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【本編完結・書籍化進行中】本当の娘が帰ってきたので養女の私は消えることにしました  作者: 佐藤真白


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デビュタントに向けて

教会で私が倒れてから4年。私は11歳になりました。



お父様達はあの後益々過保護になり、特に教会へ行く時にはお母様は必ず着いてくるようになりました。定期開催のミサやチャリティー等での訪問で危険など無いと言ってもです。慰問に行くだけと聞いていていたのに私が倒れて帰ってきた前科は立派なトラウマを家族には植え付けてしまったようです。

それでもなんとか説得して、一年に一度ではありますが領地へと帰る許可は頂きました。

その際の教会への立ち入りは禁止のままでしたが、お祖母様がお父様を一喝して下さり、お祖母様立ち会いの元でならと条件つきですが許可がおりました。「貴族の勤めとして当然の心持ちの者を不当に扱うのは流儀に反します。」とのことです。

相変わらずお会いすると厳しいですし、お祖母様とは呼ばせてはくださらないお祖母様ですが、今では定期的に淑女教育を直にして下さる事もあります。とても厳しいものですが…



領地へ帰った際には寄子の家門のご令嬢方とお茶会を開催したりするのですが、そのチェックが毎回厳しいのです。

招待したご令嬢の領地の特産や近況、趣味趣向を網羅する事は当たり前で、好みや体調に合わせたお茶の配合方法や選び方、流行を取り入れつつ伝統を踏襲した茶器や会場の選び方、それに合わせた茶菓子の選定と仕入れ、招待状やコンセプトの指定まで全てを確認されます。勿論当日の装いや会話内容、仕草などもチェック項目です。

一回で合格点が出た事は今の所御座いませんが、最近は概ね及第点を取る事が出来ています。


そのおかげか最近ではデビュタント前の令嬢の中では1番の淑女と言われているらしく、兄様達が何故か鼻高々です。


ジョゼとも約束の通り文通を続けており、領地へ帰る度にお茶を共にするのですが、「私ならお祖母様のご指導についていく自信がありませんわ…お姉様を本当に尊敬致します」と言われてしまいました。

お祖母様のご指導は確かに厳しいですが、やはり間違った事は仰らないし何よりお祖母様に認めて頂きたい一心で頑張っております。




カインお兄様は研究が益々忙しくなられお家に帰って来られる頻度がとても減りました。四年前の論文が大きな成果となり成人された今では学院に研究室を持ち学生に指導する側になっているそうです。お父様もまだまだ現役の為10代のうちは研究を続けたいそうです。



アレク兄様は今では眼鏡が無ければ生活が出来ない程に病気が進行してしまいました。聖水の需要が増えた事でアレク兄様が服用する分を確保するのが難しくなった事が一因でしょう。その原因の一端が私にあると思うと心が痛みます。カイン兄様の論文の発表の後、貴族家では聖石を作り奉納するのが常識となりました。聖力の弱い下級の貴族家では聖水を服飲しながらある程度の聖石を作っているそうで、特に貴族の多い帝都教会では聖水不足に陥っているそうなのです。そして聖水の配当優先は命に関わる重篤な症状が第一で第二に聖石制作、命にかかわらないモナザ病の治療は優先度が下げられてしまっているようなのです。

「気に病むことは何も無いよ、スピカ。元々発見が遅れていたら今頃僕の視界は真っ暗だったはずなんだ。まだ光を映せるし、スピカの顔だって見える。スピカのデビュタントだって見る事が出来るよ。それよりもご当代様が存命で長くお勤めができる事が分かって、皆が賛同して協力してくれてスピカは嬉しいんだろ?心配して寄り添ってくれる気持ちは本当に嬉しいから、泣かないでおくれ。」と気丈に言われてからは申し訳ない気持ちを隠し普段通りを心掛けて、時々不便そうなお兄様をサポートする事を心掛けております。




フレット兄様は学院に入学され今は寮生活をおくられています。入学先が騎士科の為規律が他学科よりも厳しいそうです。休みの日の外泊も許可制でお家に帰ってくる事が極端に少なくなりました。

いつも元気なお兄様がいない屋敷は同じ広さなのに広く感じるのは何故でしょう。

それでも帰っていらした時には一緒に過ごして下さいます。




お父様とお母様はあまりお変わりなく過ごされています。

ですが、最近は少々お母様が体調を崩される事が増えて来ました。その都度お祖母様直伝の体調を整えるお茶を煎じてお茶会を開いています。多分お母様の体調不良の原因はストレスでしょう。お兄様方が妙齢になり、縁談の話が山のように舞い込んでいるのに当の本人達が逃げ回っているようなのです。貴族の婚姻は家と家の思惑も絡んでくるので大変なのもあるでしょう。今日も胃に優しくリラックス効果のあるハーブティーを差し入れ致しましょう。


