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その車両は遅れてきたBIG-1プロジェクトのマシン 水戸市内→ツインリンクもてぎ(栃木県)

本当はライディングスクール参加2回目以降じゃないとCB1100には乗れません。

しかし話の都合上2回も演出していられないのでこの作品では1度目でも乗れたことにします。

 水戸市内で清川と別れた際、律は清川とメールアドレスなどを交換していた。

 その後に快活クラブへと向かう。


 快活クラブ。

 割と全国区に展開されライダーには有名なネットカフェ。

 値段はやや高めながらクオリティも高めという人気が出やすそうなサービス品質である。


 このネットカフェばかりを利用する者を通称「快活民」と呼ぶが、律もいつの間にかそんな「快活民」として覚醒しつつあった。


 利用したのはライダーになる前も含めて3度目だが、今のところ一番落ち着くのが快活で、それでいてかつ「国道沿いに多い」ことから見つけやすい。


 ライダーの一部は「困った時の快活」というが、秘境のような静岡の周囲になにもなさそうな地にも平然と店舗を展開しているので、会員証をもっておくと得するというか、


 ドライブインが減った現在においてはこういった存在がないと貧乏ライダーはやっていけないといわれる。


 まぁ道の駅でリスク背負ってテントを張るという手もなくはないのだが、律はそのあたりリスクを背負いたくない人間なので、こういう場所があると助かるのだ。


 快活クラブに到着して駐車場でバイクカバーなどの処置を施した律は、入店するといつものようにフラット座席を予約してそのまま横になった。


 なんだかよくわからないが疲れてしまったためである。

 原因はZIIに神経をとがらせて振り回したこと。

 

 ZIIの重量はそれほどでもないが、絶対に倒さないと覚悟をきめて集中したことでとにかく体力を著しく消耗していた。


 それでもZIIが律に与えたものは大きい。

 自分としてはバイクは「車の代わり」よって、より「リスク」というものが少ない楽に乗れる車種こそ至高の存在。

 

