アライとショウエイ(後編)
自宅より約30分。
多摩霊園に到着し、あるいてバイク用品店に向かう。
スマホによって歩くにあたっても道に迷うことがなくなったのは便利な時代だよななどと考えつつ、10分ほど歩いて用品店に。
入り口から入って目にしたのは、大量に置かれたレンタルバイクと、平日にも関わらず信じられないほど大量に集まったライダー達の姿。
休憩している者もいれば、購入したパーツを装着する者、何やら店員とみられるものと相談している者など、沢山の人がいた。
チラチラと辺りを見回した律は、とりあえず店の中に入ってみることにする。
入ってみると入り口の目の前にはお買い得品などが大量に並び、左側にはタイヤなどが大量に積まれていた。
入り口から奥を見ると。
(あれだ!……)
大量のヘルメットが陳列されているのを見つけ、そちらに向かう。
まず目に入ったのはArai。
国産二大メーカーの1つ。
陳列された商品をみるとどれも丸っこいデザインが多く、それでいてカラフルである。
なんというか「うん。ヘルメットだ」といったようなデザインであった。
律はとりあえずASTRAL-Xを手にとってみるが、軽い。
その昔、光のヘルメットを手に取った記憶がまだ残っているが、アレと比較して軽い。
製品の進化を感じると同時に、質感もかつて光が使っていたものより格段に良くなっているように感じた。
次にその傍にあったOGK kabutoの製品に手を伸ばす。
「なるほど……光兄が言ってたとおり、Araiとはシールドの品質が段違いだ……」
KAZAMIのヘルメットを手に取った律は、全体的な品質が一歩劣っていたが、特にシールド部分がペラペラな事にすぐさま気づく。
ガチッとして、まるでガラス板のようなAraiに対し、OGKは「ポリカーボネード」そのもの。
チープだとは思わないが、シールドの違いは明らかであった。
特にOGKはパコッとシールドが開くが、Araiはバゴッっとした感じでシールドにも手を抜いていないということがよくわかる。
インナーの品質についてはさほど差がないような感じたしたが、実際のインナーライナーについてはどうなのか律には判断できなかった。
そうこうしながら周囲を見回している律に電撃が走る。
(なんだこりゃああああああ!?)
思わず叫びそうになり、口が開く。
それは、律の常識の中にあるヘルメットではなかった。
KAZAMIですら現代風すぎるそのデザインに、まだ20代にも関わらずジェネレーションギャップのようなものを感じていたが、律の中にある「ヘルメット」という常識が吹き飛ぶ。
SHOEI X-Fourteen。
SHOEIのフラッグシップモデル。
目に入った瞬間の衝撃度は尋常ではなかった。
マットブラックのそれはまさに「21世紀のヘルメット」そのものであった。
まるでSFに登場するかのような、SF映画どころかガンダムなどのロボットアニメに出てくるキャラクターが装備しているかのようなヘルメットである。
すぐさまスタスタと近づいて手にとってみる。
第一印象「見た目に反して軽い」
第二の印象「こいつのためだけに免許を取る価値があるようなイカしたデザイン」
手に取った律はとりあえずシールドを開こうとしてみるが、
硬い。
他の製品と比較できないぐらい硬い。
左側のツマミ部分を持ち、力を込めたところ、シールドは「バガッ」と一気に開いて思わず落としそうになる。
その印象から「凄まじい機密性がありそう」なことが理解できた。
「すっごいなぁこれ……これいいなぁ……」
見とれてしまった律は値札を見て硬直した。
まるで呪文でもかけられたようになってしまう。
その価格6万。
先ほどのKAZAMIの2倍近く。
そればかりか、カラフルなモデルだと8万などという数字が見える。
眩暈がするほどの高額な値段。
先ほど見たASTRAL-Xより1万円も高かった。
フラッグシップの価格は伊達ではない。
思わずそっとヘルメットを棚に戻す。
このまま落としたりしたら、とんでもない事になりかねない。
被ることすら躊躇する価格である。
同じくフラッグシップと宣伝されているAraiのRX-7Xより高い、文字通り「最高峰のヘルメット」と言わんばかりの存在である。
