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【本編完結・書籍化進行中】本当の娘が帰ってきたので養女の私は消えることにしました  作者: 佐藤真白


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間話 メリュジェーヌの婚礼

読者ユーザーの皆様のおかげで日間、週間ランキングに入ることが出来ました。感謝感激雨霰…

感謝の気持ちで間話を書かせていただいたきました!

今後とも宜しくお願いします!

また。誤字脱字のご報告並びに感想等頂けますと幸いです。

私メリュジェーヌ・バローヌ・エメンタールと申します。


先日エメンタール伯爵子息であるカイン様と正式に婚礼の儀をすませ晴れて夫婦となりました。


ですがこの婚礼、私にとってはしこりの残る婚礼となりました。


ここで私のいつもは吐き出すことの出来ない愚痴をお聞きください…




この婚姻が決まったのは私が成人を迎える少し前の事でした。

正直、選ばれた事がとても驚きでしたの…


カイン先生はとても人気のある方でしたから。

カイン先生というのは私が学園在学中に教鞭を取られていたので、この呼び名の方がしっくりきてしまうのです。



カイン先生は柔らかな栗色の毛にグレースピネルの瞳を宿した麗しい貴公子で絵本の中の王子様の様な佇まいに魔法は天才と評される御仁です。お家柄も伯爵家とはいえ建国当初からの名家で爵位こそ伯爵ですが大領地を任される大貴族のご嫡男です。私の生家は侯爵家ですがエメンタール家に比べれば見劣りする程の大家なのですから婚約のお返事が頂けた時の我が家は本当に大騒ぎでしたわ。



若き天才魔法使いで大貴族のご嫡男、既に男爵位を下賜されていて、見目もよく家族を大切にされている話はきけど浮ついた話は一切出ないなんて優良物件が何故20も過ぎて売れ残っていたのかと問われれば、性格に難がありそうな物ですが、特段学園生活でその様には感じないお方でした。



のちに聞けば研究が面白くて恋愛には興味を抱かなかったとのことです。


まぁ、先生は私の在学中から女生徒から好意を寄せられる事も多かった様に見えますが興味の外であったならあの冷たいあしらいも納得ものです。


かく言う私もその冷たいあしらいを受けた1人でもあります。学園入学前のオリエンテーションで引率をしてくださった先生…当時は学生で先輩に心惹かれそれからこっそりとお慕いしておりました。

勇気を出して実習で刺した先生のイニシャル入りのハンカチは一瞥しただけで受け取ってはいただけませんでした…未だに悲しい思い出です。




私の想いを知ってか知らずか在学中に何度か家から先生の家へと釣書を送っていたようです。

これでダメなら諦めて他の家からあった縁談を見直そうかと話にも上がった頃のことでした。卒業も近づいた春の日にエメンタール伯爵家との婚約を聞かされたのです。


その後は婚約式や卒業式の準備に、先生をお慕いする女生徒達からのやっかみや誹謗中傷、次期伯夫人に対する値踏みなどなど…胃の痛くなる日々でした…




無事卒業後も婚約式の後はエメンタール伯爵領にて前伯爵夫人による花嫁修行の日々…慣れない土地で1人きりの不安…山積みの課題…山のような書類…理解の無い婚約者…


行き場の無くなった私は義妹となるスピカ様へと気付いたら手紙を出しておりました。



恨みがましい内容でしたのに、対応はとても心に染み入るものでした。

優しく私に寄り添ってくださる内容のお手紙に、前伯爵夫人から受けた指導をまとめた小冊子は私のお守りとなりました。何より婚約者であるカイン先生…いえ、カイン様と向き合う良いきっかけとなりました。



実は恋愛と言うものに縁遠かったためにカイン様は乙女心というものを理解していなかったのです。

スピカ様のお手紙から数日後に

「メリュジェーヌ嬢は花をもらったり、一緒にお茶をするのは好きだろうか?」

と真顔で尋ねられた時には心底驚きました。

「勿論、先生からいただけるのでしたら嬉しいですし、ご一緒にお茶が出来れば喜ばしいです」

と答えれば「いい加減先生はやめてくれ、私は君の婚約者なのだから、そろそろ名前で呼んで欲しい」と囁かれ赤面と共に了承し、私のこともメリーと呼んで欲しいとお願いしました。

