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【本編完結・書籍化進行中】本当の娘が帰ってきたので養女の私は消えることにしました  作者: 佐藤真白


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62/80

瞳の記憶

お読みいただき有難う御座います。


誠に勝手では御座いますが暫く感想の受付を停止ささていただきたく存じます。

詳細につきましては活動報告に御座いますので気になる方はそちらでご確認下さい。

勝手では御座いますがご理解頂きますようお願い申し上げます。

温かな情景が見える


こんなにも鮮明な風景が見えるのはいったい何時ぶりだろうか?


思い出にあるエメンタールの地に似た情景が眼下に広がる。


視力が落ち始めてからはとんと遠くなった人々の営み。



人の顔が見えると言う事がこんなにも様々な情報を与えてくれていたのだとしみじみ思う。


しかし何故だろう…

この世界には色が無い…



場面は一気に切り替わる


何故みんな僕をそんな目で見るんだ…


見た事のない女の子たちから向けられるのは嘲笑と侮蔑の冷たく刺さる視線…


男達からは欲望を滾らせた様な卑猥ささえ感じる下卑た笑いを含んだ視線…


何で僕をそんなふうに見るんだ…一体僕が何を君たちにしたんだ…



そしてまた場面は切り替わる


虚ろな獣の骸の双眸が僕を捉えて離さない


無惨にも切り刻まれて内臓の一片までを恨めしがるかの様な虚空に僕は恐れを抱く


近寄りたくも無いのに僕の意思に反してそれは徐々に近づいてくる


反射的に僕は叫んだが迫り来る虚空に飲み込まれる様にまた世界は切り替わる




見た事のない女の醜悪な笑みが嘲りと共に目の前にある…


やめてくれ!そんな目で見るな!本当に俺は何をした⁈




嫌悪感で吐き気がする


そしてまた世界は変わる



白黒の世界なのに柔らかな光を見た

眩しさに目が眩むと3人の男の子達に囲まれている

何となく既視感が襲う



これは僕にも見覚えが無いだろうか…?

