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ツーリングドランカー! ―現代二輪ライダーの備忘録―  作者: 御代出 実葉
第二章:明日行きたい所にバイクで行く
146/149

飛龍と昇り龍 舞鶴→京都府(宮津市)

 舞鶴市


 歴史的には明治以降の方に繁栄した地域。

 日本海側への軍港として開かれたこの場所は、旧帝国海軍由来の施設がいくつもある。


 逆を言えば、軍事関連の施設と太平洋戦争の歴史関係の資料館を除くと、田辺城跡ぐらいしか主要な観光地は無いと言え、近年の観光旅行者の増加は舞鶴自体のアクセスの良さと観光地としての地力の高さにある。


 例えば主要アジア国の観光旅行者からとりわけ注目度が高いのが「舞鶴茶」である。

 最近、これが高く評価されているが、日本人にはさほど馴染みのない茶名であろう。



 舞鶴茶。

 簡単に言えば宇治茶の原料の1つである。


「え? 宇治茶って宇治で育てている茶じゃないの?」と思う人は少なくないと思われる。


 実は宇治茶、wikiなどにも書かれている通り、極狭い地域にて純粋に販売される超高級品の宇治茶以外は、その殆どがただのブレンド茶である。


 ただし、近年ではその割合を50%以上を京都産のものを包容する形で宇治茶を定義し、半分以上は京都産で作られた茶としなければ名乗れなくなった。


 一般的に宇治茶として京都各地で振舞われるのは大半がこの三重や滋賀など近隣地域でも生産された茶を宇治茶独自の製法にてブレンド精製したものであり、純粋な京都のお茶でないものである。


 宇治で精製されても宇治で生産されていないお茶を「宇治茶」として振舞われているケースがあるのだ。


 一方の舞鶴茶。


 近年では単独で日本茶のコンクールなどで宇治茶に勝利する一方、宇治茶の原料として古くから用いられてきたという歴史を持つ。


 舞鶴茶と呼称する場合、「舞鶴市周辺の茶の生産地にて生産された純粋なお茶」を指すのだが、これが国外の人らからも評価されるようになったのは、


 その味が安定しているばかりか、近年ではその製法の改良によって「宇治茶を越す」品質を維持しながらも、価格が「圧倒的に安い」からである。


 国外向けの煎茶ですらきちんとした製法で作られた宇治茶は100g数千円クラスのところ、同じように精製した舞鶴茶は高くとも1000円程度。


 しかも前者はブレンドだったりするが後者は純粋に単独の茶葉を用いるのが基本。


 舞鶴はその気候が京都の宇治に似ており、茶の生産地としては優れているのだが、ブランドを掲げて高級品を売っても本当に「味」を求める消費者は気づいてしまっているわけである。


 ここ最近は通販などでも名を連ねるようになった「舞鶴茶」だが、ニュースでも報道されるように日本人よりも国外の人が宣伝している面が強く、


 結局、本当に質が優れたるモノは本物を求めるユーザーがその舌でもって見極めて評価していくという構図がそこにあるのだった。


 さて、そんな舞鶴茶だが、実は純粋な「宇治で生産されたお茶」と比較すると、その茶葉の特徴がかなり異なっていたりする。


 純粋な宇治で生産された茶葉はやや大きく、煎茶の場合は透き通るような美しい緑色が特徴。


 筆者も飲んだことがあるが、ある種究極と言われる煎茶なのは間違いなく、お茶として湯飲みに注いだ時点の見栄えの美しさも評価できると言える。


 一方、舞鶴茶は茶葉自体がが薄く小ぶりで、精製後は非常に濃い緑色となり、そして湯飲みに注がれた煎茶は「やや黄緑がかっている」のが特徴。


 煎茶の見た目の印象だけだと、純粋な宇治生産の宇治茶の方が上である。


 だが、飲んでみると味は圧倒的に舞鶴茶の方が若者向けであり、総合的にもワンランク上の存在。


 強く引き立つ香りの一方で、まろやかかつ健やかな気分になれる透き通った味わいは、近年「日本国内トップクラスの日本茶ではないのか?」と、国外などから評価されるだけのものがあり、


