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岐阜の美少女とCB400と黒猫(中篇)

 風呂に入った律は風呂の中で入念に左腕をマッサージしながら状態を確認する。

 完全に筋肉痛を起こしており、腕は痙攣していた。


 実は食事の際もかなり苦労した。

 右腕がいうことをきかない。

 箸がまともに使えないのだ。


 悟られないように必死で食べたが、文字もまともに書けそうにない。

 本当はそれを母親に相談して明日病院に行くかどうするか決めたかったが、綾華がいる手前、綾華を心配させまいと言い出すことができないでいた。


 現在、風呂にスマホを持ち込んでいろいろ調べているが、あまりにも運動音痴な人間だと二輪教習にてこうなることがあるらしいことは書いてあった。


 そのための改善策としては、「筋力トレーニング」と「教習前に準備体操して筋を伸ばしておくこと」など様々な意見がアドバイスとして掲示板やSNSなどに寄せられており、そうなった場合の対処方法としてマッサージなどの方法についても書かれており、それをまさに実践せんとしている。


 明後日には再び教習が入る。

 それまでに状態を復活させておきたかった。


「もし今中学生だったら、静まれ! 俺の左腕とかって風呂で叫んでいたな」


 などと自分の状態を嘲笑するしかないほどボロボロであった。

 手術跡だらけの左腕は中二そのものといった様子である。


 律は見ていなかったものの、処置前の状態は本当に酷い状況であったらしく、傷跡は生々しい。

 しかし、ソレに対する痛みなどはない。


 あくまでただの筋肉痛に感じていた――。


 ――いつもより長く風呂に入った律ではあったが、のぼせない程度に済ませてあがることにする。


 ~~~~~~~~~~~~~~


 風呂から出た律は自室に戻り、PCを立ち上げる。

 調べるのは当然「CB400」についてである。


 呪いのせいで完全にCB400以外について興味を失ってしまっていた。


「へー、CB400ってまだ新車販売中なのか~」


 前期型NC42の解説ページを見た律はCB400が未だ販売を継続していた事に驚いた。

 特段大きく変わらず今にまで至ることがわかる。


 カタログスペックを見ると56PSと、かつての750ccバイク並みの馬力が表示されていた。

 調べてわかったことが1つあり、400cc帯については絶滅寸前であることがわかる。


 カワサキはNinja400オンリー、ヤマハはMT-03とYZF-R3とSR400、スズキに至ってはスクーター以外に400cc帯が存在しない。


 というか調べるうちに律はとてつもない違和感に気づく。


「…………バイクってこんな車種の展開少なかったか?」


 律の知っている頃のバイクはもっと多数の車種が展開されていたはずであった。

 特にホンダはもっと大量のバリエーションがあってもおかしくなかった。


 すぐさまそれについて調べると、2007年の排ガス規制で一気に大量にモデルが滅び、そして2017年と2度に渡る排ガス規制にてさらに淘汰され現在に至ることがわかった。


 驚くべきはCB400の生命力にある。

 CB400は2度の排ガス規制に負けず生き残り、1990年代に発売されてから今までずっと400cc帯のエースとして君臨し続けていたのだった。


 しかしそのCBも近年では売上げを大きく落としており、「普通二輪で乗れる四気筒バイクは、もう今後登場しないかもしれない」と最後の砦としてそのポジションを守っていたのだった。


 律は別に四気筒に対してそこまで強い拘りがなかったが、やはり四気筒独特のエンジン音は好きである。

 なぜなら当然にして「車大好き人間だから」である。


 律の持つ四気筒のイメージといえば「パワーがあって、良い音がする」というもので、それは十分に所有欲を満たしうる要因となりそうであることは推測できた。


 ――――――――――――――余談――――――――――――


 そして律はまだ知らないことだが、現在のCB400の立場は3つ。


 1つは「あがりバイク」として軽量さを生かして熟年ライダーが最後の相棒にしようとするもの。


 これについて筆者の考えでは「ならもっとCB1100みたいなカウルのものでも出したら?」と思うのだが、今、「あがりバイク」としてCB400を求める人らは、CBX400の頃が現役であるため現状の今風カウルでも問題がないのだという。


