CBで戦えるのか? ~筑波サーキット~
コンビニにて各人の好みである食料を調達してきた律はジムカーナ場へと戻った。
律がゲートの前まで戻るとパドック内は朝よりさらに活気づいており、トランポは増え、見学に来たと見られるライダーの姿もちらほら見られる。
ただし参加人数は全体で200名いるかいないかといったところで、やはり規模としてはそこまで大規模というような感じではなかった。
それでもこういうイベントに今まで一度も参加したことがない律にとっては新鮮そのもの。
ゲートをくぐった律は針で糸を縫うようにしてトランポの間をかいくぐり、そして光のトランポが停車している場所へと戻った。
そこではCB400がテスト走行から戻ってセッティング出しを行っており、綾華の指示を聞きながらあれこれサスペンションなどを調整する光の姿があった。
すでに第一ヒートは開始されていたが、最初は低ランクから走行するため、まだ綾華の走る番ではなかった。
走るまでの残り時間、綾華と光は最終調整のためにCB400を最大限戦えるよう細かいセッティングを行っているのである。
綾華はゼッケンを身につけており、すでに勝負モードといった容姿をしていた。
二人はあまりにも作業に集中しており、エンジンを停止しながらCBR250RRを引っ張ってきた律に気づく様子がなかった。
律はおもむろにCBR250RRを停車させると、その場で作業を黙って見守る。
しばらく作業を行った後、サスペンションを調節し終わったあたりでようやく二人は律が戻ってきたことに気づいた。
「感じはどう? いけそう?」
なにやら申し訳なさそうな表情をしていた綾華の姿をみた律は自ら離しかけ、フォローする。
まるで今来たばかりだからといった雰囲気を漂わせる。
こういうのも社会に出た後の処世術というもの。
国外では評価されない日本人らしいガラパゴスな文化。
「やっぱ400cc最強クラスのパワーやね。CBR400Rより速いんやない? それで、パワーだけなら十分あるんやけど……今日は厳しい戦いになりそうやねー」
顔に汗が浮かぶ綾華はCB400のシートを撫でる。
その顔はすでに戦闘モードに入ってきており、冷静に状況を見極めている。
律にばかり気にかけてはいられない様子であった。
「CBR400Rは元々CBR500Rのボアダウン版で最高のツーリングマシンだから比較しちゃだめだろ。500ccとの比較ならあっちのが間違いなく速い。こっちは現在も販売される旧車とはいえ、2018年(2014年)モデル以降の現行車種だからVTECは低回転でも働くようにはなってる分、速いに決まってる。間違いなく現行の400cc最速だろ」
「最速も何も、ホンダ抜いたら国内メーカーじゃ他に比較できるバイクはカワサキのNinja400しかもうないんやけど…?」
「そうだったな……」
二人がいつものように漫才のような会話を繰り広げる様子を見て律は安心する。
いつもの二人が戻ってきていた。
そう感じるほど朝の様子は双方ともおかしかったのだ。
「にしても、参加者のバイク見てもなんか軽そうなバイクばかりだ。レギュレーションに特に排気量規制もないみたいだし、大排気量バイク有利ってわけじゃないんだね」
二人の様子をみてボソッと呟いた律に対し、綾華は待ってましたとばかりジムカーナの解説をしはじめた。
ジムカーナ(二輪)。
基本的には当人の腕こそ最重要と言われ、かつてはゼファー750などでも十分戦えた時代があった。
しかし基本は「軽量」「ハイパワー」「フラットトルク」が重要となる。
なぜならコーナーとの間隔が極めて短いからだ。
例えば大排気量ハイパワーマシンといってもハイパワーすぎて前輪が浮いて制御不能になったり、後輪が滑ってしまうようでは加速が他のマシンに負けて話にならないわけだ。
おまけに重く、横幅が広く、回頭性が低いマシンでは話にならない。
「不必要なパワーはいらない」「180kmまでは出せないが時速100kmまでが3秒以内ぐらいの加速」そんな軽量マシンが求められる。
それでもかつてはZRX1200などが十分戦えた。10年前ぐらいの話である。
それもここ数年で状況が変わってきている。
ここ4~5年程度で流行しはじめたのはモタードやオフロード系バイクをジムカーナ専用にチューニングしたもの。
それまでジムカーナでは上位クラスとなると軽量ハイパワーのSSが上位クラスでは有利とされた。
