CBR250RRは孤高のバイク ~筑波サーキット~
CB400の準備が整ってしばらくすると綾華が戻ってくる。
髪などはまだグシャグシャのままだが、30分ほど前に見た状態よりかはかなり回復していた。
戦うためのマシンが与えられた幸福感や律の優しさが彼女に活力を入れたのである。
「律くん。もう後戻りできないんやけど……乗ってええんよね? 派手にずっこけたらどうなるかわからんのやよ?」
綾華は律の顔を覗き込むように見上げた。
しかし律の目に一転の曇りもない。
「なんか高級感が増した状態になって申し訳なさで一杯なんだが、実は正直に話すとCB400を持余しはじめてるんだ。 今になって光兄が言った、カタログスペックが優れているから優秀なバイクとは限らないという言葉が突き刺さってる」
律は光の方を向く。
その姿に綾華も光の方を向いたが、光は「えっなんか俺変なこと言ったか?」といったような態度で困惑した表情を浮かべる。
しばらくすると綾華は再び律の方に顔を向けた。
「……じゃあ、本当にええんやね?」
「最近河川敷で走ってボロボロになってきてるし、好きにコケてくれていいよ。できればウィンカーだけ壊さないでくれるとうれしいけどね」
律は見た目としては最も気に入ったウィンカーだけは壊さないよう綾華に懇願した。
しかし元々「壊れてもいい」という前提で組まれたパーツ。
本命のウィンカーが破損したら自走できなくなるための代替措置の1つ。
構造上、ウィンカーは走行中に転倒すればほぼ間違いなく破損する部位である。
律のお願いはいわば「絶対に倒れるなよ」ということなのだが、本人はあくまで「転倒してもいいがウィンカーを壊さないように」という意味が込められていたが、綾華は後者の意味として言葉は理解していても、経験上は前者を心がけなければいけないことを知っており、苦笑いしつつも律に右手を差し出した。
律も右手を握り返す。
まるで律から元気を分けてもらったようにさらに気力が増したような様子を綾華より律は感じ取っていた。
「あっ、それじゃ私のCBR250RRは今日一日好きに乗ってええからね! 昼食とか買いに行く時に困ると思うし……」
綾華はそういうと律に愛車であるCBRのキーを差し出す。
「俺もコケるかもしれないぞ?」
律は「いいのか?」といった態度で綾華を見つめた。
「ええんよ、もう2回ほどコケてるし。 けど、修理代は律くんが出してよね! それだけでええから」
「まぁ試乗のつもりでちょっと乗せてもらおうかな……マシン自体は気になってたし」
律は綾華の言葉に甘える形でキーを受け取った。
キーを受け取った律の嬉しそうな様子を見て綾華も「律くんもライダーらしくなってきたなあ」などと思いつつ、とりあえず一旦整備が終わった状態のCB400のハンドルを握る。
セッティングはこれから始まるテスト走行をしてから調節する予定なのであった。
「それじゃ、行って来るっ!」
その後、綾華は律のCB400に跨ると、そのままテスト走行へと向かっていく。
光はその姿をしばらく見送り、綾華が離れて見えなくなったところを見計らうと律の方へ体を向けなおした。
「悪いな律……事前に連絡もしないで。 A級昇格に失敗して以降、綾華は何か歯車の噛み合わせが悪くなったようにいろいろ調子が悪くなってな。競技用に使っていたVTRのエンジンが死んだのに気づいたのは前日だった。後はお前がCB400で来ることを祈りながら手はずを整えるので精一杯。もし、お前がGL1800で着たら…とかいろいろ考えて眠れなかったぜ……一言言う余裕すらなかった」
「別に構わない。自慢じゃないが、昔から俺はそういう運命みたいな状況によく遭遇するのは光兄も知ってるはず。だから恐らく今日という日にGL1800を持ってくることはなかった」
律は光の方向へ顔を向けていたが、その目は光を見ていたわけではなかった。
まるで走馬灯のように過去のことが白昼夢として目の前に現れる。
昔から律は似たような境遇に何度も遭遇してきた人間だった。
仕事が休みという日に限って父方の田舎で甚大な災害が起きて救出に向かったりとか、律が帰省した日に偶然親族が亡くなって見届け人になったとか、母方の実家の近所で急病人が出た時に限って律らが普段電車で帰省するにも関わらず偶然にも車に乗って帰省してきていて難を逃れたとか、思い返せばそういうものによく遭遇している。
律は別に救世主ではなかったが、なぜかその時、何かできる若者がいて欲しいという状況で彼がそこにいるということがこれまでの人生において何度もあった。
それは父親から受け継いだ運命のようなものと父方の祖母は主張しており、音羽家には代々、男女に関係なく「危機的状況に五体満足で遭遇する」という事があるという。
