 そこに「かかったなアホが!」とばかりにそれらの改造を施したカタナを点数稼ぎ目的で捕まえる事例が多発。これがいわゆる二輪の世界にて「昭和の刀狩り」と呼ばれたものである。


 この状況にスズキは激怒。

「お前らがそういう事をするならば、俺達はこうやってやるよ!」としてそれまで禁断の領域とされた方法に手を出す。


 それが「衝撃の逆輸入」というポスターと共に展開された、「自社で一度海外に送った車体を国内に送り戻して販売する」という方法であった。


 無論、公安委員会などは税関などを通して阻もうとするも、税関はこれを無視。

 当初スズキは「並行輸入」という言葉を店頭で用いていたが、公正取引委員会の介入によってその文言がすぐに使えなくなり……


 前述する「逆輸入」なる造語を新たに創造し、これでもってGSX1100Sカタナを販売した。

 ディーラーが逆輸入車を販売するという手法を最も最初に試み、そして定着させたのである。


 ようは、この世に「逆輸入」という言葉を生み出して浸透させた存在こそ、GSX1100Sカタナとスズキという会社なのであった。


 逆を言えば個人商店や単なる小売が「逆輸入」という言葉を使うのは正しくないわけだ。

 逆輸入とは「製造メーカーがその行為を行って販売する」ということ。


 以降、この姿をみたカワサキやヤマハ、そしてホンダも「おっしゃああ!」とばかりに逆輸入に手を染める。


 初代NINJA、V-MAXなどがこの流れに便乗し、最終的に日本国が白旗を揚げることになるのだった。

(余談の余談だが、逆輸入と言う言葉を一般的にしたというwikiの項目の加筆申請に賛同したのは私)



 問題はここからだ。

 カタナの一件が終わり、排気量規制が一段落した後、逆輸入の動きは一旦鎮静化。


 が、2007年を境にして、逆輸入は再び勢いを取り戻す。

 前述する「メーカー保証」というのはこの時期から本格的にメーカーが保証しはじめたものだったりする。


 どうしてこうなったかというと、2007年に日本だけ強化されまくった「騒音規制」や「排ガス規制」により、国内のバイクだけパワーが大幅に落ちるということが発生した。


 いろいろゴニョゴニョすると元のパワーに戻ったりするバイクもあったが、(フルパワー化)

 100馬力以上で国外で販売されたバイクが国内版だと95馬力になるなど、悲惨な状況になり、再び逆輸入が注目され活性化する。


 しばらくの間はそのような状態となったものの、2016年頃を境に再び沈静化した。


 理由は死にそうな状況になっている二輪業界による「コストダウンを目的」とした圧力により「排ガス規制や騒音規制はグローバルスタンダードに合わせる」という事になり、2017年モデルを境にして騒音規制などが取っ払われたからである。


 特に、2018年以降のモデルからは順次「スピードリミッター解除」など、国産バイクが国外と同じ仕様となってたりする事もあるので、日本国内で発売されたバイクを逆輸入する意味はほとんどない。


 が、一方で前述する3メーカーは「あまりにも売れないバイクは国内では表向き展開できませーん」という状態なので、表向きでは「そんなの売ってない」などとしながら、「逆輸入車両は完全保証します」という形でサポートするようにしたのだった。


 これも、国内のバイク人口の減少が影響しており、「本来よりか価格は上乗せ」となってはいるものの、それでも国外に展開するバイクを欲しいニッチな需要に応えんと、このような保証体勢となっている。(いかに日本国内で技適を獲得するにあたってコストがかかるのかがわかる)