CBRやGSX-Rなどである。
これらはパワーと重量が両立し、回頭性能も改造すればどうになかった。
しかしとあるA級ジムカーナレーサーが400cc帯の元来競技用車両であるオフロードレーサーマシンを公道走行可能にして持ち込み、凄まじいタイムを叩き出してからはそれまで「重心が高く不利」とされていたオフロード系バイクが注目されるようになった。
オフロード系バイクはBMWのG450Xなどに代表される、近年の設計手法である「マスの集中化」や「低重心化」などによってジムカーナで非常に有利に戦えるようになっていた。
それは例えばCRF250Lのようなマシンではなく、本当に「ただ公道で走れるだけのレーサー車両」の話。
上位で走るのは例えばヤマハならWR250RではなくWR450Rといったタイプ。
CRF450Xなども平然と参加してくるようになる。
その結果、一部の人間から言われ始めるようになったのは「競技車両の高コスト化」である。
CRF450Xはホンダが販売したCRF450Lで話題になったように、「公道走行可能」と性能を落としてデチューンした代物すら3万kmに1度オーバーホールが必要な限界まで性能を求めたマシン。
つまりデチューンすらされていないマシンで競技に参加するということは尚のこと手がかかることを意味している。
元来の「誰でも参加でき、その上で誰でも鍛え続ければ上位を狙っていける」といったようなことが難しくなってきている。
近年、新車が出るとジムカーナ界で注目されるバイクはハスクバーナ701のように「競技用マシンと何が違うのか」というようなものばかり。(2017年モデルにてエンジンに手が入ってショートストローク化して高回転型になり、フラットトルクで車重145kgに対して74馬力とかになった化け物)
当然CRF450Lも注目されているが、CRF450シリーズに関してはL以前にXというモタードタイプが普通に競技に参加してしまっている。
律がトランポで見た「凄そう」といったメンバーが持ち込んでいたマシンこそこれだったのだ。
だが最後は当人が持つ「腕」である。
そう言われるのは事実で、例えばA級ランカーなんかがちょっと弄っただけのVTRに乗ればベストタイムの105%ぐらいは本気で出してしまうほどの実力がある。
しかし105%ではA級としては話にならない。
A級はベストタイムを出すことに命を燃やす集団。
A級昇格にはVTRでも十分戦えるポテンシャルがあるが、A級でもVTRで戦い続けるとなるとかなりの改造が必要となるのが現在の状況。
10年前ぐらいの話でもって「VTRでもA級で戦える」というのはここ2~3年のジムカーナの常識からはやや外れる。(それでも上位に食い込む実力がある)
ちなみに、現在のジムカーナ参加者がこぞって言うのはここについての問題認識。
本気メンバーが特に気にしているのは「実質競技専用車両」であるWR450RやCRF450Xのような存在。
かつてジムカーナでは「A級? ならストリートファイターとかでもB級から昇格していけるよ!」なんて話があった。
Z1000なんかは「開発者にジムカーナ参加者がいてジムカーナでも戦えるようにしたよ!」なんて話もあった。
だが現実としては近年欧州などを筆頭に流行しているストリートファイター系車両なんかは「SSのデチューン版なのに重量がSSと同じなんで話にならないっス」なんて言われてしまう状況だ。
とはいえ、実際問題、ならSSならどれでもいいのかというと、「CBRはCBRでもCBR1000RR SPクラスでないとA級での勝負は厳しい」なんていう、「もうそれアマチュアレーサーの話では?」なんて状況になってきている。
また、そんな状況を是正しようと思ったのか2年前からいくつかの大会ではレギュレーションでタイヤがワンメイクになった。
これらは「コスト低減策」とされたが、本当にレギュレーションで規制すべきは「市販車両のみに限定すること」と提唱する者は少なくない。(それも条件をつけた上での市販車両である)
しかしそうなるとKTMやハスクバーナといった「競技用車両を特段でチューンせずに市販する」メーカーが有利となり、国産バイクはSS以外淘汰される可能性があるし、(ホンダのCRF450Lみたいな例がそうあるわけない)
かといって、じゃあ国産SSバイクだ!