一方、この運命的なものは「本当に自身の命の危険がある場合はなぜかギリギリで回避する」という側面もあった。
過去あった大震災の前日に自宅に急遽戻ることになって震災を回避したり、海外旅行中に台風で航空機が相次いで欠航したりした時、律が帰るのはその次の日であったり、
暇なのでバスツアーを契約したら人数不足でキャンセルとなり、代替ツアーを選んだら、元のツアーでその場所に向かっていたら大雨でその観光地が孤立したといったようなことがあった。
こういう時、祖母は「常に前を見据え、広範囲で目を通して逃げずに正しい方向へ向かうといい」と教えており、そう行動し続けていると不思議な力のようなものが宿ると主張していた。
出来る範囲でボランティア活動などを行ったりすると、俗に言う「日ごろの行いが良い」といった状態になるのだ。
例えば「通勤日の朝に寝坊した時」に限って電車の車両故障などが発生して「遅刻」しなくなったりなど、小さな所で己のミスを帳消しにするような事象が発生するという。
だから律にとって今日CB400を乗ってこちらに来たのもも偶然ではなく律にとっては定められたものであり、そこで拒否する理由など1つもなかったのだった。
それらを思い出して「いつものことながらこういう事が多いな」と思いつつ2分ほど白昼夢を見た律は現実へと引き戻される。
状況が一段落したことでかねてより光に相談したいことがあったのだった。
「ふぅ……で、俺も光兄にいろいろ相談したいことがあったんだった。さっき言ったとおり、CB400は持余しかけてる。それに加えてGL1800についてなんだけど、こっちもCBと一緒に持余してる。CB400はもう少し乗るつもりだけれど、あのGL1800については……」
「なんだ。そいつは丁度良かった。実はアレの新しい持ち主が決まりそうで今商談中でな。爺さんの知り合いの中に今年定年したとあるお客様がいてね、最近亡くなったのを知ってGL1800を是非譲ってくれってさ。で、現車確認したいらしいから近いうちに受け取りに行こうと思ってた。商談が決まったらタイヤ代とは払い戻すぞ。殆ど乗ってないだろ?」
早速、いつもの歯車が噛み合わさって状況が好転するという事象が発生したことで律は綾華に申し訳ないなと思いつつも己の幸運めいたものに笑ってしまう。
宝くじなどが当たることは全くない律にとってはこういった幸運に何度も助けられていた。
「あっはっはっはっ……はぁ、まあ200km程度しか…ね……燃費悪いからキツいよ」
「まぁ、お前にはまだ早い代物だろうな。俺も爺さんの代わりに多少乗ってもらう程度にしてもらいたかったし十分だ。それよりもCBだが、やっぱお前とは相性悪かったか……」
光は最初からそれを知っていた。
律とCBの相性があまり良くないということを。
しかし「もしかしたら律の趣向が変わる」可能性もあり、購入すると決めた時にあえて黙っていた。
もしそこで「お前にCBは合わない」などと言って、律が変にへそを曲げてバイクから遠ざかるのも怖かったためである。
「もしCBに乗るなら中古でそのまま乗りつぶす程度でいい」
光はCB400とはもはやそういうマシンでしかないと考えていたし、さらに、律は幼い頃から1台でどんな環境にも適応するマシンを四輪で求めていたことを知っていた光は、CBは律が好みなラダーフレーム搭載型4WDのようなマシンではなく、GT-Rのようなグランドツーリングマシンなので、近いうちにこうなると予測できていた。
光や律に対し、複雑な心境がそのまま表情に出たような状態となる。
新車で120万円した車両が約2ヶ月程度で持余し気味となっていたが、自身がちょっと人脈などを使い、玉数が多く安く手に入るNC39のSpec2あたりを仕入れて渡しておけば、もうちょっと状況も変わったのではないかと。
しかし律は120万円という価格を十分堪能しており、むしろ爽やかな表情を浮かべていた。
「あいつはさ、サーキットとか走る動画を見ても180kmとか平気で出るんだけど……ホーネットとかと一緒で高速巡航が実は苦手なマシンで、今の時代の……いや、今を生きる俺のような人間のツーリングには適さないんだね……VTECは6速だと7500回転以上ぐらいがセッティングとして合ってると思う。なまじパワーが昔より上がっちゃって上の回転が上がりやすくなった分、4バルブになると燃費が非常に悪くなるから凄い辛い……4バルブは本当に回した時だけ動作してくれたらいいマシンなんだよなって」
その顔は、もう十分だといった表情である。
ロングツーリング経験は4回程度。
しかし律はCB400に何度も悩まされた。
パワーはある、パワーはあるが、むしろ「パワー以外何もない」というのが律がCB400に抱いた感想だった。