お父様は頭に白い筋が目立って来ておりますがとてもお元気です。仕事でも出世されたらしくお家に帰られる時間が遅くなりお顔を見ない日もあります。しかし時間を見つけては私とお母様を呼んでお茶をしたりして下さいます。




私自身、来年には学院の入学を控えており日々忙しく過ぎております。

私は教養科に入学予定です。殆どの令嬢方がその科に入学されるらしいです。稀に騎士科や給事科などに進学される方もいるそうですが、そういった科に進学される方は立身出世を目指される下級貴族出身者が多いそうです。



ある日、私はお父様の執務室へ呼ばれました。

部屋へ入るとお母様もご一緒です。お茶の雰囲気ではありません。どちらかというと嬉しいことでしょうか…お母様がなんだかソワソワしています。

促されるままにソファーに腰を下ろすと、お父様が

「来年の学園入学を前に、スピカのデビュタントを行おうと思う。それに向けてお母様と準備を始めなさい。」とお知らせ下さいました。

いよいよ私も社交界デビューです。

帝国の成人は18歳ですが社交界デビューは10代前半で行うのが一般的です。

カイン兄様は10歳でアレク兄様とフレット兄様は11歳でデビュタントを行いました。

「かしこまりました。時期と場所はもうお決まりですか?」

デビュタントにも形式が色々とあります。自分の家でパーティーを開催してお披露目とする場合や寄親の開催する社交界でお披露目をする場合、稀に婚約者の家門主催でのデビュタントなどもあります。

それぞれの家格や婚約者の有無でどのようなデビューかが決まるのです。



「それはもう決まっていてよ!来年夏の皇室主催の夜会です。招待状の打診が先日お父様へと届けられたのですよ。」お母様は興奮しながらも答えて下さいました。

皇室主催の会は最も格式の高いデビュタントの機会です。この会でのデビュタントは出たいからと言って出られる物でもなく皇室からの招待が無ければ参加資格すら与えられない特別な会なのです。この会に選出されるという事は皇室の覚えめでたい誉でもあります。そして参加資格がある者が居ないと判断された場合は会自体が開かれません。


お兄様達ですらこの会でデビュタントはしておりません。

最も、カインお兄様は選出されていたそうですが飛び級での進学となった為デビュタントを早める事になり辞退したそうです。



その為でしょうか、お母様は今までになくはしゃいでいらっしゃるようです。そんなお母様をお父様はやれやれと言った様子で見ております。


デビュタントまではあと10ヶ月といったところです。通常一年以上かけて準備する事柄らしいですが残りの時間は少し少なめです。ですが、そろそろデビュタントの話が出ると思っていたお母様はひと足先に色々と準備をされていたようです。



デビュタントにはいくつかのルールがあります。

服装は男女とも第一正装です。男性ならば燕尾服、勲章や爵位、武勲があればその功績を着けます。女性は真っ白なローブデコルテで家門の宝石を身に付けるのです。騎士の場合は男性は第一礼装の軍服で女性はどちらか選べるそうです。

頭には何もつけないのが儀礼です。これらは純真無垢と清廉潔白、無位無冠などを示すものです。

会の中で主催者から寿ぎを受ける際に一緒に月桂樹の冠を下賜されることでデビューを認められます。

ご挨拶の後はデビューする者に婚約者がいて、尚且つどちらもデビューか片方がデビュー済みの場合は揃って、婚約者がデビュー前か婚約者のいない者は異性の身内か主催の用意したカブァリエを伴ってお披露目のダンスをおこないお披露目とするのです。この時に同じ人と踊ってはいけないのは当然の事、細かいルールがあり周りの大人達はそれを見て令嬢令息の今後を見るのだそうです。



そして、私がデビューする皇室主催の会はそのルールが皇室規則にも記載されている程多く細かく、格式を重んじるものです。ご挨拶も皇帝陛下への拝謁となりますし、皇帝手ずから冠を下賜される事の重さへの対価とも言えます。その分特別な事もあります。それは、正装に家紋を模した刺繍を入れる事が出来るのです。普通のデビュタントでは許されないのですがこの会でのデビュー者のみに許された特権です。

