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SAとPAだけでしか出会えない女 ~守谷SA~

 守谷SAに入った律はまず二輪専用駐車場を探す。

 最近、ようやく意識的に探すようになってきた行動である。


 SA、PA、道の駅においては基本二輪専用駐車場がある。

 中でもSAとPAにおいては屋根付きが基本。


 律はこれまで、走行中にそのまま走行し続けるのには厳しいレベルの局地的豪雨などに遭遇することがなく、未だ雨宿りをしたことがなかったが、やはり駐車場は屋根付きの方が安心できるのでSAでは積極的に二輪専用駐車場を探すようになっている。


 案内表示の通りに進むと、トイレのすぐ近く、車椅子などの用途で使うドライバー向けの駐車場に併設される形で二輪専用駐車場が用意されていた。


 本日は土曜日。

 律が駐車場内をバイクの数は多く、これから栃木や茨城県北などを目指す者達がひしめき合っている。


 海を目指すと見られる釣竿などを積載した群馬や栃木ナンバーの姿もあった。


(海無し県の人はこうやって東に向かって海を堪能するのか……ふむふむ……む!)


 そして次の刹那、律の背筋に何かゾクッとしたものが迸る。

 どこかでみたようなGSX-S1000Fの姿を目にしたためであった。


 パニアケースだけ装着し、小荷物をネットでまとめたそれは、明らかに高額そうな額に相当する部分にAGVと書かれたヘルメットがミラーにブラ下がっている。


(小早川美鈴…だっけ……西だけでなく東にも行くんだ?)


 わかりやすいナンバーであったため、律はそれが完全に美鈴のGSX-S1000Fと理解するのに時間はかからなかった。


 律は以前出会った場所とその後全く出会うことがなかった影響から「彼女は西によく赴き、進路を東とすると会わない」と勝手なことを考えていた。


 しかし実態は異なっている。

 彼女は一般的には年輩のライダーに多い「高速と有料道路を多用」するライダーであり、目的地付近まではよほどの事がない限り高速を降りないスタイルなのであった。


 ライダーが目的地までの道筋を選ぶ上では性格的に大きく分けて3つに分類できると言える。

 1つが高速を使えない125cc未満~高速は使えるが高速巡航には厳しい性能である事が多い250cc未満までのバイクに乗る者が採るスタイルである「下道スタイル」


 ビッグスクーター以外はGoogle先生などと相性が良く、持ち前の軽量さを活かし、機動性と運動性でもって裏道なども駆使して冒険するスタイルと言える。


 近年125ccは元有料道路が相次いで無料化される傍ら、この手の「自動車専用道路」扱いのバイパスなどに乗り入れることが出来ないため125cc以上の軽二輪登録されたバイクに乗る者が増えてきているが、125cc以上でさえあれば「有料道路を回避する」というのは必ずしも「遅い」とは限らなくなってきているためこのスタイルでもバイクなら十分な移動速度を誇る。


 スマホナビを使った場合、ヘタに車を運転していると「入れない」ような場所に案内されるケースもあるが、この手のバイクにはそういったことがないためだ。(おそらくバイクのせいで車にそのような案内がされる)


 一方、50cc~125cc未満の場合は都内でも最近は「原付乗り入れ禁止」のトンネルなどが増加してきた事から回り道を強いられ、このスタイルを活かすのが非常に辛いケースもある。


 それまで、歩行者信号が青だからと正面の自動車用赤信号をみるやエンジンを切ってバイクから降りて横断歩道を渡って横断歩道を渡った先で信号のの先の道を進むというような郵便屋も使うようなテクニックなどによって「街中では非常に快適」と言われるようになったスクーターや小型バイクは「有料道路やバイパスも入れつつも上記と同じような事が出来る」150cc帯へと人気がシフトしてきていることはこの作品でも何度か説明してきたが、


 地方では山間の元有料道路のトンネルが原付禁止だったりすることでさらに需要喚起が起こっており、各社力を入れている最中であるのだ。


 地方といわずとも例えば横浜ベイブリッジなど、迂回すると大変時間がかかるような自動車専用道路の橋なども150ccは通れる。


 それまで有料道路では「原付」という扱いで格安に通れたことが魅力だった125ccだが、現在それらの道は相次いで「無料化」しつつある上、下手すると無料化した際になぜか「自動車専用道路格上げ」といったパターンになることもあるため、125ccではいろいろと辛い。