 それでいて、宇治茶の原料でありながらブレンドされた宇治茶よりも美味な舞鶴茶は、舞鶴を訪れる外国人旅行客がそれを理由に訪れるほどとなっており、現在は外国人向けの観光スポットを中心に大々的に宣伝されながら販売されるようになった。


 戦後から軍港という立場だけでは成り立たなくなってしまった舞鶴市が、各種産業に力を入れた上で原点回帰した一次産業による都市の維持と発展計画によって養蚕業などと共に再び力を入れた茶葉の生産。


 その結果の今があり、道路整備や宿泊施設の整備など観光地として手を抜かなかった努力姿勢は、中々手が入らずここ最近評価を下げつつある京都市内に対し、「同じ京都とは思えない」と評判が良い。


 国内旅行客が減少しつつある一方で外国人旅行客が増加の一途をたどる京都と比較すると、両者が順当に増加している舞鶴は観光地としての京都府を代表するモデル都市と言えるかもしれない。


 律がこの舞鶴市の外国人向け観光地に訪れ、「舞鶴茶」を飲んだのは単なる偶然であった。

 それは舞鶴市に入った後のこと。


 市街地にて一旦休憩をしようと考えた律は、舞鶴市内にて休憩場所を探した結果、何気なく赤レンガパークに立ち寄った。


 27号線沿いから横浜の赤レンガ倉庫のようなものが見えた律は、そこが観光地であることを知り、休憩がてら観光をすることにしたのである。


 その際、赤レンガパーク内の喫茶店にて「現在、外国人に話題沸騰の舞鶴茶」と宣伝されているのを何気なく注文してしまったのである。


 コーヒーなどと異なり、日本茶がわざわざ英語説明など交えてメニューに表記されているというのは今まで経験がなく、


 それも「緑茶ラテ」などではなく「純粋な緑茶のアイスティー」がなぜそんなに人気で、なぜ周囲の外国人がそれをかなりの頻度で注文しているのか気になったのである。


 舞鶴茶はその茶の特性から「冷やして飲むのが一番美味しい」のだが、そのような状態にして出されたものを飲んだ時に律の体に電撃が走る。


 それは律の知っている「緑茶」ではなかった。


 すっきりとした後味がしつこくないまろやかな味わいは、その茶と交わった水がやわらかく感じるほど、のど越しが良く、


 見た目こそ緑茶とするとやや黄緑色ではあったが、味はその道の者が「最高級品」と称される存在にて度々説明する「これぞ日本茶というべきもの」そのものであった。


 やや値段の張る代物ではあったが、それがわけのわからないコーヒーとは比較にならない代物であり、己が知らぬ「舞鶴茶」なる存在に驚くと同時に、宇治の原料となりながらも近年は単独で評価されるに至った存在だと知る。


 これこそ、後に律が各地にて「銘茶」とされるものを見つけるや、とりあえず飲んでみるよう行動する発端となった存在であり、「政所茶」など、各地の知られざる銘茶を嗜む男となるキッカケとなった存在である。


 律は「宇治茶」を飲んだことはなかったものの、「宇治茶に劣らない」という評価は「素直で正しいものである」と理解し、


 その上で「もっと有名になってほしいけど、なったらなったで酒のように値段がぐっと上がって手に入らなくなってしまうんだろうな……」――と複雑な心境となった。


 だが、これまで日本茶は「苦くて不味く、舌に苦味が残り続けるもの」と理解して嫌気していたところ、その常識を根本から破壊されてしまったので「きっと、知られていないだけでこういう銘茶は他にもあるんだから……ツーリング中に見つけてやる」――と意気込み、そのままおみやげコーナーにて最高級品の純粋な宇治茶よりは安いがやや高額の舞鶴茶の煎茶を購入したのだった。


