24 宿で食べてみる
魔法屋を出た後は、服屋でリアナの服を買った。一般的な旅装一式を数組と、フード付きのマント数枚、下着肌着も数着、あとはいろんな素材の布を全色分、纏めて購入した。
俺の場合は、このままだと間違いなく自分の着替えは自分で作るしかなさそうだからな。【創作の匠】があれば希望通りの服ぐらいは作れるだろうが、材料がなければさすがに無理だ。買えるときに入手しておくに越したことはない。
新しい服に大喜びしたリアナは、すぐに新しい服を着たがったが、俺はいままで着ていたボロボロの服を脱ぐことを許可しなかった。これは別に変な趣味があるわけではなく、あとで使うときに長く着てもらっていたほうが効果が高いからだ。
あとは【無限収納】偽装用に魔法の鞄を買ったので、今度は遠慮なく食材を買い込んでいく。野菜、肉、パン、果物は勿論、屋台などで売られている完成品も、ある程度まとまった数を買っておく。追手次第じゃ、しばらく街に寄れない可能性もあるからな。
もろもろの買い物を終えて、宿に帰るころにはすっかりと日は暮れていた。地球と違ってネオンや街灯なんてものはないから街の中でも結構薄暗い。女子供の夜の一人歩きはかなり危ないのだろう。陽が沈んでからは通りを歩く人影も一気に減っていた。
この環境はリアナを狙う暗殺者たちには好都合のはずだ。まだ今日は追いついてきていないと思うが、今後はもっと早く帰るようにする必要があるな。
夕食は一階の食堂ではなく、宿の店員に頼んで部屋まで運んでもらう。俺だって高級宿の料理を食べてみたい。というか調味料をもらわなかったせいで、俺は味のある料理に飢えていた。
そして提供された食事は高級宿に見合った見事なものだった。
野菜や肉をじっくりと煮込んで作ったであろうスープ。みずみずしい野菜のサラダ。街で見たパンとは比べ物にならないほど柔らかくて綺麗な色のパン。そして、なんの肉かはわからないがA5ランク級の肉にも劣らない肉を一口大にカットしたステーキに、この世界では高級だと思われる塩をお好みでかけられるように別皿で盛ってあり、デザートにはなんと数種類の果実が冷やされた状態で提供された。
それぞれの料理を腹いっぱい食わせてもらったが(それでもリアナの一口分くらいだが)、その味は充分に満足できるものだった。
俺の持っている食材は質のいいものだが、しょうゆも味噌も塩もなく、素材本来の味しか楽しめなかった。だが、この世界の料理はなかなかにレベルが高く、金さえ出せばうまい物が食えるとわかったのは収穫だった。
それに、提供された塩の残りをちゃっかりと全部【無限収納】に回収した。俺ならこれだけあれば、しばらく塩には困らない。それにステーキにかかっていたソースの残りも俺が作った石食器に移せるだけ移して回収しておいた。このソースも味付けに使えるからな。こういうときは小さいというのも便利だが、そもそも自前の食糧を使わずともリアナの食事をもらえば…………いやいや! 違う。俺が食べた残りをリアナに食べさせるんだ。つい、俺が食事を分けてもらってる感じになっちまった。
「ぷはぁ~美味しかったですぅ。私、こんなに美味しいもの食べたの初めてです」
「そいつはよかったな。どうせ俺ひとりじゃ、とても食べきれないし、また残り物が出たらこれからも食わせてやるさ」
ちょっと膨らんだお腹を撫でながらとろけた笑顔を見せるリアナに冷たく対応するが、ケモミミをピクっとさせて、きょとんとしたリアナはすぐに、くすくすと笑い始めた。なんだこいつ? なにが面白かったんだ?
「……ふふふ、マサヤさんじゃ絶対食べきれませんよね」
「…………別にいっぺんに食べなくたって【無限収納】があるぞ。リアナの一食分、俺なら何日分になるだろうな。その間、お前の食事のために金は出さないことになるがいいのか?」
「あ! あう、そ、それは困ります……でも、マサヤさんはそんなことしませんよね。短い付き合いですけど、そのくらいはわかります」
一瞬しまったという顔をして口を押えたリアナは、すぐに微笑を浮かべるとぬけぬけとのたまう。その笑顔はやはり梨菜の顔を想起させる。似ているはずなんかないのにな……。
「まあいい、食事が終わったら風呂に入ってこい。そのときにいま着ている服は洗ったり、濡らしたりするなよ。脱いだままの状態で俺のところへ持ってこい。わかったな」
元気よく「はい」と答えそうになったリアナがその言葉の意味に気付いて、ちょっと後ずさる。
「え? マサヤさん……さすがにそれはどうかと」
「違う! ちょっとしたことに使うだけだ」
「だから、そういうことですよね?」
「そんなことするか! いいから行ってこい。ちなみにその古い服はもう使えなくなるが、特別な思い入れとかがあったりしないよな?」
「あ、はい。別に普通の服なので問題ないです。今日、買ってもらった服があるならいらないですけど……」
「わかった。浴室で脱いだら下着以外は浴室の外に出しておけ」
「……わかりました。本当に変なことには使わないですよね?」
【水球】
「あ、冷たい!」
「早くいけ!」
「ひゃい!」
獣人の素早さを発揮して浴室へと消えていったリアナを、溜息とともに見送ると【無限収納】にしまっていた魔術書をベッドの上に出していく。日本の巻物のような形で紐で縛られたスクロールを十三本、すべて並べると初級のほうから【鑑定】していく。
なんとか連続投稿維持できた……^^;