 そんな回り道を強いられる125ccですら現在では50ccに代わり、原付においてはメインで販売層を抱える排気量帯。


 よほどの事がない限り下道においては125ccで十分な性能を誇るためである。

 ヘタに重量が重く大きい250ccに対し、パワーアップした小型スクーターや小型バイクとも言える125ccは通勤などの用途を含め幅広く使え、運用コストも安価なことから根強い支持を集める。


 地方の道の駅などで都内のナンバーなどを付けた125ccバイクを見ることがあるが、よほど変な道を通らない限りはどんな場所にも行けるだけの能力はあり、そんなバイクを好むものたちに「下道スタイル」は支持されている。


 2つ目のスタイルは「高速・有料道路併用型」のスタイル。

 250cc以上が愛車の者なら殆どの者が大体このスタイルに入る。

 特に東京都内や名古屋市内、京都市内、大阪市内、などにおいては「高速でも使ってワープでもしないと非常に時間がかかって辛い」なんてザラである。


 このスタイルの人間は「行きは下道、帰りは高速で楽に」なんて者も多く、財布と相談して時間と費用対効果とを天秤にかけて利用することになる。


 そしてライダーでよくあることといえば、車検が無くてコスパがいいということから最初に普通二輪だけを取って250ccを買い、このスタイルが定着した若者(20代~30代)はその後7割が大型に手を出すようになるということ。


 やはり小型バイクでは加速に不安があったり、高速巡航性能が低いためである。

 近年では250ccバイクも重くなり、ヘタをすると大型二輪に分類される排気量のバイクの方が軽いなんて事もある。


 詳しいデータこそ出ていないが、若い人間を中心に普通二輪を取得した人間は殆どが3年以内に大型二輪を取り、そのパターンでは2台目(二代目)のバイクが80%以上の確率で大型となっているとヤマハやホンダなどが各所から集めたビッグデータを認識して各所で語ることが多く、大型購入者の7割以上が大型購入理由を「高速のため」と主張している事、また「高速を使う若手ライダー」のほぼ7割が「都市部などの渋滞回避」のために使うことから併用型スタイルほど大型に行き着くことがわかっている。


 実際、youtubeなどを含めた動画投稿サイトの配信者でも125cc以上250cc未満を最初の1台にしつつ長距離ツーリングに向かう人ほど2台目は大型となっている。


 元より街乗りをあまり考慮しないならば大型でも十分であるし、ヘビーでハンドルの切れ角が悪い大型車種でもなければ街乗りでも十分であるが、こういった層は山や海など、田舎道をゆったりと流したいと思うのだろう。


 そうなるとなんだかんだゆったりと走りやすい大型に傾倒するのも頷ける。


 最後が「時は金ナリ」を地で行くライダー。


 人生は1度きり。

 目的地までは絶対速度でもって向かいたい、そんなライダーが選ぶ「高速移動型」である。


 併用型や下道型は目的地までの道のりも楽しみ、サプライズなども「旅の醍醐味」とする一方、高速移動型ライダーというのは「道中を楽しむなんてもう飽きた」とばかりに目的地でゆったり過ごすことを主としている。


 その分、日帰り旅行でも移動距離は長くできるためより遠くの場所も目的地とすることが出来るのが利点。


 例えば東京~大阪までを高速で走ると6時間程度で移動可能。

 1泊2日の旅行で大阪など関西にまで足を伸ばせるというわけだ。


 東北なら岩手あたりまで向かうことが出来る。

 下道だと2日ほどかかることを考えれば向かう場所が決まっているというなら賢い選択である。


 休日などを多く取れないが、それなりに持ち合わせがあるという、30代以上のライダーなどがこのスタイルとなることが多く、そしてこのスタイルであるライダーの愛車の大半は大型。


 余談だが高速移動型の特殊例としては「トランポなどを利用して目的地までバイクに乗らない」というタイプもいるが、これらは完全に特異なタイプなので除外する。(山遊びなどをしたい人間やサーキットなどを攻める人間などがこういうタイプだが、やはり基本高速道路移動とはなるのだが……)