 律が茶の道を歩みだすと同時に、天橋立への道も歩みだす。

 休憩中、上田からメッセージが届いていたのを律はしっかりと確認していた。


 曰く「天橋立周辺の大半の駐車場はめちゃくちゃ高いが、北側の傘松公園方面へのケーブルカーの府中駅付近のいくつかの駐車場は、例えば松井物産というみやげもの屋などは二輪1日300円で、買い物1000円で駐車料金無料など、非常に安価」であるのだという。


 その上で「まずは傘松公園から股のぞきとか言われる北側からの天橋立を見て、その上で直ぐ近くのレンタサイクル屋で400円で自転車を借り、そのまま南側まで≪天橋立を自転車で通り抜けて≫南側の天橋立ビューランドへ行き、南側からの景色を見て再び自転車で戻るか、もしくは20分ほど自転車を漕ぐ覚悟があるというなら、道の駅、海の都京都 宮津で1000円支払って、ビューランドのみの往復のリフト・ケーブルカー代金とレンタサイクル1日乗り放題のチケットを購入して、上記傘松公園まで向かって1時間ぐらいかけて往復するのかのどちらかが良い」――と主張していた。


 実際、丹後半島をツーリングするならば前者が1つの正解、時間に余裕があるなら後者がもう1つの正解である。


 前者の場合はビューランドと傘松公園の往復リフトセット券1200円+300円の駐車券+2箇所で乗り捨て自由で天橋立公園に最も近い場所にあるレンタサイクル400円(2時間以内であり、以降1時間+200円)で計1900円~


 後者の場合はビューランドのみの往復券とレンタサイクル1日乗り放題で1000円+傘松公園の往復リフト・ケーブルカーの料金660円で1660円(レンタサイクルは17時30分までに返却しなければならない)


