車載カメラとスコットオイラーの装着。そしてジムカーナ観戦へ……
栃木・群馬の地から戻った律は満足感で一杯だった。
自身の腕は間違いなく上昇し、CB400SBのタイヤは端の端まで走行してグリップした形跡が残されている。
「どうせやるならトコトン乗りこなすのがバイクに対しての礼儀だよな……」
律はCB400をスプレー洗車し、綺麗なボディにさらに磨きを入れつつ呟く。
群馬より帰還して2日経過した朝早くから、律は愛車の手入れを行いながら今後について考えていた。
まず1つ。
光からは遠まわしに「オフロードの適正がある」と今まで行動やスマホのメッセージ交換などで示されてきたが、やはりセンスとは別に自分はそういう道も嫌いではなく、オフロードバイクを走らせた感覚を忘れることが出来ない事。
特にフロントアップなどを覚えた律はそれを忘れないよう、もっと技術を高めたくなってきていた。
そう考えるといてもたってもいられなくなり、少しネットで調べて見つけた荒川沿いに翌日にはCB400で出かけて行ってしまったほどであった。
荒川の河川敷。
Google先生がやたら大好きな道で、恐らくスマホでナビアプリを使いながら「河川敷を遊んでいる連中」の影響で目的地次第で彼はこの手のダートロードを平然と向かわせようとしてくることがある。
律はそういう実態など知らず、ネットで「フラットダートが楽しめる」ということで荒川河川敷に向かってしまった。(ナビがgoogleではない上に元より河川敷が目的地であったので特に影響はなかったが)
その結果、CB400は砂利道を爆走することになったものの、スタンディングなどを覚えた律にとって特に問題はなかった。
しかし走るうちに道は草だらけの農道のような状況になり、何度も前輪をすくわれて転倒しそうになった。
こういう道となるとCB400では厳しい。
フロントアップしても5cm~8cm程度しか浮かないので障害物をまともに乗り越えられない。
前輪が重すぎるのに対し、1速のパワーがなくウィリーのように重心をやや後ろにしてさらに前輪を持ち上げるといったことが出来ない。
後に河川敷での走行から律が戻って調べたところ、スプロケなどを調節すれば何とかなるとのことだったが、何とかした所でこのマシンで本格的なダートに突っ込むのは無謀な話。
現在、こういうフラットダートのような場所を走って泥だらけになり、悲惨な姿となったCB400を3時間かけて磨いているが、「そういうバイクじゃないだろ~」というような小言を律を追い抜いていったライダーの1人が呟いていたのを律も気にかけていた。
やはり何か別途オフロードバイクが必要だった。
こういう時頼れるのは親戚かつバイク屋の光しかいないが、GL1800を受け取ったばかりの状態でいきなり光に相談するのも何か違う気がしていた律はCB400の目の前でしどろもどろする。
またお金をかけたくもない。
何か口実を作ってアウトコースから変化球を仕掛けるように話を持ち込み、なにか提供してもらおう。
そう考えだした律にすぐさまその機会を与えられた。
CB400を整備中だった午前中、突如として光より土日のジムカーナの観戦&応援への救援依頼が来たのだ。
ここのところ綾華がジムカーナで転倒などを何度もした影響でA級昇格に失敗し、気を落としているのだという。
切羽詰った影響で私生活にも影響が出始めているほど追い詰められているらしいので、律の力が必要だと光は主張していた。
それは本当に律が何か機会があればな――などとCB400の整備をしていた矢先の出来事なので、律は「神様がいるって信じたくなるぜ」――などとほうけたくなるほどであった。
「やや心苦しい部分もないわけではないが……貸し借りの概念が好きな光兄に借りというものを作るついでにオフロード系バイクを1台貸してもらおう…無論有料で…別にWRでなくていいし、CRF250Rallyを少しの間。それで本当にそれが気に入ったら買い取らせてもらって2台体制にすることも考えるようか……」
律はバイクのコストがそこまで高くないということから、車検の無い250cc未満の車両ならもう1台程度維持できる能力がある。
変にCB400を手放すことなどは考えず、まずは二刀流を検討した。
やはりまだ走行距離が短く勿体無いと感じたのと、CB400のパワーだけは気に入っていたためである。
光からは「GL1800との二刀流でいいだろ」などと言われそうだが、こちらはあくまで借り物。
律も気になりだして調べたところ、何かあってもろくすっぽ修理費も払えないこともわかってきたのでもう少々乗ったら返却を検討しはじめていた。
エンジンの音色、そしてパワーやラジオなどの各種機器は素晴らしいが、燃費が悪く航続距離が短すぎたのだ。
CB400よりもガス代が高いバイクには乗りたくなかった。
いや、CB400すら律にとっては「金が掛かりすぎる手間のかかるバイク」という認識が出来上がりつつあった。
今日日ガソリン価格などはレギュラーが150円台をガソリンスタンドの電光掲示板に平然と刻む。
ハイオクを入れねばならないCB400はあまりにもガソリン代が高すぎる。
現在の平均燃費は1L/16.8km。
住宅地や信号の多い都心部を走る関係からなのか燃費はすこぶる悪い。
律の希望としては1L/25km~という状態でいて欲しかった。