 やはりライダーとして行程を組むというなら、やはり自走のことを指すと思われるからだ。

 そして長距離を高速で移動するにはある程度以上の排気量がほしくなってくるということなのだろう。


 美鈴の乗るGSX-S1000Fは998ccであるが、高速巡航性能は必要にして十分。

 その凄まじい低速トルクは低速においても6速巡航可能なほどであり、トルクフルな設計は天敵的な現代の大型バイクといったところだ。


 エンジンはレブリミットが1万1500回転という高回転型ながら低速トルクに優れるので、「本当に必要なとき1万回転回す」というようなマシン。


 9000回転ほど回すとトラクションコントロールが無い限り前輪が浮いてしまうパワーがあり、「まさに大型車」としてエンジンをブン回したいような今や希少となりつつあるライダーの需要にも応える。


 律のように「普段は低回転でいい」としながら「でも回したい時は回す」と考えるような人間にはうってつけのエンジン特性ではあったのだ。


 律はそんなGSX-S1000Fを見続けるとなぜか寒気のようなものを感じるのだ。


(うーん……俺ってもしかして彼女が苦手なのかな?)



 どこか圧倒されるようなオーラと、美女ではあるが可愛いとは違う落ち着いた顔つき、ドスのきいた声色。


 律は美鈴に感謝の念こそあれど、どこか苦手意識を感じていた。


 なんとなくだが、あれこれとまた何か言われそうな悪寒がしたからである。

 初心者のうちはいいが、ある程度ライダーとしてスタイルなどもカチッと決まってきても口うるさくあれこれ言われるのはそれはそれでまた嫌だったからである。


 しかし律の悪い予感とも先入観による思い込みとも言えるような何かは早々に裏切られることになった。


 ヘルメットなどを仕舞い込み、レストランにて朝食がてら何か食べようと向かおうとしたその時である。


「ふぅん……ずいぶんと…ツーリングライダーって感じになってきたんじゃない」


 気配もなくどこからともなく現れた美鈴に律はやや驚いた様子を見せた。

 その表情は別に笑顔というわけではなかったが、どこかやさしげな雰囲気を漂わす。

 あれこれガミガミと言われそうなので一瞬身構えた律は肩の力がガックリと抜けてしまった。


「ど、どうも……(気配を殺して近づいてきたのか…!?)」


 ズリズリと後ろに下がりながら返答する律に対し、美鈴は無言でCBを見つめる。


(……もしかして俺は批判されるということを期待していたのか?)


 あまりにも拍子抜けしたことで妙なことを考えた律であったが、美鈴はCBに目線が向かっており、律の反応など気にしていない様子であった。


 フワフワとした髪は風にゆられ、なんともいえない、甘くしつこくないいい匂いが律を襲う。

 やはり美という部分では綾華や優衣とは比較にならないほど力を入れており、柑橘系のようなそうでないような、むせ返るほどではないような匂いが漂ってくる。


 元スーパーモデルという肩書きをライダーでありながら捨てずに維持するプロ意識をそこから感じ取った律は、空っぽに近い自分と比較すると彼女が急に輝いて見えた。


 対照的に美鈴はCBがそれなりに丁寧に乗られている上でツーリング用途として酷使されている事から、律がライダーとしてどっぷりハマりかけている事がなんとなくうれしかった。


 ヘタに最初に躓いてライダーをやめてしまう者も多い。

 ましてや自分の言動であの後ライダーを諦めたのではないかとやや気にかけていた。


 美鈴もまた、自分自身の言動がやや高圧的で社会性に乏しいという自覚はあったのだった。

 それでも物怖じせずハッキリ言わないと人間というものは気づかない。


 あの時はああ言わなければ命に関わったかもしれないが、一方でそれが原因でライダーをやめる可能性も十分理解していたからこそ、あの時に律が回復するまで待ったのである。


 しかしそんな心配は無用な判断だと気づかされた一方、CBの短期間での急激な変化に驚いていた。


 前回美鈴が見た時のCBは納車直後であり、センタースタンドとタンク、そしてエンジンガード、シガーソケットチャージャー以外純正。


 現在のCBはフロントフェンダーエクステンダー、リアインナーフェンダー、エンジンコアガード、リアキャリア、アンダーフレームに飛石対策用のゴム板、燃料タンクに簡易タンクパッド、さらにハンドルバーには車載カメラまで装着されていた。


 積載はミッドシートバッグとリアキャリアに括り付けられたナイロン製スポーツバッグ。

 彼女が言うように「ツーリングライダー」的な身なりとなっていた。


「福島あたりでも向かうつもり?」


 CB400の状況に目を通した美鈴は呟く。

 元々人間観察が好きな彼女はバイクの様子と合わせ、律は福島か宮城あたりにツーリングに向かっているのではないかと予測した。


 テントや寝袋はないが、それ以外の装備はそれだけガッチリ万歳しているのを外観だけで理解したためである。


 1泊2日は確実に可能そうな荷物を積載していることを見抜いたのだ。

 しかし美鈴には予想外の言葉が反射してくるのだった。


「いや……茨城に行くつもりで……」


(ウソ……茨城? この朝早い時間帯にここにいて、茨城を走るのにこの装備なの?)


