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【本編完結・書籍化進行中】本当の娘が帰ってきたので養女の私は消えることにしました  作者: 佐藤真白


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奇跡の令嬢の入学

お母様からの手紙はやはり私の状況を、理解していらっしゃらないのだと判りました。

しかしながら自分で蒔いた種の一面もあります。

言わせてもらえるのであれば侍女の件はお母様の管轄なので、任命の記憶はないのでしょうか?

勿論あるはず無いのですが…

いえ、家族なのですから使用人伝に伝えずとも直接ご連絡をくださればよかったのに…


終わった事にいつまでも腹を立てていても仕方ありませんが怒り以上に悲しさが残ります。

ですが、指導詳細が添付されているのは助かります。



何より励みになり助けになったのはアリッサからの手紙でしょう。ステラお姉様の性格や興味、趣味趣向が細かく書かれていましたので大変参考になります。



手紙の内容から推測するとお姉様は人の機微に聡いけれど慮る事は得意としない御仁の様です。そして環境ゆえか選民意識が高く、向上心はおありですが同時に劣等感を抱えている一面が垣間見えます。

ただ、高位の方であっても臆せず懐に飛び込める胆力はアリッサも一目置いている様子です。そしてそういった高位の方からも大抵好意的に接して頂けているようです。


懸念事項としては未だに言葉遣いや振る舞いが貴族的ではなくなる時があるのと、ややフランクにどなたにでもお話になる点、そして異性との距離感が私達とは異なるようだと書かれていました。そして、文字の読み書きは教会で基礎は教わっていたそうですがまだ書き取りは苦手とするようで、手紙の代筆はアリッサが任されているとの事です。


そして、驚いたのは私達の祖母であるフランチェスカ様のご指導も頂き、皇室の昼のお茶会までの教育は終了しているとの事でした。

フランチェスカ様直々のご指導だったそうで、ご指導期間中はステラお姉様の荒れようが酷かったので八つ当たりにあったアリッサは大変だったようです。


お祖母様が帝都にいらっしゃっていたのならばご連絡頂ければ家にも帰りましたのに…と少し寂しくも思いましたがどうやら元々お友達とのご予定でいらっしゃったのをお母様がお願いして指導をして頂いていたようです。



なんにせよこれで準備と心構えが出来ます。


私はお母様とアリッサの手紙から要点を書き出し、寮の自室を出ました。

向かう先は、教員棟の会議室です。



2人の先生方とは早々に連絡が付き、私の準備が整い次第打ち合わせをする事になっています。直近で急ぎのお仕事はお姉様の件なので時間的な都合はつけて下さるそうです。



来訪を告げれば先生方は直ぐに対応してくださいました。

事前に先生方がお持ちでした資料に補足を加える程度ではありましたがアリッサやお母様からの情報は助けになりました。


先生方とは大変有意義な会議が出来たと思います。

方針としてはあまり厳しくしない。しっかりと出来た時には褒めるといった極々普通の内容でしたが、お姉様の伝え聞く性格上厳しいだけよりは良いでしょう。学習内容も図解の入ったとても明瞭なものをご用意して頂いているようです。

私が求められているのは学習面の補助と補足、生活面での友人関係の構築の橋渡しとマナー指導といったところでしょうか…


カリキュラム的にも卒業までの期間が短いため放課後に特別授業で補填していくとの事でその際には私も同席する事になりそうです

ネフェル先生はその際にはお妃教育の補講もして下さるとお約束くださいましたので私にもメリットが出来ました。





アーサー殿下からのお返事は…期待していた事は何も書かれておらず少し残念ではありました。しかし、お忙しい公務の合間にお時間を作って下さる御心に温かなものを感じます。時期的に忙しくはありますが楽しみがひとつ増えたと思うと心も弾むものです。




そうしてあっという間にお姉様の入学日となりました。



時期はずれの新入生。それも高位貴族で話題の劇のモデルともなった奇跡の令嬢となれば学園のみならず貴族の注目の的。一眼で良いから見ようと子弟を送迎するふりをした貴族達の馬車が朝から学園の門を行き来しいつも以上にその日は混んでいたそうです。


そんな事とはつゆ知らず私は正門の前でお姉様の到着を待っていました。


見覚えのある御者と馬車が近づくと馬車は徐々にスピードを緩め、私の前で停車しました。

御者が馬車の扉を開けば中から真新しい制服に身を包んだお姉様が降りて来られます。

髪は家に来た当初よりも伸びて肩口までの長さで艶を帯び、頭のてっぺんに赤いリボンを括っています。制服にはシワひとつなく、スカートの裾は膝丈と…少し短くはしたなく思われないかが心配になります…がお姉様は気にされていません。この制服の丈も家で一悶着あったのですが、「長いスカートは動きづらいし、可愛く無いわ!これからはこういう平民的なもの取り入れていくべきだと思うの」と譲られなかったのです。