そのあまりのインパクトに心打たれかけていた……が、ここで律は一先ず冷静になる。
(そもそも、フルフェイスでなきゃいけないのかな……格好いいけどフルフェイスとかものすごく息がしづらそうなんだけど……むしろこっちのジェットヘルメットとか書いてある方が……)
なんと律はヘルメットメーカーどころか、どういう形式のヘルメットにするかも決めかねていた。
それについて光に相談する前に電話を終了させてしまっていた。
実は律、教習所内で使うシールドすら無いジェットヘルメットの爽快感と視界の広さに心打たれている部分があった。
風を感じたい律にとって、フルフェイスは窮屈で視界が狭そうで手を伸ばしにくい。
一方の光は、律が当然安全性からフルフェイスを選ぶと考え、律にメーカーとして「Arai」と「SHOEI」を紹介している。
「ジェットヘルメットなんてどうかな?」などと問われれば、また違う話になっていたか、もしくはフルフェイスが良いということを説明するが、律がフルフェイスを買う前提で聞いてきたなどと勝手な勘違いをしていたのであった。
律が冷静になった理由は簡単である。
SHOEI X-Fourteenは高すぎた。
衝動買いできる価格ではなかった。
突出したその価格が、律を正常な精神状態へと押し戻したのであった。
その最中である。
「あのー。よろしければご案内いたしましょうか?」
用品店の店員が話しかけてくる。
「おっ……?」
すぐさま律は店員の方を向いた。
女性店員であった。
「あ、えーとですね……実は免許取得中で……ヘルメット見に来ていて……」
「どのメーカーか決められました?」
「知り合いのバイク屋の人はSHOEIかAraiがいいと言うのですが……」
律のその言葉に、店員は営業スマイルを見せる。
これは上級の客だという認識が店員の中でなされた瞬間である。
「やはりメーカーとしては私達としてもSHOEIかAraiをオススメはしていますね。モノが違います」
「そうなんですか?」
「ヘルメットにはそれぞれ、耐久性能に技適というのがありまして、SHOEIとAraiはそれぞれ、その技適でもかなり優秀なものを合格させた製品だけを売り出しています。SHARP規格とSNELL規格といって、どちらも安全性が極めて高いことを表しています」
女性店員はそう言うが、実を言うと、バイク用品店の店員が良く説明してきたり、ネット上などでも盛んに書かれているSHOEIのSHARP規格というのはある意味で間違いだったりする。
かつては確かにこの安全規格を満たす製品を出していたが、今のSHOEIはその安全規格に則った試験を行っていない。
が、実はそれは「その安全基準を満たさないから」ではなく、その安全基準では満足できなかったため、そのSHARP規格以上のものを目指すようになり、それを参考値にもっと頑強なものを作るようになったからである。
上記規格は間違いなく満たしていることからSHOEIはSHARP規格であると言われるが、実態としてはさらに上。
これは動画配信サイトで見られる、各国のSHARP規格を満たしたヘルメットで安全性を検証するものを見ても一目瞭然である。
SNELL規格の方が優秀だからSHOEIは劣るという判断は誤り。
実際SHARP規格の方がAraiが徹底的に重視するSNELL規格よりやや劣るが、SHOEIのヘルメットはそのSHARP規格を上回る製品を出しているのだから。
だから、国外でも凄まじい人気を誇るのだ。SHOEIは。
また、AGVなど各国の優秀なヘルメットもSHOEIと並び、同じように規格以上の存在を製品として世に送り出している。
そのため、SHARP規格というのは参考値にしかならない。
優秀とされ、その性能が高く評価されるメーカーほどもっと上を目指している。
欧州ヘルメットはSHARP規格基準だからSNELL規格を満たした製品より弱い……というのは実に早計な評価。
「ふむ……」
店員の説明に律は適当に相槌を打つ。
スネルという単語がよくわからない。
(臭いはスメルだしな……)といった程度の認識しか出来ていない。