 ZIIというものは旧車ゆえに車体を維持するという上ではリスクだらけ。

 だが性能面だけでいえばそれを満たす。


 そういうバイクが他にもある。

 光や清川は何度かそんな言葉を述べていたが、彼らがそういうならそうなのだろう。


 律はその日、翌日の行程だけネットで調べて簡単に組立ると、ナビゲーションに中継地点を入れてその道筋が通れるように調整し、そのまま床に就いた。


~~~~~~~~~~~


 翌日。

 朝早くから起床した律は朝食を食べて歯を磨くと、チュンチュンとスズメのさえずりがこだまする駐車場を後にした。


 向かうはツインリンクもてぎ。


 日曜は9時30分にゲートが開くが、いの一番で向かうため渋滞も考慮して7時30分に水戸の快活クラブを出たのだった。


 駐車場を出た律はすぐさま国道123号を北上し、そして数分ほど進むと左折。

 県道51号へと入り、そのまま県道51号を突き進んだ。


 朝早くのため、この時期は田植え前の季節となり、田園地帯を突き進む県道51号においてはさまざまな農業機械と行きかうことになるが、バイクだとまるで何の心配もなかった。


 車だと怖い交差が、加速能力だけはあるCB400SBならまるで問題ない。

 燃料表示はすでにゲージ2つであったが、道中ガソリン補給ができそうなので特に気にしなかった。


 しばらく進むと森の中に入り、ゴルフ場らしき場所を通過し、再び田園地帯へ。

 

 この茨城の地を走って律が毎回思うのは、とにかく「鳥」が多いこと。


 名前がわからない鳥が大量に飛び交い、ある鳥は電信柱の上で集団で塊となって沈黙し、ある鳥はその状態でギャーギャーとわめき、ある鳥は集団で低空を飛行し、ある鳥は白鳥で田園地帯をスタスタと歩いている。


 「うおっ!?」


 そして律が驚いたのは、トンビが目の前をまるで律自身が追いかけるような状態で低空飛行していること。


 「道案内は任せろ」とばかりになぜか目の前をユラユラ飛んでいる。

 

 茨城の田園地帯ではよく見る光景であるが、80を過ぎた人らが口癖のように言うのは「かつては夏になるとここらにはホタルも大量にいだんだが」などという声。


 律は生れてから「ホタル」なる実物が光って飛ぶという姿を見たことがなく、空想の生物に近かった。


 しかし母である夢はそれらがどんどん減少していく姿を目にしながら成長し、「どうすれば戻るんだっぺか?」なんて思っていたこともあるが、あれだけ大量にいたホタルが川もまだ奇麗な状態を保ちながら激減した理由はいまいちわかってなかったりする。


 堤防などを作ってもコンクリートで固めたことなどなく、育たない環境ではなかったはずだった。


 今やもうそれも幻。

 山奥で静かに保護されている一部以外は見つからないような状態となった。


 そんな神秘的かつ美しい夏の風物詩が消えても鳥は消えず、いやむしろ最近は「種類が増えてきた」なんていわれるほどだ。


 温暖化の影響があるのかもっと熱い地域にいるはずの鳥が住むようになっているのだという。

 

 かつて全面凍結が当たり前だった袋田の滝も全面凍結が珍しくなった今、東京から2時間だけで来れるこの地域はなかなか「宣伝」に足るようなものがなくなり苦戦しているが、田舎道が好きな者なら千葉と並んで「最高の地域」と称される。


 何よりも茨城はそんじょそこらに大量に飲食店があり、「食に困らない」のが特徴。

 関東の中でも特に農耕民族が多いとされる茨城ならではの特徴があったのだった。


 これらは東京の給食用などに使われる野菜などであるわけだが、新鮮な状態なのでとても美味。


 中継地点としての茨城は栃木や群馬と比較してすぐれてると言え、むしろ埼玉も熊谷以北などに向かうよりはよっぽどライダーにやさしいのだ。


 トンビは数分ほど道案内したあとどこかへ飛び去って行ったが、そんな田園地帯をゴルフ場からしばらく進んだとき、律は車が高速で走行する音を耳にし、一旦停車する。


 「おかしいな……まだ茨城県内だぞ?」


 一瞬ツインリンクもてぎに到着したのかと考えた律であるが、ナビはまだ10km近く遠くを目的地として表示している。


 立ち止まって周囲を見回すが何もない。

 そこで、スマホを使って周辺の航空写真を見る。


 すると、なんと巨大なサーキットのようなものがあるではないか。

 

 気になって調べてみるととんでもないことがわかり、律は武者震いする。


 通称「JARI城里(日本自動車研究所ことJARI)」またはカーファンの間では「第二の谷田部」と呼ばれる場所。


 この茨城の山奥にあるテストコースは、「すべての車の燃費などを試験する関東唯一の場所」だったりする。


 CMなどでオーバルコースでテスト走行している場所があるが、今でもメーカー問わずここが「その試験場」であり、60km定速走行燃費試験はここで行われる。


 しかしこのコース、なんと2007年に新たに設けられたものだ。

 

 時は1964年。


 モータリゼーションの発展により、国内メーカーの開発機運が高まり、世界的な戦略を展開する国内の自動車メーカーは、それまで「自社」などでの風洞実験などで車を開発していたものの、


 それこそ本田宗一郎などの「実車データを用意しろ!」と叫ぶような技術者は当時多数おり、そんな者たちのために「テスト走行のためのオーバルコースを作ろう」という話になるのは当然で、


 現在はつくば市にあたる谷田部に1964年にコースが作られ、以降そこでテスト走行が行われてきた。


 律も「矢田部のテストコース」と言われれば反応する。


 しかし2000年代によるつくば市の都市開発のため、研究所施設の規模を大規模に拡張しようとしたところ、テストコースを取り壊すことになってしまった。


 最大の要因はつくばエキスプレスであり、コースのど真ん中を射抜く形につくばエキスプレスが通ることになってしまったのだ。


 だが当然、今後もこういった試験を行うために別所にコースが必要。

 そこで県内で誘致した結果「うちで是非」と手を挙げたのが茨城県城里市。


 以降、建造された2007年以降はずーーーーっとここで燃費試験なども行われているのだが、そのことについてかつての谷田部ほど宣伝しなくなった。


 理由はここを盗撮すると最新鋭の自動車の姿が見えるからであり、近年の情報戦争ともいうべき産業の資本主義的競争においては「ボディ形状」すら漏れると、そこからコンピューターで構造を解析して逆算して性能を把握されているため、とにかく「隠したい」のである。


 このコースでは燃費試験を行う関係上、フィルムシートなどを張り付けたテスト運用は行わない。


 以前は年に1度解放イベントをやっていて、信じられないことにこっそり「販売前の新車プロトタイプ」を試乗できた唯一の場所であったが、


 トヨタなどが「イベントに国外メーカーの人間らしき連中が混ざって偵察活動をしてくるようになった。ここは研究所と研究という大義でもって作られた試験場という兼ね合いから、そういうオープンな場にするのは見直してほしい」と圧力をかけられ、結果的にかつては四輪フリークであった律ですら知らない間にこんなところに移動してきたのだった。


 見ての通り、航空写真からみると「周囲から簡単に偵察できない」ような平地と森に囲まれた場所にコースが用意されているが、監視カメラなどで監視されており、近づくのは容易ではない。

 

 ナビですら一部では表示しないほどであるが、こんな場所にそんな日本自動車研究所とその新たなテストコースが存在し、音からして何やら朝っぱらからテスト走行をしているのである。


 一連のことをスマホで即座に調べ上げた律は「なんか見に行きたい」という衝動にかられるが、


「偵察を防ぐために閉鎖的にした」という話から、モラルのある人間として自制心でもって自分を静止させ、そのままその場所を後にしたのだった――