 あがりバイクとは、最後に乗るバイクという意味である。

 文字通り「バイクライフを最後にあがるための終生の相棒」という意味合いである。


 高年齢帯の需要がものすごく、毎年1500台以上売れるCB400には、あがりバイクとしての需要があった。


 2つ目は女性ライダーや体格に自信がない者が乗る「軽量ミドル」としての立場。


 世界的なグローバルモデルとしては、600cc~750cc帯がミドルバイクとして最も評価される現在においては排気量に対して軽すぎるMT-07やNinja650がその立場を担ってはいるが、


 それらよりさらに一回り小さいCB400には、こういった者達からスポットライトを当てられているのだ。



 3つ目は前述する理由に重なるが、

 上記二車種は、かつてのホンダレベルの優等生として仕上がっているため、逆に「もっとエンジンブン回したい」という需要を満たさなかったりする。


 そこを満たす立場として「回せば回すほどパワーが乗る」というCBは、なんと最近欧州にて一定以上の需要を開拓している。


 ただし、欧州では「オールドネイキッド」というジャンルとされ、殆どの人がCB1100みたいな姿に改造してしまうのだった。(カフェスタイルと呼ばれる姿にする者も多い)


 しかし、これらに対してCBは実は割と「高級路線」という形で展開されており、価格は安くない。

 というか高い。


 若者に対しては非常に敷居が高くなり、高額化した影響で10代~20代からは一気に見放されて売上げを落としている。


 それでも尚、CBが若者に売れるのは、律のような呪いにかかった人間が少なからず存在するからである。


 教習所の魔物CB400SF-K。


 噂では最新のNC54は4バルブ化してしまったということだが、モデルチェンジで再び4バルブ化することがあるのだろうか……


 ――――――――――――余談終わり――――――――――――


 しばらくバイク事情を調べていた律であったが、一段落するとモトブログを見始める。

 これは現在の律にとって貴重な情報源。


 これからバイクを買うにあたり、何を揃えるかは動画配信サイトの説明が最も役にたっていた。


 何しろ動画配信サイトでは「雑誌に触発されて購入したが不要だった」というような辛口コメントも平然と存在する。


 商品宣伝が主の雑誌と、それが主目的ではなく人柱として笑いをとるなどすることで稼ぐことが可能な動画配信サイトでは商品に対してのコメントが正反対になるのである。


「不要なものは不要」と説明してくれるのだ。


 ただし例外もある。


「ピカーキン」などのようなスポンサーが介入する超大物配信者に至っては、一部はもはや雑誌などと内容が変わらないようなものしか情報提供できていない。


 今でも不動の人気を持つ彼については、律もかつては応援していたが、ここ最近の彼は……なんと言うか「芸能人気取りというか芸能人より酷い」といったような印象を持つようになった。


 例えばレクサスを購入して興奮する姿なんかは、それまで彼が求められていた「等身大の日本人が、はっちゃけまわりつつ奮闘する姿」などではなく、ただの「金持ちになった有名人が金の使い方を完全に間違えている」ようで見るに堪えない。


 1つの動画の再生数が彼の10分の1でも、等身大のままであり続ける有名動画配信者の方が「いう事はきちんと言う」といったツボを抑えており、好みだった。


 一部ではここ最近のブルジョアっぷりを自慢する動画を「庶民ぶるよりマシでは?」という人間もいるが、律はここでソレに対するきちんとした反論を心の中で用意している。


「芸能人って金持ちでも金持ち自慢する人間って殆どいなくない?」―と。


 TVに出てくる芸能人はそれなりに資産を持っている。

 例えばよく話題に出る芸人に「ゲーッツ」が一芸の人間がいる。


 彼の年収、現在でもそこらのサラリーマンの3倍である。

 その一芸だけで営業でそこまで稼ぐわけだ。


 それを貯蓄する一方で、私生活については倹約しているとされるわけだが、彼もやろうと思えばそういうネタを展開することはできる。


 実際、打ち切りになった「みなさんのおかげっした」とかいう番組では、あえてそれを証明させるため、芸人に対して強引な買い物を行わせる企画があった。


 だがそこで見てもわかることだが、芸人は自らの芸人としての姿とプライベートは分けている。