 ただし、後者はやや距離の離れた道の駅からの出発。

 道の駅の駐車料金こそ無いが、道の駅とビューランド付近までは20分はかかり、往復で40分。


 天橋立は片道大体15分ぐらいかかり、往復で30分。


 つまり70分以上は自転車に乗るが、割と体力的にキツいプランである。

 現在時刻12時20分。


 ここから傘松公園側の駐車場までは約1時間。


 余裕がないわけではないが、約200円の差で40分のロスだったら「素直に230円払うか、1000円で何かみやげ物を買うかしてその分を圧縮」した方がお得。


 律は迷わず前者のプランにすることにした。


 上田は最後に「天橋立までは旧国道176号こと県道2号に行ったほうがいい」とも話していたので、北側に行くのに一旦天橋立付近を走って通過し、


 その上で北側に出向いて傘松公園に行くという方向で計画をまとめた。


 往復チケットは府中駅で購入できるとのことなので、そこで購入し、レンタサイクルも借りる。


 また、このチケットがあると観光船が10%引きになるが、道の駅と異なり、北側と南側に駐輪場のあるレンタサイクルは2つの駐輪場にて乗り捨て自由となっているので、


 片道だけで自転車走行は十分となれば、行きは自転車で帰りは観光船という手もあるのだ。


 だとしても、とにもかくにも今から向かわなければならないのは宮津市である。


 まずは舞鶴を脱出しなければならないので、律は急いで出発準備を整え、赤レンガパークを後にして国道27号線を西へと向かうのだった――


 ~~~~~~~~~~~~~~~~


 赤レンガパークを抜けるとしばらくは海上自衛隊の基地などがあり、護衛艦の姿などが目に入る。

 中舞鶴歩道橋のある交差点に差し掛かると左折し、一旦南下する。


 片道二車線ながら古い町並みが微妙に残っている27号線を進み、山間を進んでトンネルを越え、西舞鶴へと向かう。


 こちらは東側の軍港と異なり、かつて城下町であった場所。


 27号線沿いだと、こちらのほうが大型スーパーなどがあって施設が充実しているが、観光地として発展する東側と、住宅地として発展する西側というような状態は、道路を走っているとよくわかる。


 かつては西と東で市を分断してしまおうという話もあったが、京都府に否決されて現在に至る。


 27号線は、この西舞鶴の中心地から南下する進路をとるが、律が向かうのは宮津市のため、直進して国道175号線へ。


 国道175号線。

 関西地域では2つしか存在しない「太平洋と日本海を結ぶ縦貫国道」である。


 前身は宮津街道など様々な旧道だが、それらは殆どが険しい山道であり、新道は一部の旧道区間を平行する形で複数の旧街道を組み合わせて新たに作られたもの。


 兵庫県の明石から京都府舞鶴までを接続する道路となって現在は成立している。


 そんな175号線はしばらくの間は市街地を進み、市街地を抜けると山間部へ。

 ふじつ温泉を過ぎて橋を渡ると、律はナビに従って右折。


 今度は国道178号線に入る。

 国道178号線。


 丹後半島など海岸線沿いを走りながら周遊する形で豊岡へと向かい、鳥取にて9号線に合流する道路。

 こちらも各種街道を複合して生み出した近代国道である。


 丹後半島を半周する形で半島を周遊するため、律は本日、この道路にて「はしうど荘」まで向かう予定だ。


 鳥取へ向かう場合は27号線で進む以外にも175号線にて福知山に南下しつつ9号線へと向かう方法もあるが、178号線の方がツーリング的には景観が優れている。


 よってツーリングライダーからは、すばやく鳥取方面へ向かいたいための27号線、舞鶴などを観光したい人のための175号線、丹後半島までたっぷり楽しむ178号線と認識されている。


 そんな丹後半島のための178号線へ右折して進入した律は由良川と共に北上。


 見ただけで一級河川と理解できる由良川を右手に、CRF1000はその余裕のある走りでもっていざ宮津市へと進んだ。