~~~~~~~~


 テストコースを後にした律は県道51号をそのまま北上。

 

 しばらくするとエネオスのガソリンスタンドが見つかり、朝早くからオープンしていたのでガソリンを補給。


 この手の田舎のガソリンスタンドは閉まる時間も早いが、オープンする時間も農業に合わせて早い。


 そのため開店しているのだ。


 ハイオクヴィーゴを満タンにしてもらった律は、ガソリンの不安もなくなったので意気揚々とそのまま山へと突き進む。


 20分ほどゆるいカーブが連続する山を進むと、目的地であるツインリンクもてぎの南ゲートへと到着。


 時刻は信じられないことに8時15分。

 まだオープンまでに1時間15分もの時間があった。


 しかたないので律は周辺をブラブラすることにしたのだが……周辺には何もなかった。

 ライダーハウスが一軒あった以外は、つぶれたバイク屋が3つほどあり、廃墟が佇んでいた程度。


 何もない。

 

 特に空腹も感じないのでバイクでブラブラすることにし、結局、何もないのでサーキット周辺をグルグルまわってなんとか1時間ほど時間をつぶし、ゲート前で15分ほど待ち、入場料金を払って中に入った。


 さて、ライディングスクールだが、律は光から事前にメッセージにてこんなことを言われていた。

 メッセージは夜に送信されてきていたが、律が気づいたのは朝出発前にスマホを確認した時だった。


 ――そうそう、言い忘れてたけど明日は半日みっちりCB1100だから――


 律は参加費用1万4000円をすでに用意していたのだが、その意味がよくわからなかった。


 しかし、ゲートにて「本日は何かイベントに参加されるご予定はありますでしょうか?」と言われたので「あんしんツーリングのライディングスクールに参加予定です」と律が主張すると――