 番組内で「実は何度も海外旅行に行っている」などと弄られたりするが、「それはそれでしょ!」と普段は語らないように抑えているのが垣間見える。


 一部動画配信者はプライベートとサイト内の顔の双方の境界線が崩れてきてるのではないかと思った。


 そういう意味では「ライダー」という部類にそういう人間は皆無であった。

 それは恐らく「二輪は稼げない」という実態があるからかもしれないが、極ごく一部を除いてわけのわからない行動をする人間は殆どいない。


 等身大の人間が多く、律も仮にモトブログを開始しようものなら、そのような人間になることを目指そうと考えていた。


 そうこうしていると、部屋の扉をコンコンと叩く音がする。


「綾華か……」


 律はすくっと立ち上がり、扉に向かう。


 特に怪しい行動はしていなかった律ではあったが、綾華の方は「もし強引に開けてティッシュ片手になんかしてたら……」という不安にかられてかつてはやっていなかったノックなどしていたのだった。


 ガチャ


 自室の扉を開けるとやや縮こまった綾華の姿があった。


 ムンッと強烈ないい匂いが律を襲う。

 あまりの匂いに咽そうになるほどであった。


「いいよ、入って入って~」


 律は部屋に入るように促すと、綾華は小さな声で「おじゃまします……」と一言添えてから部屋に入った。


 そしてそのままベッドに腰掛けた。


 部屋には勉強机からPC用デスクとなった机の椅子以外椅子がなかったのをすぐさま見抜いての行動である。


 律の方はPC用デスクに腰掛け、ベッドに座る綾華を見る。


 ショートパンツにキャミソール姿。

 率直に律からしても「エロい」「誘ってんの?」というような姿であった。


 ショートパンツなんかは、前かがみになろうものなら後ろから見ると下着がクッキリと浮き出そうな薄い化学繊維生地のものである。


 髪は少しばかり濡れており、全身からは風呂上りとみられ湯気こそ漂ってないものの熱気が漂うような状態であった。


 スタイルは抜群そのものであり、出るところはとりあえず出るが、引っ込む所は完全に引っ込んでいて、太ももも細く足を閉じても両サイドの太ももがくっつかないぐらいに細い。


 律の経験からダンサーなどによくいるスタイルである。

 間違いなく運動していて、それなりに運動が得意といったようなスタイル。


 ダイエットなどしなくとも、日々の運動の影響でこんなスタイルになった……そんな鍛えすぎないがほどほどに筋力があるといった容姿であった。


(おいおい……どんな試練よ……コレと寝ろっての……生殺しか!)


 相手に同意がなければ触ったりなど一切しない律でも、これは、妙な行動などされたらコロッと落ちそうではあった。


 そもそも律には未だにこの目の前にいる美少女が「綾華」という認識が脳内で完全に構築されていない。


 とりあえずこのままお互い黙ったままだと妙な雰囲気になるのでこちらから語りかけることにした。


「どうした、何かあった? それともさっき言ってたCB400の話?」


 夕食前にCB400について後で話があると主張していた綾華のことを思い出した律はそっち方面で話を展開しようと試みた。


 一方の綾華は律を見つめる。


 やはり顔つきが変わっていた。

 綾華が最後に記憶していた律は優しげのある男であったが、これといって「イケメン」というほどでもなかった。


 顔立ちは整ってはいたが。


 しかし今の律はやや鋭い顔つきになり、明らかに「イケメン」と言える部類になっている。

 最後に別れた当時の律の姿は17。

 今の自分とそう変わらない年齢だった。


 アレから8年ほど経過しただけで律は驚くほど顔つきが変わっていた。

 そうなった要因には、ジェミニなどの件で何度も修羅場をくぐったことが影響しているがそれについて綾華は知らない。


 ただでさえ今の自分にとってはフィルターがかかりやすい律が、自身の想像力を否定するようなレベルに成長していたことで、綾華は自分でも何をどうしていいかわかりかねていた。


「あ、えーっと、綾華?」


 律の声かけにより、綾華はビクッと反応する。

 言葉がまるで浮かんでこない。


「あ、CB400やったよね!」


 思考回路はショート寸前といったような状況で辛うじて「CB400」というキーワードを思い出した綾華は口を開いた。


「律くん。それって新車で買う気なん? 中古ではなく?」


「ん~そりゃやっぱ新車じゃないかなあ……」