 つまり、ヤマハ、カワサキ、スズキの3社は「生産し、展開する全てのバイク」が「ディーラー保証あり」で手に入るのである。


 加えて、この3社は「バイク人口の減少に歯止めをかける」という目的も掲げ、「中古車両も保証します」と保証体勢を充実させているわけだ。


 特にその中古車保障は「若者の新規ライダー向け」の保障だったりする。

 ここ最近の新規モデルの価格上昇によって若者ライダーがより離れる傾向があるからだ。


 そのあたりは「新車のみ保障」のホンダが急激に10代、20代の顧客を減らしているデータからハッキリと読み取れる。


 このサポート体制により、XJR400は現時点ではまだ維持できる。


 ―――――――――余談終わり―――――――――――


「あっそうなんですか!?」


「ええ。ウチではよほど特殊なバイクでない限り、みんな整備できますよ」


 律にとっては思わぬ収穫であった。

 ホンダというメーカーに拘りがなければ、むしろ律のおかれた環境にとってはXJRの方が有利である。


 律の心が再び揺れ動く。

 CB0400の呪いは一旦弱まることになった。

 第二段階にまで進行した呪いは第二段階のまま影響力がやや失われた状態となる。


 その後、他にもX-MAXなどのスクーターなども紹介してもらったが、最後にオーナーのイチオシしで律にオススメしたのはなんと大型車種であった。


 XSR700である。


 軽くてどこにでもいけそうなバイクで、かつCB400を現在の購入車種として検討中の律に、オーナーはXSR700はどうかと主張してきたのだ。


 XSR700。

 MT-07という、ヤマハのコストパフォーマンス重視のバイクをベースに、ネオクラシックと呼ばれる未来的な意匠と機能をもったクラシカルなデザインとしたもの。


 特徴はなんと言ってもその車重。

 700cc級でありながら、その車体重量は装備重量で186kg。


 とにかく軽く、いわゆる「あがりバイク」として大変需要がある。


 跨ってみた律の感想は「セローに負けないぐらい軽い」

 これはXSR700が、近年のバイクに重視される「マスの集中化」という、重い部位を一点に集約させつつ、低重心にする設計が効果を発揮しているもので、


 重心位置が高いセローやCBなど、古いタイプのバイクと比較して非常に軽く感じるのであった。


 足つきはやや悪く、やはり踵はつかないものの、こちらもバイク自体が軽いので特に気になる点はなかった。


(大型か……)


 現時点の段階で大型取得を考えていなかった律は、MT-07とXSR700は素晴らしいバイクと認識しながらも、とりあえず第一段階で手に入れるバイクは400cc以下しかありえないということで、XSR700は見送ることにした。


 中型ミドル級をしばらく乗って、それでもバイクににのめり込むなら大型にも手を出す。

 律の中ではこのような未来設計が構築されている。


 XSR700は一旦見送ることにしたものの、気品のある意匠と、品質の高そうな全体像から、XSR700にやや心が揺れ動くことになる。


 ただし、クラッチレバーを握ってみたところ教習車仕様CB400と同じレベルで硬く、これを乗りこなすのは厳しいなと感じてしまうのだった。


 クラッチを気にしていた律はXSR900の方をススメられ、そちらのクラッチレバーを握ってみると非常に軽く、やわらかい感じであったが、オーナーは「これはスリッパークラッチという機能の恩恵でしてねー」と、律の知らない謎の言葉を発していた。


 最終的に律はセロー、XJR400、XSR700の見積もりをとってYSPを後にする。

 この見積書を見て笑えないのがXSR700の価格。


 なんとCBより安かったのだ。

 免許キャッシュバックはYSPにもあり、そちらで計算してもらったところ、XSR700は何も付けなければ100万以下。


 そもそもCB400SFとXSR700は同じ価格帯だった。

 車検費用なども考えると、この2台は排気量が1.5倍差にも関わらず、コストはほとんど同一ということになる。


 車検などの要素を加味すると、燃費がよろしくなく、エンジンオイル量が多くなりやすい四気筒マシンのCB400の方が総合的なコストは上の可能性もある。


 CBの値段が非常に高いことを改めて自覚させられてしまった。


 セローは元より安い車体であったが、これには律も再検討もしなければならないなと思い始めるようになる。


 そうこうしているうちに時間が過ぎていった――

作中の話はやや未来の時代なので、セローやSR400などが復活しています。

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