 「――そちらは10時開始で16時までずっとバイクを駐車しておく必要性があるので貴重品は常に身につけてください」といわれあっけに取られる。


 そう、実はこのライディングスクール「10時~6時の昼食付プラン」とかいう、「教習所」すら真っ青な時間みっちりツーリングについて仕込んでくれるものだった。


 何の覚悟もできていない律はゲートの女性の突然の発言に一時的に思考停止に陥ったものの、


 「6時間で1万4000は……安いのかな?」などと、CB1100に乗れて6時間ということになぜか納得し、そのままゲートインしたのだった――


 ここでツインリンクもてぎのライディングスクールについて説明しよう。


 ライディングスクールは1日コースの6時間と、3時間程度のものと、30分~120分程度のものに別れる。


 1日コースはコース全域を使い、多人数にて講習するコースであり、タウンライド、レーシングライド、オフロードライドすべてに設定されている。


 タウンライドは今回律が参加したような教習所の課題走行のようなもので、パイロンスラロームも含まれるが、レーシングライドにもこれらは含まれ、またレーシングライドといってもどちらかというと「高速道路」などを考慮したような内容だったりし、


 その中には13:00~19:00という、「夜間走行」すら含めた内容のものがある。


 この夜間走行は非常に珍しい「夜にツインリンクもてぎのロードコースを走る」というもので、(状況によっては異なるが基本は夜)


 信じられないことに夜のサーキットで隊列を組みながら「高速道路をマスツー」する感覚で高速走行するという、


 そこを「CB1300」や「CB1100」などで走ることができる、ホンダ党ならヨダレが出そうな内容のものもある。


 ただしこれは「中級者以上」向けとされており、初回からは参加が非推奨とされている。(できなくはない)


 律が参加したのはあくまで「あんしんツーリング」というものだったが、これは最後に一般道を模したスクール用コースを隊列を組んで一般道をマスツーするシミュレーションを行うものが組まれていた。


 今の律の能力であればスラローム初中級+ロードコース体験という、一部で大人気で予約が取れないことが多々あるコースを受けても問題なさそうだが、残念ながら本日それはやっていなかった。


 少なくとも、一般的なツーリングを想定したスクールをCB1100にて6時間乗れるので、「ヘタにレンタルバイク借りるよかよっぽど楽しめる」とホンダ党の中では割と有名なライディングスクールなのであった。


 さてさて、律はゲート入口にいた女性の案内により、ライディングスクールが行われる第二アクティブセーフティトレーニングパーク(ASTP)へと向かった。


 入口からの距離は案外やや遠いが、まずはレンタル含めた受付があるとのことで足早に向かう。

 駐車場も完備されている場所とのことで特に不安はなかった。


 南ゲートから北上していくと、最初に目に入るのはサーキット場。

 ただし様々な建物などによりよく見えない。


 やや高い丘のような場所から見下ろすような形で片側1車線の道路を進むような状態であり、律は「後で来ればいいや」などと考え、そのまま第二ASTPと呼ばれる場所へと向かった。


そして――しばらく進むとまるで巨大な教習所のような場所に到着する。

 ここが第二ASTPである。


「でかい……これで教習所でもなんでもないのか……」


 実はこの場所はバイクの試験走行なども行われる場所であるのだが、四輪用のテストコースでもあったりする。


 そのため、四輪用のドライビングスクールも開催されている。


 教習所ではないが、自動車テスト試験以外にこういったイベントでオープンな場所として一般客も活用できるようにしているわけだ。


 律は1段上の丘のような場所から下るような形で駐車場へとバイクを向かわせ――そして駐車した。


 すでに何人か人がいたものの、参加者一番乗りは律であり、何人かいる者はインストラクターやその他の人間であった。


 そしてそこには、今日のお目当てであるレンタル用バイクが大量に鎮座されていたのだが、律はどれが「CB1100」かわからないので、とりあえず大型バイクらしき中にそれらしきものをみつけるものの、CB1300の隣にあるっぽいクラシカルなバイクという印象だけ抱いたのだった。