それならハイオクでも十分だ。
航続距離も欲しいが何よりも燃費。
バイクを楽しむ上で、あんまりにもガソリン代をバカみたいにかけたくなかった。
そんなCB400を下回るGL1800はもはやCB400が利用できなかったりした際に軽く街中を流す程度しか使えなくなっており、GL1800を借りたのは完全な失策だと感じている。
よってジムカーナで光と合流した際にはGL1800の返却を申し出ようと心に決めた。
そうこうしながら午前中を過ごすと律がCB400を購入したホンダドリームから連絡が入る。
スコットオイラーが入荷したのでいつでも装着できる状態となったということであった。
「ふむ……スコットオイラーね……そういえばすっかり忘れてた。案外早かったじゃないか」
1月以上かかると言われていた割には2週間程度で届いたことに律は驚いていた上、実はスコットオイラーのことを失念していた律はもうこのドリームを利用する気などサラサラなかったのであるが、こちらは口頭で契約を済ませていたため、この店でのスコットオイラーの装着は義務となっていた。
「まあぁいいや。 最後の利用ということで諦めよう」
律はその後、30分ほどかけて車体を綺麗に磨き上げた後でホンダドリームへと向かったのだった――。
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ホンダドリームでは改めて工賃を含めた料金などが請求され、律は装着前にその金額を支払った。
装着自体は非常に簡単であり、オイルタンクとコントローラーをフレームやシート下などに固定しバッテリーと接続し、オイルをタンクに詰め込むだけである。
コントローラーは負圧によってオイル残量をチェックできたり便利なのだが、オイルタンク自体が透明なのでオイル残量は外から見ればわかる。
通常使用においてコントローラーは殆ど使わない。
律は双方共にシート下に入れてもらうことにし、シートから伸ばしたパイプによってチェーンまでオイルを垂らしこむ方式にした。
シート下スペースにタイラップにてタンクを固定、コントローラーはマジックテープで半固定式とし、気が向いた時にシート下を確認して残量チェックを行うことにした。
一般的なスコットオイラーだとタンクを外に出してしまうことが多いが、電子式の場合、タンクにモーターなど電子機器が入っているのであまり泥や雨水などに晒したくない。
そのため、事前にお願いし、双方にはビニール袋で簡易防水加工をしてもらった。(ジップロックのようなビニールパックを被せた)
作業時間は約2時間ほどで終わり、色が付いた標準のスコットオイラー用のオイルで状態を確認。
設定に関してはコントローラーにて簡単にて何秒に1回ペースでオイルを垂らすか設定できるため、走りながら自分自身の手によってベストセッティングを見出すことにした。
オイルは粘性が低いため、今までの粘性の高いルブは全て落としてもらう。
すると黒く濁っていたチェーンは銀色の輝きを取り戻した。
「恐らく、今後チェーンが黒くなるということは殆どないはずです。こいつがあれば泥もしばらくすれば吹き飛びますから」
偶然にも装着経験がある整備士がいて担当してくれたことで、スコットオイラーの装着は思った以上に手早く、上手い具合にやってもらえた。
とはいえ、車体の状態を見て欲しいと言った割には車体はチェーン以外特に気にかけていなかったので、律は改めて今後は戸塚のいるドリーム川崎を利用することに決めたのだった。
スコットオイラーに工賃全て合わせると4万8000円。
高い買い物であったが、これで苦労が減ると思うと律は「投資の一環」ということで自分を納得させたのだった――。
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自宅へと戻る最中、律は家電製品店へと向かった。
環七沿いにある家電製品チェーン店である。
実は本日セールが行われており、そこで車載向けに使えるカメラが30%offで在庫処分販売されていた。
そのカメラの名はFDR-X3000である。
4K録画可能、手振れ補正あり、車載にするには高級すぎるカメラであった。
購入理由は「モトブロガー御用達」という単純な理由。
バイクを導入するきっかけとなった者たちの殆どがSony製のこれの下位モデルにあたるAS300などを愛用しており、以前からこれが気になっていた。
彼らの殆どは「ソニーが最もコスパが良いから」というだけでソニー製品に拘りは無かったものの、Go-Proが独自規格などが多く使い辛い一方でソニーはソニーはここ最近の傾向からメモリースティックなどを採用することなく汎用性が割と高い製品を作っており、構造も割と頑強で人気があった。
そのため、当初より買うなら最高のものということでX3000を検討していたが、車載カメラの必要性を痛感し、購入へと至ったのである。
車載カメラ。
またの名を「ドライブレコーダー」
今日ではライダーも冗談抜きで「御用達」なアイテムの1つ。
当て逃げなどされても逃がさない。
これまで以上にライダー自身を保護してくれるアイテムである。
事故による過失割合が大きく変わることもあるので装着できるならなるべく装着するようにした方がいいだろう。