「……なんか、この付近は何らかの店か何かだった売り地ばかりだな……」


 廃墟のようなそうでないような、寂れた店のようなものをいくつか通過した律は哀愁漂う様子に田舎の現実というものを直視させられるものの、


 周辺に何も無いので、この場所で成功するのは尋常ではなく難しいのは一目みてわかるのに何故と思わずにはいられなかった。


 しばらくすると両サイドを田園に挟まれ、ガソリンスタンドやコンビニが目に入ってくる。

 コンビニに多くの車が駐車され、周囲には人家の様子もあることから、


「(もしやコンビニにやられたか!?)」と、現代的な商店によって敗北したのではないかと勘ぐったが、答えはでなかった。


 それらを過ぎると京都丹後鉄道の高架を潜り抜け、いよいよ宮津市へと入っていく。

 由良浜を通過すると日本海が目に入る海岸線沿いを走るようになり、安寿と厨子王丸の舞台となった安寿ロマン海道に入る。


 駐車場があり、景色を一望できるので、律は駐車場に入ってバイクに跨ったまま風景をササッと撮影し、ものの数分もせずにすぐさま出発した。


 その後も海岸線沿いを進み、栗田駅方面へ。


 このあたりは別名「栗田半島」といい、古来より漁村として栄えた村。

 栗田半島は漁村が点在するので県道が通っており、周遊は可能だが、律は天橋立優先のために栗田半島を通過。


 実は栗田半島は割と眺望に恵まれた名勝地がいくつもある所ではあるのだが、律はそこに気づいていなかった。


 国道178号線は内陸側を横断する道路となっており、トンネルを越えて半島の先へと向かう。


 トンネルの先から再び海岸線沿いを走り、いよいよ右手には天橋立が広がるのだが、残念ながら住宅などによって遮られてよく見えない。


 実はすぐ左側の高台を通る市道のほうから良く見え、展望台もあるのだが……律はそれに気づいていなかった。


 下り坂をくだるといよいよ宮津市市街地。

 途中、道の駅「海の京都 宮津」をがあるも、右折禁止であるのと目的地ではなかったため道の駅は通過。


 ナビに入力していたおかげで西宮津公園を越えると右折して旧178号線こと県道2号線へ。

 

 しばらくは内陸側を進むが、この時、律は逃していたものがあった。

 天橋立オートキャンプ場である。


 天橋立オートキャンプ場。

 バイクなら1300~1800円で宿泊できる格安オートキャンプ場。

 

 景観が悪く、虫なども多いとされるが格安で宿泊するライダーも多い。

 管理人が世界を旅した元旅人で、世界を旅した結果、これから世界を旅する者達へとこの場所にて開いたキャンプ場。


 各施設はその殆どが管理人の手による手作り施設だが、それらは譲ってもらった廃材などを利用している。


 しかし廃材を利用しているからといってスクラップを寄せ集めたようなものではなく、トイレその他とても綺麗な「趣のある」施設として成立している。


 炊事場など殆どの施設は手作りだが、最大の特徴は安価なこと。

 +500円払うと電源付きサイトに移動できる。


 2000円前後で電源付きサイトが利用できるというのは破格で、車で来ることがなくともスマホなどの充電、その他の電源利用のために500円払って電源サイトを利用するライダーは多い。


 筆者が利用した際には、同じく電源サイトを利用する日本一週中のライダーがおり、この場所で動画編集してyoutubeにアップロードしていた。


 こういった電源サイトは非常に貴重で、明かりなどに全く困らないのは強み。

 

 テント一式さえあれば間違いなくこの場所がオススメと言えたものの、何も考えずに通過してしまった律は、結局はこの場所を見つけてもまともに利用できないのだった。


 ガソリンスタンドを越えるといよいよ観光地へと入ってくる。

 周囲の施設は和風の佇まいで、「ザ・京都」と言いたくなる意匠。

 

 天橋立駅も周囲の景観に合わせたスタイルとしており、変に着飾ることがない落ち着いた外観となっていた。


 駅の周囲には舞妓さんらしき和服の女性や、和服を着込んだ外国人の姿もあった。