そしてシャープというのも「目の付け所がシャープでしょ」といったようなフレーズが頭の中に響いてくる程度のものだった。
「先ほどX-Fourteenを手にとっておられましたが、お客様は……どういう趣向でバイクに乗られる予定ですか?」
「ツーリング……というか……基本的に車の代わりというか……」
「日常的な使用とロングツーリングといったところでしょうか……とするとX-Fourteenは合わないかもしれませんね」
「そうなんです?」
律は店員のその発言にやや驚いた。
X-Fourteenはフラッグシップ。
普通に考えて、「高いものを買わせたいのが店員ではないのか?」と考えてしまう。
実際、目の前で営業スマイルを展開している若い女性店員は、明らかにそれっぽいオーラを漂わせているではないか――と感じていた。
「X-FourteenやRX-7Xは、どちらかというとレース向きの仕様で、高速道路とかを多用し、かつスーパースポーツといった前傾姿勢になるバイクに乗る人に向いている反面、快適性がやや劣ります。X-Fourteenで言うと、重たかったりとか」
「へぇ~。では、ツーリング向けヘルメットというのがあるのですか?」
「AraiであればASTRAL-Xで、SHOEIであればGT-Airが該当します」
「GT-Airってどれのことなんでしょう?」
パッと見ただけではGT-Airがどれだかわからない律は案内を求めた。
店員は律をGT-Airが陳列されている場所まで案内する。
「こちらがGT-Airです。とにかく、ものすごい人気のモデルですね」
目の前に現れたヘルメットは、これまた律の中での「ヘルメット」という常識を打ち破るかのようなデザインである。
21世紀のヘルメットはこれだ!―と言われれば納得できるデザイン。
SHOEI GT-Air。
ヘルメットメーカーであるAraiが衝撃を受けるほどの凄まじい人気っぷりで、短期間で「ASTRAL-X」を世に送り出さざるを得なくなった2010年代登場の傑作ヘルメット。
欧州ではすでに広まってきていたインナーバイザーを搭載した、ツーリング主体の万能ヘルメットである。
その特徴はなんと言ってもこのインナーバイザーにある。
これのおかげでサングラスなどが不要になったばかりか、クリアシールドが使いやすくなった。
プライバシーの観点からミラーシールドなどを使うライダーにとっては、長年ネックとなっていたのが「視認性」とくに夜間やトンネルなどではシールドを全開したりしなければならないこともある。
インナーバイザー付きヘルメットは直射日光を防ぐためのミラーやスモークシールドの上げ下げなど不要になる代物で、持っていて損はないすばらしい機能であり、
近年はインナーバイザー付きヘルメットが様々なメーカーより登場し、大きく広まりつつある。
SHOEIにおいてはこれまで、インナーバイザーを搭載したヘルメットといえばSHOEI Neotecと呼ばれる、システムヘルメットと呼ばれるジャンルの、
ジェットヘルメットのようにヘルメットの前半分がフリップアップする、フルフェイスとジェットヘルメットの融合体だけであった。
そこに新たに登場させたのがこのGT-Air。(それとインナーバイザー付きジェットヘルメットJ-Cruise)
GT-Airはツーリングヘルメットなのにフラッグシップ級という、これまでのヘルメットの常識を吹き飛ばした存在。
発売してからというものの、その人気っぷりは凄まじかった。
これまでの常識といえば、ツーリングヘルメットというのはエントリーモデル、もしくはフラッグシップより下位モデルにあたるものという認識がライダーの中にはあった。
ヘルメットというのは、GPレースなどでも使われたもののレプリカなどをフラッグシップとし、そこから一段、二段下がったやや安価な価格のものをツーリング用としてお手軽に使えるように販売していた。
Araiで言えば「XD」や「Rapide IR」などがそこに該当し、SHOEIでは「Z-7」と「RYD」が該当する。
どちらもフラッグシップからは1ランク、2ランク落ちる。