クラッチの状態が改善して挙動は別物になったが、燃費が良くなったわけでもなければ燃料タンク高熱化の問題が改善されたわけでもない。
300km前後しか走れない航続距離は、この筑波サーキットに来るだけでゲージ半分にまでさせてしまうほどであり、帰りには間違いなく補給が必要。
「俺がCBで一番気に入らない点が1つだけある……それはさ――」
律が一言発する前に光がその言葉を遮る。
「――当ててやるよ。100km巡航時の燃費の悪さだろ?」
「ありゃ」
自身もそれなりに沢山の現代バイクに乗ってきた経験から、光は律の予想をぴしゃりと的中させた。
ここ最近のホンダ車種において共通しているのは「90~100km巡航時」の燃費の良さ。
1000cc級でも基本1L/20kmは下回ることがない。
例えばCB1100シリーズは100km巡航で1L/22kmといったところ。
CB400シリーズが100km維持しようと思うものなら、どう足掻いても20kmを大幅に下回るのとは全く違う。
90km前後で1L/25kmといったような数値が出せるCBR400Rなどのグローバルモデルの400ccシリーズや650Fなどのグローバルモデルなども巡航性能は高かった。
CB400はエンジンが古すぎて余裕が無いのである。
光は思う。
おそらく律はホンダだとスポーツ車両でもCB250Rのようにパワーと燃費と軽さが両立しているマシンなら相性としては悪くなかったのだと。
CB400の設計はあまりにも古すぎた。
ホンダが想定するCB400の顧客層と律は乖離しすぎていたのだった。
「それでさ、光兄んトコにさ、CRF250だっけ? それがあったじゃない。ちょっと借りたいんだけどさ……」
律は頭に手を当てて髪を弄りながら光に問いかける。
正直言って新車を2ヶ月たらずで乗り換える心境に恥ずかしさを感じていた。
車種選びに冷静さを欠いていたことを情けなく思う。
全ては教習所のCBによって受けたCB400の呪いの影響であったが、冷静になった今の律はもう一度ゆっくり考えながら次の本命的な車種を検討したかったので、しばらく借りられる車種を求めたかったのである。
実はライダー年齢関係なく数ヶ月で乗り換えるなんて案外珍しくない。
車乗りと違い、バイク自体が車種にもよるが安価であるのと同時に「趣味の乗り物だから」といった傾向があるからかもしれないが、乗りつぶせるバイクに至るまでコロコロ変わる人間はいる。
例えばとある有名ブロガーは大型を早ければ半年に1回乗り換えつつ、XR125を15年乗っていたが、一番長く付き合ったバイクは「事故の際に代車として用意したその小型バイク」で、今でも大型で乗りつぶしたいと思う車種と出会うことがないらしく、最大でも2年以内に買い換えてしまう者がいる。
2ヶ月~3ヶ月という、半年以内の買い替えというのは案外ライダーにとっては珍しいことではないのでメーカー自体がそういう保証プランを提示していたりするほどだ。
ドリーム買取保証などが半年を意識しているのもそのためである。
変に長くのって不具合を連発させて高い修理品を重ねるよりかは、一番脂が乗った状態で手放すのもトラブルと遭遇しにくく、アリなのかもしれない。
しかし律にとっては「まずは10年乗れるバイク」というものを求めており、CB400の次は慎重に選ぶ予定で、CB400もそれらに出会うまで手放す予定はなかったものの、最近もっぱらハマってる河川敷ダート走行にCBは向いていないため、CRF250Rallyを求めたのだった。
その様子を見た光は落ち着けとばかりに手でジェスチャーを繰り出す。
その上で―
「まぁ焦るなよ。もしかしたら綾華がCB400を競技車両として欲するかもしれん。今日一日様子を見てみよう。それよりも、第一ヒートまでに俺たちの分も含めて昼食を買ってきてくれないか。これから人が増えてゴチャゴチャするようになる。CBR250RRがどうしてジムカーナに俺が向かないと言ったか、後でCB400もジムカーナ仕様のままちょっくら乗ってもらおうと思ってるから乗り比べてみてくれ」
「わかった」
光はそういうとトランポに積載したCBR250RRを降ろし始める。
すでにパドックとなっている駐車場には似たようなトランポが大量に押し寄せ始めており、トランポにて買い物に行くと間違いなく元の場所まで入ってこれそうにない。
加えて、周囲のトランポは出店を構えたような状態であり、そもそも買いだしに出発できそうな余裕的空間すらない。
トランポにはセッティングや修理なども可能な工具類なども満載されており、この後CB400のセッティングなども調整するため、光は缶詰状態となる。
普段なら事前に昼食などを購入してこちらへと向かってくるのだが、今日は事情が事情でそういった余裕すらなかった。