この頃からお互いが、歩み寄れたのだと思います。



私の花嫁修行にも理解を示していただけて疑問があればお答えしていただけましたし、領内視察に同行させていただいてこっそりとデートも楽しむようになりました。何度目かのお茶の席で、昔先生にハンカチを贈ったけれど受け取ってもらえなかった話をすれば覚えていなかったらしく驚かれました。「その頃には既にお慕いしていましたのよ」と言えば「それは勿体無いことをした…今度は私のローブに刺繍をさしてくださいますか?」と返され私は嬉しくて仕方がありませんでした。

マントやローブに刺繍を刺せるのは恋人や妻の特権です。隣に立つことを認めてもらえた嬉しさで泣いて困らせてしまったのは秘密です。




その後エメンタール伯爵家では大きな変化を迎えました。カイン様の誘拐された妹君が見つかったのです。その知らせを受けて秋の終わりからカイン様は帝都と領地を行き来する生活になりました。

私は結婚式の準備のため件の妹君とお会いする事が叶ったのは結婚式の前々日の事でした。


妹君が戻ってこられてからのカイン様は何というのか態度がおかしかったように思います。今まで不憫な境遇を生きてきた妹君の願いを叶えることを優先する傾向が見られました。それは帝都のエメンタール家全体にも言えることで、妹君のデビュタントと結婚式を同時に行うと聞いた時には驚きを通り越して声が出ませんでした。

結婚式は元々予定されていた為、日にちをずらす事は現状無理ですし、その前にデビュタントを行うには教育的な面で余裕がなかったので妹君を結婚式と披露宴へと出席させる為の苦肉の策だったのでしょう。


事前に相談もなかったのは当然私も理解しているとの思い込みからだったようです。周囲や家族にも私が了承しているように伝えていたようで、何とも言えない気持ちになりました…

いえ、100歩譲って私はいいとして、人生一度きりのデビュタントを他の人が主役の会で行う妹君のステラ嬢は良いのかと疑問にも思いました。


しかしながら天真爛漫な彼女は特段気にされる様子もありませんでした。

何でも平民の集落では結婚式や成人の日のお祝いを同じ日に行う場所も多いので気にならないそうです…


若干の不安が拭いきれないままに迎えた式は私にとって残念なものになりました。

途中までは良かったのです。

紺の入った私の黒髪は綺麗に結い上げられ、カイン様からいただいた聖石をメインに飾られたネックレスは聖石のロワイヤルブルーの色味を真珠で囲む豪奢な物です。長いベールにオフホワイトのウェディングドレスは幼い頃からの憧れを詰め込んだように夢見心地のまま父のエスコートでバージンロードを歩みました。緊張も勿論ありましたが気分の高揚は抑えられません。目指す先には想い人であるカイン様がいて、私の手を取られるのです。本当に夢なのではないかと思いながら進む途中でこんな幸せな思いをするのに尽力して下さった恩人の姿が近くにない事に気付きました。


不自然にならない程度に目で彼女を探せばスピカ様のお姿は後方の隅にと追いやられるようにありました。何故親族として前列では無いのかと疑問が鎌首をもたげます。

思考が散らかりそうになった私の手の甲にカイン様の唇が触れた事で私は現実に引き戻されます。

2人で歩みを進め、神父様の立ち合いのもと、神と皇帝陛下へ婚姻の宣誓を行い、恥ずかしながらも口付けを交わします。この時がこの日で1番の幸せな時でした。



挙式後のパレードへの出発を見送るために家族として本当に近しい人達が囲む中、私は屋根無しの馬車へと腰を下ろしました。旦那様のカイン様をお待ちしていると何やら騒がしいなと思っておりました。すると隣に淡い菫色のドレスに真っ白なローブを纏った女性が座り込まれました。そう、彼の妹君のステラ様です。どうやら私が夢見心地に浸っている間にステラ様もパレードへとご一緒する流れになってしまっていたのです。カイン様の言葉は有無を問う物ではなく私は咄嗟に頷くほかありませんでした。