 インストラクターが「参加者ですか?」と話しかけてきたので律は受付を済ませる。

 受付はASTP内に設けられた建物内で行われ、そこで免許証などを提示することとなっている。


 律は予めネットカフェにて印刷してきた記入済参加申込書を提示すると、不思議なことを問われた。


 「ホンダドリームオーナーズカードは所有していますか?」――と


 律は所有しているソレを見せると、なんとスクール料金が1割引きの1万2600円となった。

 1400円と言えば8Lほどのハイオクが入るので実質的に100km走行分の燃料費用を節約できると非常にお得。


 それは別に律が新車購入したからというだけでなく、例え中古でも特典は得られる。

 「ホンダドリーム」という場所にてホンダ製のバイクを購入した者だけが得られる特典。


 それまで、ヤマハやスズキの施設に行った律は、実はそれぞれのオーナーなら特典を受けられたことを知らなかった。


 土屋のインパルス400は名義変更は光のものにされており、単純に律が借り受けていただけに過ぎない。


 おまけに光の店はスズキワールドやYSPとは違うただのバイク屋なのでそういう特典はない。

 ホンダ車両を購入しようと考え、それでいて「ホンダドリーム」で購入しようと思ったからこそ、こういう特典が受けられたわけであるのだが、律にとってそれは初めての経験なのであった。


 改めてここが「関東のホンダの聖地」であることを理解するとともにちょっぴり幸せな気分になった。


 その後、詳細な受付を済ませレンタル車両の承諾書にサインを済ませると、受付の人間が「CB1100でレンタル予定でしたね。こちらにあるので状態を確認しましょう」といってCB1100のある場所まで律は案内された。


 殆どのバイクは屋外に駐車されていたが、そこから屋根付きの待機場所までCB1100をインストラクターが持って行くこととなっている。


 そこでプロテクターやゼッケン装着などの準備を行うこととなっていた。


 インストラクターの後ろについていくと、律の予想通りCB1300の隣に鎮座されたバイクがCB1100である。


 なぜかミラーが装着されておらず、妙な違和感を感じるが、基本的にロードコース系のライディングスクールではミラーの装着されていないレンタル車両だったりする。


 理由はよくわかっていない。


 そんなミラーが装着されていないCB1100に対し、インストラクターがエンジンをかけるとドォゥンという音とともに四気筒サウンドが響き渡る。


 それはNC31のCB400を思いっきり低音にしたかのような音であり、2本出しのマフラーからは湯気が漂っていた。


 とにかく「余裕あります」という音だが、インジェクターの影響なのか音はとてもリズム感があり、キャブレター式のZIIとはイメージが異なる。


 一応言うと意図的に燃焼タイミングを各部で微妙にズラしているのでCB1300と比較すると非常にキャブレターっぽい音で、実はこれは「ホンダのキャブレターのイメージ」で作られているためこんな均等な感覚の音なのである。


 ホンダの独特のギアが奏でる音が合わさり、これが間違いなく「CB一族である」ことはすぐわかる。


 もっと不均等な音にさせることも考えたそうだが、それだと「故障車に感じる」ということからこんなアイドリング音になったそうである。


 ちなみにRSのためタイヤサイズはCB400と同じく17インチとなっている。


「こちらはCB1100RSになりますね。最近入れた新車なんですよ。若い方なのにコレを選ぶなんて通ですねえ~」


 律はそんなインストラクターの言葉に「いやぁ~」なんて述べながら照れるのだが、そのバイクを見て思ったことは「ZII」と少し印象が似ている。という第一印象だった。


 CB1100。

 別のエッセイでもふれた通り、実はCB1000シリーズが企画された当時から開発が始まっていた「空冷CB」である。


 CB1000の開発が始まった際、社内において「CBとは何か」という白熱した議論が交わされた。


 最終的にある男が「自分が乗りたいバイク」として試作品を出して好評だっただめに世に出たのがCB1000であるのだが、CB1100はこのとき他の人間がプロトタイプをこさえていたものの、「なんか微妙すぎる」ということで一度開発が凍結されてしまう。