しかし、近年のツーリング需要からSHOEIが世に送り出したのは「ツーリング走行帯の速度にて究極の空力性能と機能性を発揮する、もう1つのフラッグシップ」だ。
それがGT-Air。
その凄まじい売れ行きに前述したとおり、AraiはRX-7Xをベースに大急ぎでASTRAL-Xを作って世に送り出すほどであった。
ヘルメットの新製品サイクルが長いAraiが、信じられないほど短期間でASTRAL-Xを新たに開発したというのは、このGT-Airがどれだけ脅威で、このツーリング用フラッグシップというものにどれだけ需要があり、どれだけ売れたかがわかる。
また、GT-Airの登場により、Araiを好む者は「RX-7Xとは違う、ツーリング主体のフラッグシップ」というものを求めたのもASTRAL-X登場の理由の1つであった。
そう、店員がまさに売り込みたいのは「X-Fourteen」ではなく「GT-Air」もしくは「ASTRAL-X」だったのだ。
現在、これらの商品は高額だが良く売れ、そして購入後の評価が悪くない代物。
X-Fourteenは収納性などを加味すると、なかなかオススメし辛い部分がある。
イカした後頭部の造型は、トップボックスなどに収納する際には邪魔なでっぱりとなる。
よって「SS級バイクに乗るんで買おうと思う」という人でないと「いいですよ!」とは言いにくかった。
(このGT-Air WANDERERとかいうのいいデザインだけど……うーん……)
律は迷う。
今ここで購入すべきかどうか。
グラフィックモデルの価格は6万3800円。
X-Fourteenのグラフィックモデルよりかは安い価格である。(それでもヘルメットとしては非常に高い)
「ジェットヘルメットとかはどうなんですかね?」
「視界は広いですが安全性はちょっと……やはり安全性を考慮するとフルフェイスですかねえ~」
その言葉で律は察した。「あ、これまともに説明してくれないパターンだ」――と。
「ジェットヘルメットは軽くて、視界も広くて素晴らしいんですが、安全性は後頭部だけです。バイク事故では顎をぶつけることが多いので結構怖いですね。
――――――――――余談――――――――――
店員の言うとおり、バイク事故においては顎部分がヒットすることが非常に多い。
これが生死の分かれ目となることもありうる。
そのため、国外ではチンガードと呼ばれる顎部分にだけ金属の棒やFRPやカーボンを利用した顎ガードを作り、かつ脱着可能としたジェットヘルメットも多く存在。
実は筆者は「SHOEIでもそういうオプションパーツ出してくれんかね? というかAraiは安全性重視ならなんで出してくれへんの!?」と思っている人間。
あの形式国内でも流行しそうなんだが……などと思っている立場である。
現在の使用メットはジェットだが、やはりちょっと怖い。
――――――――余談終わり――――――――
「ってことはフルフェイスがやっぱいいんですかね」
「最低限、1個はフルフェイスにしたほうがいいかとは思います。ツーリングで長距離を走る方はやっぱフルフェイスが多い傾向にあるような気がしますね~」
(どうする……金には多少余裕があるが……あんまり高いものばかり購入したくない……購入して後で後悔しないだろうか……)
律の心の葛藤が始まった。
重要なのは「買って後悔しないか」である。
商品的な性能は十分である。
しかしどうも自分には知識が足りていない気がした。
律にとってヘルメットに必須の機能がある。
それは「スピーカーを仕込んでみたい」ということ。
「音楽やナビ音声を聞けるのが今の時代のライダーだ!」――などと、動画配信サイトでマイクやらスピーカーやら仕込んだヘルメットを装着するモトブロガーが当たり前にいる状況があることを知っていて、それに憧れていた。
なのでヘルメットにはそれが可能なモデルを求めていた。
「あの……GT-Airって、スピーカーとか入れたりできるんですかね?」
「できますよ? というか、AraiよりSHOEIのほうが、そっちは簡単です」
「えっ 本当ですか?!」
律は知らなかった。
SHOEIは機能性を重視するため、そういうのが簡単に出来るようなライナー構造が存在することを。