 「(舞鶴はそんな光景がなかったのに、さすが有名観光地なだけはある……うーん……道の駅で自転車を借りるとこの辺りまで来ないといけないのか)」


 律はその光景と人の多さから天橋立が京都の観光地であると再認識しつつも、一方で道の駅からはかなりの距離があることがわかり、自転車で往復する選択肢はこの時点で完全に無くなった。

 

 ナビを見る限り、すぐ北側に天橋立があるのはわかるのだが、そこから対岸までがまたそれなりの距離があるためだ。


 今回は楽な方をとって体力を温存することに決めた律は県道2号線をさらに奥へと進んで行く。


 再び海岸線沿いを走り、一旦178号線の高架をくぐった所から右折し、178号線に戻る。


 178号線を道沿いに進んで北上し、ついに目的地の松井物産へ。

 

 時刻は13時20分。

 駐車料金300円を支払った後にアフリカツインを停車させ、荷物一式を持って府中駅へ。

 

 みやげ物屋が多数並ぶ坂道の歩道をあがると、目的地である成相営業所 府中駅へと到着。


 府中駅はなんだか「昭和」というような感じがプンプンする見た目の施設で、


 とても自身の実家のすぐ近くにある「京王府中駅」とは違う、ある意味で周囲の建物と違った昭和なエセ洋風チックなスタイルに「浮いてるなあ」と思わず呟く律であった。


 そのままチケットうりばまで進むと「天橋立二大展望所めぐりチケット」を購入する。

 

 すぐさまケーブルカーが出発するとのことで急いで乗車。

 三方五湖の失敗を教訓に、行きはケーブルカー、帰りはリフトという計画通りに事が進んだ。


 発車したケーブルカーは割とスピードが速く、車内では三味線が車内BGMとして流れている。

 曲名は不明なものの、同乗していた外国人には好評な様子であった。


 律は最後部から天橋立をカメラに収めようと陣取ったが、その場所にいたら譲ろうと思っていた子供などの姿はなく、客も割と少なめで山を駆け上がるケーブルカーから見事な天橋立を撮影することが出来た。


 「(しまった……動画モードにすればよかったか)」


 その姿を何枚か連続撮影した律だったが、動画モードにして一連の風景の移り変わりを写しておくべきであったと後悔する。


 帰りのリフトではそうすることに決め、終点の傘松公園駅にて降車。


 駅出口へと出ると、右側が展望台、左側が有名な「股のぞきスポット」となっている。


 律が何気なく振り返ると、駅舎出口付近の階段上の2階部分に写真撮影向けの展望ゾーンのようなものも見つけたが、


 ハートマークの何かがあるので「恋人向け」の場所と思われ、独り身の男はまず展望台からバツグンの観光日和となった天橋立を撮影。


 次いで観光案内に従い、「股のぞき」スポットへと向かう。


 股のぞきスポット。

 

 傘松公園からの光景は別名「昇り竜」というが、それはこの股のぞきスポットにて背を向けて上半身を倒し、股の間から天橋立を見た光景が「海と空が逆転し、龍が天を駆ける」ように見えることに由来している。


 この股のぞきスポットは平日から行列が出来るほどの人気スポットであり、律も10分程度待つことになった。


 ところで、股のぞき台と呼ばれる展望スポットは2つあるのだが、行列ができるのは木枠が備えられた左側。


 この場所から見るのが最も綺麗に「昇り竜」を見られるため、右側は誰も並んでいない。

 一方で、股のぞき台によってやや開けた状態なので、そこを背にして記念撮影する者達はそれなりにいた。


 10分後、律はまず股のぞき台から昇り竜ではない天橋立を撮影すると、背を向けて上半身を倒し、前屈してその「昇り竜」の姿を見た。


 だが、残念なことに本日の天候だと「海」と「空」がハッキリ色が分かれてしまっており、昇り竜を見ることは出来なかった。


 その恥ずかしい姿勢でデジカメ撮影もしてみるが、なんだかしっくり来ない。