 頭頂部に手を当てた律はまだ迷ってはいたがといったような様子で綾華の言葉に応対した。

 律にはこういう異様な雰囲気が漂うとき、髪の毛を手で弄る癖がある。


「新車……かぁ……実はな律くん、ホンダって今販売網を再編してしまっとるんよ」


「ん~。何かあった?」


「うん。それでな、250cc以上のバイクは全国で150店舗しかないホンダドリームでしか購入できんのやって」


 綾華の言葉に律はそれが何の問題かがわからない。

 調べていないのでドリームが非常に遠くにあるのかとも言いたいのだろうかと推察する。


「ドリームに何か問題あったりするの?」


「えーと……ドリームに問題があるというよりかはドリームの保証体勢がちょっとな~。ほら、律くんバイクはじめてやし、私や光くんと一緒にバイク整備した方がええと思うんよ」


「元から光兄ヒカルニイに始めの内は整備任せつつ、いろいろ教えてもらおうと思ってたけど……」


 その言葉を口走った瞬間、律は綾華が何を言いたいのか段々と理解できてきていた。


(もしかして、外部で整備させるとまずいのか?)


「実はな~、ドリーム保証といって、不具合出した際に保証してパーツ交換したりする保証なんやけど、一部のドリームでは外部でメンテナンスとかしていると保証がなくなったりすることがあるんやて」


「……マジ?」


 まるでレクサスやBMWの世界であった。

 外車である。

 外部でメンテしたら保証がつかないなど、今日日どこの国産自動車メーカーがやっているというのか。


 例えば車種限定でGT-Rがそうだが、250cc以上が全てソレということになるといろいろ厳しいものがある。


「ちょと待って。今調べる」


 律は急いでPCを触り、ドリーム保証についての規約を探し出して、くまなく目を通した。


 ドリーム保証の内容の利用契約から、こういった「どこまでなら保証が継続するか」の細かい部分は店舗ごとに任されている様子であったが、ドリーム保証の条件は「一定以上の定期メンテナンスをドリームで受けた車両」と限定されている。


 そればかりではない「新車」しか保証はまともに付かない。


「あんな~? 律くん。ヤマハやカワサキやったら中古でも保証はつくし、ちょっと弄った程度で保証が切れるなんてことないんやけど……ホンダは違うんやよ……」


 綾華は心配そうに律を見つめながら語りかける。

 別段、律が絶対に自分の、光の店で購入しなければいけないという気持ちはなかった。


 しかし、ホンダ車の250cc以上となると、一気に敷居が高くなることを知っていた綾華はCB400を求めてやまない律に対し、再考することも含めて問いかけているのだった。


 ベッドに腰掛けた状態で手を布団に当てていたが、その両手には緊張で汗が滲む。

 律をなるべく落胆させたくなかったが、CB400を新車で購入されるとサポートが極めてし辛い。


 かといってCB400は非常によく売れて流動性の高い車両。

 光の店に在庫がなかった。


「オイル交換程度なら問題ないんやけど、ヘタに弄りにくいというか……」


「うーむ。しかも中古だとディーラー保証も皆無なのか」


「うん……せやから250cc以上はウチの店に来るお客さん少ないんよ……光くんが整備するのは、昔のホンダ車か保証切れになったホンダ車両だけやってな~」


 律は頭を掻き毟った。

 それと同時に綾華の優しさに心を打たれる。


 彼女が心配していたのはCB400そものではなく、CB400を買おうとしている自分に対してであったことが会話から理解できたからだった。


 が、CB400の呪いは律に牙をむく「俺を買え……俺を買え……」と律に促した。


「かといってCB400は諦めたくないなぁ」


「パワーはあるからなぁ……でも、それなら大型でいいんじゃないん?」


「大型?」


 CB400やホンダのことばかり調べていた律は、まるで綾華の話が理解できなかった。

 律の中での現在の大型の常識とは「重い」「敷居が高い」「危険」といったもの。


 実際には、MT-07などといった優秀すぎる軽量スポーツバイクが存在するが、律は先ほどMT-07を見たときに車重などを調べていなかった。


 同じ排気量帯においてはNC750だけスペックを見ていたため、大型とは「240kg近くの鉄の塊」という、今日まともに持ち上げることができずとても苦労した存在というような印象しかなかった。


「光くんも言ってたんよ。律くんは大型まで一気に取った方がええよって」


