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【本編完結・書籍化進行中】本当の娘が帰ってきたので養女の私は消えることにしました  作者: 佐藤真白


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79/80

curtain call I 罪滅ぼしの死ねない剣士

 お読みいただきありがとうございます。


一部残酷な描写が含まれます。


苦手な方はお読みにならない事を推奨致します。

ワンフとその大陸は呼ばれる。


かつてその大陸は忘れられた地と呼ばれていた。



未だに瘴気を含んだ大気は作物を育てようにもままならず、人々は苦しみのなかで必死に生きている。


現在の主なこの大陸国の産業は人材派遣産業と魔物素材の輸出だ。




人々の多くは額に独特の紋様が浮かぶ。

それは彼らの先祖が神にならんとした罰であるとされる。

それは俗に血の神罰と呼ばれる。


彼らは輪廻転生を果たしてもまたその血族として生まれる定めにある。



己が祖先が起こした事は過去の己が起こした事なのだと彼らは長くその身を犠牲とする贖罪をしていた。


そして神罰者は他国では忌避されることは彼らは理解していた。

故にこの地の人々は身内以外に額を隠す独特の風習がある。



そんな大陸に今から400と数十年前に1人の剣士が流されて来た。



その者の額には先住の者達よりも濃く大きな神罰者の印があった。

流されて来た当初はまだまだ年若く、何をしでかしたらこんな地まで流されるのかと言う様な男だった。


これはそんな彼が死と言う名の赦しを得るまでの話である。




〜フレット〜


俺は何日海辺で来るはずもない船を見つけるために水平線を眺めていただろうか…


腹は減る。

痛みもある。

排泄もある。

なのに死ねないとはどう言う事なのかと…


フレットは砂浜で膝を抱え、叔父が置いていってくれた一振りの剣を抱き寄せる。


最初は叔父が残したこの剣は自決用だと思った。


死ねないとは言え流石に首を落とせば死ねるだろう。

安直にそう思った。

後にそれは叶わないと知るがその時にはまだ知る由もなかった。


剣を拾い上げればそれは両刃の潰された模擬刀だった。


それに刀身がフレットには合わない。彼には些か短いのだ。


疑問のままに手に取ったそれをよく見れば、それは剣を握り始めてすぐに使っていた鍛錬用の模擬刀だと気付く。



叔父は伝えたかったのだ。


「初心にかえれ。初心を忘れるな」


その想い、家族との思い出を剣と共に抱き締める。


何のためにこの剣を握ったのか…


『俺がスピカを守る騎士になる』


幼い日の自分の幻影は輝かんばかりの笑顔の妹に向けられている…


自分が壊し、傷つけた事を思い出す。


自分を殺したい程に情け無い。


騎士を目指した人間が守るべき妹を己の欲望だけで傷つけ、その鬱憤を最も無抵抗そうな母にぶつけて…妹の思いを踏み躙り兄からそれを奪い取った…



あの男が言ったように俺は畜生にも劣る…



そんな後悔ばかりを水面に映してぼんやりとしていた。



カサリ…

背後の茂みが揺れる。


野生の魔獣かと咄嗟にフレットは剣を構える。


刃の無い剣で、切る事は出来ずとも鈍器としてなら使える。

こんな時に騎士訓練が役立つのも皮肉なものだった。

身構えるフレットの前に姿を現したのは予想に反して人の子だった。



肌の色や服装からしてフレットの知るものでは無い。


この地の人の子なのだろう。


言葉が通じるのかは未知数だったが、すぐにその疑問は解消される。


「おじさん、ご飯食べないの?ずーっと座ってるけど贖いしないの?」


なんとも毒気の無い言葉だった。

言葉は帝国と同じ大陸共通語だった。

おじさんと呼ばれた事にも若干の戸惑いはあるが、目の前の少女はまだ10にもなっていないだろう。

それを思えばしょうがない。


それよりもフレットが気になったのは額の神罰者の印だ。こんな年端もゆかぬ子供になぜ自分と同じ物が刻まれているのか…


「おじさん?これ食べる?」


少女は屈託なく木の実のようなものを差し出す。


「ありがとう…でも俺は死ねないから…」


フレットはハッとする。こんな子供にそんな弱い自分を見せたのか…

正直腹は空いていたが警戒が勝る。


「おじさん、山の上のダルマ爺ちゃんとおんなじ不死者なのね!