 天候に恵まれすぎると日本海がやや暗い青なのでそう見えないのだというが、やや空がかすみがかり、日差しが強い日に太陽が雲に隠れ、その反射光によって海が白っぽく霞むと昇り竜は現れる。


 景色としては昇り竜こそ拝めなかったものの、天橋立自体は観光地として有名なだけあり、満足のいく姿を北側から見ることが出来た。


 周囲の観光客も「昇り竜は見えないが、ここから見る今日の天橋立は綺麗である――」と一部の者を除いて普通に記念撮影している者が多く、


 律は水分補給などしながら15分ほど楽しむと、リフトで下って次の目的地を目指すことにした。


 今度は失敗しないように動画モードに変更した上で動画撮影しながらリフトにて下り、角度によって移り変わる天橋立の風景を楽しんだ。


 再び昭和な府中駅へと戻ると、先程通ったみやげ物屋に向かわず、なぜか律は小道を左折した。


 実は先程の行列に並んでいる際、近くに特別な神社があるのを見つけていたのである。

 

 籠神社。

 この神社が「元伊勢:と呼ばれる、伊勢神宮へと神が移って行ったとされる神社の中でも特別とされるのは、極めて数が少ない「神明造」だからとされる。


 本来は「その造りが許されない」伊勢神宮の「唯一神明造」に極めて近い建築物(本殿など)があり、その構造をしている理由もきちんとある。


 元々「唯一神明造」とは天照大神を祀るための本殿の構造である。


 他では真似できないので、他の神社における神明造は唯一神明造と似ていても「うーん?」といったような異なる構造をしている。


 しかしこの籠神社は天照大神を元々は祀っていた神社であるためか、元伊勢の中でも特に伊勢神宮の本殿と構造が似通っている。


 その歴史は非常に古く、平安時代からこの地に存在し、日本国内においては江戸時代以前に神明造としていたのは伊勢神宮とこの籠神社を除けば仁科神明宮しかないほどで、


 たった3つしかなかった神明造の中でも、特に伊勢神宮に似ていることから、本殿などを含めてその神明造を見るために全国から足を運ぶ者達がいるほどだ。


 元伊勢とされる神社といっても、古来から存在する「神明造」の構造物を持つ神社は希少なばかりか、そもそも伊勢神宮に訪れた者なら周知の通りだが、「唯一神明造」というのは極めて「神聖なもの」であるため、写真撮影はおろか近づくことすら一般の人間には許されていない。


 だがこの神社は「元伊勢」という立場から撮影禁止エリアこそ存在するものの、近づいて見ることが出来る「神明造の中の神明造」の建物があるのが絶対的な特徴であり、一部の者からは「もう1つの唯一神明造」などと言われる。


 唯一という言葉は伊勢神宮でしか用いることは出来ないが、訪れれば「確かにもう1つあるな」と言わざるを得ないほど、神明造は伊勢のものと似ているのだ。


 律はそんな籠神社を訪れ、まずは拝殿で参拝した後、トコトコと周囲を歩いてその奥へと向かって行った。


 奥へ向かえば向かうほど辺りはシンと静まり返り、まるで「何かの力がはたらいているのではないか」と錯覚するほどの雰囲気となっていく。


 奥へ向かうと「奥宮」こと「真名井神社」と書かれた看板があった。


 実はその先にあるのはパワースポットとして非常に有名な場所であり、律は気づかぬうちにその場所に来ていたのである。


 その静寂さは不気味なほどで、耳鳴りすらする。

 人によっては怖くて先に進めなくなるような状況の中、石段などによって道が整備されており、奥に神社らしき建物があった。


 律は誘われるかのように真名井神社へと向かい、天の真名井の水を見つけると、手などを洗って身を清め、その後で真名井神社本殿で参拝。


 その後、その水に何か感じたのか「天の真名井の水」で喉を潤したのだった。


 一部では日本でも特に力のある御神水と評判の水を衝動的に口にした律は、特に真名井神社について調べることなどはしなかったものの、「そうすべき」と誰かに促されるようにしてそんな行動を示したのである。


 籠神社では20分ほど過ごし、時刻は14時丁度。

 

 籠神社を後にすると、律は観光船の一の宮駅へと向かうのだった――