 出かける前日の夕食時に、律に合うバイクについて二人で勝手にあれこれ語っていた際、光は律の性格から「パワー」という絶対条件があることを理解し、「大型こそ律に相応しい」―と、軽量ミドルを推奨していた。


 一方の綾華は律が4wDクロカンという存在に熱心であったことから「FTR」「CRF」「セロー」といったようなデュアルパーパスこそ相応しいと評価していた。


 無論、光はそれについては否定しなかったが「多分、スクランブラーに改造すりゃ十分」と判断していた。


 そこまでダートは攻めないであろうと考えたのであった。


「うーむ……ニーハン(250cc)はパワーないっていうし困ったなぁ……」


「まだ時間あると思うし、一応いろいろ考えといて! 私としては――律くんと、律くんの愛車を一緒に整備してみたいし、変なことでバイクを嫌いになってほしくないんよ」


 そう言うと綾華とのCB400の会話はそこで終わり、その後はバイクについての話となった。

 教習中の話やツーリングの話、防犯についての話など。


 きくところによる綾華は地元の高校で女の子4人組のツーリングチームを作っており、その者達と遊びに行くことも良くあると言う。


「今度ジムカーナにも来て欲しいわ! 私の走行みたって!」


 ジムカーナの話にもなったが、綾華はなんとB級であった。

 この調子でいくとA級の可能性も十分にあるほどであり、日々腕を磨いているという。


「ジムカーナかぁ……面白そう……」


 話を膨らませる綾華に律は夢が広がる。

 手に入れた後は自由。


 二輪にもまた、二輪だけの、二輪を楽しめる世界があった。


 別に二輪に否定的な見解などなかった。

 実は大学生時代「もう二輪で妥協しようかな――」と調べていたことがある。


 当時の律の貧弱な知識では「なんか2ストがすごい!」というイメージしかなく、NSRやガンマなど、「パワーは凄いがピーキー過ぎる」代物ばかり目に入ってきていた。


 無論、現在ではこれらのバイクの維持は極めて難しく、また律の性格と2ストは合致していなかった。


 CB400にしたいと決める前に、教習を受ける前の段階にて2ストバイクの動画も見ていたが、ブン回さないとパワーが出ないというのは律の車に対するイメージと合致しない。


 律が欲しい車は「幅広いトルクバンド」と「回さずともパワーが出るフラットトルク」な車種。

 それこそディーゼルターボエンジンのような特性。


 実際、欲しい4wD車種はディーゼル車であった。


 回せばとてつもなくスピードが出るが、ふわぁと走っていても爽快感がある、下から伸びるトルクのある車種こそ理想。


 よって、坂道で苦労するかもしれない2ストエンジン車はかなり怖かった。

 エンストがなによりも怖いことはエブリィで散々味わい、そしてそれで死に掛けたトラウマがある。


 そういう意味では、CB400の選択肢はある意味で間違ってはいなかったが……後にそれで苦労することとなる。


 一通り会話に勤しんだ二人は時間が時間となり、就寝した。


 綾華は疲れていたのかすぐさま「スヤァ」と眠りにつく。


 しかしその姿はまるで「男女の関係の後の二人」といった様子である。

 何もしていないのに、なぜか綾華からはそのような雰囲気を醸し出していた。


(うぉぉぉ、ちょっとだけ触ったらダメかな!? 特にこの引き締まった腹部が凄く触りたくなるんですが!)


 下腹部や胸部は犯罪であることぐらい理解している律ではあったが、ここまでスタイルの良い女性と付き合ったことがない。


 やや下腹部が出ている女性ばかり。

 そういう意味では幼い頃の綾華もそうであったが、まるでモデル体系のソレについては思わず触れてみたくなる。


 しかし例えば、腹部のスタイルを褒めた上で同意の下、少し触れてみるということも出来ないでいた。

 自分を裏切りたくなかった。


 それでもこのくびれた腹部には律を誘惑する魅力があったのだった。


 結局、律は光や両親をして「強靭すぎる」と主張する自制心でもって己を完全に押さえつけ、スマホでバイク系動画を見て気を紛らわせ、そのまま就寝した――


 この展開、当然光の予想通りであったが、綾華は「今日、私は大人の階段を昇るかもしれんのやよ! どうしよっ、どうしよっ」などと風呂場で一人盛り上がっていたことなど律には知る由もない。

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