などとといえば250万円ぐらいするようなものなので、それでないと勝負できないなんてことになったら競技の敷居はさらに高くなる。
そんな状態でもVTRやNSRといった「市販バイク」は戦えるというわけだが、両者共にかなりの改造が必要となった。
確かにエンジョイするという意味ではC級あたりまでならどんなマシンでも戦える。
B級昇格においては不利とされるストリートファイター系でもどうにかなるとされる。
が、その傾向もここ1~2年は怪しくなってきた。
原因はジムカーナのルールである。
ジムカーナの昇格ルールは「ベストタイムの10X%、1XX%」というものが条件。
他にも「そのクラスで何度入賞したか」も重要とはなってくるのだが、
上位が凄まじいタイムを出しすぎると下位の敷居は非常に高くなる。
5、6年ぶりぐらいにジムカーナに戻ったB級の人間なんかがブログなどで嘆いているが、「かつて走ったのと同じコース(固定コースにおける大会)における自分のレコードタイムは昔とほぼ変わらないのにベストラップの113%とかになるんじゃが……」なんてことになってしまった。(当時だしたタイムではベストラップの107%)
その人は結局、今まで参加していたマシンに多額の投資をして大幅パワーアップさせたが、それでも平均タイムがベストタイムの108%に留まり、SSに手を出したことでようやくベストタイムを大幅に更新した一方「これはどうなのか」といった疑問を投げかけている。
さすがにジムカーナ主催側も最近はそこが気になっているのか「Dランクで例えば上位ベストラップの120%とかが自身の平均ラップタイムだとしても、峠とかでは殆どの人をブチ抜ける腕です!」とか言ってるが、それはつまるところ「マシン性能ヤバいんです」と暗に認めてるようなものである。
そういう問題が随分騒がれるようになったため「もっとジムカーナを広めたい」と2017年末にNAPSが企画した大会においては「最近、にわかに問題視されはじめたマシン性能差をどうにかしたい」と企画当初から問題視されたものの、コースレイアウトなどをある程度考慮したり、ほぼ同じ性能を持つマシンを2台併走させて競わせることでプレッシャーを増大させ、ミスを誘発させることである程度マシン性能差を埋めることでほぼ上手い具合に調節したことでレギュレーション規定を細かく設定することは回避した。
ただ、あの大会自体はあえて抽選方式にして「あまりにも問題ありそうな」マシン所有者を徹底的に排除したという裏話が「噂程度」ながらある。(ガチ勢過ぎる人が大会趣旨から参加自体を避けたという話も同時に聞くが、参加者の状態を見る限り前者もあったのではないかと言われても仕方ない面子ではあった)
というか、まずあの大会にて「マシン性能差のレギュレーションをつけるべきかどうか」と議論が交わされた事自体が現在のジムカーナにおける危機感を象徴していると言える。
綾華の場合、キャブレター式のVTR250をジムカーナ仕様に磨き上げた「通称:綾華スペシャル」をこれまでは使い続け、A級昇格一歩手前という所まできていた。
愛車であるCBR250RRが軽量化重視となっている要因もジムカーナによる影響が多分にあるほどだ。
しかしながらA級昇格後は本気で戦えるマシンが別途必要になることを自覚しており、光と相談して今後どうするかを考えていた。
正直なところ、CB400SBの戦闘力は低くないがゼファー750などと同様、A級昇格を目指すことは出来なくは無いとしても戦闘力増加のための大規模な改造が必要であり、気軽にジムカーナを楽しめるとしても現在ではB級クラスまでが限界と言われている。
実際、CB400はアマチュアのサーキットレースでは引っ張りだこでホンダもワンメークレースを企画したことがあるほどだが(現在はもっとコスパを良くするためグロムなどにシフト)現在のジムカーナで上を目指そうとするとかなり厳しい状況に立たされている。