~~~~~~~~~~~~~


 神社から真っ直ぐ南下すると、一の宮と呼ばれる観光船のための駅に到着。

 律は400円支払ってレンタサイクルを借りる。


 レンタサイクルは二人乗り用などもあったが、一番無難そうなママチャリを借りることにした。

 格好つけて小型の折りたたみ自転車のような何かという選択肢もあったが、実用性を重視したのであった。


 自転車を手に入れた律は天橋立を南下する。


 天橋立。


 この砂州には7000本の松が植えられ、気比の松原と遜色ない風景を楽しむことが出来る。

 何気に自転車だけでなく125cc未満の原付バイクも入ることが許されるのだが、さすがに原付で乗り込む勇気のある者は律が訪れた際には終始現れることはなかったのであった。


 海岸側には石などで作られたベンチなどがあってそこから日本海などを楽しむことが出来るが、律はノタノタと進みながら写真撮影を楽しむ。


 一方で「あれ? もしかして松と海岸という視点だけでみた場合は気比の松原の方が、松林としては上なんじゃないのか?」と、感じていた。


 松がやや細くて小ぶりなのである。

 あの、迫力ある松に囲まれる気比の松原からすると、天橋立は劣っているのだ。


 ただ、細い場所にて両サイドを海に囲まれる状況での景色は、まるで海の上を歩いているようでとても新鮮で感動する。


 チャプチャプ、ザザーと波音が聞こえると「ここが海の上である」ことを自覚させられるので尚更その感情は増すばかり。


 波の音と風が木々の間を吹く音が実に神秘的であった。


 律は事前にアフリカツインから車載カメラを取り外してもってきていたが、自転車にマウントさせた車載カメラの映像を後で見るのが楽しみになほどである。


 一の宮を出発してから15分ほど。

 天橋立神社を過ぎて公衆トイレ付近に来ると一部開けた場所があり、そこからの景色がすごく良かった。


 その先にある海岸側のベンチで一休みし、10分ほど休憩すると再び出発。


 はしだて茶屋を通り過ぎて橋を2つ越え、先程通った県道2号線を横断。

 

 律はついに飛龍観が見られるというビューランドのリフト・モノレールのりばに到着。

 近くの駐車場にレンタサイクルを駐輪する。


 事前に下調べしていたが、こちらでは「行きも帰りもモノレールのほうが綺麗」ということで、律は迷わずモノレールを選択した。


 10分ほど待つとモノレールの出発時間になって乗り込む。

 先程と同じく最後尾を選択。


 しばらくするとモノレールはゆっくりと出発していった。


 建物の屋上らしき場所からビューランドへと向かうモノレール。


 木々に挟まれた状況から、リフトより一段上の高さで見る景色はバツグンであり、動画モードにてしっかりとその様子をレンズに収めた。


 ビューランドに到着すると、リフトより一段高い展望台に近い場所に到着するため、飛龍観展望台へ向かうのはリフトよりやや楽であった。


 目的地の飛龍観はモノレールの駅の出口より観覧車側へと向かって行った先にあり、横に広く面積を取られた展望台がそこにある。


 展望台には有料の双眼鏡も設置されていたが、律は、今までそんなものにお金を払った事がないので無視し、RX1RM2で飛龍となった天橋立を見つつ、その姿を写真撮影する。


 「なんだ……こっちの方が龍に見えるじゃないか」


 飛龍観の何恥じず、目の前に竜の頭らしきものが見えた律は、北側よりも南側の景色のほうを気に入る。


 飛龍観の意味がそれまでよく理解できていなかったが、その様子を見ていてすぐさま理解できた。


 しばらくの間展望台を行き来しながら天橋立を撮影すると、「飛龍観回廊」なる存在があることを知り、そちらへと向かう。


 場所はビューパークの裏側からスロープで行くか、その付近にある螺旋階段を上るかである。

 律は裏へと周り、スロープで移動した後、螺旋階段を上ってさらに上の飛龍観回廊へと向かった。


 飛龍観回廊からの飛龍は、こちらに食いつかんばかりの様子を示し、展望台よりも迫力ある姿を見る事が出来た。


 律はデジカメのバッテリーが切れてしまったので予備のものに交換しつつ、飛龍観回廊からの天橋立も撮影。


 「まさかバッテリーが切れるほど撮ってたとはね……」


 飛龍観回廊から戻る途中、これまでバッテリー切れなど一度も起こした事がなかったのにバッテリー切れを起こしたことで、自分がこれまでで「最も写真撮影に勤しんだ」ことを知って日本海の魔性の魅力に 取り憑かれたことを自覚する。


 「(でもやっぱ……俺は日本海の方が好きだ……)」

 

 律はやや狂気に陥っていた己に気づくも、それでも尚、日本海が好きだとその感情を受け入れる。


 それだけのものを提供してくれたのが日本海であるからだった。


 ――その後、再びモノレールに乗車してビューランドを下り、今度は写真モードにて乗車中に写真撮影して移り変わる龍の姿をしっかりと捉え、モノレールを下車した後はすぐさまレンタサイクルで再び天橋立へと向かい、


 20分ほど走って一の宮まで戻ると、自転車を返却して松井物産にて駐車料金200円分を浮かせるためにやや遅めの昼食を採ってその後に再びアフリカツインにて出発したのだった――

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