私の生家の家族とスピカ様だけが気遣わしげな視線で見送ってくれたのだけが救いでした。



そして3人でのパレードは始まりました…

控えめに言って私の心情は天国から地獄です。

隣の乙女は幼児のように身を乗り出してあちらこちらを指差しては「あれはなあに?」「こっちはなぁに?」とカイン様に聞き、カイン様も嬉しそうにお答えになります。街頭では市民の方々が祝福の花を投げてくださいますが半数は一瞬の戸惑いを見せております。

しかしながら3人目の同乗者が奇跡の令嬢だと分かれば街は一気に歓喜で彼女を迎え入れたのです。


花嫁よりも妹を優先する新郎に街の嘲笑は花嫁に向きます。私は今日1番幸せであるはずなのに何故こんなにも笑われなければならないのでしょう…


それでも高位貴族の娘の矜持で笑顔で手を振り続けました。

そして帰りの道中でとんでもない提案をカイン様からされたのです。

「なぁメリー、今日の披露宴の夜会だが、白のドレスはデビュタントのステラに譲ってやろう。私たちはお色直し用のカラードレスがあるからそちらで会場入りすれば問題はないだろ?招待客には私から説明するから。」

「それはどういう意味を含んでいらっしゃるかご理解の上でおっしゃられていますか?」

「あぁ勿論だ。だからこそ私が誤解無いように説明する。安心してくれ。それに君もさっきステラが言っていたのを聞いただろ?この子はスピカに似合わないドレスを仕立てられて式の直前になって貶めて着替えさせられたそうなんだよ?可哀想じゃ無いか…ならばせめてデビュタントを白いドレスで迎えたいというささやかな夢くらい叶えてあげたいじゃ無いか!」

慈愛を込めた瞳でカイン様が見つめるのはステラ様です。彼女は「白いドレスでデビュタントが出来るのね!」とはしゃいでいます…


彼女の夢を叶える代わりに、私の夢は消えるのですよ?とは言えなかった…飲み込んでしまった…

エメンタール邸に着いた馬車を降りて私は振り返らずに皇城へ向かう馬車に1人で乗り込みました。


本来であれば2人で乗る予定の馬車でしたがカイン様はステラ様を見立ててから向かうとおっしゃられたので1人で向かいました。

馬車の中、私は1人なのを良い事に泣きました。静かに嗚咽を殺して泣きました。



皇城の別館に着けばカイン様が早馬を飛ばしていたらしく衣装変更が侍女達にも通達されていました。

泣いていたのは侍女達にはバレバレで冷たいタオルで目元を直ぐに冷やしてくれます。

「花嫁様はお心が不安定になりやすいですから」などともっともらしく言ってくれますが、白のドレスを脱がされる花嫁が不憫だったのでしょう…



その後予定よりもやや遅れてカイン様が到着された頃には私はロワイヤルブルーのドレスを纏っておりました。彼の聖石の色を纏っているのに…花嫁なのに…何故が惨めな気持ちのまま会場入りしました。


確かにカイン様はドレスのあらましをご本人から説明してくださいましたが私がいつそんな事を言ったでしょうか…腹立たしく思っていれば私の頭は鈍器で殴られたような衝撃を覚えます。


入場してきたステラ様が纏っているドレスに見覚えがあったからです。あれはスピカさまがデビュタントの時に纏ったドレスに間違いありません…姉妹や親子でデビュタントのドレスを共にするケースもあるにはありますが皇室主催の会のドレスは本人以外の着用は完全なるマナー違反です…いくら特権の刺繍を隠していてもあのドレスを覚えていない人は今日の会場には少ないでしょう…



戸惑う私でしたがファーストダンスを促されフロアへと向かいます…

そしてもう一組、ステラ様とフレット様も…


結婚式のファーストダンスを花嫁花婿だけで踊らないのはきっと世界中探しても私達だけなのではないでしょうか…


ダンス中に「あのドレスはスピカ様のですわよね?許可は取りましたの?」と問えば「しょうがないじゃないか。我が家でデビュタントの格式に合うドレスはあれしかなかったんだ。姉の晴れ舞台だからきっとスピカも許してくれる」