だったらいっぱい贖いしなきゃね!」


少女はフレットの話など聞きやしないでキャッキャと笑う。


「お前は俺が怖く無いのか?神罰者だぞ?」


「こわくないよ?だってみんな神様からの救いを待つ仲間だもん。わたしはシンク。おじさんは誰?」


幼女の幼女とは思えないほど真摯な瞳に気押される。


「俺は…フレットだ」



こうして少女とフレットは出会う。


そしてシンクはフレットに告げる。


「これから私、贖罪をするわ。此処での罪の贖い方を教えてあげる!」


何のことだかわからないけどシンクに手を引かれ、フレットは森へと入った。


そして半刻程歩いた先の落ち窪んだ穴にそれは居た。



黒いモヤに包まれた真紅の双眸がこちらを睨みつけ咆哮を放つ。

一目みただけでそれは大きな蛇のような何かだった。



それは魔獣とも違う…もっと禍々しい何かだった。


「あれはね、この地に湧く厄災の種。過去の人々と今の人達の負から出来た魔そのものなんだってさ」


そう告げたのはシンクだった。

フレットは理解が追いつかないでいる。


「私は、血の神罰者なんだよ。この地での贖いはこの身をもってこの災厄の種を祓い天に返すことなんだよ。おじちゃんもきっとそれが贖罪になるよ」


屈託なく告げるこの幼い子とスピカが何故か重なった。

守らなければと強く心を締め付けられる。


それを見透かしたようにシンクは首を振る。


「今この大陸にいる人の殆どは血の神罰者なんだって爺様が言ってた。

それは大昔の悪い事をした王様とかその周りの人達の魂でね、身を魔に喰わせる事で禍を天に帰す贖罪をしているんだよ。

私達は身を投げればそこで死んで、また輪廻転生をして一族の元に帰るの。そしてまたその罰を贖うんだって。

魂に刻まれた神罰が無くなったその時に神罰の輪から外れる赦しをえて(シン)が取れるんだよ」


そう言ってまた一歩シンクは穴に近づく。


「私達は魔法が使えないけど、聖力はあるんだって。だから私達の体を食べた魔は浄化されるんだよ」


そう言って穴の中へとシンクは飛び込み落ちてゆく。


「おじちゃん、またすぐに会えるよ!バイバイ」

堕ちゆく最中笑顔で少女は手を振った。


そしてそのまま大口を開けた黒いモヤの中に飲み込まれて行く…


そして幾度かの咀嚼音の後に黒いモヤは爆散した。



フレットはその場にへたり込む。

何が起きたのか皆目見当が付かない。

手すら延ばす間もなく少女の命は滑り落ちてしまった。



眼下に見えるのは爆散した肉片と散り散りになって消えて行くモヤの残滓だけだった。


夢でも見ている心地でそのまま数時間はそこにいただろう…。



その魂は何度も死を体験する。

何度も魔に噛み潰される痛みを味わう…

命がそんなにも軽い扱いを受けて良いはずがない…



そんな思いも散ってしまった命の前には虚しい。


フレットは森を彷徨った。しばらくすると集落に行き着いた。



見るからによそ者なフレットは警戒された。


「シンクという少女はここの住人か?」

フレットが聞けば住民達は頷き、フレットの憔悴具合から何があったのか悟った様子だった。



そしてそのまま集落の長の元へと案内された。

そしてシンクの最期についてを知らせた。


「すみません…あんなにも幼い子を守れず…」


「いや、謝りなさるな。それはあの子への冒涜ですでな。それにあの子はもうすぐまた戻ってきますでな」


どう言うことなのかとフレットは首を傾げる。


「死んだ者は数年で生まれ変わる。そしてまた贖罪をして死ぬのです。それはこの世に魔があり続ける限り続くやも知れない我等の贖罪なのです」


何だそれは…

まるで死ぬために生まれるようではないか…

あんなにも幼い子が…


「俺が魔を全て切り捨てられればこの地の人々の罪は減るか⁉︎」