それでも尚、綾華はテスト走行とはいえ、テスト走行のA級メンバーのベストラップに対し108%の数値を律のCB400にて叩き出していた。
実は悔しくて恥ずかしくて律には話していなかったが前回の大会では114%で競技終了。
記録的にはダントツの最下位であった。
これはこの時点でVTRが限界にきていた可能性が高かったが、綾華は自身の調子も悪くバイクに責任を擦り付けるのを嫌って、本来ならば気持ちを切り替えて今日に臨もうとしていたのだった。
そこから比較すると今日の彼女のレコードは大幅に早いが、A級昇格のためには105%未満で複数回の入賞が条件である。
昇格判定に落ちた綾華は再び入賞が必要だった。
現在のCB400のポテンシャルではとてもではないが今日の入賞は厳しい。
しかし綾華にとって驚くべきは律のCB400のポテンシャルであった。
そのCB400は明らかにクラッチの感触が他のCBと異なっていた。
戸塚は「クラッチレバー操作すら要らない」レベルにクラッチを短時間で磨き上げていたが、レスポンスが大幅に向上したクラッチにより、綾華をして信じられないタイムが出せるようになっている。
厳しいが戦えないことはない。
それこそが綾華の「――今日は厳しいものになりそう――」という言葉の真意でああった。
もし仮に彼女が今日乗るCBがありふれたCBであったならば「悔いが残らないように必死で走るだけ」そう律に伝えたことだろう。
「――というわけで、大排気量なら強いというわけではないんやけど……中排気量だから有利といっても200kg超えるマシンやと不利なんやよ」
綾華は上記で示したような話を端的にまとめて律に話す。
律はその事によって競技自体で最も重要なのは「腕」であり、四輪とは違うものの、自分が違和感を感じる四輪のジムカーナと同じような状況に陥っている事を知り、複雑な心境となった。
元来こういうアマチュアスポーツでは「誰でも気軽に参加できる」ことが重要であり、今日のように誰かが貸与したかは知らないが、パーツなどをお互いに融通しあって戦うというのは律も「一度はやってみたい」と憧れるもの。
互いに高め合うということこそスポーツマンシップであり、スポーツの真髄と考えていた。
牙をむき出しにして「あいつを蹴落としてでも、どんな手段を使ってでも勝つ」というのは律の理想のスポーツ像ではない。
だが何かが変わってきているという綾華の言葉から、「もうちょっとどうにかしたほうがいいんじゃあないかな」と思わずにはいられない。
無論、ジムカーナの敷居が高くなったといわれても現在でも気軽に楽しめるスポーツであることには代わりない。
問題視されるのはB級以上の状況であり、昔からA級は「ジムカーナに全てを捧げる者達の場であり、金がかかる」などと言われてきたが、それでも何かが変わってきていると言われてきているのである。
「まぁCBって無改造だとここ最近のタイムに対して120%前後と言われるから、スプロケとサスペンションだけで108%って相当いい数字だと思うけどな。クラッチ弄っただけでなく……エンジンオイル変えたか?」
そんな複雑な心境で言葉を詰まらせていた律に光が割ってはいる。
テスト走行を見ていた光も明らかにCBの音が違うことで何か弄っている事には気づいていた。
「G3に変えてもらってる。クラッチは今後新しく関係を築こうと思っているドリームの人がなんか調節してから凄く良くなった」
「そりゃ好都合だ。G3に変えようか迷ってたんだ。何者だか知らないけど相当の腕だぞ。こんなレスポンス良くなってるとわかってたらクイックシフターもってきたんだがな……」
光はクランクケースをコツコツと叩き、明らかに何かが違うCB400の様子に感心しきりであった。