 律の返答に美鈴はキョトンとした表情を見せる。


 茨城といえば日帰り圏内。

 また、キャンプ地などが周辺他県と比較してあまり無いのでライダーが宿泊するには向かない地域。


 食べ物などにはまるで困らないので「魅力が無い県」というのは一度でも向かえば全否定できる地域である一方、日本第二位の大きさを誇る霞ヶ浦周辺などで湖畔キャンプなどが出来るわけでもなく、キャンプツーリングは奥久慈など限られた場所に限定される。


 一体どこに向かうつもりなのか不明な美鈴はしばし無表情で考えこんでいた。

 自分の知らない宿泊地があるのかと考え込むが、茨城の宿泊場所というと水戸や土浦など観光旅行に向かない場所にあり、7時を回ったばかりの現在時刻の守谷SAにいる必要性など全くない。


 それらの場所をめぐるにしてもここに後2時間遅く着いてもいいぐらいであった。


(筑波山……は行きそうな感じがしない……二輪禁止区間が多すぎて最初から念頭にないハズ……一体どこに向かう気で…)


「あー、えっとジムカーナを見に行くというか応援しにいくというか」


 無言で真剣に悩み始めた様子を見せる美鈴を見て律は率先して答えを出した。

 美鈴は律が顔や言動に似合わず西山荘など「ジジイ向け」とされる観光地に向かう気があるのかと考え、律という人間が読めなくなっていたが、律から出た「ジムカーナ」という単語で合点が行った。


 (なるほどね。今後参加する事も考えて見に行く感じか……夕方まで大会は続くはずだったし……ふふっ、でも茨城には宿泊場所は殆ど無い……今まで一度も来たことが無いんだ。まだまだビギナーってかんじがカワイイ)


「筑波サーキット……そういえばそんなイベントもあった気がしたけれど、忘れてた……フフッ」


 美鈴は律が見た目に反して年齢不相応なジジイ臭い趣味を持つ人間でないことがわかり、思わず笑みがこぼれ出た。


 一方律は今の会話のどこに笑える点があったのか理解できず困惑する。


(よくわからない。笑いのツボが人と違うんだろうか……なんか妙な空気だし流れを変えたほうがいいか?)



「えーっと、それで小早川さんはどちらへ?」


「そんなに遜らなくていいから……呼ぶなら美鈴でいいし」


「そ、そう?」


 突然の発言に律は半歩ほど後ろに下がる。

 今まで知り合ったばかりで殆ど会話もしたことの無い女の子から「下の名前で呼んでいい」など言われたことがない。


 その発言意図もわからなければ、美鈴の現在の考えも読めなかった。

 律の中で美鈴という存在は「思考がまるで読めないタイプの人間」という形で脳内にパーソナルデータがインプットされた。


「ええ。」


 そんな律に構うことなく美鈴は言葉を続ける。


「それで私はこれから仙台まで。やっと雪解けしたから……東北道ではなく常磐道を選んだのは走ったことがなかったからだったのだけれど、やっぱこっちの方が水戸までは楽だと思う……どうでもいいことかもしれないけれど」


「……水戸まで?」


 道の状況を知らない律は聞き返した。

 ここまで高速道路としては「眠たくなる」ほどに楽な道であったが、その先は少々異なる状況であることを美鈴が仄めかしたことが気になった。


「水戸から常磐道は二車線になるのだけれど道幅が狭くなるから。そしていわきから先は一車線の区間もある……とても走り辛いと思う……」


 美鈴はまだ走ったことがないので絶対そうだとは言わなかったが、自信の経験から一車線の有料道路はあまり良い印象が無く、いわき以北の常磐道に不安な様子を見せる。


 常磐道いわき以北。

 建設決定は1990年代初頭。

 増える需要に国土交通省が建設を決定。


 しかしそれから実際に全線開通するまで30年近くかかった。

 そして実はこれ「暫定開通」だったりする。


 現首相が「開通優先」としたため、本来計画時に「片側2車線」としていた高速道路は、「暫定片側1車線」として開通した。


 首相になった際のマニュフェストにそう記述してしまったからである。

 その結果、対面通行の片側1車線となり、「常磐道?」といったような状況となった。


 かつて高速道路といえば「暫定で片側2車線でその後3車線化」といったことが多く、最低でも片側2車線での開通が当たり前だったものの、近年の地方の有料道路は片側1車線の暫定開通というのが少なくない。