(OGKなどもそういうような形式のライナー構造になっていることを)
Araiはあくまで「ヘルメットとしての安全性」を究極に求めた存在。
そういった部分での快適性は二の次となっている。
一方のSHOEIは第一に最新鋭のヘルメットとして求められる何かを追い求めており、そっちに対する機能拡張に余念がなく、2018年に新発売されたNEOTEC2なんかはインカム用マイクを装着するための隙間なども設けられ、
専用のヘルメットマイク、スピーカー、ワイヤレスインカム装置一式を内臓させることが出来るような拡張性が設けられている。(SENAによる特別製のヘルメット専用品が使えるが、他者製品でも使えるような空間が設けられている)
「この耳の部分の後ろをこうやって外すと……ほら」
店員は陳列されたGt-Airを1個取り出すと、インナーの耳パッド部分をパコッと外した。
そこにはヘルメットスピーカーがスポッと納まりそうな空間がある。
「Araiも高級モデルなら出来ないわけではないのですが、SHOEIよりかはどうしても出っ張ってしまいますね」
店員は次にASTRAL-Xを取り出してくると、耳の部分のインナーをごそごそ取り外した。
先ほどとは異なり外すのにもかなり時間がかかっている。
そして耳側のインナーの大部分を担うものを取り外した。
そこからさらに中身を出すと耳の部分にスポンジが入っており、そのスポンジをめくるとスピーカー装着が可能なような空間が配置されている。
スピーカーを配置すると明らかに耳が窮屈になる構造であった。
「このスポンジ切り取らないといけないことを考えると、SHOEI方が楽なのと、このスポンジ切り取ると遮音性が下がったりとAraiはややこの手の機能性には劣りますかねえ~」
その様子を見た律はSHOEIのヘルメットに大きく揺れ動く。
「……えと……フィッティングというのはこのお店でも出来るんですか?」
「出来ますよ。お時間がかかりますが、やりましょうか?」
「……買います!」
それは見事なまでの完全な衝動買いであった。
店員の言葉に乗せられ、律はそのままヘルメットを衝動買いしてしまった。
~~~~~~~~~~~
ヘルメットの柄を選んだ後、律は頭を計測してもらい、フィッティングした。
頭部のサイズを測り、律に合うサイズを選んでも洗う。
フィッティング担当は「おそらくこれならMサイズですね!」といって律にMサイズのGT-Airを用意する。
フィッティングには30分ほどかけて調整してもらった。
その上で、フルフェイスヘルメットの被り方を教えてもらう。
しかしフィッティングしてもらったヘルメットについて律は違和感を感じる。
「あの……ものすごくキツいんですが……フルフェイスってこんな頭が締め付けられるものなんです?」
まるで孫悟空状態であり、頭が締め付けられるような痛みが襲ってきている。
「こんなものだと思いますよ。やっぱ安全重視なんでキツくなるとは思いますが、インナーは馴染んでくるものなので、そのうち慣れるかと思いますよ」
フィッティング担当のその言葉を信じた律は、そのまま特にサイズアップすることなくこのMサイズのGT-Airグラフィックモデルを購入。
その価格6万3800円。
後戻りできないような高額な買い物であった。
その後、店員の薦めによって教習所にてより操作が楽になるということからグローブも購入。
こちらはその用品店のプライベートブランドの春・夏用メッシュグローブであった。
こちらは2980円のセール品。1年前の型落ちであった。
一気に約7万円近い買い物をしてしまった律は、そのまま大きなヘルメットが収納の箱を抱えるようにして手に持ち、自宅へと戻った。
このとき、実は律が6万円を事実上ドブに捨てていた事を知るのはしばらく先のことである。
この時点で律が内心抱いていた不安は的中することになるのだった――
SHOEIでちゃんとしたヘルメット、完全に間違いのないヘルメット選びをするなら社員の人が駆けつけるイベント時に購入すること。
ドブに捨ててすぐさま買い換えることになった経験をもつ筆者と、これまで何人もの犠牲になってきたライダー達との約束だ!