ですので、社交界で第一正装の式典の際など刺繍のある無しで皇帝陛下からの信頼度がわかるなどといわれるのです。これは男性の場合。

女性の場合は少し意味が異なります。ローブデコルテとはいえ一度着たドレスは何度も袖を通すのはマナー違反とされる為仕立て直しが必須です。ですがこの会で着用した家紋入りのローブデコルテのみ袖を通しても問題は無いとされています。なぜなら婚約式の際に着用が許されているからです。これはまだ貴族も少なく布が貴重だった頃の名残だと言われています。

そして、婚礼関係の衣装に刺繍を刺すのは貴族女性の嗜みの一つとされており、その出来不出来がその後を左右します。勿論私も自分のドレスに一部ですが刺繍を刺さねばなりません。苦手ではありませんが手は速くないので頑張ります。



そして、この会が最も特別視される理由は皇族の婚姻にも影響を与えるためです。

基本的に皇子様の伴侶や皇女様の降嫁先は殆どこの夜会にてデビューすると言われております。

この会では婚約者のいない者と婚約者がデビュー前の者は身内や親族ではなく皇室側が選定したカブァリエと踊る事になっています。これは一種の意思表示とも取られており、ここでカブァリエとなった家門で婚約が成立する事は珍しくないことなんだとか。


そして当代の皇帝陛下のお子様は5人いらっしゃいますがそのうち誰もご成婚はされておりません。御歳21の皇太子様には婚約者がおりますが未だ成人前の為ご結婚はそのご令嬢が成人なされた後に執り行われます。

今年16歳の第二皇子や14歳の第三皇子、12歳の第一皇女様も妙齢ですが未だに婚約者の発表はありません。

今年の開催は見送られたことから考えると、来年の会ではまだデビューしていない第一皇女様とご一緒にデビューになりそうです。

この場合、皇女様のお友達候補として選ばれたとの意味合いもあります。


貴族的な考えは多方面に思惑が絡んでいるので思考が追いつかず難しいですね。





そんなこんなで、お母様と私は時間さえあればサンルームで刺繍を刺す日々を送っています。

ドレスデザインはお母様が厳選した物から選び、生地選び、採寸、刺繍の図案と配置にレースの編みまでやる事は山のようでした。

生地は生成りに近い光沢のあるサテン生地で裏地には東国の織物を使用する事に決まりました。

お母様曰く、伝統と格式の中に新たな流行を発信するのもセンスの見せ所なのだそうです。

形はオフショルダーのシンプルなAラインで胸元にふんわりとしたレースをあしらい、腰の切り返し位置にはバラを模したリボンレースを付ける予定です。

刺繍はドレスの前見頃に流れるように水を思わせる刺繍を施し、真ん中に家紋を刺繍します。そして胸元は2匹のケルピーが向かい合う刺繍です。正直終わる気が致しません。お母様が事前にお針子と編み子を囲い込んでいなければきっとこんなに凝ったデザインは難しかったでしょう。


そして、家門の宝石です。私は4年前にオーダーメイドで作ってもらった真珠のネックレスがとても気に入っているので、これではダメなのかおききしました。中央に虹色が強く出た丸い真珠、その両脇を羽の形の白真珠で挟み込み、小さな真珠で小花を作り連ねた品です。初めてデザインした宝飾品ですし、思う様な形の真珠に中々出逢えず手元に届いたのは去年のお品です。

「家門の真珠を使っているけれど歪な真珠を使っているし、大ぶりの玉を使っていないからそれは普段使いにお使いなさい。今回は特に特別な会ですから新しく誂えましょう。イヤリングと指輪も必要だわ。直ぐに宝石商を手配しなくっちゃ!」とお母様に一蹴されてしまいました。やはり真珠は丸くないと格が落ちてみられてしまうのですね…

少しだけ落ち込んでしまいました。

ですが、今回もオーダーメイドでデザイナーと一緒に考えて良いデザインになりました。お祖母様にもチェックしてもらい、ドレスも宝飾品も合格を頂きました。

真珠は、お母様が数年前から良い品を選りすぐって集めるようにお願いして下さっており、一級品が揃っておりました。そのおかげで制作に時間はそれほどかからないとのことでした。



デビュタントまで半年を切ると今度は皇宮から召集がかけられました。

デビュタント同期との顔合わせと礼儀作法の講習会が開かれるのです。カブァリエの発表やダンスレッスンも組み込まれ定期的に登城しなくてはいけないのだそうです。



学園への入学を前に私は休む暇もなく諸々の準備に追われるのでした。

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― 新着の感想 ―
今後は気になるけれど、ここまで読んで全体的に説明文ばっかりだし長くて読んでて疲れてくる。 テンポよく進行してくれると嬉しい。
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