律はトランポより降ろされたCBR250RRにCB400から取り外されたミッドシートバッグを括り付けると、昼食の買出しへと出かけるのだった。
小柄なCBR250RRは、エンジンをつけずに引っ張っていく形なら周囲のトランポを上手く避けていける程度の余裕が十分にあった。
律は事前に簡単な操作方法を光から教えてもらうと、ゲートをくぐって近くのコンビニまでCBR250RRを走らせた。
光からは30分ほど走ってみたらどうだと言われ、周辺を走ってCBR250RRの感触も試してみることにしたのだった――
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「ん~?」
大通りに出た律はCBR250RRの状態に違和感を感じる。
CB400と同じイメージで乗るとまるでパワーがない。
加速が単なる普通のバイクという感じで大人しすぎる。
「250ccってパワーないってきいたけど、これに綾華が乗ってた時はかなり加速してたはずだが……はて?」
律は乗る前にCBR250RRについてスマホで少し調べていたが、ドライブバイワイヤなど先進的な装備を満載といわれた割には125ccスクーターのような感覚であった。
低速トルクはそれなりにあるが、巷でいう「凄まじいエンジン回転数の上がり方」というような、
即調べて出てくる評判のイメージとはまるで違う。
完全に「ホンダの優等生」といったような感じでCRF250Rallyの方が強烈な加速に感じるほどであった。
「何かが違う……そういえば、モードチェンジがあるんだっけ? Sportってのにすればいいのかな?」
ポジションがやや前傾姿勢の割にあまりにも平凡すぎてCB400すらスーパースポーツに感じるような状況に律はモードチェンジを試してみることにした。
停車した律はモードを確認。
出発前にいろいろと説明しながら光がなにやら弄っていたが、何とCBR250RRはデフォルトのSportモードではなくComfortモードとなっていたのだった。
これは光による狙いだった。
いきなりSport+なんかで走り出すと大変なことになる。
律の性格に合わせ最初はComfortモードにしていたのだが、WR250Rなどに乗っていた律はそれに満足できない状態となっていた。
律はネットの評判なども確認しながら一気にSport+へとモードチェンジする。
そして再び走り出すと、完全にCBR250RRは別物に化けた。
現250ccスポーツバイクにしてクラス最強。
2016年に発表された際、バイク雑誌がCBR250RR一色で染まっただけの理由を律もすぐさま理解することが出来た。
「低回転はなんかアレだけど回せば走るぞ!」
手首の動きにリニアに反応するバイクはまるでガンダムでいうマグネットコーティングでも施されたかのような状態。
スロットルバイワイヤはその本来の性能を発揮しはじめた。
クラッチはCBと比較して非常に軽く、スコンスコンとギアが入っていく。
なぜこのバイクがCBR400Rなどと同列の70万円オーバーという価格でありながら、あの大ヒットバイクNinja250と並んで幅広い層に売れたか。
それは、品質こそ問題あれ、個体差こそ存在するが潤沢な装備を満載し、性能にしても「これなら400ccなんていらんだろう」といったような、かつての2stスポーツレプリカに追いつこうともがく現代の4ストローク250ccバイクの意地というものが垣間見えるからである。
この綾華のCBR250RRはエンジン関係などは純正でありながら、他の部分に手を入れていたマシンだった。
サスペンションはリアをオーリンズへ変更、ホイールはゲイルスピード、バッテリーをリチウムイオン化。
マフラーはスリップオンのアールズギアのワイバーンへ。
チェーンはDIDにされ、スプロケットも軽量化されていた。
それらは全て「軽量化」を目的としたセッティングであった。
排気系や燃調などは一切変更せず、「純正+30万円でとにかく軽量化」を目指した状態。
その結果どうなったかというとCB400SBに負けない怒涛の加速を示す。
軽量化されたマシンはカーブをヒラヒラと曲がり、優れたサスペンションによってタイヤは路面に食いつき、律がバイクを傾けても信じられないほど安定していた。
「なんだこれはぁ!? なーるほど。高尾であんな真似をしたくなるわけだ」
それは律にとって初めてのSS級バイクといえた。
CBR250RRはGSX-S1000と似たような設計思想を持つバイク。
回さなくても最低限のパワー、回せばクラス最高峰の加速力。
2stレプリカよりは遅いものの、2stレプリカ所有者が「買替車種」として十分惹きつけられるだけの性能は持つ。