一般的には「中国製の安物を付けっぱなしにしておく」ことで十分。
こいつらは案外頑丈で、映像はとりあえず「必要な画質」にて録画出来、音も「必要最低限」で録音できる。
事故だけへの対応ならば付けっぱなしにして使えば良い。
盗まれても数千円の被害で済むのと、中国製の安物は価値がないので盗まれにくい。
国産が良いというならば最近はユピテルやデイトナなどから「バイク専用ドライブレコーダー」なるものが販売され、こちらは「バイクのバッテリーオンと共に録画が開始される」などと一見すると便利であるのだが、
例えばユピテルの場合は衝撃感知システムがないのでドライブレコーダーとしては使いにくい部類。
バイクの場合、転倒したらしばらく動けないのでイベント録画ボタンを押す暇などない。
保存容量も少なく、車載カメラとしての利用には向いていない。
デイトナのものは衝撃感知機能がありドライブレコーダーとしては優秀だが、振動に弱く映像がブレブレとなりコスパは割とよろしくない。
これならSonyのAS50の方がまだコスパはいい方だろう。
ではソニー製のAS300やX3000などはどうなのかというと、こちらはあくまでただのアクションカメラ故なのか「USB給電時に録画開始」という機能はない。
そういう用途でなぜか作られていない。
そのため録画を失敗するケースが多々ある。
無論、録画サインとして録画ランプを点灯させたり音で動作確認はできるが、リスクはある。
一方、画質は最強。
今や失速したGo-Proと比較して圧倒的な性能を有する。
最近は世界的なシェアにおいても大きく巻き返してきた存在だが、その裏ではGO-Proの中身に使われるパーツに大量のSONY製品が含まれえているという側面があり、ソニーとしてはどちらが売れても利益が出るというVHSとベータに近い関係性がある。
USB給電しながらだと防水機能が弱くなるなど弱点がないわけではないが、そこはビニールチューブを使うことで本体ごとケーブルを覆うことが出来るので問題ない。
最大のメリットとしては横に細いのでヘルメットマウント的にはこちらの方が優れているということ。
チョンマゲのように頭頂部に装着する必要性などはない。
律はその話をモトブログなどの各種ネット上の動画などで聞いていたので防水については特に不安視していなかった。
他のメーカーのドライブレコーダーは「まだ発展途上」という話を聞いていた律は、単純に車載カメラ関係の動画をアップロードしたりすることにも興味をもっていたので、迷わずSONY製品を選択。
GO-Proはバッテリー交換が不可能なモデルなどもあることや手ブレ補正で劣ることなどから選択から除外された。
価格は同じく約4万円と高額で、ドライブレコーダーとして常設できるものではなかったものの、ヘルメットに装着することも考慮し、仮にバイクに装着しても任意で取り外しすればいいと考え、防犯の面は後のこととしてとにかくカメラだけ先に購入してしまった。
キャンペーン中でバーマウントもサービスでついてきたので、律はこれで一通りの装備を揃えることができた。
他に足りないものといえば、保冷バッグであったが、これは市販のやや大型のものを購入し、ミッドシートバッグ内に通常時は折りたたんで収納しておけば良いと判断した。
わざわざ「保冷用ツーリングバッグ」の購入は不要と判断した。
あまり無駄にいろいろ購入すると後になって後悔することから、最低限のものだけを購入していく。
電化製品店では車載カメラ用のMicroSDカードも購入し、今現在足りないものといえばライディングウェア系統ぐらいとなっていった。
「やっぱライディングパンツについても見当するかなぁ……」
律は太ももをさすりながらライディングパンツについて考えることにした。
ジーンズですらヤケドしてしまうほど高熱になるCB400のタンク。
今後ワインディングを楽しむ上で大きな障害となる。
対策品として軟膏を持ち込んではいるが、そもそも現状の状態自体「体に明らかによろしくない」と感じられる。
ヤケドしないのが正しい状態なのだから、それに合わせた服装か何かを導入せねばなるまい。
そう考えるた律はそのままのバイク用品店に向かったのだった。
――しかし、用品店で確認してみるとライディングパンツ自体はそこまで今所有しているズボン系統と大差があるように感じられず、重くてムレそうな上、非常に価格が高いので購入に慎重を要することが判明した。
ライディングウェアについては光などの意見も仰ぐことにし、律は15分もしないうちにバイク用品店を後にし、自宅へと戻る。
――自宅へと戻った後はCB400のホイールの状況を見るも、最初からセッティングがそれなりに決まってたようでホイールにわずかにオイルが掛かっただけ。
粘性の低いオイルはチェーンをテカテカと輝かせ、いかにも「オイルで満たされています!」といった状態である。
今まで粘性の高いルブによってすぐさまゴミが付着したりなどして汚れギトギトという状態が続いていたものの、少し走行したばかりでは「チェーンを磨きました」といったような状態を維持できることがわかった。
「これがこのまま続けばいいなっ」
チェーン整備に時間をかけずに済みそうだということを理解した律はルンルン気分でCB400を片付けると、自室へと戻っていったのだった――




