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番外編:黒猫になったライダーの独白

 現世と思われる世界での最後の記憶。

 神奈川県の山奥で今年一番の綺麗な夕日を見て、その後……何かにスリップし、俺ぁ崖に転落した。


 多分、その前に盛大にズッこけたバカがオイルを盛大にバラ撒いたまま処理しなかったんだろう。

 通常なら絶対にすべる事がない道だ。

 ただ夕暮れ時で道路状況がよく見えなかったんだ。


 まったくもって運がねぇぜ……


 目が覚めるとそこはまた別の世界らしきもの。

 人も車もまるで無ぇが、ここには俺と同じようなライダーが蔓延る世界だった。


 愛車までこの世界に来たってことは恐らくバブも再起不能になったのだろう。


 そんなよくわからない世界で毎日、飽きるまで走って寝るってなことを続けてたある日、よくわからないネーちゃんに声をかけられた。


 そいつときたら「こんな風も感じないような所で走り回って満足ですか?」だってよ。

 満足なわきゃねぇーよ。


 只管に夕闇の世界。

 一向に朝になる気配がない世界。


 風も無く、まるでリアルなだけのゲームをやっているかのような感覚。

 いくら速度を出してずっこけても痛み1つない。


 間違いなく死んでるぜこりゃあ。


 だから言ってやった。


「ここは地獄だろ?」ってよ。


 俺みたいなツッパってロクでもねえ人生歩んだ人間にはお似合いのあの世さ。

 地獄の亡者も呆れ果ててこんな世界に仕舞いこんだに違いねぇ。


 そしたらその女が突然こんな事を言い出しやがった。

「私の仕事を手伝うなら転生させてやってもいい」だってよ。


 何様だコイツと思って殴りかかろうとしたら体が突然動かなくなっちまった。


 うろたえる俺に対してそいつは何やらポケットから端末を取り出して映像を見せてきやがった。


 そこにあったのは、ハッキリ言って「これまでに見たことが無いグロ画像」そのものだ。


 左腕は神経繋がってなけりゃ切断間違いなし。

 右足はヘタしたら壊死するかもしれねぇ。


 顔面はいくつもガラスがぶっ刺さってる。

 こりゃ失明してっかもな。


 よくもまあ、生きてるもんだと関心したよ。

 吐き気を催すほどじゃないのは何度か悲惨な事故を見ているから慣れてるっつーのもあるが、それでも間違いなく俺の経験からいってとてつもない交通事故に遭遇してると言える。


 殺人でこうはならんよ。


 ……そしたらよ。


「この子、律っていうんだけどね……まずはこの子を一端のライダーに仕上げてくださる?」


 そんな事をニヤけ顔で言いやがる。


「……冗談じゃねぇ……五体満足かどうかもわからねぇ死体もどきをライダーにしろ? 俺は魔法使いか何かにでもなれるってか?」


 あまりにも気に入らねぇから吐き捨てるように否定しようとした。

 だがこの女はしれーっとしたすまし顔のままだった。


「そっちはどうにかなるから。アナタの使命はまずはこの子を一端のライダーにすること。その後の状況次第によっては再び走れるようにしてあげる」


「何が目的だ。この二輪人口が減りまくってるこの時代に何の意味がある」


 その意味不明すぎる命令につい真面目に返答しちまった。

 俺もヤキが回ったな。


「このまま時代が進めば、人は旅をすることを忘れてしまうかもしれない。旅をするための手段が原始的なものに回帰している。私がそれが気に入らないのっ」


 人差し指でもって俺の額を小突きながら、女は答えた。

 なるほど、確かにそうだ。


 昨今、若者の旅のツールといえば自転車や歩きなどに回帰していると聞いた。

 金がねえというのが実情だろうが、そこに二輪を食い込ませたいわけか……いや、でもおかしいぞ。


「例えばお前が神だとして、二輪に拘る理由はなんだ」


「そんなのアナタが知らなくていい。やるかやらないか。どう? やってみる?」


 食えねぇ女だった。

 以降、何を言おうと一番重要な部分ははぐらかしやがる。

 でもなんとなく読めた気がする。


 気まぐれかなんかによって3ない運動を引き起こした元凶がコイツなのかもしれねぇ。


 俺が「この地域で二輪が絶滅しそうなのはお前が全ての元凶じゃねぇのか?」って聞いたら動揺したもんな。

 それで今になって取り返しがつかなくなってどうにかしようとしているわけか。


 はっなるほどな。

 だからつきつけてやった。


「その映像の男が五体満足であることが条件だ」


「それは彼次第だけど、多分どうにか――」


「どうにかなる。ではやらねぇ。きちんと回復しないなら楽にしてやった方がいい。重い障害引きずって無理してライダーにさせてるなんてのは俺の趣味じゃねぇ。他をあたれ」


「わかった。わかった。 でも、その分アナタがハンディを背負ってもらうことになるけれど、いいの?」


「別に何てことねぇよ 昔から人生においてハンディなんてモンは跳ね返してきた」


 こんな会話をしたわけだが、これが完全に失敗だった……




 ――そして気づいたら俺は……猫になって現実世界に蘇ってやがった。

 どうがんばっても日本語を喋る事なんて出来ない。


 寝ると度々あの女に出くわした。


 とりあえずわかってんのは「グロ画像の男の名は律」ということと、そいつの家に転がり込む算段をこの女が立てたということ。


 俺を猫にしやがった理由は本来、律が負うべきハンディを俺が背負った形らしい。

 これでどうやって律をライダーにできるのかよくわからねぇ。


 だから女にはこう言ってやったんだ。

「一度人間の状態で説得させろ」と。


 突然現れた猫がライダーに誘引するなんざ不可能に近いからな。


 さすがの女もしばらく考え込んだ後に「そりゃそうよねー」だってよ。

 駄目だこりゃ。


 まぁいい、ライダーになろうと歩き始めたら「否定」という形で介入するようにして道を踏み誤ることがないようサポートすりゃいいか。


 25とかいう年齢らしいし、一人でモノ考えることぐれーできるだろ。

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