しかもこの車種は最新モデルのためクイックシフターが付属していた。
律は光からそのことを教えられていたが、クラッチ操作が不要というのはそれだけでバイクが楽しくなるこということを教えられる。
何しろシフトアップもシフトダウンもペダル操作だけでいいのである。
エンジン回転数さえ合わせればギクシャクしない。
バイクがこれほど楽しい乗り物なのかという感覚はCB400に初めて乗った時やWR250Rに乗った時以来であった。
こんなバイクでワインディングを楽しもうものなら必要以上に傾けてしまうのは間違いない。
律は高尾での綾華の気持ちが少し乗るだけで十分理解できるほどだった。
倒立フォークによってバネ下重量が軽いため、想像以上にサスペンションの動きはしなやかで乗り心地は良く、「スーパースポーツとはこういうものだ」といわんばかりの仕様であった。
無論、それは各種軽量化によって7kgほど純正より軽くなったのも影響しているが、姿勢ポジションもそこまで前傾というわけではなく、十分楽しめるだけの魅力を持つ。
そんなCBR250RRの最大の特徴は「想像以上に燃費がいい」
1L/25km以上は軽く叩き出すので、軽量化のために「燃料を半分程度にしてワインディングを楽しむ」人間もいるほど。
14Lの燃料タンクは、この手のスポーツバイクとしては何1つ不足とならず、航続距離としては間違いなくCB400より優れている。
徹底した軽量化のため、あえてシングルディスクにしているなど様々な部分に手を入れているものの、実のところデザインは賛否両論。
あの四眼はLEDで全て点灯するのだが、実は国外仕様だと上の2つはウィンカー兼ポジションランプでもあったりする。
日本では法的な理由によって別途LEDウィンカーが設けられているが、本来は空力的にも邪魔になるウィンカーすら排除したかったので、国外ではそのような仕様としているわけだ。
綾華のCBR250RRはウィンカーこそ純正だが、上部のポジションランプ部分がウィンカーとしても動作するよう配線がカスタマイズされていたのだった。
そんなCBR250RRは間違いなく現時点では孤高のバイクといえる。
現在、こういった特性のバイクは割と人気が出ないといわれていた。
Ninja250が世に出て成功した後、国内のバイクは「回さなくとも十分走る」セッティングへと調整されるようになり、スズキVストローム250のような「旅バイク」が評価される時代。
そのため、出てきた当初は「本当に売れるのかこんな代物」と思われていた。
雑誌でいくら「凄い」と主張されたって、本当に売れるかどうかはわからない。
そんなCBR250RRが売れた理由は「回さずとも十分走る」という、スズキなどが提唱した現代のSS風なバイクの考え方で作られており、「回せば走るが普段もおとなしく走れる」という特性でありながら「燃費も十分良い」ということから若者も含めてヒットバイクとして唯一無二の立場をとっている。
ヤマハを見れば国外向けに欧州ヤマハが製造する、YZF-R125というもっとハイパワーにスポーツよりにしたバイクなどが存在するが、国内販売されているバイクとしてはYZF-R25は乗りやすくCBR250Rなどとそこまで変わらない存在でありながら、明らかにCBR250RRは味付けが違っていた。
それはWR250Rと似たような思想であり、現在でもその手のバイクがそれなりに評価されていることを裏付けている。
ただコンビニに行くだけという感覚が軽快なツーリングに変化する状態に、律は己の未熟さに情けなくなった。
もっと冷静にレンタル車両などにも乗っていればCBに拘ることもなかっただろうにと。
律は燃費がいいという情報はネットで調べたものでしかなく、低距離走行なのでそれらの実感も得られなかったが、ここまで「燃費が良い」と評判がいいのだから良いということはわかる。
悪いバイクはCB400のように悪いとハッキリと書かれる。
積載などに不安があり、これを愛車にするかどうかと言われれば律からすればNOな代物だが、評価を10点満点で出すなら9を出せそうなバイクである。
1低くなった原因は律にとってCBR250RRはやや小ぶりすぎて窮屈に感じたためであった。
加えて律にとっての本命はSSではなくオフローダー。
評価は出せるがこのバイクでダートは行けない。
走っていてそういう感触が手に取るようにわかる。
それは優れたバイクだが、究極のバイクではなかった。
そんなことを律は考えながらコンビニへと向かい、そして会場へと戻っていったのだった――
来年モデルでCBR250RRにクイックシフターが付かなかったら泣くぞホンダ!
付くって世界各国で噂されてるから付いてることにしちゃったからなホンダ!