呆れました…きっとスピカ様は私以上に驚きに満ちている事でしょう…


ファーストダンスを終えると父や従兄弟たちに私はダンスに誘われました。しばらく踊るうちに第三皇子の来訪が告げられ次のダンスを共にしました。そして驚く事に私の次のダンスのお相手にと指名されたのは婚約者候補のスピカ様ではなくステラ様でした。そこで気付いたのですが会場にスピカ様のお姿は見えなかったのです。ステラ様は頬を紅く染めダンスフロアへとかけてゆきます。それを見送れば私も一度控えに戻り渇いた喉を潤す事を促され、そのまま一度退席いたしました。


戻った会場にもスピカ様のお姿はなく…その後私は義父様とお父様にエスコートされつつ来賓の方々へと挨拶を行いました。その頃カイン様はステラ様を伴って同じように挨拶をされていました…パートナーが違うでしょうに…





会も中盤となる頃披露宴のお開きにはやや早い時間に主役であったはずの私達は会場を後にしました。

正直に申しまして、この帰りがステラ様とご一緒でなくて心底安心しておりました…

そして、スピカ様にもご挨拶したかったのですがトラブルに巻き込まれてしまった為早く場を辞したと聞きとても残念な思いがいたしました。花嫁修行中のお心遣いに対するお礼がまだ直接言えていなかったのが気がかりで、今日のトラブルも身を傷付ける物でなければいいなと思っているとカイン様から声をかけられました。

「お疲れですか?それとも憂いごとですか?」

「いえ…そうですね、スピカ様にご挨拶出来なくて残念に思っておりました。挙式の時も後ろの方にいらっしゃってどうしたのかと思っておりましたし…」

私の回答にカイン様は難しい顔でした。



エメンタール邸へと着いた私達は其々に湯浴みを済ませて初めて同じベットへと横になりましたが事を起こす気力がなく色々と言い訳て眠ってしまう事にしました。結婚式を引っ掻き回された花嫁の恨みを思いしれば良いのです…


背を向けて横になればカイン様も戸惑った様子でしたが小さく啜り泣く私を気遣ってか初夜ではありましたが何もする事なくこの日は眠りにつきました。




翌朝目を覚ますと隣に人影はなく、温もりもなかったので早々にカイン様はと床を出られたのだと知り、拒絶したのは自分ですのに酷い虚無感に襲われておりました。1人で見る見慣れない屋敷の庭に寂しさと後悔がまた目元に溢れてくると寝室の扉が静かに開きました。


未だ夜着のあられも無い姿のままでしたので驚き固まっていると入ってきたのは片手に料理の乗ったお盆と花束を小脇に抱えたカイン様でした。



愛しい人が戻ったきてくれた安堵に抱きつくと

「昨夜は…いや昨日はすまなかった。戻ってきてくれた妹に良い顔がしたくて君のことを蔑ろにしすぎた。君の優しさに甘えてしまった。人生で一度の式のこと、許して欲しいとは言えないがこれからはメリーを傷つけない努力をするよ」

と言って数本のチューリップをメインにしたブーケを渡されました。



花言葉のラブレターに私は笑顔になります。許さなくてもいいと言っているので許しませんが、こちらも歩み寄りは必要でしょう。

「私こそごめんなさい、旦那様。でもね、朝起きて貴方がいなかった時の私の絶望が貴方にわかるかしら?」

と問えば申し訳ないと小さくしょげていらっしゃいます。


こんなにも可愛らしい旦那様をみたのは初めてでした。いつもの威厳と自信に満ちた姿はなりを顰めて雨に濡れた子犬の様に小さくなった旦那様の頭を膝に乗せて撫でることから私達の新婚生活が始まったのです。




そう言えばと寝台で「何故私を伴侶にお選びになったの?」と問えば「君の作る聖石が家族以外の誰よりも綺麗だったから…」と答えていただけました。

案外私はこの方に愛されてるのかも知れないと思えば蜜月の寝台で2人口付けを交わし溶け合うのでした。



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湯だった頭は戻れたんだろうか……
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