深く考えもせずフレットは問うた。


長は首を振る。

「それをしたところでそれは君の贖罪だ。我々は我々の贖罪が終わるまで解放されない…解放されてもコキュートスに堕とされるか、魂の消滅が待っているだけかもしれない…」


フレットは何も言えなくなる。

彼らは一体どれ程の歳月をその贖罪に充ててきて、これから償っていかねばならぬのだろうか…



その後フレットは集落の近くで魔を見つけては戦いを挑んだ。


最初こそ戦い方がわからず苦戦しては逃げ帰る日々だった。


そうこうするうちに魔には魔法をのせた攻撃が効くのだと分かった。


そして魔核を貫けば消滅する事も分かった。しかしそれを知る頃にはフレットの左腕はなくなっていた。



それとは別に分かった事もある。

集落の人々全てがシンクのように進んで贖罪をしているわけではないと言う事だ。


いや、シンクがおかしかったとさえ思える。


殆どの者達は死期が近づいた時か魔が大きくなった時に仕方なくそれを行うのだ。


中にはそれを行わずに寿命で死ぬ者もいた。


贖罪とは何なのだろうか…

俺の犯した罪は赦されるのだろうか…


暇さえあればそんな事を考える日々だった。




此処に流れてきてから2年が経っていた。


海の向こうでは家族は一体何をしているからだろうか…


今ではフレットは3日と開けず魔を祓うので子供達からは英雄のように、大人達からはどうあつかったら良いものかと厄介者扱いされていた。



山の上のダルマ爺にも会いにいった。

そこに居たのは四肢を失い、天を只々仰ぎ見る御伽話の欲張りな王その人だった。


生きる事も罪を償う事もせず、過ぎゆく時間に取り残された哀れな男だと思った。


あゝはなるまいと心に誓うも、いつ自分がそうなってしまうかも知れない恐怖に怯える。



そんな時に集落で久しぶりに赤子が産まれた。


その子は遠目に見てもシンクに似ていた。

そして赤子と言うだけでスピカの幼い頃を思い出す。


胸のうちに湧き上がる感情は彼しか知らない。

彼は泣いていた。


「フレット、シンクが帰ってきたよ。この子はシンクの魂を持つ子だでね」


長はフレットの片腕にシンクを預けた。


温もりがこそばゆい。命の塊がそこにはあった。


「俺は俺の贖罪の倍…いや10倍の贖罪をする!そしてそれはシンク、お前のためだ。俺の贖罪の前にお前の為の贖罪をする。

少しでもお前の罪が早く赦されるように俺も頑張るから…だから…諦めるな…」



その日からフレットは魔法なしで魔を祓う方法を模索した。


そしてその方法を確立させ、集落の者達に教えた。

帝国の文化や文字など外の世界を広めた。



命懸けだが。命を犠牲にしない贖罪は彼らの意識を変えていった。




十数年後、2番目のシンクは大人になった。


甥もこのくらいの年頃になったのだろうと感慨深いものがある。



シンクがフレットの事を慕っていたのは知っていた。しかし知らぬふりをした。

種無しの自分と関わっても良いことなどない。


彼女は魔の魔核を貫く直前で魔に喰われた…


最初のシンクのように笑っては逝かなかった…

その表情は苦悶に満ちていた…



しばらくすると神罰者の印の無い者もちらほらと生まれてきた。


海の向こうを目指す者も出てきた。





また数年後にシンクの魂は廻ってきた。



今度のシンクは大人になり、家庭をもって子をなした。

シンクの旦那のシンランは良い男だ。



フレットはその頃から歳をとらなくなっていた。

それはフレットに元々与えられていた寿命の頃なのだろう。


祖国ではスピカが役目から解放された頃だろうか…




フレットはその平凡な様が尊くて儚いものだと、美しく思った。