一番年長の男の子は兄に似ているし、走り回っている子供は弟に見える。部屋の端にてこちらを見ている子供は幼い頃の僕に似ている


心地よい気持ちのままこのままの情景でいたいと願うと今度は若き日の母の腕の中にいた。


あぁ懐かしい。


優しく真綿で包まれたような心地に安堵する



しかし次の瞬間に母の顔は醜く歪む

音は聴こえないが罵られたことだけは分かる


胸が締め付けられる心地だ…



闇へと突き落とされる感覚に踏ん張るも足元などない




次に見えたのは父の顔

記憶の父よりも幾分歳を重ねた整っているのにどこか冴えないそんな顔が見た事のない応接室で対峙している


その表情は喜びと慈しみを感じるのにどこか不安そうでこの男の器の小ささが見えるようだ…



そしてまた場面が切り替わる

こんなにも父の顔は悍ましいものだっただろうか…

この世にこんなにも汚いものがあるのかと言わんばかりの視線に目を逸らしたくなる…

しかし僕は視線を逸らす事ができない




信じて…

私を見て…



そんな締め付けられる思いが胸を突く



また場面は切り替わる…

延々と優しい場面から僕を…私を貶むようなあの視線達に晒される…

恐ろしい虚空が襲う

次第に人々の顔が三日月型の目をした薄ら笑いの仮面のように張り付いて見える




聴こえるはずのない嘲笑が聞こえる…

頭が割れんばかりに痛い…

心が壊れんばかりに痛い…




助けてくれ…

誰か僕を…私を…助けて…





「アレク様、大丈夫ですか?」


聞き覚えのある声がする

この声の主は誰だったか…

ここは何処だったか…



長い旅をしてきた後のように僕は疲れている。

何を夢見ていたのか覚えていないが今は何だか人が怖い。


「アレク…様?大変うなされておりましたがご気分が優れませんか?痛む場所などは御座いませんか?」


優しく声をかけられても何処か不安が付き纏う…痛いのは心だ…


「僕は…」

何を言おうとしているのだろうか…

混乱した頭で整理するが頭がまた酷く痛む


「いっ…」

反射的にこめかみに手を当てれば僕の目元は包帯のような布で覆われている事が分かる。


「頭や目元が痛みますか?移植は無事に成功しておりますが拒絶反応の一種でしょう…あと2日も馴染めば包帯もお取りできますのでどうぞ安静にしていて下さい」


そう言って声の主は痛み止めを処方してくれる



あぁ、そうだ。彼は家のお抱えの医者だ。

そして僕は魔眼の移植を受けた後だ…





その後僕は毎夜毎晩魘された

助けて…信じて…離れていかないで…どうして…何故…やめて…

そんな胸を締め付けられる思いで飛び起きる



包帯が取れても僕は瞼を開ける事が怖くて堪らなかった。以前よりも光を感じるそれが、外の世界を映す事が怖くて堪らなかった




包帯を取った後ボヤける視界が開けるのは少しばかり恐怖が優ったが朧げになりつつあった鮮明な景色とやらを色彩として感じる



世界はこんなにも美しいと思うと同時に世界はこんなにも儚いと思ってしまう。


「違和感はありますかな?」


「いえ…ですが不思議な夢を見るようになったんだ…」


「そうですか…もしかしたらそれは瞳の記憶かも知れませんね」


「瞳の記憶…」



起きれば虫食いでよく覚えていない夢…


胸を締め付けられるような強い衝撃を孕んだそれがもしもこの瞳をくれた人に起こっていた事柄だとしたらさぞ生きづらかっただろうと思う…


そんなふうに追い詰めた人達など忘れ去って欲しいと共に何故そんな人が僕に瞳を提供しようと思ったのだろうと疑問も湧いた。


「あの、先生…ドナーはどんな人だったんですか?何故僕に瞳を提供してくれたんでしょう?」



カープ先生は寂しげに窓の外を見やる

「とても優しい方でしたよ。もう、自分には必要が無いからとご提供を決められたようです」



「誰なんでしょうね、その優しい人は…こんなにも苦しい思いを瞳に残す程に辛い思いをした悲しい人は…会って御礼は出来ますか?」


「さぁ、お会いする事は難しいかも知れません既に旅立たれた後ですから…」



両目を失っての旅立ちとなればこの瞳の元の持ち主は病でも患っていたのだろうか…


そんな中で朧げにも死を選びそうな程の苦しみを耐えて悲しみを乗り越えて僕の元まで瞳を届けてくれた事に感謝した


鏡を覗き込む


元の自分の瞳と同じ榛色の瞳がこちらを覗き込む


しかしながら僕は毎夜魘される…

瞳の記憶を僕は夢見る…

朧げなそれが徐々に一枚の絵になった頃

僕はスピカの居場所を知らされる



僕の瞳はスピカの瞳だ…

あの悲しい日々を送った哀れな人は彼女だったのだ…



「先生…この瞳はスピカのものですか?」


「…はい」

先生は多くは語らなかった


気付いてももう遅い…

僕達は彼女になんて思いをさせてきたのだ…


後悔ばかりが押し寄せる

それでも許さないとばかりに瞳は毎夜毎晩夢を見せる…




スピカ…悪かった…申し訳なかった…


スピカは人を呪わない…ただ知って欲しいと瞳は夢を見せるのみ…

呪っているのは過去の僕だ…

僕自身が僕を呪っているのだ…

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― 新着の感想 ―
心のどこかで次男だけはこの眼を移植されて、正気に戻って何か動いてくれると思ってたんだけど…。そっか人柱になった後だしもう遅いのか。今更正気に戻ったところでスカッとするのは次男本人だけでスピカはもう…。
スピカにとっては本意ではないと思うけど、私は少しスカッとした。 瞳によってこの人は一生呪われ続けるなって思った。 スピカが本当に家族が好きで、恨んでなくて、だからこそ、瞳の記憶を見て後悔し続ける。 恨…
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