確かに明るく闊達なお姉様には長いスカートよりもお似合いではございますが、受け入れられるのか私は気が気でございません。


「ようこそ学園へ、ステラお姉様。ご入学おめでとうございます。」


私はカーテシーでお出迎えの挨拶をすれば、お姉様は馬車のステップから「よっ」と掛け声をあげて子供のように飛び降りられました。


「出迎えありがとう。これからどこに行けばいいの?」

ちょっぴり面食らいます

「このまま一度教員棟へと向かいます。学園長先生とお話しされた後は大講堂へ移動してお姉様の紹介があると伺っています」


ステラお姉様は「ふ〜ん…じゃぁ、早速案内してね」と私に自身の鞄を預けました。

戸惑いながらも渡された鞄を私は抱えてお姉様を案内しました。



学園の中はやはりお姉様に注目されているようで視線がこちらに向いているのが分かります。


いつもは人通りもまばらな朝の教員棟近くだというのに生徒の数がいつもより多い事にも注目の高さが伺えます。



私達はそんな視線の中学園長室へと足を踏み入れます。

朝の私の仕事はここまでですのでそのまま立ち去ろうとすれば、先程渡された鞄が手元に残ります。

「お姉様、お鞄をどうぞ」

そういって渡そうとすれば

「これから教室に向かうのでしょ?同じクラスなのだから一緒に持って行ってもらえないかな?」とお願いされました。

少しばかり胸騒ぎがしましたが「分かりましたわ。鞄は先に教室にお持ちします。ご挨拶頑張ってくださいましね、お姉様」と返しました。

「もちろん頑張るわ、だから間違ったり噛んだりしても笑わないでね」とお姉様はいつもの調子で笑うのでした。




教室に着いた私はステラお姉様のカバンを指定のロッカーに入れ鍵をかけると上段の席につきました。


学園の教室は段々に机が弓形に広がる扇状の形をしています。席は自由席ですが伝統的に上段の中央にその学年学科で1番家格が高い生徒が座る事になっています。

先日までは私がこのクラスではその席でしたが今日からはお姉様の席となると思いいつもと違う席に腰を下ろしたのです。



しばらくすれば担任のマリアンナ先生が入室され今日の予定と行動に対する注意喚起を行います。


「皆様おはようございます。本日から新たに皆様とご一緒に学ばれる学徒をお迎えします。ホームルームの後は大講堂にて紹介がありますので移動をお願いします。色々と噂も飛び交っていますが淑女的対応をお願いいたしますよ。他のクラスの生徒がこのクラスの近くに来ることが増えるかもしれませんが冷静な対応を期待します」


成程、朝の不躾な視線が今日から暫く続くのかもしれないと思うと多少げんなりとも致しますが人の噂も花の時期というように飽きがくれば自然となくなるでしょう。


そして私達、教養科の生徒は静々とスカートの裾を翻さないよう、淑女の見本となるようにと講堂へと移動しました。




講堂には既に多くの生徒が来ておりざわめきに満ちていました。ざわめきに耳を傾ければ聞こえてくるのはステラお姉様の話題です。


「奇跡の令嬢と共に学べるんでしょ?どんな方かしら?」

「私、朝にお見かけしましたわ!お噂通り短い髪でしたわよ!」

「お茶会にお誘いしても多忙を理由にお越しいただけなかったのよね」

「俺は先日のパーティーでお話ししたぞ!野の原の花のように飾らない人柄だった」

「お前それは田舎者ってことかよ?大変なおもいをしてきた女性に失礼な奴だ」

「ちがう!他の女性とは違った魅力があるって話だよ」



概ね受け入れて頂いているし、お姉様の経歴は把握されている様子です。



そんな会話に耳を傾けている間に全生徒が入場したようで後方では扉が閉められました。


講堂の前方の壇上にある幕が左右にゆっくりと開かれると自然皆は静かになり前方に視線を移します。


誰も居ない壇上の演説台に視線が集中すると

『これより、特例朝会を開催する。学園長先生、入場』

と拡声された先生の声が響く。同時に壇上が一瞬光り音もなくローブ姿の男性が現れた。

転移魔法での登場に魔術科からは熱い視線を向けられている。



「勤勉なる学徒の諸君、今日は会に出席してくれた事に感謝する。そして皆も知る通り新たな学徒を迎える事になった。彼の生徒は貴族として生まれたが運命の女神の悪戯により他国の平民として暮らし、真実の女神の計らいで家族の元に戻って来られた経緯をもつ。とても数奇な人生を歩んできた事から、君たちとは違った価値観、異なる視点を持ち合わせているだろう。それが互いに良い刺激になることを期待している。老人の長話は若人には退屈だろうからこの辺りで私の話は終わりにするが、彼女を皆と同じ帝国貴族の一員として、また同じ学舎で学ぶ同志としてあたたかく迎え入れてほしい。」


そう学園長先生が結ぶと指を鳴らされ、壇上から煙と共に姿を消し、入れ替わるようにお姉様が現れました。



視界が晴れると一面に広がる人の数に圧倒されたようなお姉様ですが、気合いを入れるように一歩踏み出すと挨拶を始められました。


「皆さん初めまして。えっと学園長先生からお話があった通り今日からこの学園に通う事になりました、ステラ・フォン・エメンタールです。先程ご説明ありました通り私は平民の暮らしをしてきました。ですので貴族としてはまだまだ勉強中です。皆さんとも仲良くしていけたらと思っていますので気軽に声を掛けてください!よろしくおねがいします!」 


貴族令嬢としては些か元気すぎるものの挨拶が終われば会場からは拍手で迎えられます。


そして、壇上から降りて先生にエスコートされながらお姉様は講堂を後にされました。



そして講堂には再びざわめきが戻ります。

短い髪、貴族風ではない言葉、そして容姿に制服と話題には事欠いていない様子です。


多くの方にとってそれは好意的に受け取っていただけているようで安心いたします。


中には引き取られて半年近くにもなるのにまだ礼儀も知らないのねとの厳しいお言葉も聞こえましたが、家での教育に不備があった訳ではないのでご了承いただきたいものです…


私にも今一度お姉様についてお話を聞きたいと学友の方から声を掛けていただきましたが、ご本人と交流下さいなといって私は一歩引かせていただきました。


しばらくはお姉様目当てに多くの方がいらっしゃるでしょうね…と1人私はため息をつきます。頭でわかっていた事でも肌で感じると少しくらい落ち着いた気持ちになりたくなるものです。




しかしながら何事もなく始まったばかりの1日が過ごせることを願いつつ教室へと戻れば早速と問題が起こってしまったのでした。




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