過去に自分はこんなにも尊いものを壊したのだと今更ながらに心が傷んだ。


贖罪のため魔を祓う事にも力が入った。



やがて、シンクも見た目がフレットとそう変わらない位になった。


シンクは言った。


「私、あと何回贖罪をすれば解放されるかな…

解放されたらおじちゃんと会えなくなるのかな…それは寂しいな…」


シンクもフレットもすでに神罰者の印は随分と薄くなっている。


フレットにとってシンクは妹のような娘のような孫のような…家族のような存在になっていた。


「大丈夫だ。俺はきっとお前を探し出してやる。だから…そろそろ赦されろ。お前、赦される事を拒んでるだろ?」


シンクは目を見開き顔を逸らす。夫にだって気付かれて居ないのにと驚く。



「大丈夫だ。例え人として生まれ変われなくてもお前の魂を俺は見失わない。だから…そろそろ逝くか?」


シンクは頷いた。





シンクが赦しの旅路へとついてからもフレットは魔を払い続けた。




フレットは森の中で今までで1番大きな魔の魔核に剣を突き立てた後に自身が赦されたのだと感じた。


彼を見ていた一柱の神は自分の罪以上に他人の罪にこそ憤った彼を好ましく思っていた。

神は赦しののちにフレットに選択をさせた。




前世の縁が絡み合う事などない、関わる事の二度とない人として転生をするか、前世の縁を引き継ぎつつも人としてではない転生をするか…



フレットは迷う事なく後者を選んだ。






〜罪滅ぼしの死ねない騎士〜


昔々とても乱暴者の男がいました。


腕っ節が自慢の男は、養子として妹になった女の子を虐めました。


それを家族に怒られた男は自分の母親を斬り、兄に酷い怪我をさせても反省をしませんでした。


それに怒った神様は男に不死の罰を与えて、神罰の大地で罪を償うようにと言い渡しました。



男は深く後悔しましたが全ては遅すぎたのです。


男の特技は剣術でした。その技を使い、男は神罰の大地で300年剣を振り悪魔を倒して神様に赦しを乞いました。



男が心から反省した事を知った神様は男を赦し安息を与えましたとさ。


おしまい



「スカーレット、どうしたの? 行くわよ?」


その子は今すれ違った魂を知っている気がした。


「フレット! 待って! とまりなさい!」

1匹の犬が少女の握る手綱を振り解いて走り出す。


フレットは今すれ違った魂に強く惹かれる。


心が、匂いが、動きが、息づかいが、魂があの子を知っている…



フレットはその魂の持ち主の方へと駆け出していた。



〜curtain call I 罪滅ぼしの死ねない剣士 終〜


皆様ご無沙汰しております。


資格試験やら急な業務やら子供の行事やらで投稿が遅くなりました。


何よりフレットがヘソ曲げて中々話を作ることが出しませんでした(;´Д`A



うーん何度書き直しても上手く表現出来なかったですが、雰囲気でフレットも大変だったよとお伝え出来てればいいなぁと思います(笑)


因みにシンクは漢字で「罪紅」と書く予定でした。罪が赦されて「真紅」となる設定でしたが出しきれなかった裏設定です…


彼女がどう転生したのかは皆様のご想像にお任せしたいと思います。



それではまた次のお話で


佐藤真白

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― 新着の感想 ―
果てしなき艱難辛苦の果てのスカーレット!!
まさか、流し台のシンクから来てるのとばかり(失礼)
 贖いの大地の民は、フレットが逝った後もフレットが確立した祓いの技能で贖い続けてるんでしょうか…( ´-ω-)四肢なき王はいつ贖いの謝罪をするのかな…。
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