告白
お読みいただきありがとうございます!
日間ランキングでローファンタジー部門で4位になっていて驚いております。
これもひとえに読者の皆様のおかげと思い感謝の念に絶えません。
本当にありがとうございます。
執筆には中々時間が取れず投稿が遅くて申し訳ありませんが引き完結に向けて頑張って執筆いたします
引き継ぎ「消え養」の世界をお楽しみください
「私を孫と呼んでくださるのですね、お祖母様」
「えぇ、今までごめんなさいね…さぁ、詳しくは我が家ででも話しましょう。こんな所で話すことではないわ」
そう言って私の手を引いてこの場を去ろうとする。
私はその手にひかれ幼児のように後を追って行った
部屋を出て建物を抜けるとそこはやはり懐かしのエメンタール領の領都キイワ
深夜であってもこちらも建国祭の余韻を色濃く残し屋台の店仕舞いや宿屋の食堂からは人の気配がするし灯りも漏れている
だけれど凄く静かだ
少しばかり私の今の心に似ている気がする
不安で押しつぶされそうな闇なのになんだか暖かくて朝を待つ人々の吐息が力となって芽吹いて行くような…
「私…良い乙女となれるでしょうか…」
繋いだままのお祖母様の手が今一度握り返される
言葉は無かったが勿論よと勇気づけられた気がした
そのまま馬車に乗り込めば教会では無く領主館へと向かう
「教会へ行くのではないのですか?」
「久々の再会なのだから少しくらい一緒に話をしたいからな」
「猊下にも連絡はしてあります。儀式まで一緒に居ても良いかしら?」
即座に返された言葉に1人ではないのだと安心すると共に今までの厳粛なお祖母様と違う対応にドギマギとしてしまいます。
そうして帰ってきた領主館で私はお二人と語らいを始めました
通されたのはお二人の自室に隣接する談話室です
勧められたソファに腰を下ろせばお祖母様が手ずからお茶を淹れてくださいます。
芳醇な香りが鼻腔をくすぐり今まで張っていた気がふわりと弛む気がいたします。
お祖母様のお茶は飲む人によってブレンドを変えられており、飲む人への心遣いが詰まっています。
「さて、何から話せば良いかね、ケッカ」
お祖父様はお祖母様に語りかけます。お祖母様は少しばかり厳しい表情になり茶器に向けていた視線を私の方へと向けられます。
「分かっているわ…先ずは謝罪からね…
スピカ、今まで貴女には他の家族以上に厳しい態度で接してきたわ。そのせいで貴女が傷つき苦しんでいたのも分かっていたのに。本当にごめんなさい」
「そんな、お祖母様は理由なくそんな事されないと分かっていましたわ!何か事情がおありなのでしょ?」
頭を下げるお祖母様を制してソファーに座らせながら語り掛ければ添えた手を握り返される
「ケッカはね…彼女は神から与えられた者なんだよ。スピカ、君と同じ…」
聞き慣れない単語に私は首を傾げます
ギフテッドとはなんでしょうか…私と同じという事はお祖母様も魔眼をお持ちなのでしょうか
私の疑問は顔に出ていたのかお祖母様が静かに教えて下さいます。
「ギフテッドは言葉の通り神からの恩寵です。
これは皇族や高位高官の一部にしか伝えられていない事実なのですが…貴女も皇族になった際には教えられたかもしれないですわね。
ギフテッドとは人それぞれではありますがそれが…最も発見されやすいのは身体的特徴に出るパターンです。
スピカ貴女のようにね…
身体的な特徴であれば隠匿は難しいので一般でも知られる存在になります」
そう言って私の頭を撫でて下さる。
「でもね、身体的に出ない者もいるの。
夢で未来を見る人、人の嘘がわかる人、とても沢山食べる事が出来るなんて人も居たそうよ…
そういった人は見つかる事自体が稀でおとぎ話のように語られているの。見つけたらこっそり国が抱え込むなんて話もきかされたわね。
そして私は人よりも直感が優れているのよ。
普段はそんなに気にする事のない力なのだけれど時には人の運命を左右するような事柄が直感的に分かってしまうの。
10年前に貴女に会った時もそうだったわ。貴女の未来が直感的に皇室と結び付いて見えたの。それと同時に老いる事のない貴女の未来も見えて私は酷く動揺してしまったものだわ」
