手紙
〜敬愛するフランチェスカ・クラウス・フォン・エメンタール前伯爵夫人様へ〜
春の花の中でも取り分け我が家の庭ではチューリップが盛りとばかりに咲き誇っております。
エメンタール領でも春の花が夫人の目を楽しませていることと思います。
さて、先日は次期当主たるカインお兄様の祝賀に際し大層なお品をお借りでき大変有り難く助けになりました。ありがとうございました。
しかしながらその件で謝罪をせねばなりません。
私の不注意により宝飾品に傷を付けてしまいました。
お直しをしてお返ししたいと存じますが歴史あるお品ですので全てを戻すことは難しいと思われます。
大切なお品である事は重々承知しておりますが少しお時間を頂きたく筆を取らせていただきました。
お願いばかりで心苦しいのですがご了承下さいますと幸いです。
春はまだ名のみの日も御座います。どうぞお身体には前伯爵様と共に充分ご自愛下さい。
スピカ・フォン・エメンタールより
〜良き隣人たるスピカ・フォン・エメンタール嬢へ〜
当家の庭ではオダマキの花が目を楽しませております。チューリップは未だに顔を見せませんが近々楽しませてくれる気配に胸を躍らせる日々です。
さて、貸し出し致しました宝飾品の事ですが、気にされなくて結構です。元々貴殿にお譲りする予定の品でしたのでそのままお手元に置かれると良いでしょう。
祝賀の際の事は私の友人達からも聞き及んでおります。災難に見舞われた様ですが大事にならなかったことに安堵しております。
春の足は早いものです。ご自愛なさいませ。
フランチェスカ前伯爵夫人より
〜親愛なる友 エメンタール前伯夫人様へ〜
2輪の春薔薇の戯れに微笑ましく風を感じる頃
ケッカはお元気でしょうか
こうしてお手紙を書くのも久々となってしまった事はお許し下さいね
若草に勢いのあるのは喜ばしい反面刈り取らねばならぬかと心苦しくもあります。特に新しく花園に移ってきた花が調和を乱すことも間々あります。花園に移す前に今一度花の剪定をせねばならないとおもうのです。
花園は一輪の野花で出来ているのではないと貴女程の方ならわかるでしょうに何故咲くままにしておられるのでしょう
貴女とは久々に帝都で流行りの劇でもご一緒したいものです。
こちらにきた際にはお声がけ下さいね
親愛なる貴女の友 ネフェルより
〜敬愛するフランチェスカ・クラウス・フォン・エメンタール前伯爵夫人様へ〜
我が家の春はどうやら今年はゆっくりとされているようで庭では蜂達も花を愛でては慈しんでおります。
先日のお手紙で夫人からの寛大な御心に心震えております。
お言葉に甘え、過分なお品では御座いますがこの身に着けさせていただく栄誉を賜われた事に深く感謝いたします。
近くこちらにいらっしゃるとお父様からお聞きしました。道中は快適な旅路になる事をお祈りしております。
スピカ・フォン・エメンタール
〜帝国の太陽を飾る星アーサー皇子殿下へ〜
帝国を包む光の中に新たな星が輝きを放つ今日のよき日、殿下におかれましてはご健勝の事とお喜び申し上げます。
まずは先日の非礼をお詫び申し上げます。
先日はご挨拶もままならぬ間々に場を辞してしまい殿下には大変申し訳なく思っております。
せっかく殿下にお見立て頂いた装いでしたのにあのような形で殿下と踊ることも出来ずに残念で御座いました。
次に殿下とお会いできるのは皇室の新たな輝きのお披露目の場でしょうか
それまでお会いできないのは大変寂しく思います。
殿下も忙しい日々をお過ごしと存じますが御身には何卒お気をつけ下さい。
スピカ・フォン・エメンタール
〜愛しのスピカ嬢へ〜
先日の件は貴女が気にされる事はない。不慮の事故だったのですから。
ですので私の心は美しい貴女が涙されていないかが1番の気掛かりです。
あの日は貴女の可憐なお姉さんと一曲共にさせてもらいましたが中々に面白い人だね
次の会の時にはぜひ私にエスコートさせて下さい。ドレスも君さえ良ければ贈らせていただくよ
近くに案内が届くだろうけれど、その前に是非ともお茶を共にしたいので空いている時間を教えてもらえないだろうか。
母や皇后陛下も君の姉上のことを気にされていたので都合がつけば一緒にどうだろうか。
返事は気が向いたらいつでもしてくれ
アーサー
〜帝国の太陽を飾る星アーサー皇子殿下へ〜
早々のお返事並びに姉への気遣いを賜り痛み入ります。
しかしながら姉の予定は生憎と母の領分で御座います。正式にご招待いただけるのでしたらエメンタール家宛にご招待頂ければと思います。
簡単なお茶会でしたら私の方からご招待させていただいてもよろしいでしょうか?
学園の花園の薔薇が見頃でございます。
卒業されてから懐かしの学舎へ足を向けられていないのでこの機会に如何でしょうか?
スピカ・フォン・エメンタール
手紙の返事は未だ来ない