 これは「とりあえず通してしまい、その有料区間を車が走ることで建設費用を軽くしつつその後の状況を見定めていく」という考え方によるものだが、これらはあくまで「自動車専用道路」の話であり、高速道路として定められた所が「暫定1車線」として開通したという話は聞かない。


 それを3.11による被害によって生まれた開通の遅れに乗じてゴリ押しした。

 結果、いわき以北は「東北道のほうがマシ」と言われるような状態であり、追い抜きも追い越しも道を譲ることも容易ではない。


 ヘタに遅い車や速過ぎる車と遭遇すると非常に困る。

 特に速過ぎる車からだと強引に抜かれかねないバイクでは危険極まりないのが片側1車線の高速道である。


 近年、東名の事故以降、あおり運転などは注視されるようになり警察もより対応を強化してはいるが、この手の暫定開通道路というのはオービスも少なく、飛ばす者は多い。


 その状況で1車線だとイライラを募らせ、激しいあおり運転を繰り出すというようなことは想像に難しくないだろうが、地方の有料道路においては追い越し車線を用意している。


 あまりにも急いで建設した結果、いわき以北ではそれが殆どないためとても「常磐道」とは言えない何かとなってしまった。


 水戸からいわきまでの間はまだカーブが少ないので道幅がやや狭くとも苦労しないのだが、いわき以北は初心者にオススメできない道路となっている。


 そんな道路に向かおうとしている美鈴は今まで一度も走ったことが無いから1度は走っておきたいということで常磐道に入ったわけだが、怖気づいたら最悪東北道に迂回することも考えてはいた。


「片側一車線の高速道路なんてあるんだ……知らなかった。高速道なんてみんな二車線だとばかり」


 有料道路こそ一車線な場所があるのを律も知っていたが、高速道にてそんな場所があることは流石に知らなかった。


「それも対面通行だから結構危ないの。それでも私は走ってみたいのだけれどね」


 律はその言葉から、彼女もまたライダーであり、見果てぬ何かを求めて走っている印象を受けた。


「確かに、同じ場所を何度も走っても仕方ないとは俺も思う。今度走ったら是非感想聞かせてよ。俺もいつか走るかもしれないし……」


 やはり明らかに年下そうな彼女に対しては砕けた話し方の方が律も楽だったため、律も口調を変えた。

 それでも納車直後の経験から上から目線なものいいは避ける。


「またサービスエリアかパーキングエリアで会えたら…ね……」


「え?」


 なぜSAやPAといった場所なのか意味が良くわからない律は思わず体がややのけぞりそうになった。


「私は高速道路とかしか基本的には使わないから……よっぽどの事がない限り会うことなんてないよ?」


「そ…そう」


 初めて美鈴と出会ったのが西湘バイパスPAであったことを律は思い出したが、それから以降まるで出会わなかった理由は自身が下道を使ってばかりいたことに気づいた。


(不思議な女のひとだなぁとは思ってたけど……言動だけでなくこういう場所でしか会えないから余計にそう感じるのかな……)


「――。さて、私はもう行くから、それじゃあ、またね」


 そういうと美鈴は出発の準備をしはじめる。


「ああ、俺も朝食に行くんでそれじゃあ……」


 律は手を振って挨拶するとそのままレストランへと向かっていった。


(終始あんな感じで学生時代に友達とかいたんだろうか……それとも本当に親しい人にはそれなりにいろいろハキハキと喋るんだろうか…)


 淡々と、ゆったりとしたペースで喋る美鈴に律は上手くコミュニケーションが取れた気はしなかった。


 以降も何度もSAやPAでも出会うことになる美鈴だが、逆を言えばそこでだけでしか出会うことが無い。


 そんな観光地で何をやっているかもわからないような不思議な女性と再び邂逅した律はあれこれ考えを巡らせながら守谷SAにて朝定食を食べ、その後筑波サーキットへ向けて出発したのだった――


 次回「バイク交換してっ!」

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