それは私が7つの時に此処に訪れた時のことでしょう
あの時お祖母様が頑なだったのは動揺の表れだったのだと知りました。
「私は一度この力で1人の人の未来を変えてしまったの…
その人は自身の選択だとおっしゃってくれたけれど私はとても後悔をしたのよ…
もうこの力の事を誰にも伝えないようにと…運命を変えないようにと…でも、もしも貴女が皇族に召されるのならばそれ相応の覚悟と教養とが求められるわ。私はそれを間近で見てきましたから。
特に貴女は養女の立場。口さがない宮廷雀も多く居ます。だからこそ武器となる物を一つでも多くと思って厳しく接してきてしまった…それを危惧する程に貴女は純粋で無垢過ぎた…宮廷の悪意にあのままでは耐えられないと思って接してしまった…
全ては貴女のためと言ってしまえばそれまでですが貴女が苦悩していた事も承知なのです…」
「では、幼い頃に何度も礼のやり直しをされたり2階の部屋へと通されたのもそういった意図があってのことでしたの?」
「そうね…礼を何度か執らせたのは長旅の後でも芯のある礼をして欲しかったから…2階の部屋を用意したのは単純に疲れの見える体を労ったのと、婚姻後に此処を訪れたら使うであろう部屋を用意していたのよ。もしもこの地に帰ってきたらその時に幼い貴女がその時の貴女を支えてくれればとの想いを込めて」
そうでしたのね…あの時からお祖母様は私を想ってくださっていたのですね…
「ケッカは政務や礼節は器用にこなすのに生き方は不器用じゃからなぁ…誤解されるくらいなら甘やかせば良いのにと何度も儂は進言しただろ?」
お祖父様が揶揄うように言えばお祖母様はキッとお祖父様を睨みます
「あの頃この子に対しては身内の贔屓目を抜きに皆が甘やかしていたではありませんか!1人くらい厳しく接する者が居なくては真っ直ぐに育ちませんでしょうに!」
そのまま私をそっちのけで言い争いを始めてしまわれましたがそれがなんだか微笑ましいのです。
話の端々から私の事を気にかけて色々な所で手を貸してくださっていた事を知ります。
皇太后様への口添えもお祖父様、お祖母様からのものだったのですね
知らせるつもりは無かったなのにとお祖母様が嘆けば、この機会なんだから全部話して楽になってしまおうとお祖父様が答えていて
私は思わず笑みを漏らしてしまうのです。
私のお祖父様とお祖母様はこんなにも可愛らしい人達だったのを知らずに行かなくて良かったと呟けばお祖母様は顔を整えられて咳払いを一つついて向き直られます。
「本当はこちらの未来の方が小さい可能性だったのです。でもね、あのステラという女性が来た事で運命は此方に舵をきられてしまいました。
多分ですが彼女もギフテッドでしょう。
私の直感がそう告げていますの。
魅了や誘惑と言われる類いの力が有るのではないかと推察しています」
「お祖母様、それはいくらなんでも無理がありますわ。私達貴族はそういった魔法に掛からないように魔道具を身に着けていますもの」
私は反射的に反論をする。私だって家族の急な態度の変化に疑問がありましたし、魅了の魔法を疑いもしました。でも護身のための魔道具にはその手の魔法を無効化する物も含まれているのですから…
お祖母様は静かに首を振られます
「ギフテッドは魔法ではありません。神からの賜物は魔法ではない力なのです。だから貴女のような魔眼を魔法で作り出す事は出来ないし、それを魔法で防ぐ事も難しかったのだと思います。
しかしギフテッドにはギフテッドの力が効きづらいといわれています。それに、無意識にせよ意図的ににせよ力の行使には制約が伴うはずです。
私の場合は自分の意思で力を行使出来ないのが条件のようですし、断片的な事柄しか分かりません。そしてそれは確約されたものではない…それが故に国に囲われる事もありませんでした。彼女にも何かしらの制約は必ず有るはずです。
ステラさんは私にも何かしようとした節はありましたが私の態度が変わらなかったので不思議そうにしていましたもの。
貴女も何か思い当たるふしはなくて?」
私も思い返せば何となくですが彼女の発言の後思い通りにならない憤りを何度か感じた事を思い出します
あれは私がギフテッドだった…から?