「そういえば、インパルス400の人は新しいマシンを何にしたの? さっきの綾華の話だとインパルスじゃ今はもう上位を目指すと結構厳しい戦いになりそうだけど……」
律はふと思い出した。
自分が乗ったインパルス。
あれもかつては「ジムカーナ参戦マシン」であったことを。
アレだけ良くできたマシンですら現在では戦えないような気がした。
無論、酷使されて手放したということなのであのマシンの全盛期の状態はわからないが、少なくともパワーだけならCBの方が上回っていることは素人の律ですら理解できたことである。
「アレは鈴菌に感染してるから今はDR-Z400SMに乗ってるよ。やや古いオフロード車両だが高いポテンシャルがある……ただあのマシンは林道アタックなどするエンデューロ勢に大変人気のマシンでね……いい個体は中々手に入らない」
DR-Z400SM。
オフロード系マシンが上位で活躍するようになって見出されるようになった旧車のモタード。
一行で書くと、レーサーマシンのデチューン車両でありながら、「頑丈」「金がかからない」「サラマンダー(現行車種)よりずっとはやい」なマシン。
燃料計など邪魔な装置はみんな付属しておらずCRF450Lとほぼ同じようなマシンだが、スズキらしく極めて頑丈に作ってある。
排ガス規制の影響で2007年に販売が終了したが、新車が国外で販売される影響で未だにパーツが楽に手に入る。
ジムカーナでの戦闘力は非常に高い部類でA級で愛車とする者が多数いるが、最大のネックは「車検」であり、特に「ヘッドライト」の光量が足りず苦労すると言われる。
ただマシン入手については昨今のオフロード車両ブームにより今までDR-Z400シリーズを維持してきた者が手放すようになってきたようで、一時期信じられないぐらい高騰化していたが再び落ち着いてきた。
それでも殆どのマシンがハードに林道などを走りきったものばかりなので良い個体に巡り合うのが難しいバイクと言われる。
「インパルス400の所有者は今もジムカーナをやっている。っていうか今日も参加するから後で紹介してやる。そんなアイツも流石に限界感じてDR-Z400SMに手を出したが、スズキはジムカーナで戦えるような公道走行可能なオフロード車両は出してない。(RMX450Zは日本では登録不可)GSX-R1000がジムカーナでは圧倒的に強いSSと言われるが……車両価格が高すぎる」
光の言葉より律はGSX-Rの価格をスズキワールドで見たことを思い出す。
200万を優に超えていた。
とてもではないが律の今の状態では、今の律の価値観ではソレをジムカーナに投入する気にはなれなかった。
それでも最高のパフォーマンスにて限界まで挑む姿勢を律は否定できない。
律もやるからには徹底的に、本気でというスタイルであるためだった。
そういった様々な感情が混ざり合った状況になんとも言えない気分となったが、今日戦うのは自分ではないし、それにジムカーナ自体には多少興味が出てきたので、静かに彼女の競技を見守ることにしたのだった。
「B級クラスの方はゼッケンの順番で待機していてくださ-い。 これからB級クラスの第一ヒートが始まりますんで」
そうこうしていると周囲の係員がメガホンでもって召集をかける。
Cクラスの第一ヒートが終盤となってきたのであった。
綾華は手にグローブをはめ、律のCB400SBのハンドルを握り、いざ戦いの場へと向かわんとする。
「よしっ」
綾華はヘルメットを被ると律の方を向く。
その顔は何か声をかけてほしそうであった。
「がんばれよ。俺は応援することしか出来ないけどさ」
律は綾華にハイタッチを求めると、綾華はそれに応え、パンと乾いた音があたりに響き渡る。
そしてそのまま彼女はスタートラインの方へと向かっていった。