 空冷CB自体は「絶対に支持者がいる」としてその後も社内ではコッソリと開発が続けられたものの、


 21世紀になっても「空冷CB」などというものは架空の産物に近いまま登場することなく、時間だけが過ぎ去っていった。


 原因は当時すでに今後厳しくなっていくであろうことがわかっていた排ガス規制。


 それに合わせて拡張性あるエンジンにしなければ、出た途端にすぐ死んでしまうほど「空冷」という存在は排ガス規制の突破が難しいエンジンなのだ。

 

 ホンダが苦労の末一度凍結されたマシンを再び開発しだした際には「完全な空冷」というものを捨て、「CB1300のエンジンをベースに空油冷にする」という状態で再スタートを切った。


 この空油冷というのはエンジンオイルをインタークーラーにて冷やす仕組みなのだが、


 エンジン全体を血管のごとく張り巡らせられた隙間を循環するオイルは自然法則を利用し、逆流防止のタービンが仕込まれた代物で、


 インタークーラーに強制的に大量のオイルを送り込む油冷とは実質的に異なる蒸気機関車などと同じ考え方でもって自然循環するものであり、


 かつて本田宗一郎が存命の際にF1にて空冷マシンでも戦うといった時に苦労してレギュレーションに違反しない範囲でこさえた車両の技術をそのままフィードバックしたもの。


 これをF1を管轄するFIAが「空冷」として認めたというのだから恐ろしいものだ。


 あの時、自動車関係の技術者は「ほら見たことか。もう空冷など終わったのだ」などと死亡事故などをあわせて主張したが、


 CB1100という現物をこの目で見たとき、2017年の厳しすぎる排ガス規制すら突破できた存在であるということを考えれば、(当時の10分の9の排ガス排出量なのが現在の値)

 

 本田宗一郎が本当に間違っていたのかどうかはわからなくなる。


 無論、それはバイクだからこそ可能なのであって車には不可能だという意見も多々あるわけであるが、少なくとも現代において水冷関係の装置を殆ど除外し、


 オイルクーラーを外付けしただけで排ガス規制を突破して今も生き残るバイクを生み出してこの世に出せた背景には、本田宗一郎という創業者の拘りが大いに関係しており、


 そしてCB1100は「実は昔ながらの乗り味を再現するためにあえて性能をデチューンしている」という部分があって、本気を出せばもっと凄いエンジンが作れることは示唆されている。


 CB1100をもし彼がこの目でみることができたならば「それ見たことか」と間違いなく主張しただろう。


 そんなCB1100は2007年にBIG-1で最も難産だったバイクとして登場し、そこから今や「CB1300より売れる」といわれるバイクとなった。


 このバイクを一言で言えば「これが真の優等生」であり、これに乗るとCB1300は脳筋、CB400は体育会系すぎるといったイメージを持つようになる。


 弱点は何度も述べるように重すぎるということであり――


 屋根付きの待機場所まで運ばれたCB1100に対し、インストラクターにちょっと乗って見ていいですよなんて促されて早速跨った律もまた、


「うっ……」


 ――と、あまりの重さに声が漏れ、CB1100RSからその洗練を受けたのだった。


 これまで律が乗ったバイクは100kg台前半~200kg台前半。

 その中で最も重いのが昨日乗ったZIIの230kg。


 CB400SBはパーツ装着した影響で210kgほどあるが、あのZIIが「ちょっと重いな」程度だったところ、CB1100RSは253kg+エンジンガード+マフラーガードという構成で270kg近くあったのだ。


 跨って垂直に立たせただけで律は「こんなのまともに乗れるのか!?」などと、WR250R以来の感想を抱くのだった。


(やれやれ……ライディングスクールの時は毎回こうなるな……)


 まだ2度目のライディングスクールではあったが、最初に「乗れるのか!?」などと不安を抱くようなバイクにばかり乗ってるように感じる律は、


 「とにかくがんばるしかない」とZIIに感触が似ているとされるCB1100をソッと元に戻し、静かにライディングスクール開始の時を待った。


 次回「90馬力の本気と初のリッター級大型二輪車」

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