それでお義姉様のお力が効かなくて苛立たれていたのだとしたら…
「お祖母様、それが本当であればエメンタール家は大丈夫なのでしょうか⁈皇族にまでそんな力を使ってしまったら…」
「私達もそれを危惧してカイン夫婦をエメンタール領へと留めていたのですよ…万が一があっても帝都の当主が招いた罪として処理出来るように。そして次代にその影響を残さないように…
彼女の力がどれほどか、その力の影響力がいかほどかは想像がつきませんからね…」
あぁ、納得がいった。カイン兄様は元々の研究の都合から帝都での生活を望まれていたのに婚姻前からエメンタール領へと行ったままでした。
一通りの領地経営の引き継ぎがなされれば帝都に戻って来られると聞いていたのに一向にその気配が無かったのはお祖父様とお祖母様がお止めになっていた為でしたのね
「皇室にはその事はお伝えに?」
恐る恐る聞けば「無論です」とお答えをいただきます。
お姉様の血筋だけでなくその神からの恩寵も今回の勅命の後押しになったのかもしれないと思うと複雑な心境にもなるというものです。
お祖母様は「今は皇室の判断に委ねる他ありません」と静かにお茶を口にされた。
お祖父様も「私も神秘の類は専門外だからなぁ。その力とやらに物理が効けば叩き切ってやったものを…」と遠い目をされる
近年帝都にあまり行かなかったのも年齢の他に彼女との接触を避けるという理由もあったそうです。
屋敷の人々の中でもやはり人が変わったように彼女を盲信する人、今までとの主家の人々の言動に疑問を持つ人と様々で今は傾向と対策を行っているところなのだと教えられます。
人が変わった人も時間が経てばある程度の緩和が見られるそうですが、再度接触すればまた其方に引っ張られてしまう傾向があるようなので、秘密裏に進めていた事も相まって中々に進んでもいないとだと教えられます。
「何故私にも教えてくださらなかったのですか?
教えてくださればやりようも少しはあったでしょうに…」
憤りを伝えればお二人からは「此方は情報が遅い。スピカの噂話が流れてくる頃にはもう誰がその力の犠牲になっているのかも分からなかった…後手に回ってしまって本当に申し訳ない」とまた謝られた。
「それに…効きづらいとはいえよくよく思い返せば私も彼女の力の影響下にあったのかもしれないわ…貴女と連絡を取ろうと思わなかった…貴女から手紙が来なければ連絡をしようも思わなかったかもしれないの」
そうですね…よくよく考えればお祖母様がお義姉様とお会いになった頃には既にお義姉様は意識的にせよ無意識にせよ力を使われていたのでしょう。
私がその影響下にあったと判断されても致し方ありません。それにギフテッド同士でも力が影響してしまうとなれば…
「何度も皇室にはギフテッドの力を抑止する宝具の貸出を願ってきたのだがそんな物は無いと突っぱねられてな…」
お二人とも出来る範囲の事をしてエメンタールを守ろうとされていた事が伝わってくる。そして何も出来なかったと嘆いているのも同時に感じるのです。
お祖父様お祖母様は此処で戦っていらっしゃったんだと思えば己が事でその憤りの澱をぶつけるのは違うと思いました。御二方の苦悩もわかる気がして…
「お話し下さってありがとうございます…」
「なぁ、スピカ、家の今後の事は儂達が何とかする…だからどうか安心しておくれ?それよりもお前の話を聞こう。儂達が知らないスピカの話を聞かせておくれ」
そう言って幼児にするように頭をお祖父様にポンポンと撫でられます
あぁ、私は本当に無力です…
2人だってもう打つ手は少ないのはわかっているでしょうに…
皇族への魅了や誘惑の魔法使用は絶対的な禁忌
御家断絶もあり得る程の不敬…
今になってどうする事も出来ない自分の至らなさが悔しい…
それと同時に私を信じてくれなかった家族に対する憤りは拭いきれない…たとえお義姉様にそんな人外の力が有ったとしても…
しばしの沈黙の後に私は憤りを心の内に収めお二人に私の話をする。
お義姉様が帰ってくる少し前の頃からの私の話を…
2人は私の話を親身になって聴いてくれた
時に頷き、時に憂いをみせ、共に歓喜し…そしてまた私のために私と共に涙を流してくれた。
家族として寄り添って下さる。
たったの2年近く私が遠く感じていた物をお二人は下さった。
気付けば帝国で一番早い朝を迎えるエメンタールの地には朝の日の光が差し込んできていた。
このままお勤めに行くのに葛藤を覚える程にそれはあたたかくて心地よくて、離れ難い物でした。
それは2人にとっても同じだったらしく、もう数日滞在を延ばすことは出来ないかと引き留められました。
しかし私はそれに対して首を振ります
「私が決めた事ですもの」
そう、これは私が決めた事
私の選んだ人生
私の選んだ運命なのですから
その日私は結界の乙女の次代としてエメンタールの教会へと入った。




